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魔法少女派遣会社

ギスギス☆グループ内対立

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 エレベーターのドアを蹴破って外に出たら、なんと、心臓破坂の元メンバーで、さっき私を縛り付けてくれた子たちがいました。


「──どうする、霧須手さん。これって、もしかして不測の事態ってやつ?」


 私は冗談ぽく隣にいた霧須手さんに話しかけた──が、返事が無い。


「……霧須手さん?」


 心配になって霧須手さんの顔を見てみると、霧須手さんは、口を一文字にきゅっと結んで、あの子たちと目を合わせないように逸らしていた。
 え、どういう事?
 てっきり女子高生らしく、お互いの再開を祝して、きゃぴきゃぴとはしゃぎ合うものだと思ってたけど……どういう関係性? もしかして、仲悪いの?


「クリスティじゃん」
「あんたも来てたんだ」
「いままでどこ行ってたの?」


 女の子たちから霧須手さんへ。矢継ぎ早に質問が飛んでくる。


「あ、あの……えっと……」

「……どこ行ってたんだって訊いてるんだけど?」

「あ、ごめ……なさい。その、色々、ところに……」


 霧須手さんがあたふたと身振り手振りで話し始めるが、口がうまく回っていない。このやりとりを見る感じ、あんまり仲は良くなさそう。アイドルにも
アイドルなりに色々とあるという事だろう。我ながらざっくりとした解釈だな。
 なら、べつに、霧須手さんやこの子たちに気を遣う必要も無さそうだ。ここでモタモタと時間食ってる場合でもないし、ここは霧須手さんに助け舟を出しておくか。


「ちょっとちょっと、あなたたち、さっきはよくも拘束してれたわね。いますぐお返ししてあげたいところだけど、私たち、今はすこし急いでいるの。怪我したくないなら、さっさと道を開け──」

「──ちょっとうるさい」
「だまってて」
「これは私たちと、そこにいるヤツ・・の問題だから」

「あ、はい。すみません」


 なぜか年下の女の子たちに強く言われてぺこぺこと頭を下げてしまう私。なんて弱いんだ。情けない。
 私は申し訳なさそうに項垂れると、一歩引いて霧須手さんの後ろに隠れ、耳打ちした。


「ちょっとちょっと、霧須手さん、何やってんの……! さっさと追い返すなりしないと、先に進めないよ……! 」


 私はこそっと霧須手さんに耳打ちをするが、「すみません……」としか返って来ない。さっきまでござる口調で意気揚々だったオタク系女子霧須手さんはナリを潜め、目の前の少女は居心地が悪そうに、自分の右腕で左腕を抱いていた。
 どうしたものか。
 この感じ──霧須手さんが申し訳なそうにしている感じを見るに、霧須手さんがあの子たちに対して何かしらの負い目を感じているのはわかる。けど、それがわからない以上、私も霧須手さんを助けることは出来ない。
 もちろん、これを無視して先に進むという選択もありだけど、霧須手さんがこうなってしまった以上、この問題はキチンと片づけなければならない気がする。私ではなく、霧須手さん自身が。


「あの、拙者た……私たち、いまちょっと急いでて、……あーみん、みっちゃん、ゆかっち、ちょっとそこ、譲ってくれると嬉しいかな、て……」

「おお……!」


 霧須手さんが勇気を振り絞って声を出した。その調子だ。いけるじゃないか。いけ、殺っちまえ! ……てのは違うと思うけど、頑張るんだ、霧須手さん!
 と、思っていると、私たちの前方からくすくすとせせら笑う声が聞こえてきた。


「『あーみん、みっちゃん、ゆかっち、ちょっとそこ、譲ってくれると嬉しいかな』だってさ」
「……ぷ。きゃはははは」
「似てる似てる、マジで似てるわ」

「え……」

「つか、まだそのキモいしゃべり方してんのかよ」
「ここには媚売れる客も、ファンも、偉い人もいないってーの……」
「そもそも、その三人組だれだっての。もう自分より下の、カスの名前すらおぼえられなくなったんですか?」

「い、いや、名前って、みんなの……」

「だからさ、それ心臓破坂の時の芸名だろ?」
「そんな人間、もういないんだよ」
「ほんと、昔から自分以外には興味ないよね、あんた」
「──だから、今も足元見えてないんだって」


 女の子に指摘され、足元を見る。そこにはうねうねと、蛇のように動くロープがすぐそこまで迫って来ていた。


「霧須手さん、避けて!」


 私の忠告虚しく、霧須手さんはいとも簡単にロープで拘束されてしまう。私はすぐに霧須手さんに駆け寄ると、そのロープを掴み、引きちぎろうとした。


「あははっ! むだむだ!」
「さっきキューティブロッサムさんを拘束した縄とはワケが違うよ」
「そのロープの強度は鉄で出来たワイヤーよりも硬いの」
「ちょっと力強いからって──」


 ──ブチッ!
 私が力を込めると、いとも簡単にロープが千切れてしまった。私はちぎったロープを手に持つと、申し訳なさそうに女の子に見せた。


「あの……なんか、簡単に引きちぎってごめんなさい」

「は? いやいや、ありえないんですけど」
「ゴリラじゃん」
「いや、あれはゴリラでも引きちぎれないから、ゴリラじゃないよ」
「じゃあ何? オランウータン?」
「なんでオランウータン……?」
「じゃあゴリラの五倍は強そうだから、ゴリラゴリラゴリラゴリラゴリラ?」

