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魔法少女派遣会社
バチバチ☆宿敵との朝餉
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「──ひ、ひとまずは、お邪魔します……」
私の家だったのに、畏まって『お邪魔します』とか言ってしまう私。まあ、実際、もう私の家ではないんだけど……。
「まったく、本当にお邪魔ですわね」
「……じゃあ、なんで泊めるなんて」
「もし、あたくしがあなたの立場だったら、と考えたらこうしただけです。深い理由なんてありませんの」
私は私で、レンジをボロクソに貶した挙句、追い出そうとしてたんだけど……。
私が一抹の罪悪感を感じていると、レンジがすっと手を差し出してきた。
なんだ? と思い、その手を取ると──
「──ちょ、なんで軽々しくあたくしの手に触れてますの!? 座れっていう意味でしてよ! おバカさん!」
「あ、ああ、ごめんごめん」
座布団の上に座れというジェスチャーだったのか。
私は言われるがまま、イ草で出来た座布団に座った。……イ草?
「……何このインテリア? 古き良き日本みたい」
いつの間に改装したのか、気が付くと、私の家だったその空間はすっかり様変わりしており、昔話に出てくる日本家屋の中のような様相を呈していた。
部屋の中央には囲炉裏があり、灰が敷き詰められていた。
天井からは吊り金具が垂れ下がっていて、黒ちゃけた鍋の取っ手を固定している。そしてフローリングはすべて畳に張り替えられており、そこらへんで買ったと思われる普通の布団が、畳まれて、部屋の隅にちょこんと置かれていた。
「……申し上げるのが遅れてしまいましたが、べつに、あたくしはこの世界を嫌ってはおりません。特にこの国の文化は尊重されるべきである、と思っているのです……が、それはそれ、これはこれ。あなた方人間は滅ぼすべしと考えております」
「じゃあ、なんでそんな人間と共存してるんですか……。そもそもこんな家に住まなくたっていいし、なんなら、家賃だって払わずに、踏み倒して、文句言ってきたら殺したっていいんでしょ?」
「なんて野蛮にして傲慢にして不遜。考え方が極端すぎますわね。あなた、キューティゴリラに改名してはいかが?」
「やだよ!」
「そも、あたくしがそんな事をすると思います?」
「思……わないかも」
「あたくしがそうしないのは、この世界で生きていくためです」
「生きていくため……でもそれ、なんか矛盾してない?」
「矛盾? さあ? 生物とは往々にして矛盾しているもの。それに、あたくしが人間を滅ぼしたいと思う事と、人間と共存したいと願うことは、一見矛盾しているようで、じつは矛盾していないと思いません?」
「どういうこと?」
「つまり、あたくしたちに従順な人間は滅ぼしませんが、歯向かってくる無謀な人間は容赦なく滅ぼすという意味です」
「それ、矛盾してる以前に、言葉が足りてないだけでは? 最初からそういう風に対話してたら、こんな事にはならなかったんじゃ……?」
「そうとも言えますわね。ただ、あなた方も最初から好意的に解釈をすれば、あたくしが言った結論にたどり着くのも、そこまで〝むつかしく〟はないかと。それに、もう過ぎた事ですわ」
「うーむ、意味がわからん」
「ゴリラにはむつかしかったようですわね」
「誰がゴリラだ!」
「もうツッコミのキレがなくなっていますわね。……とりあえず、今日の所はお休みなさいな。もう眠たくて眠たくて、仕方がないのではなくって?」
