40 / 61
魔法少女派遣会社
るきんふぉー☆探そうどこまでも
しおりを挟む「こ、こんにちは……」
意外なアイドルの登場(?)に、私は頭を深々と垂れ、挨拶をしてしまった。
「あ、こんちわ……」
私の動きにつられてしまったのか、霧須手さんもぺこりと頭を下げてくる。
「……ん? いや、でも、違うじゃん」
「……はい? なにがでござる?」
「テレビとかだと、もっとキラキラしてたじゃん。話し方もなんか違うし」
「め、メイクしてたから……あと、アイドルモード、でしたし……」
「アイドルモードって、なんかよく聞く仮人格的なやつだよね……」
「おそらく……」
「じゃあ、クリスティの素ってこんな感じなんだ……」
「あ、あの、キューブロ殿、それよりも眼鏡を……」
「ああ、ごめん」
私は手に持っていた瓶底眼鏡を、クリスティ……霧須手さんに返した。霧須手さんは私から眼鏡を受け取ると、なぜか恥ずかしそうに眼鏡をかけた。
「……ね、もしかして、クリスティってさ、苗字の〝霧須手〟をもじってるの?」
「そ、そうでござる。アイドルをやる時に使う、芸名にござるよ」
「はえー……、そこらへんはなんというか、こう言っちゃアレだけど、けっこう安直な名前なんだね」
「デュフフ……、激しく同意。せめて、もう少し捻りを加えてほしかったでござる」
「たとえば?」
「故・バルトロメリウス21世とか」
「いや、原形ないし。めっちゃ家系続いてるし。というか、そもそも故の時点で没してるし」
「一文字はどこかしらに濁点をつけて欲しかったでござる」
「何その変なこだわり……。じゃあ霧須手さんのお父さんが、昔から代々続く、由緒正しい道場の血筋に人って事は、お母さんのほうが外国の人なんだね」
「如何にも。ある日、父がいつものギャンブルに負け、癒しを求めて入ったロシアン〇ブにて、たまたま母がその日、お手伝いとして働いていたのでござるが……」
「……ん? なに話そうとしてるの?」
「そこで母を見た父が一目惚れ。あらゆる手を使い、口説きに口説いて、最終的に一発かまして生まれたのが、拙者にござる」
「うおい! 赤裸々だな! もはや、どんな反応していいか分かんねえわ!」
「笑えばいいでござる」
「笑えんわ! しかも、父親も父親で、娘にそれを話すかね……」
「拙者はヘラヘラ笑って聞き流してたでござる」
「それもそれで変じゃない?」
「そうでござるかな……」
「……でも、それ、その情報、公にはしてないんだよね?」
「左様。P殿からは、この事について緘口令が敷かれておりました。……まあ、拙者としては、これで一笑いとれるなら、話すのに吝かでなかったのでござるが……」
「あまり私が言う事じゃないけど、あまりプライベートを切り売りしないほうがいいと思うよ……」
「おお、なんという含蓄のあるお言葉……いたく、拙者の心に染み申した……」
「……バカにしてる?」
「な、何故!? バカになどしておらぬ……!」
はあー……。
まさか、本当にトップアイドルのクリスティだったなんて。未だに信じられない。本人に嘘をついているような素振りはないし、なにより、今の髪型は三つ編みだけど、顔はクリスティそのものだった。
やっぱり本物なんだ。そんな子が、魔法少女……かぁ。
となると、やっぱり素じゃない、クリスティも見たくなっちゃうわけで──
「あの……霧須手さん?」
「なんでござる?」
「ごめん、ほんと悪いんだけどさ、一回その……アイドルモードっての、やってくれないかな?」
「うぇ……えええええええ!?」
「このとおり!」
私はパシン、と体の前で両手を合わせると、何度も頭を下げてお願いした。
「で、でも……その、は、恥ずかしい……でござるぅ……」
「そこをなんとか! このとおり! 先っちょだけで良いから! アタマのサワリだけで良いから!」
「いいでござるよ」
霧須手さんの態度が一変し、けろりと言ってきた。
「え、いいの!?」
「いいよ」
「あ、ありがとう……? でもどうして……」
「とりあえず恥ずかしがっておかないと、ダメかな、と」
「よ、よくわかんないけど、やったー! ありがとう!」
「デュフフ。まあ、これがやりたくて、アイドルになったようなものでござるからな。オーディエンスの要望には極力応えるよう、P殿も常日頃、口を酸っぱくして言っていたでござるし」
「あ、うん。私としても、すごくありがたいんだけど、なんで霧須手さんが過労死したか分かった気がする……」
「それでは──」
霧須手さんは眼鏡を取ると、目を閉じて瞑想を始めた。
戦闘時とはまた違った雰囲気だ。
「──北の国からこんにちはー! 碧い瞳でみんなの愛を独り占め! クリスティでーす! よろしくお願いしまーす!」
「うおおおおおおおおおおおおお! すげええええええええええええ!」
思わず拳を振り上げ、汚い雄叫びを上げてしまう私。
さすがはアイドル。
視線の移動に、肩から腕、腕から手、そして指先に至るまで一つ一つが計算し尽くされていて、とてつもなく可愛い自己紹介だった。テレビで見るのと実際に見るのとで、こんなにも違うものなのか。
こりゃあ、この子たちに人生かけちゃう人も出てくるってもんだ。何だこの感想。おっさんか。
