上 下
67 / 140

抗争の結末

しおりを挟む

「すまない。少し遅れてしまったが……、やれやれ、どうやら、間に合ったようだな」

「ヴィクトーリア!」

「ふぅ……、危なかったな。あのままだと、体がぐずぐずの、トマトみたいになっていたぞ」

「ぐずぐずのトマトって……」


 まだ根に持ってんのか……。


「お、おい、これぁおめぇ……、どういうこった……!? 説明されてた効果とは違うじゃあねえか……! おまえら……、なんでまだ生きてんだ……!?」


 見ると、バッジーニは再び、みっちゃんに刀の切っ先を突きつけられていた。
 防護マスクのせいで、その表情を窺い知ることはできないが、声が微かに震えていることからして、動揺しているのがわかる。
 あんなに喉元に刀を突きつけられていては、部下に号令をかけることもできない。
 それにしても、驚くべきはみっちゃんのリカバリーの速さ。
 さっきまで俺と同じように、苦しそうに地に伏していたのに、もう立場をひっくり返している。
 さきほどよりはずいぶんとマシにはなったものの、それでもまだ、頭がふらついている。
 それでもみっちゃんは刀を持ち、さらにそれをバッジーニの喉元に固定させている。
 すごい精神力だ。
 でも、それよりも、いまは――


「そ、そうだよ。ヴィクトーリア、おまえがさっき投げたアレ……、あれはなんなんだ?」

「あのな……いいか、人の話は最後まで聞くものだぞ。たしかに、詳細も分からない細菌兵器をポンと中和させるのは難しい。その成分を分析し、対抗できる抗生物質を精製しなければならないからな。それに、そんなモタついたことをやっていたら、その最中に力尽きてしまう」

「だから、なんでおまえらがまだ、生きてんだっつってんだよ!!」

「ひぃっ!? ゆ、ユウト……、あのおっさん、怖いぞ……!」

「……ごめん、みっちゃん、お願い」


 俺がそういうと、みっちゃんはグッと、刀を持つ手に力をこめた。
 刀はぷつ……首筋に食い込んでいき、遠目からでも、なんとなく血が出ているのがわかる。


「さ、ヴィクトーリアさん、話しなよ。このおっさんは黙らせたからさ」

「あ、ありがとう、アネゴ殿……。で、では、話を戻すぞ。……わたしが先ほど投げつけたのは、これだ」


 そういって、ヴィクトーリアが取り出したのは、試験管。
 中にはどうやら、さきほど俺の目の前で気化した、白色の液体が入っているようだった。


「それは……?」

「これは……、いわゆる特効薬というやつだ」

「特効薬……?」

「そう。端的に言えば、たちどころに、悪い細菌だけを――」

「ちょっと待って、さっきそういうのを精製するのは、難しいって言ったよな?」

「ああ、言ったぞ」

「え……と、じゃあ、その特効薬を、ずっと持ってたってこと?」

「いや、錬金術で精製した」

「……わかった! 錬金術だと、その精製が簡単になるんだ! そうだろ?」

「いいから、話を聞いてくれ。たしかに、精製するのは難しい……が、それは一年以上前の話だ。現在、ネトリールでは、この特効薬の精製方法――つまり、レシピは、かなり普及している。このわたしでも知っているくらいだ。だから、錬金術で必要な素材を集め、培養工程も短縮すれば、このように、すぐにでも精製することが出来るんだ」

「な……んだと……? じゃあ、俺が大枚はたいて買った、あの生物兵器は――」

「ああ、ただの、在庫一掃セールなのだろう。……現在、特効薬が簡単に作れるとはいえ、その凶暴性、凶悪性、残忍性から、細菌兵器に関する、一切のモノの所持、及び使用は、ネトリールでは認められていないのだ。もちろん、他国や他者への譲渡、売買もご法度。そんなことが知られれば、すぐにでも拘束され、牢に放り込まれる」