「いや、人をマシンガンゴリラ呼ばわりしてるとこ悪いんですけど、私、人間なので……」

「もういいから、キューティブロッサムさんは黙ってて」
「先に行きたいなら行かせてあげるから」

「いや、じゃあしばらくここで見学させてもらいます……」


 私がそう言うと、女の子三人は私から目を逸らして、隣で俯いている霧須手さんを見た。


「ったく、しょーもないヤツ」
「つかさ、クリスティ。あんたも魔法少女なら、自分でどうにかしようとするのが筋なんじゃないの?」
「それに、どいてもらおうとするんじゃなくて、自分からどかせるのが筋なんじゃないの?」

「で、でも……私……」

「あんた、剣術道場の跡取なんだったらさ、刀使えるんでしょ?」
「じゃあ、どうしてもここを通りたいんだったら、その刀で私たちを斬ってみたらいいじゃん」
「白鞘之紅姫なんでしょ?」
「ちやほやされてるんだよね?」
「あの時みたいにさ」
「……またひとりだけ抜け駆けしてるんでしょ?」

「ち、ちがっ……!」

「いつもみたいに、インベーダー斬る時みたいに、私たちも斬ったらいいじゃん」
「邪魔なんでしょ?」
「うざいんでしょ」
「殺したいんでしょ?」

「そ、そんなこと! 私はみんなの事、大事に思ってるし……」

「大事に思ってるなら、なんであんたばっか持て囃されてんの」
「大事に思ってるなら、なんで私たちの集まりに顔も出さないワケ?」
「大事に思ってるなら、なんで今も私たちの事を見ないの?」

「そ、それは……私、私が……」

「また言い訳?」
「そればっかだよね、あんた」
「いい加減行動で示してみ──」

「──斬れえええええええええええええい!」


 いつの間にか私は腕組みをして、仁王立ちまでして大声を出していた。
 この場にいる全員が私に注目してくる。
 見学します。とか言ってたけど、ぶっちゃけ我慢できなかった。だって、傍から見てると気分悪いし、たとえどんな理由があっても、三人が寄ってたかってひとりをイジメるのはよくないからだ。
 どうせイジメるなら一対一で。正々堂々と。……というのは、ちょっとおかしいけど、数的有利というのは、それくらいきついって事。それは私もよくわかってる。


「き、キューブロ殿……?」

「斬るのです。霧須手さん。斬ってしまいましょう。なんの遠慮も要りません。彼女たちも魔法少女なら、半分インベーダーなのですから」


 私がそう言うと、あの子たちが身構えた。


「い、いや、そう言うわけには……」

「なら私が斬るよ。刀を貸して」

「だ、ダメです! やめてください、あの子たちには、手を出さないで……!」

「なんで?」

「だって、仲間……ですから……! 私の……大事な……」

「でも、あの子たちはそう思ってないみたいだけど?」

「そ、それは……私が……私ひとりだけ、仕事がいっぱいあったり、人気が出たりしたから……」

「──そ、その通りだよ」
「き、聞いてよ、キューティブロッサムさん」
「あなたにも関係なくはない話だよ」
「私たちさ、心臓破坂ってアイドルグループで活動してるんだけど」
「なぜかクリスティにだけ仕事が回されていくんだよ?」
「それっておかしいと思わない?」
「クリスティは私たちと一緒に仕事をしてるのに」
「大物司会者とか、映画の監督さんとか……プロデューサーさんとか」
「とにかく、芸能関係の人たち」
「みんなクリスティに仕事を振るんだよ」
「みんなクリスティだけしか見てないんだよ」
「私たちはいつもクリスティの付き添い」
「わるく言えばクリスティのバーター」
「しかも、ネットでは〝ステーキについてくるニンジン〟とか言われてるんだよ」
「『ステーキ食べたいのに、ニンジンなんていらねえんだよ。見たくもねえよ』って」
「私たち、死ぬほど努力したのに、死ぬほど練習したのに」
「仕事が来るのは、みんなに好かれるのは、クリスティだけ」
「ちやほやされるのはクリスティだけ」
「テレビとか出ても、私たちはいっつも後ろのほうでいじられて、いじられて、笑いを取って、惨めな思いをして、クリスティの引き立て役を頑張ってるニンジン」
「笑えるでしょ?」
「不公平でしょ?」
「どんなに頑張っても」
「どんなに勉強しても」
「どんなに体張っても」
「みんなクリスティしか見てない」
「そんな時、そいつは逃げるように心臓破坂を抜けたの」
「クリスティが抜けたから、心臓破坂も終わったの」
「クリスティのいない心臓破坂なんて、ただの三流アイドル集団だって散々叩かれて、その結果解散したんだよ?」
「笑えないよね……」
「だからね、私たち、ジャンニィ秋山さんって人に頼んで〝力〟もらったの」
「誰にも負けない力、誰にでも勝てる力」
「何より、クリスティには絶対に負けない力」
「またクリスティに出し抜かれないように」
「騙されないように」
「利用されないように」
「そんな力を、ジャンニィ秋山がくれたの」
「今の私たちなら、誰にも負けない」
「さっきのロープは計算外だったけど、一回はキューティブロッサムさんを捕まえることだって出来た」
「あの、誰も勝てなかった、インベーダーと、シィムレスさんと互角だったキューティブロッサムさんを」
「だから、それよりも弱いクリスティなんかには絶対負けない」
「私たちはもう、ニンジンなんかじゃない」
「キューティブロッサムさん。あなたも魔法少女で有名になりたいなら、クリスティなんて信用しないほうがいいよ」
「かならず裏切るから」
「いつか、ぜった……」
「……あの……キューティブロッサムさん、話、聞いてますか?」

「──え? ああ、ごめん。いまちょっと明日の朝ご飯の事について考えてた」

「……は?」
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