上 下
55 / 61
魔法少女派遣会社

思いの丈を☆ぶつけるべし

しおりを挟む

「係の人に聞いてみると、寮に住んでると毎朝バイキングというか、ビュッフェ形式の朝食らしくてさ、でも、私あんまり好きじゃなくて。あれって、食べ終わったらまた取りに行かなくちゃダメでしょ? それも自分で。……もともと私って、実家でも食べ終わるまで席から離れちゃダメって教育受けてたからさ、それでなくてもめんどくさがりだし、立って座ってって食事中に繰り返すのがなによりダルくて……逆に、一度にたくさん持っていっちゃうと、他の人の迷惑にもなるし、そもそもああいうのって、お皿やトレイ自体が普段使ってるのよりもちっこいし、最初から取りに行く前提なのが──」

「──知らねえよ!」
「どうでもいいんだよ、朝食の事なんて!」
「私らは、あんたの為に言ってあげてるんだよ!?」

「そうそう。どうでもいいんだよ、見知らぬ人がどうのこうのって。それは私もいっしょ」

「……はあ?」

「だってそうでしょ? あなたたちがいくら頑張ったか、なんて、私たち受け手オーディエンスはどうでもいいし。そもそも頑張れば頑張った分だけ評価される世界ってワケでもないんでしょ? アイドルって。いくら頑張っても、霧須手さんのバーターにすらなれないまま、ニンジンにもなれないまま、埋もれて、消えていく人だっていっぱいいるんでしょ? そんな人たちと比べれば、あなたたち十分恵まれてるじゃない。テレビにも出てたし、大勢の人の前で歌って踊れてるし。もうそれでいいじゃん。分相応だよ」

「分相応って……」
「なにそれ……」

「だから、この話はもう終わり。さ、霧須手さんも迷惑してるだろうし、解放してあげ──」

「──ふざけんなッ!」
「苦労もしてない、苦悩もしてない、いきなり最強の力を手に入れて、のほほんと魔法少女やってるあんたが、アイドル語るな!」
「そもそも、そいつらは! 芽が出なかったヤツらは! 努力が足りてないんだよ!」
「私らの十分の一……ううん、千分の一もしてない」
「私たちはそんなヤツらとは違う! 死ぬほど努力してる!」
「なのに報われない私たちの気持ちが──」

「『わかるワケないじゃん』って言いたいの?」

「……なッ!? そ、そうだよ!」

「あのね、そもそもの話だけど、死ぬほど頑張ったとか、死ぬほど練習したとか言ってさ、実際死んでるの、霧須手さんだけじゃん。一番、死ぬほど頑張ってたの、霧須手さんじゃん」

「そ、それは……!」
「そいつだけ仕事がたくさんあったから……」
「ど、どうせ、その日も朝までくさいおっさんと、ずっと枕やってたんでしょ? そうなんでしょ?」

「そ、そんな……拙者は……私は……枕とか……そんな事……なんて……」

「いやいや、あのね。枕とかそういう話は今はしてないの。……それに、知ってる? この子、霧須手さん、自分がマイク持って歌ったまま過労死したの、楽しそうに笑って話してんだよ? ネタになるからって言って。あんたたち、そんな事出来る? 死んで、生き返って、それでも誇らしいとか、名誉の死だとか言って笑ってるんだよ? あんたたち、そんな風に思える?」

「それは……そいつが異常なだけでしょ」
「そうだよ。私たちは──」

「──だったら! ……死ぬほど頑張ってるヤツの足を引っ張っていいってのかよ! 頭のおかしいって、傍から見て異常だって罵られるくらい、身内にもバカにされるくらい体張ってる人間をバカに出来るほど、おまえらは偉いのかよ! ああ!?」

「そ、それは……」

「剣を頑張って、曲がりなりにも道場の師範任せられるくらい頑張って、今度はアイドルになりたいから頑張って、国民的アイドルグループって言われるようになるまで、おまえらを、グループを押し上げて! 有名になって! 必死にみんな笑わそうとして、元気になってくれって、楽しんでくれって、それで頑張り過ぎて、張り切り過ぎて、倒れて、死んで! そんで、次は魔法少女になって、世界救ってンだぞ!? おまえら、これがどういう事かわかってんのか!?」