「まあ、そうなんだけど……」
いちおう、お礼は言ったほうがいいよね。けど、タイミングというか、お互いの立場というか、恥ずかしさというか、そういうのに邪魔されてなかなか言えない。
「安心なさい。寝ているあなたに危害を加えるほど、あたくしは落ちぶれてなんかおりません」
「それは、わかってるんだけど、……ひ、昼間着てたドレスは今は着てないの?」
「……こちら側の極秘情報につき、お答えすることは出来ません」
「クリーニングでもしたの?」
「うるっさいですわね、このアマ。さっさと寝ないとマジに襲いますわよ」
「いや、でも布団が……」
「あなた、目はついてらっしゃる? 物は見えてらっしゃる? その顔にある、ふたつの丸い点はごましおかしら?」
「ごましおって……」
「お布団はそこにある、あたくし用のものだけです。来客なんて初めてですし、想定もしていなかったから、何も用意はありません。それに、囲炉裏もありますし、この火はちょっとやそっとでは消えない特別製。そこまで体が冷える事もありません」
「ま、まあそうなんだけど……えっと……」
「はぁ~……」
レンジはクソデカいため息をつくと、呆れたような目で私を見た。
「まだ何かございますの? そろそろいい加減にしないと、この寒空に下へ放り出しますわよ」
「あの、ありがとう」
「ふぁ……」
レンジは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をすると、そのまましばらく固まった。
「ふ、ふん! お礼なんて、クソの役にも立ちませんわ! いいから、さっさと寝なさい!」
そう言ってレンジはぷい、とそっぽを向いてしまった。
なんか、言って損した。
もういいや。とりあえず、今日のところは寝よう。
私は囲炉裏の傍で横になると、レンジに背を向けて目を閉じた。
◇
──いい匂いがする。
これは……出汁の匂いだろうか、いや、味噌っぽくもある。
……よくわからないけど、とにかく、匂いだけでも日本食だと言うのがわかる。
睡眠状態から微睡へ。
微睡から覚醒へ。
私の脳がゆっくりとシフトしていく。
ごろん。
と後ろへ寝返りをうつと、目に飛び込んできたのは、湯気をあげながらコトコトと煮えている黒ちゃけた鍋だった。
「あ」
その瞬間、昨日までの記憶が一気に蘇る。
「おはようございます。キューティブロッサム。もう朝ですわよ」
三角巾を頭に巻き、エプロン……というよりも前掛けをつけ、割烹着を着たレンジが視界の隅に映った。レンジは膝をつき、お玉を手に鍋の中をぐるぐるとかき混ぜている。
『──やってしまった』
まず私を襲ってきたのは後悔だった。
かなり精神的に疲労していたとはいえ、よりにもよって魔法少女の、人類の敵の、さらにその幹部の家に泊まるか? 普通?
何やってるんだ、私は。
「お味噌汁、出来ていますわよ」
レンジは鍋をかき混ぜる手を止めると、怪訝そうな顔で私に言ってきた。
私は観念したように、のそのそと体を起こすと、胡坐をかいてレンジと向き合った。
「あ、うん。……それよりも、色々と訊きたいことがあるんだけど」
「ドレスに関しての質問は受け付けておりませんわよ」
「しないよ!」
「では昨日の、〝うぇいたあ〟さんがあたくしに気づかなかった事かしら?」
「それも気になるけど……ねえ、なんであんたたちインベーダーって、この世界に攻めてきたの? なんというか、少なくともレンジは、そんなに悪いインベーダーとは思えないんだけど」
「……それを聞いて、どうするつもりかしら」
「べ、べつにどうも……ただ、ちょっと気になっただけだよ」
