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魔法少女派遣会社

るきんふぉー☆探そうどこまでも

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「こ、こんにちは……」


 意外なアイドルの登場(?)に、私は頭を深々と垂れ、挨拶をしてしまった。


「あ、こんちわ……」


 私の動きにつられてしまったのか、霧須手さんもぺこりと頭を下げてくる。


「……ん? いや、でも、違うじゃん」

「……はい? なにがでござる?」

「テレビとかだと、もっとキラキラしてたじゃん。話し方もなんか違うし」

「め、メイクしてたから……あと、アイドルモード、でしたし……」

「アイドルモードって、なんかよく聞く仮人格的なやつだよね……」

「おそらく……」

「じゃあ、クリスティの素ってこんな感じなんだ……」

「あ、あの、キューブロ殿、それよりも眼鏡を……」

「ああ、ごめん」


 私は手に持っていた瓶底眼鏡を、クリスティ……霧須手さんに返した。霧須手さんは私から眼鏡を受け取ると、なぜか恥ずかしそうに眼鏡をかけた。


「……ね、もしかして、クリスティってさ、苗字の〝霧須手キリスデ〟をもじってるの?」

「そ、そうでござる。アイドルをやる時に使う、芸名にござるよ」

「はえー……、そこらへんはなんというか、こう言っちゃアレだけど、けっこう安直な名前なんだね」

「デュフフ……、激しく同意。せめて、もう少し捻りを加えてほしかったでござる」

「たとえば?」

「故・バルトロメリウス21世とか」

「いや、原形ないし。めっちゃ家系続いてるし。というか、そもそも故の時点で没してるし」

「一文字はどこかしらに濁点をつけて欲しかったでござる」

「何その変なこだわり……。じゃあ霧須手さんのお父さんが、昔から代々続く、由緒正しい道場の血筋に人って事は、お母さんのほうが外国の人なんだね」

「如何にも。ある日、父がいつものギャンブルに負け、癒しを求めて入ったロシアン〇ブにて、たまたま母がその日、お手伝いとして働いていたのでござるが……」

「……ん? なに話そうとしてるの?」

「そこで母を見た父が一目惚れ。あらゆる手を使い、口説きに口説いて、最終的に一発かまして生まれたのが、拙者にござる」

「うおい! 赤裸々だな! もはや、どんな反応していいか分かんねえわ!」

「笑えばいいでござる」

「笑えんわ! しかも、父親も父親で、娘にそれを話すかね……」

「拙者はヘラヘラ笑って聞き流してたでござる」

「それもそれで変じゃない?」

「そうでござるかな……」

「……でも、それ、その情報、公にはしてないんだよね?」

「左様。Pプロデューサー殿からは、この事について緘口令が敷かれておりました。……まあ、拙者としては、これで一笑いとれるなら、話すのにやぶさかでなかったのでござるが……」

「あまり私が言う事じゃないけど、あまりプライベートを切り売りしないほうがいいと思うよ……」

「おお、なんという含蓄のあるお言葉……いたく、拙者の心に染み申した……」

「……バカにしてる?」

「な、何故!? バカになどしておらぬ……!」


 はあー……。
 まさか、本当にトップアイドルのクリスティだったなんて。未だに信じられない。本人に嘘をついているような素振りはないし、なにより、今の髪型は三つ編みだけど、顔はクリスティそのものだった。
 やっぱり本物なんだ。そんな子が、魔法少女……かぁ。
 となると、やっぱりじゃない、クリスティ・・・・・も見たくなっちゃうわけで──


「あの……霧須手さん?」

「なんでござる?」

「ごめん、ほんと悪いんだけどさ、一回その……アイドルモードっての、やってくれないかな?」

「うぇ……えええええええ!?」

「このとおり!」


 私はパシン、と体の前で両手を合わせると、何度も頭を下げてお願いした。


「で、でも……その、は、恥ずかしい……でござるぅ……」

「そこをなんとか! このとおり! 先っちょだけで良いから! アタマのサワリだけで良いから!」

「いいでござるよ」


 霧須手さんの態度が一変し、けろりと言ってきた。


「え、いいの!?」

「いいよ」

「あ、ありがとう……? でもどうして……」

「とりあえず恥ずかしがっておかないと、ダメかな、と」

「よ、よくわかんないけど、やったー! ありがとう!」

「デュフフ。まあ、これがやりたくて、アイドルになったようなものでござるからな。オーディエンスの要望には極力応えるよう、P殿も常日頃、口を酸っぱくして言っていたでござるし」