「わ、わかるわけないじゃん! そんなの!」
「あんたはわかるっていう──」

「私にもわかンねえよ! ……けどな、こんな、私よりもちっさい体で、年下の女の子が! 死ぬほど、死んだ後も頑張って、皆を笑顔にしようとしてンだぞ!? そんな子の頑張りを、そんな子が踏ん張ってる足を、ちょっと報われないからって、悲劇のヒロイン気取りで、自分を正当化して、面白半分に引っ張ってんじゃねえよ!! 霧須手さんがどんな思いで今までやってきたか、知ってんのか──」

「──知ってるよ!」
「一番近くで見てきたんだもん!」
「私だって、そいつが……クリスティが……霧須手が! どんなに頑張ってるか、あんたの千倍もわかってるよ!」

「……だったら──」

「だったらなんで、私たちはずっとその子の下で這いつくばってなきゃいけないの!? なんで黙って、笑って、自分を殺さないといけないの?」
「私たちだって、〝クリスティ〟ってバケモノの下で、隣で、必死になって頑張ってきたんだよ!?」
「過労死まではいかなくても、高熱出してほんとうに死にかけたり」
「練習中に頑張り過ぎて血反吐はいたり」
「病院に何度も何度も運ばれてる!」
「……けど、勝てないんだよ。クリスティに」
「勝てるワケないよ……!」
「天才だもん……みんな知ってる」
「だから、クリスティに勝てなくても、せめて私なりに輝きたいって思うじゃん!」
「でも、結局そんな機会はなかった」
「みんな、クリスティしか見えてなかった」
「そんな時に、勝手に死んで、勝手にグループ抜けて……グループが潰れて……」
「最後の最後まで振り回されて……居場所も、頑張る理由も、見返したい相手もいなくなった」
「だから私たちは復讐しようと思ったの」
「だから私たちは、この力を貰ったの」
「だから、私たちはあなたを許さないの、クリスティ」
「私たち、あなたに幸せにはなってほしくないの」


 三人の視線のその憎悪の矛先が、霧須手さんへと向けられる。……ただ、さっきまでの三人の顔とは違っていた。憎くて憎くてしょうがないけど、それでも霧須手さんへの畏怖が、尊敬が籠った眼差しだった。
 ふと横を見ると、霧須手さんもさっきまでの、泣きそうでぐちゃぐちゃだった顔を引っ込め、まっすぐに三人と向き合っている。霧須手さんは姿勢を正すと、彼女たちに向けて深々と頭を下げた。


「ごめんなさい。皆が……皆が、わた……わたし、を嫌ってたのは、知ってた。皆が、わたしのせいで大きな仕事につけなかったことも、知ってた。Pプロデューサーさんにも言って、私だけじゃなくて、皆にも仕事を振ってあげて、って言った事もあったけど、それも結局、聞き入れてくれなかった。色々なところを回って、みんなの事を紹介して、あーみんはダンスが上手だから踊りのイベントに、みっちゃんは歌が上手だから歌番組に、ゆかっちは演技が上手だからドラマに、おちゃこは料理が上手だから料理番組に、しらぴーはゲームが好きだから、ゲームのイベントに……48人全員……でも……ごめん、全部裏目に出ちゃって……それで、わたしがいなくなればって思って。事務所辞めて、アイドル辞めて、でも、それも独りよがりだったんだってわかって……結局、何が正解かわからなくて……苦しくて……」


 霧須手さんが口にしたのは、反論でも言い訳でもなく、謝罪の言葉だった。
 その謝罪を聞いた三人の目から、霧須手さんへの憎しみの感情が薄れているように感じた。
 しんと静かな時間が流れる。誰も何も言わない。言えない。そんな時間が。戸惑っているのだろう。苦しんでいるのだろう。考えているのだろう。なら、ここは無理やりにでも私からきっかけを作らないと。そう思った瞬間、すでに私の口は開いて、言葉を紡いでいた。