「ウソおっしゃい。その様子だと、あたくしたちの故郷がどうなったか、誰かから聞きましたわね」
「バレたか……」
「バレバレですわ」
「ロストワールド、無くなったんだよね? もうレンジたちには帰る場所、無いんでしょ?」
「ですから、〝ろすとわあるど〟や〝いんべえだあ〟は、あなた方が勝手にそう呼んでいるだけで……ま、今は、呼び方については置いておきましょう。よろしいですか、ヒトコトだけあなたに申し上げておきます。あたくしたち〝いんべえだあ〟は、あなた方〝人間〟にとってただの侵略者。それ以上でも、以下でもありません」
「そんなはずは──」
「──ですから、キューティブロッサム。あなたはあたくしたち〝いんべえだあ〟から〝人間〟を守る事だけ考えていればよいのです。今日はたまたま、あたくしの気まぐれでこうなってしまっただけ。次会ったら容赦なく握りつぶして差し上げますので、そのつもりで」
売り言葉に買い言葉。
私も何か嫌味のひとつでも言ってやりたいが、とてもそんな気持ちにはなれない。是が非でも、レンジは弱音を吐かないつもりのようだ。
「ちょっと、なんてしょうもない顔をしておられるのですか? それでもあなた、あたくしのライバルでして?」
「いや、ライバルになったつもりはないんですけど……」
「……言っておきますが、こんなにアマいのはあたくしだけですわよ。他の〝いんべえだあ〟は全くあなたがたには容赦しませんので、そのつもりで」
レンジはそう言うと、私の前に味噌汁の入ったお椀を置いた。
色々と思うところはあるけど、レンジがそういうスタンス来るのなら、私も遠慮なくぶつかっていくだけだ。
まだモヤモヤしたものが心に残ってるけど、すこしだけ気持ちが軽くなった気がする。たしかに、レンジたちは何らかの理由で故郷が無くなり、こっちに来た〝可哀想なヤツら〟……なのかもしれない。けど、正直私たち人間もそんなことを気に掛けている余裕なんてないのだ。侵略するつもりなら、それを阻止するだけ。それだけだ。
ただ、まあ──
「今日の所は、三百万円は取らないであげるよ」
「三百万……? 何をおっしゃっているのかしら?」
「ふふん、なにも?」
「……なんかイラつきますわね、その笑み」
私はそれだけを言うと、お椀を手に取り……え?
なんか、黒い塊が浮いてるんだけど……。
「な、なにこれ?」
「お味噌汁ですわ。この世界の物をこの世界の方に振舞うのは初めてですが、なかなかよく出来ているでしょう?」
「いや、よく出来ているも何も……何入れたの、これ? 匂いはいいんだけど……」
「トリュフ? とかいうキノコですわ。高級食材なのでしょう?」
「はじめて見た……美味しいの? これ?」
「知りませんわ。でも、高いからたぶんうめーですわよ」
「あ、そう」
私の家だったのに、畏まって『お邪魔します』とか言ってしまう私。まあ、実際、もう私の家ではないんだけど……。
「まったく、本当にお邪魔ですわね」
「……じゃあ、なんで泊めるなんて」
「もし、あたくしがあなたの立場だったら、と考えたらこうしただけです。深い理由なんてありませんの」
私は私で、レンジをボロクソに貶した挙句、追い出そうとしてたんだけど……。
私が一抹の罪悪感を感じていると、レンジがすっと手を差し出してきた。
なんだ? と思い、その手を取ると──
「──ちょ、なんで軽々しくあたくしの手に触れてますの!? 座れっていう意味でしてよ! おバカさん!」
「あ、ああ、ごめんごめん」
座布団の上に座れというジェスチャーだったのか。
私は言われるがまま、イ草で出来た座布団に座った。……イ草?