「あ、うん。私としても、すごくありがたいんだけど、なんで霧須手さんが過労死したか分かった気がする……」

「それでは──」


 霧須手さんは眼鏡を取ると、目を閉じて瞑想を始めた。
 戦闘時とはまた違った雰囲気だ。


「──北の国からこんにちはー! 碧いアイでみんなの愛を独り占め! クリスティでーす! よろしくお願いしまーす!」

「うおおおおおおおおおおおおお! すげええええええええええええ!」


 思わず拳を振り上げ、汚い雄叫びを上げてしまう私。
 さすがはアイドル。
 視線の移動に、肩から腕、腕から手、そして指先に至るまで一つ一つが計算し尽くされていて、とてつもなく可愛い自己紹介だった。テレビで見るのと実際に見るのとで、こんなにも違うものなのか。
 こりゃあ、この子たちに人生かけちゃう人も出てくるってもんだ。何だこの感想。おっさんか。

 でも確信した。この子は本物アイドルだ。
 今、私の目の前に〝可愛い〟がいる。
 お手上げです。降参しました。


「……とまあ、こんな感じでござる」


 霧須手さんはそれだけ言うと、さっさと眼鏡をかけてしまった。
 なんという淡白さ、なんというビジネス感。これもアイドルの別の側面という事だろう。ちょっと名残惜しいけど、それもまたヨシ。


「やっぱ〝プロ〟やな──」

「はい──拙者〝プロ〟にござるので──」


 私が端的な感想を述べると、霧須手さんはどこか誇らしげに頷いてきた。


「ちなみに、今はアイドル活動のほうは……?」

「無論、この状況なのでやってないでござる。むしろ、今はこの魔法少女がアイドル活動のような感じでござるな」

「でも、心臓破坂は解散してないんだよね」

「然り。我ら心臓破坂は永久に不滅にて。……ただ、解散はしていなくても、活動もしていないから、事実上、心停止してるのとなんら変わらないと思われ」

「いやいや、なんでさっきからちょくちょく自虐挟んでくるの。どこまでツッコんでいいかわからないんだけど」

「『いやいや、どうせならワイが息の根を止めたろかーい!』くらいは言って戴いて結構にござる」

「それ、ツッコミじゃなくてただの暴言だよね。さすがにそんなひどい事言わないよ」

「拙者、笑いに貪欲ゆえ」

「巻き込まれるほうも考えて!? ……それに、私から笑いをとっても何もならないと思うけど。もっと大勢の人の前のほうが……」

「そ、そんな事はござらぬ。キューブロ……す、鈴木さんは、はじめて会った、拙……わたしにも、こんなに、気安く接してくれた、大人の女性だから、そういう気持ちになっちゃった、のかもです……」

「あ、そういえば、たしかに初めて会った時みたいに、霧須手さん、言葉に詰まらなくなってるよね」

「わたし、見て呉れが日本人離れしているので、そもそも周りから敬遠されがちで、それに実家が、口よりも剣で語る道場でしたし、その……生粋のコミュ障なのです。だから、ですね。鈴木さんには、こう、なにか、わたし……拙者と近しいモノを感じ取ったのかもしれませぬなぁ……w フォカヌポゥw」

「急にキャラ崩してくるなぁ。でも、近しいモノ……かぁ、うーん、あるのかなぁ……? 私はただ、ボケたらいちいち拾ってくれる、便利なツッコミ役として使われてるんじゃないかな、て思ってるんだけど……」

「………………」

「え!? なんで無言?! なんか言ってよ!」

「きっと、ありまする! 近しいモノ! 一緒に探していきましょうぞ!」

「……探さないよ?」
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