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第8章
13話 真なる聖女に祝福を
しおりを挟む年明けから3か月後の早春。
久々に村からやって来た王都では、城下に住む人々が久々に聞く明るい話題に湧き上がり、お祭り騒ぎになっていた。
教会側の都合によって長らく執り行われないままでいた、ドロシー様の聖女就任式が、ようやく行われる運びとなったのである。
今日この日を迎えるまで、教会側も色々と忙しかったようだ。
まず、件の高慢ちきや大司教など、不正を働いた人間の秘密裏の処分や、それに伴う大規模な人事異動、職務の引き継ぎなどなど、やる事が山のようにあったらしい。
特にあの高慢ちきは立場が立場なので、適当な処分では話を丸く収める事ができず、王国の西の端っこにある修道院に送られた挙句、王都の方では「重い病に倒れた先代の聖女は、数か月間の闘病の末、次代の聖女に力を受け渡して儚くなった」……という事にされてしまったそうな。
高慢ちきの実家のアムリエ侯爵家では、ブタ箱にぶち込まれて不在の当主と、精神的ショックで倒れて実家に引っ込んだ夫人(ホントかよ)が不在のまま、新たに当主として立った前当主の弟が、大勢の上位貴族達が参列する中、高慢ちきの葬式を取り仕切ったんだってさ。
もう二度と王都には戻って来れないし、死んでも実家の墓には入れないだろうね。あの高慢ちき。
でもそれも、処刑されるのと比べたらずっと軽い罰だ。
聞いた所によると、世の中に大きな影響を及ぼす力を持った人間が名乗る、特別な称号――王や王族、聖女、聖者の騙りってのは、貴族の身分でもクソほど罪が重くなるらしいから、追放されて死んだ事にされる程度で済んで、御の字だと思うべきだろう。
さらば高慢ちき。今後も精々西の外れで達者に暮らせ。
だいぶ嫌な女だったから、あんたの事は当分忘れない。
多分、1、2か月くらいは憶えてるんじゃないかな。多分ね。
それと――直接教会の関係者から話を聞いた訳じゃないが、恐らく教皇は高慢ちきの一件を、大司教達の僧侶への降格と、地方への左遷の理由付けにしたと思われる。
教会へ来るまでの道すがら、買い食いとかしてる最中に、「身近にいながら聖女を救えなかった、不甲斐ない己が身を苦に思った大司教達が、今後残りの人生全てを捧げて聖女の菩提を弔う為、自ら降格と左遷を願い出た」、とかいう話が、市井の中に普通に広まってたから。
教会の名誉と矜持を守る為に、教皇がそういうシナリオを書き、雀に噂をばら撒かせたと考える方が自然だろう。なかなかに計算高い人でいらっしゃる。
まあ、それで人を騙して金巻き上げたり、誰かを虐げてたりする訳じゃない以上、私が首を突っ込む理由なんてどこにもないから、糾弾なんてしないけど。
何はともあれ、今回私達を正式に招き、教会に滞在する許可を出してくれたのは、新たに大司教の座に就き、ドロシー様の後見人になったというオゼリフさんという人だ。
最初に直接顔を合わせた時、なんかこの白髭サンタみたいなお爺さん、どっかで見た事あるなあ、とか思ってたんだけど、すぐに、以前ヤリチンクズの裁判の時、裁判長やってたお爺さんだったと思い出し、思わずご本人の前で手をポンと叩きそうになった。
ドロシー様曰く、厳しいけれどとても優しい、真っ直ぐな心根をお持ちの素晴らしい方、という事らしい。
だから聖女の後見人に選ばれたんだろうな。
でも正直、教皇のやり口を考えると、ドロシー様が言うオゼリフ大司教の評価を鵜呑みにしていいんだろうか、と一瞬思ってしまったが、すぐにかぶりを振って思い直した。
さっきも言ったが、別に今の教皇が人を騙して金巻き上げたり、誰かを虐げてたりする訳じゃない。
だったら教会にせよ王侯にせよ、その座につくのはいつも正しい振る舞いをする人でなくたっていい。
ちょっとくらい嘘をつこうが腹黒かろうが、ちょっぴり教義から外れた事をしてようが構いやしない。
弱い立場の人間に真摯に寄り添って、救いの手を差し伸べてくれるのなら、生臭坊主でも破戒僧でもウエルカムだ。
だって、どこかの誰かも言ってたじゃないか。
『やらない善よりやる偽善』だと。
そんな思いを抱えながら参列した聖女の就任式は、教会の中枢であるフルカ大聖堂の中で厳かに執り行われた。
主役がドロシー様じゃなかったら、多分爆睡待ったなしだったであろう、1時間にも及ぶ超絶退屈な就任式の後、ドロシー様はヘリング様達を始めとした上位貴族のお歴々たっての願いで、ささやかなパレードを行う事になった。
貴族の方々が用意してくれた、パレード用に飾り付けられているコンバーチブル的な馬車に乗り込み、道の左右を取り囲む市井の人々に、少し戸惑いながらもドロシー様が手を振って応える。
ささやかな、って言う割に、結構派手なパレードだなあ、と思ったけど、件の高慢ちきの就任パレードは、もっと派手だったらしい。
マジでか。
これでも地味な方なのか。
っていうか、これじゃドロシー様があの高慢ちきに負けてるみたいじゃん?
……なんて思った私は、リトスが止めるのも聞かずにその辺の建物の屋根によじ登って、モーリンに念話で呼びかけてみた。
すると今度はモーリンもノリノリで力を貸してくれたし、更には『ド派手にやるのじゃ!』と、自分の眷属の精霊達まで複数借してくれるという、いつにない大盤振る舞いを見せてくれまして。
当然私もノリノリでその力を天高く解き放った。
その途端、晴れ渡る春空に、数え切れないほどの数の光り輝く黄金の花弁が出現し、キラキラと太陽光を反射させながら微風に乗って宙を舞い踊り始める。
おお、いいね! 綺麗だしなんか派手!
手前味噌だけど、この世のものとは思えぬ絶景と言えるんじゃありません?
そんな光景を目の当たりにしたドロシー様やヘリング様、他の貴族の面々や教会関係者達は目を丸くし、道を取り囲む住民達からは割れんばかりの歓声が迸り、熱気を孕んだその声が大気を揺らす。
――聖女様万歳!
――神聖教会万歳!
――レカニス王国に栄えあれ!
いつしかそんな言葉が響き始め、やがてそこに――
――精霊様万歳!
――精霊の巫女様万歳!
なんて言葉も混ざり始める。
は? あれ? なんで?
私が屋根の上から下を見ると、いつの間にかこっちを見上げていたドロシー様とバッチリ目が合う。
あ、あー、そっか。ドロシー様が真っ先に私を見付けて、他の人達もドロシー様の視線を辿って私を発見したって訳か。
まあそりゃそうだよね。民家の屋根って言ったってここ2階の屋根の上だし、そんな言うほど高い場所じゃないから、ちょっと上を見上げたらすぐ見つかるよね。
やべ。一緒に来てたリトスの呆れ顔が目に浮かぶようだ。
後でちょっと怒られるかも知れない。
私が誤魔化し笑いを浮かべながらドロシー様に向かって手を振ると、周囲から上がる歓声が一層大きくなり、ドロシー様も笑って私に手を振り返してくれる。
私はドロシー様のその笑顔を見て、無垢で愛らしい素敵な笑顔だな、と思った。
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