「……何このインテリア? 古き良き日本みたい」
いつの間に改装したのか、気が付くと、私の家だったその空間はすっかり様変わりしており、昔話に出てくる日本家屋の中のような様相を呈していた。
部屋の中央には囲炉裏があり、灰が敷き詰められていた。
天井からは吊り金具が垂れ下がっていて、黒ちゃけた鍋の取っ手を固定している。そしてフローリングはすべて畳に張り替えられており、そこらへんで買ったと思われる普通の布団が、畳まれて、部屋の隅にちょこんと置かれていた。
「……申し上げるのが遅れてしまいましたが、べつに、あたくしはこの世界を嫌ってはおりません。特にこの国の文化は尊重されるべきである、と思っているのです……が、それはそれ、これはこれ。あなた方人間は滅ぼすべしと考えております」
「じゃあ、なんでそんな人間と共存してるんですか……。そもそもこんな家に住まなくたっていいし、なんなら、家賃だって払わずに、踏み倒して、文句言ってきたら殺したっていいんでしょ?」
「なんて野蛮にして傲慢にして不遜。考え方が極端すぎますわね。あなた、キューティゴリラに改名してはいかが?」
「やだよ!」
「そも、あたくしがそんな事をすると思います?」
「思……わないかも」
「あたくしがそうしないのは、この世界で生きていくためです」
「生きていくため……でもそれ、なんか矛盾してない?」
「矛盾? さあ? 生物とは往々にして矛盾しているもの。それに、あたくしが人間を滅ぼしたいと思う事と、人間と共存したいと願うことは、一見矛盾しているようで、じつは矛盾していないと思いません?」
「どういうこと?」
「つまり、あたくしたちに従順な人間は滅ぼしませんが、歯向かってくる無謀な人間は容赦なく滅ぼすという意味です」
「それ、矛盾してる以前に、言葉が足りてないだけでは? 最初からそういう風に対話してたら、こんな事にはならなかったんじゃ……?」
「そうとも言えますわね。ただ、あなた方も最初から好意的に解釈をすれば、あたくしが言った結論にたどり着くのも、そこまで〝むつかしく〟はないかと。それに、もう過ぎた事ですわ」
「うーむ、意味がわからん」
「ゴリラにはむつかしかったようですわね」
「誰がゴリラだ!」
「もうツッコミのキレがなくなっていますわね。……とりあえず、今日の所はお休みなさいな。もう眠たくて眠たくて、仕方がないのではなくって?」
「まあ、そうなんだけど……」
いちおう、お礼は言ったほうがいいよね。けど、タイミングというか、お互いの立場というか、恥ずかしさというか、そういうのに邪魔されてなかなか言えない。
「安心なさい。寝ているあなたに危害を加えるほど、あたくしは落ちぶれてなんかおりません」
「それは、わかってるんだけど、……ひ、昼間着てたドレスは今は着てないの?」
「……こちら側の極秘情報につき、お答えすることは出来ません」
「クリーニングでもしたの?」
「うるっさいですわね、このアマ。さっさと寝ないとマジに襲いますわよ」
「いや、でも布団が……」
「あなた、目はついてらっしゃる? 物は見えてらっしゃる? その顔にある、ふたつの丸い点はごましおかしら?」
「ごましおって……」
「お布団はそこにある、あたくし用のものだけです。来客なんて初めてですし、想定もしていなかったから、何も用意はありません。それに、囲炉裏もありますし、この火はちょっとやそっとでは消えない特別製。そこまで体が冷える事もありません」
「ま、まあそうなんだけど……えっと……」
「はぁ~……」
レンジはクソデカいため息をつくと、呆れたような目で私を見た。
「まだ何かございますの? そろそろいい加減にしないと、この寒空に下へ放り出しますわよ」
「あの、ありがとう」
「ふぁ……」
レンジは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をすると、そのまましばらく固まった。
「ふ、ふん! お礼なんて、クソの役にも立ちませんわ! いいから、さっさと寝なさい!」
そう言ってレンジはぷい、とそっぽを向いてしまった。
なんか、言って損した。
もういいや。とりあえず、今日のところは寝よう。
私は囲炉裏の傍で横になると、レンジに背を向けて目を閉じた。
◇
──いい匂いがする。
これは……出汁の匂いだろうか、いや、味噌っぽくもある。
……よくわからないけど、とにかく、匂いだけでも日本食だと言うのがわかる。
睡眠状態から微睡へ。
微睡から覚醒へ。
私の脳がゆっくりとシフトしていく。
ごろん。
と後ろへ寝返りをうつと、目に飛び込んできたのは、湯気をあげながらコトコトと煮えている黒ちゃけた鍋だった。
「あ」
その瞬間、昨日までの記憶が一気に蘇る。
「おはようございます。キューティブロッサム。もう朝ですわよ」
三角巾を頭に巻き、エプロン……というよりも前掛けをつけ、割烹着を着たレンジが視界の隅に映った。レンジは膝をつき、お玉を手に鍋の中をぐるぐるとかき混ぜている。
『──やってしまった』
まず私を襲ってきたのは後悔だった。
かなり精神的に疲労していたとはいえ、よりにもよって魔法少女の、人類の敵の、さらにその幹部の家に泊まるか? 普通?