「そんな……ばかなことが……!」

「ちょっと待て、いまさっきヴィクトーリア、培養って言ってなかったか? その特効薬を培養って……」

「そうだ。つまり、そういうこと・・・・・・だ。この試験管に入っている液体……に、見えるものも、立派な細菌兵器だ」

「やっぱり……! でも、だったら――」

「安心してくれ、副作用はない。こちらは人体に悪影響を及ぼすと判断された……まあ、要するに、悪い細菌だけ食べて、食べた後は、無害な栄養素……たんぱく質か何かに変換され、そのまま体内に吸収される。細菌兵器は、細菌兵器を以て制する。さきほどのゴリラが使っていた剣も、似たようなものだろう? ……でも、わたしが気になるのは、そんなことよりも、誰がそのおっさんに細菌兵器を売――」

「バカなァ!!」

「ひぅ……!」

「こんな……こんなことが……、あってたまるか……! 作戦は完璧だった。それに、最強の傭兵を雇い、最強の兵器をも買ったんだぞ! それで……、それでいて……、なぜ未だ……、おまえは……ミシェール・ビトォ! おまえはこの俺の前に立っているんだ! この俺を、見下してやがるんだ! おまえの親父のようにィィ!!」


 バッジーニがひときわ大きな声を上げる。
 肩を大きく上下させ、口からはハァハァと、大きく息を吐き出し、その眼は恨めしそうに、みっちゃんのみを捉えていた。
 その圧倒的不利な体勢でいてなお、バッジーニはみっちゃんを威嚇してみせていた。
 しかしみっちゃんは、その迫力に一切気圧されることなく、構えた刀は降ろさず、ただまっすぐ、バッジーニを見つめて言った。


「……いいかい? あんたが負けた理由。それは、ごくごく単純なことだよ。ものすごくね。……あんたは一人で戦っていたからさ」

「そんなはずは……、ねえだろォが! 俺には、こんなにも沢山の武器が、兵が……!」

「見てくれの話じゃないんだよ。心の話だよ。あんたの部下には、あんたに忠実に尽くしてはいても、心からあんたに……、組に忠誠を尽くしているやつは一人もいないんだ」

「そんなことは……! お、オラァ! おめえら! なにボサーっと見てやがる! 早く助けにきやがれ!」

「すすす……、すんません、親分、こいつら、バケモンだ……!」
「敵いっこねえや、俺はまだ、死にたくねえ……!」


 バッジーニの部下たちはそれだけを言い残すと、一目散に、この会場から去っていった。


「こ……、こんなことが……!」

「さて、もうお終いのようだね……、そんじゃあそろそろ、終わらせようとするか……」

「お、おい……! 待て……! 話し合おう……! なにが望みだ? おい!」

「フン、それがあんたの本性かい。……どうせ啖呵切るなら、最後まで貫き通しな。もうこれ以上、情けない姿を晒すんじゃあないよ!」

「待て……待て待て待て止めろ! 刀をこれ以上、押し込な――」


 ブシィ!!
 大量の血しぶきが舞い上がる。
 バッジーニはカッと目を見開くと、みっちゃんの服を掴み、ゴボゴボと、血を口から吹き出しながら、そのままずるりと落ちていった。
 バッジーニはそれ以上、なにも言葉を発することなく、ただ静かに地に伏した。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。-俺は何度でも救うとそう決めた-

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
 【HOTランキング第1位獲得作品】 ---    『才能』が無ければ魔法が使えない世界で類まれなる回復魔法の『才能』を持って生まれた少年アスフィ。 喜んだのも束の間、彼は″回復魔法以外が全く使えない″。 冒険者を目指し、両親からも応援されていたアスフィ。 何事も無く平和な日々が続くかと思われていたが事態は一変する。母親であるアリアが生涯眠り続けるという『呪い』にかかってしまう。アスフィは『呪い』を解呪する為、剣術に自信のある幼馴染みの少女レイラと共に旅に出る。 そして、彼は世界の真実を知る――  --------- 最後まで読んで頂けたら嬉しいです。   ♥や感想、応援頂けると大変励みになります。 完結しておりますが、続編の声があれば執筆するかもしれません……。

おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~

月白ヤトヒコ
ファンタジー
 教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。  前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。  元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。  しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。  教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。  また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。 その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。 短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。

陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。

電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。 ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。 しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。 薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。 やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。

最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!

電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。 しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。 「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」 朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。 そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる! ――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。 そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。 二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...