「……私みたいな部外者がこう言うのは、ちょっと違うかもしれないけど、結局、あなたたちは、霧須手さんのことを全然わかってなかったし、霧須手さんもあなたたちの事を全然わかってなかったんだよ。何が正解か、なんじゃなくて、正解が何かを皆と探すことが大事だったんじゃないかな。……だから、ひとりでアレコレ考えるんじゃなくて、もうちょっと、お互いの目線をキチンと合わせておこうよ」

「目線……ですか……」
「そんなことを言われても……」

「うん。目線は大事だよ。さっき言ってたけど、霧須手さんはずっとあなたたちに手を差し伸べてた。けど、あなたたちは足元ばかり見てたから、その手に気づけなかった。霧須手さんも、前から上から手を差し伸べるんじゃなくて、本当に助け合いたいなら、一緒に頑張っていきたかったのなら、あの子たちと歩幅を合わせて歩いて、一緒に考えればよかったんだよ」

「いっしょに……」
「私たちは……」

「……まあ、ともかく、交わすべき言葉が少なすぎたよね。言わなきゃ伝わらない事なんて山ほどあるんだし、言われなきゃ気づかない事も山ほどある。これからはきちんと、言葉で、面と向かって話していけば、そういうすれ違いはなくなると思うよ」


 私の言葉を聞いて霧須手さんはバッと顔を上げ、もう一度、三人に謝った。


「ほんと、ほんと、ごめんなさい。ごめん……なさい。どうやって謝ったらいいかわかんないけど……ごめん、みんな。わたしも、もっとみんなといっぱい喋って、いっぱい分かり合ったらよかった。でも、たぶん怖くて……それで……どうせ嫌われてるんだろって、諦めてたところもあったと思う。だから、これからはみんなと歩いていきたい! 考えていきたい! だからその……ごめんなさい!」


 霧須手さんが誠心誠意そう謝ると、三人も霧須手さんに駆け寄っていった。


「あ、あんたのそういうところが……!」
「ムカつくって言ってんの!」
「私たちは、あんたに謝られたいんじゃないの!」
「あんたに、クリスティに……認められたかっただけなの!」
「私たちは、べつにあんたを追い越そうとも、出し抜こうとも思ってない!」
「ただあんたと対等に……、隣に立って……、一緒にアイドルをやりたかっただけなの!」
「勘違いすんな! ばか!」

「み、みんなぁ……!」


 霧須手さんが、もはや涙やら鼻水やら、よくわからない液体にまみれた顔を上げる。しかし、誰もその事について笑わなかった。彼女たちの顔も同様だったからだ。


「──だから、私たちこそ! ごめんなさい!」


 三人がきっちり、言葉を合わせて、頭を下げて霧須手さんに謝る。
 心にあったつっかえ・・・・がとれたのか、四人・・は、目に涙を浮かべながら、小さく嗚咽を洩らしながら、大きく泣き声を上げながら、互いに抱擁し合った。

 うんうん。
 とりあえず、仲直り(?)出来たみたいでよかった。それにしても──


「私、邪魔じゃね?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

私、今の方が楽しいです!

みらく
ファンタジー
1話200文字くらいです  ほのぼの旅を書こうと思っています。    ちょっとタイトル変えました 旧 私、今が楽しいです!

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

チートな環境適応型スキルを使って魔王国の辺境でスローライフを ~べっぴんな九尾族の嫁さんをもらった俺が人間やなんてバレへん、バレへん~

桜枕
ファンタジー
不慮の事故で死んでしまった冬弥は外れスキルだけを持って異世界転生を果たすことになった。 転生後、すぐに魔王国へと追放され、絶体絶命の状況下で第二の人生が幕を開ける。 置かれた環境によって種族や能力値が変化するスキルを使って、人間であることを偽り、九尾族やダークエルフ族と交流を深めていく。 魔王国の片田舎でスローライフを送り始めたのに、ハプニング続きでまともに眠れない日々に、 「社畜時代と変わらんやんけ!」 と、嘆きながらも自分らしく自由に生きていく。 ※アルファポリスオンリー作品です。 ※第4回次世代ファンタジーカップ用

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯

赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。 濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。 そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――? ※恋愛要素は中盤以降になります。

処理中です...