何やってるんだ、私は。
「お味噌汁、出来ていますわよ」
レンジは鍋をかき混ぜる手を止めると、怪訝そうな顔で私に言ってきた。
私は観念したように、のそのそと体を起こすと、胡坐をかいてレンジと向き合った。
「あ、うん。……それよりも、色々と訊きたいことがあるんだけど」
「ドレスに関しての質問は受け付けておりませんわよ」
「しないよ!」
「では昨日の、〝うぇいたあ〟さんがあたくしに気づかなかった事かしら?」
「それも気になるけど……ねえ、なんであんたたちインベーダーって、この世界に攻めてきたの? なんというか、少なくともレンジは、そんなに悪いインベーダーとは思えないんだけど」
「……それを聞いて、どうするつもりかしら」
「べ、べつにどうも……ただ、ちょっと気になっただけだよ」
「ウソおっしゃい。その様子だと、あたくしたちの故郷がどうなったか、誰かから聞きましたわね」
「バレたか……」
「バレバレですわ」
「ロストワールド、無くなったんだよね? もうレンジたちには帰る場所、無いんでしょ?」
「ですから、〝ろすとわあるど〟や〝いんべえだあ〟は、あなた方が勝手にそう呼んでいるだけで……ま、今は、呼び方については置いておきましょう。よろしいですか、ヒトコトだけあなたに申し上げておきます。あたくしたち〝いんべえだあ〟は、あなた方〝人間〟にとってただの侵略者。それ以上でも、以下でもありません」
「そんなはずは──」
「──ですから、キューティブロッサム。あなたはあたくしたち〝いんべえだあ〟から〝人間〟を守る事だけ考えていればよいのです。今日はたまたま、あたくしの気まぐれでこうなってしまっただけ。次会ったら容赦なく握りつぶして差し上げますので、そのつもりで」
売り言葉に買い言葉。
私も何か嫌味のひとつでも言ってやりたいが、とてもそんな気持ちにはなれない。是が非でも、レンジは弱音を吐かないつもりのようだ。
「ちょっと、なんてしょうもない顔をしておられるのですか? それでもあなた、あたくしのライバルでして?」
「いや、ライバルになったつもりはないんですけど……」
「……言っておきますが、こんなにアマいのはあたくしだけですわよ。他の〝いんべえだあ〟は全くあなたがたには容赦しませんので、そのつもりで」
レンジはそう言うと、私の前に味噌汁の入ったお椀を置いた。
色々と思うところはあるけど、レンジがそういうスタンス来るのなら、私も遠慮なくぶつかっていくだけだ。
まだモヤモヤしたものが心に残ってるけど、すこしだけ気持ちが軽くなった気がする。たしかに、レンジたちは何らかの理由で故郷が無くなり、こっちに来た〝可哀想なヤツら〟……なのかもしれない。けど、正直私たち人間もそんなことを気に掛けている余裕なんてないのだ。侵略するつもりなら、それを阻止するだけ。それだけだ。
ただ、まあ──
「今日の所は、三百万円は取らないであげるよ」
「三百万……? 何をおっしゃっているのかしら?」
「ふふん、なにも?」
「……なんかイラつきますわね、その笑み」
私はそれだけを言うと、お椀を手に取り……え?
なんか、黒い塊が浮いてるんだけど……。
「な、なにこれ?」
「お味噌汁ですわ。この世界の物をこの世界の方に振舞うのは初めてですが、なかなかよく出来ているでしょう?」
「いや、よく出来ているも何も……何入れたの、これ? 匂いはいいんだけど……」
「トリュフ? とかいうキノコですわ。高級食材なのでしょう?」
「はじめて見た……美味しいの? これ?」
「知りませんわ。でも、高いからたぶんうめーですわよ」
「あ、そう」
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