でも確信した。この子は本物だ。
今、私の目の前に〝可愛い〟がいる。
お手上げです。降参しました。
「……とまあ、こんな感じでござる」
霧須手さんはそれだけ言うと、さっさと眼鏡をかけてしまった。
なんという淡白さ、なんというビジネス感。これもアイドルの別の側面という事だろう。ちょっと名残惜しいけど、それもまたヨシ。
「やっぱ〝プロ〟やな──」
「はい──拙者〝プロ〟にござるので──」
私が端的な感想を述べると、霧須手さんはどこか誇らしげに頷いてきた。
「ちなみに、今はアイドル活動のほうは……?」
「無論、この状況なのでやってないでござる。むしろ、今はこの魔法少女がアイドル活動のような感じでござるな」
「でも、心臓破坂は解散してないんだよね」
「然り。我ら心臓破坂は永久に不滅にて。……ただ、解散はしていなくても、活動もしていないから、事実上、心停止してるのとなんら変わらないと思われ」
「いやいや、なんでさっきからちょくちょく自虐挟んでくるの。どこまでツッコんでいいかわからないんだけど」
「『いやいや、どうせならワイが息の根を止めたろかーい!』くらいは言って戴いて結構にござる」
「それ、ツッコミじゃなくてただの暴言だよね。さすがにそんなひどい事言わないよ」
「拙者、笑いに貪欲ゆえ」
「巻き込まれるほうも考えて!? ……それに、私から笑いをとっても何もならないと思うけど。もっと大勢の人の前のほうが……」
「そ、そんな事はござらぬ。キューブロ……す、鈴木さんは、はじめて会った、拙……わたしにも、こんなに、気安く接してくれた、大人の女性だから、そういう気持ちになっちゃった、のかもです……」
「あ、そういえば、たしかに初めて会った時みたいに、霧須手さん、言葉に詰まらなくなってるよね」
「わたし、見て呉れが日本人離れしているので、そもそも周りから敬遠されがちで、それに実家が、口よりも剣で語る道場でしたし、その……生粋のコミュ障なのです。だから、ですね。鈴木さんには、こう、なにか、わたし……拙者と近しいモノを感じ取ったのかもしれませぬなぁ……w フォカヌポゥw」
「急にキャラ崩してくるなぁ。でも、近しいモノ……かぁ、うーん、あるのかなぁ……? 私はただ、ボケたらいちいち拾ってくれる、便利なツッコミ役として使われてるんじゃないかな、て思ってるんだけど……」
「………………」
「え!? なんで無言?! なんか言ってよ!」
「きっと、ありまする! 近しいモノ! 一緒に探していきましょうぞ!」
「……探さないよ?」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
チートな環境適応型スキルを使って魔王国の辺境でスローライフを ~べっぴんな九尾族の嫁さんをもらった俺が人間やなんてバレへん、バレへん~
桜枕
ファンタジー
不慮の事故で死んでしまった冬弥は外れスキルだけを持って異世界転生を果たすことになった。
転生後、すぐに魔王国へと追放され、絶体絶命の状況下で第二の人生が幕を開ける。
置かれた環境によって種族や能力値が変化するスキルを使って、人間であることを偽り、九尾族やダークエルフ族と交流を深めていく。
魔王国の片田舎でスローライフを送り始めたのに、ハプニング続きでまともに眠れない日々に、
「社畜時代と変わらんやんけ!」
と、嘆きながらも自分らしく自由に生きていく。
※アルファポリスオンリー作品です。
※第4回次世代ファンタジーカップ用
もふもふ、星をアイスル。
遊虎りん
ファンタジー
ひとりぼっちの魔物。アホウと呼ばれていた。キャベツを盗もうとするも失敗。森の奥に逃げ込むと魔王が眠っていた。
目の前のフカフカなあったかそうなお布団に入って寝る!
それがアホウと魔王の出会いだった。
【注意】予告なく文章を追加したり修正したりします予めご了承下さいませ。
更新は土日中心となります。
ファンタジー大賞にエントリーしました。今回は完結に向けて頑張ります!!
タイトルがしっくりこないので、時々かえると思います。申し訳ありません。
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
魔帝令嬢と妖精のおっさんの一年記
南野海風
ファンタジー
フレイオージュ・オートミールは「魔帝ランク」である。
一色の魔法使い「ただの魔法使いランク」は、それなりにいる。
二色の魔法使い「魔鳥ランク」は、まあまあいる。
三色の魔法使い「魔王ランク」は、かなり珍しい。
四色の魔法使い「魔竜ランク」は、非常に珍しい。
五色を有する「魔帝ランク」は、数百年に一人という稀有な存在であった。
外敵から身を守るように。
また、外部要因で当人の人格や性格を歪ませないように。
オートミール家の箱庭で純粋培養で育てられた彼女は、十年ぶりに外出し、魔法騎士の士官学校に通うことになる。
特に問題もなく、順調に、しかし魔帝に恥じない実力を見せつけた一年間を経た、士官学校二年目の初日。
彼女は、おっさんの妖精と出会うことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる