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魔法少女派遣会社
マジカルフラワー☆魔法少女
しおりを挟む「──でも、私はそれよりも、ツカサが魔法少女やってる事にビックリしたよ」
気を取り直して話題を変える。私はもう過去は振り返らないのだ。
「そ、そっスよね……。ウチみたいなのはガラじゃないっスよね……」
私の言い方が悪かったのか、ツカサは下を向いてシュンとなってしまった。
……どこかで見たことあるぞ、これ。
「あー……ううん、そういう意味じゃなくて、意外だったって事ね。もし私がツカサと同い年だったら、絶対入ってなかったからさ。魔法少女チームに」
「で、ですよね……魔法少女とか、何フザケてんだよって話っスもんね……。ウチなんて……ウチなんて……」
何でこんなに落ち込んでるんだ、この子。
お酒……入ってないよね?
さっきから飲んでるの、ただのオレンジジュースだし。
もしかして場酔いしてる?
「だから違うってば。昔からツカサって、人想いなところがあったから、手段はどうあれ、誰かを守るために戦うって偉いし、カッコいい事だと思うよってこと。昔の私よりも、全然偉いなってことだよ」
「ま、マジっスか……! アネさんにそう言ってもらえて、めっちゃ嬉しいっス!」
そう言って、パァっとツカサの顔が明るくなる。
うーん、単純。
なんか色々と心配だけど、私に心配されたらそれはそれで終わりか……。
「マジマジ。友達の私としても、鼻が高いってもんよ」
「と、友達……っスか……」
私がそう言うと、なぜかツカサが悲しそうな顔をした。
え? 何その反応?
もしかして、ひと回り年上のヤツに友達とか言われたら、引いちゃうタイプ?
「ご、ごめん、もしかして、なんか地雷踏んだ?」
「あ、いえ! なんでもないんス! ウチがアネさんの友達だなんて、畏れ多いなって!」
「……畏れ多いは言い過ぎだと思うけど……」
そう言ってるけど、さっきのツカサのあの顔、絶対そういう感じじゃなかったよね。たぶんない、と思いたいけど、もし本当にそういう風に考えてたらちょっと傷つくかも。
「で、でも! やっぱすごかったっスね、あの〝プロレ素手喧嘩〟ウチがガキの時に見たまんまでしたよ!」
「あー……アレね……」
「あれだけ衰えてないってなると、やっぱ、ずっと鍛えてたんスか?」
「き、鍛え?!」
むしろ筋肉は落としちゃったんだけど……。
「あー……うん、主にイメトレでね(嘘)」
「すっげー……! イメトレって……なんかアネさん、もはや達人の領域っスね!」
「達人は恥ずかしいって」
「そんな事ないっス。あれが技になってるって事は、つまりそういう事なんスから」
「そう、なんだよね……。玄間さんにも言われたけど、あれが私という人間を形作ってる一部、強い別側面なんだよね……」
「な、なんか気になるんスか? ウチとしては、プロレ素手喧嘩で戦えるなんて、羨ましい限りっスけど……」
「うーん、たしかに自分が昔、人を傷つけるために編み出した技が、こうやって人の役に立つって言われるのは嬉しくもあるけど、なんか複雑なんだよね」
「そういうもんスかね?」
「そうだよ。だって、考えてもみなよ。ヒラヒラフリフリのピンクの服を着た二十後半の女が、素手でインベーダーを惨殺するんだよ? もう映画で言えば、限りなくR18に近い、R15だからね? そんなのが全国放送されてるって思うと……はぁ、私も口や手から花とか出したかったなぁ……」
「は、花っスか……。でも、年齢に関して言えばアネさん、見た目全然若いっスよ。むしろウチと同年代くらいに見られてると思いまケド」
「え……、え~? ほんとにぃ~? からってな~い?」
「ホントっスよ。だからウチは最初、テレビでプロレ素手喧嘩を使ってる魔法少女を見た時、『ウチと同じくらいの歳でアネさんの技を使ってるなんて、いったい誰なんだ』って思いましたもん」
「ちょ、ちょっと、ツカサ~? あんた褒め過ぎよ~! まじもう、嬉しすぎて吐きそう!」
「え!? だ、大丈夫っスか? 袋持ってきますよ」
「大丈夫大丈夫! まだまだ全然飲めるから! いまちょっとほろ酔い気分なだけだから!」
「さ、さすがアネさんっス! ……でも、もう結構飲んでますよね。テーブルの上全部、飲み終わったカップ酒で埋まってますし……もうやめておいたほうが……」
「問題ない問題ない! 日本酒なんて水と同じだから! お酒は40度超えてからって、よく北のほうの人たちも言ってたし!」
「な、なんかよくわかんねっスけど……さすがっス!」
「そういえば、ツカサも魔法少女なんだから技、何か使えるんだよね? 素手で戦う魔法少女はいないって玄間さん言ってたから……、鎖かなんかで相手をがんじがらめにして、能力を封じたりすんの?」
「の、能力……っスか!? そ、それは……」
ツカサは昔、私がとっておいたプロテインバーを勝手に食べて、バレた時のような顔になった。大きな瞳がバチャバチャと右往左往している。
「おお? もしかして、私以上にバイオレンスでフェイタリティな感じなのかな? やーるねー! ひゅーひゅー! さっすが現役! 私なんて目じゃないね!」
私がそうやってツカサに軽口をたたいていると、やがて堪忍したのか、ツカサはまっすぐに私を見てきた。
「あ、もしかしてふざけ過ぎた? ごめんごめん、もう変な事言わないから──」
「い、いえ、あの……アネさん、笑わないで聞いてほしいんスけど……」
「あー……と、なにを?」
「う、ウチの能力についてっス」
「笑えるほど危ないの?」
「も、もう! 茶化さないでほしいっスー!」
相手が私だから強く怒れないのか、ツカサは不満そうな目でプリプリと怒っている。もうツカサからは、S.A.M.T.事務所で感じていた、あのトゲトゲしい雰囲気はない。
「ごめんごめん、それで、ツカサの能力ってどんなの?」
「は、ハナを……」
「はなを……」
「撒き散らす……感じのヤツっス……」
「うん? 撒き散らされる〝ハナ〟ねえ……。ハナ……って、あの鼻? じゃあ撒き散らすっていったら……自分の体液を……?!」
「……はい?」
「……あの、ほんとごめん、無理に訊いちゃって。たしかにこんな事言いたくないよね……私、頑張って忘れるから」
「いやいや、そんなワケないじゃないっスか! ハナってアレっスよ! ノーズじゃなくて、フラワーのほうっスよ!」
「ああ、なんだ。花ね。ビックリしたよ、鼻水でどう攻撃するんだよって思ったから」
「カンベンしてくださいっス……」
「て……え、花? あれ? じゃあ玄間さんが言っていた、花で相手を攻撃する魔法少女って──」
「あ、その、ウチ……の事なんス……」
ツカサはもじもじと体をよじらせながら、恥ずかしそうに私の顔を見上げてきた。
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