転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店

文字の大きさ
上 下
122 / 124
第8章

13話 真なる聖女に祝福を

しおりを挟む

 年明けから3か月後の早春。
 久々に村からやって来た王都では、城下に住む人々が久々に聞く明るい話題に湧き上がり、お祭り騒ぎになっていた。
 教会側の都合によって長らく執り行われないままでいた、ドロシー様の聖女就任式が、ようやく行われる運びとなったのである。

 今日この日を迎えるまで、教会側も色々と忙しかったようだ。
 まず、件の高慢ちきや大司教など、不正を働いた人間の秘密裏の処分や、それに伴う大規模な人事異動、職務の引き継ぎなどなど、やる事が山のようにあったらしい。

 特にあの高慢ちきは立場が立場なので、適当な処分では話を丸く収める事ができず、王国の西の端っこにある修道院に送られた挙句、王都の方では「重い病に倒れた先代の聖女は、数か月間の闘病の末、次代の聖女に力を受け渡して儚くなった」……という事にされてしまったそうな。

 高慢ちきの実家のアムリエ侯爵家では、ブタ箱にぶち込まれて不在の当主と、精神的ショックで倒れて実家に引っ込んだ夫人(ホントかよ)が不在のまま、新たに当主として立った前当主の弟が、大勢の上位貴族達が参列する中、高慢ちきの葬式を取り仕切ったんだってさ。
 もう二度と王都には戻って来れないし、死んでも実家の墓には入れないだろうね。あの高慢ちき。

 でもそれも、処刑されるのと比べたらずっと軽い罰だ。
 聞いた所によると、世の中に大きな影響を及ぼす力を持った人間が名乗る、特別な称号――王や王族、聖女、聖者の騙りってのは、貴族の身分でもクソほど罪が重くなるらしいから、追放されて死んだ事にされる程度で済んで、御の字だと思うべきだろう。

 さらば高慢ちき。今後も精々西の外れで達者に暮らせ。
 だいぶ嫌な女だったから、あんたの事は当分忘れない。
 多分、1、2か月くらいは憶えてるんじゃないかな。多分ね。

 それと――直接教会の関係者から話を聞いた訳じゃないが、恐らく教皇は高慢ちきの一件を、大司教達の僧侶への降格と、地方への左遷の理由付けにしたと思われる。

 教会へ来るまでの道すがら、買い食いとかしてる最中に、「身近にいながら聖女を救えなかった、不甲斐ない己が身を苦に思った大司教達が、今後残りの人生全てを捧げて聖女の菩提を弔う為、自ら降格と左遷を願い出た」、とかいう話が、市井の中に普通に広まってたから。

 教会の名誉と矜持を守る為に、教皇がそういうシナリオを書き、雀に噂をばら撒かせたと考える方が自然だろう。なかなかに計算高い人でいらっしゃる。
 まあ、それで人を騙して金巻き上げたり、誰かを虐げてたりする訳じゃない以上、私が首を突っ込む理由なんてどこにもないから、糾弾なんてしないけど。


 何はともあれ、今回私達を正式に招き、教会に滞在する許可を出してくれたのは、新たに大司教の座に就き、ドロシー様の後見人になったというオゼリフさんという人だ。
 最初に直接顔を合わせた時、なんかこの白髭サンタみたいなお爺さん、どっかで見た事あるなあ、とか思ってたんだけど、すぐに、以前ヤリチンクズの裁判の時、裁判長やってたお爺さんだったと思い出し、思わずご本人の前で手をポンと叩きそうになった。

 ドロシー様曰く、厳しいけれどとても優しい、真っ直ぐな心根をお持ちの素晴らしい方、という事らしい。
 だから聖女の後見人に選ばれたんだろうな。

 でも正直、教皇のやり口を考えると、ドロシー様が言うオゼリフ大司教の評価を鵜呑みにしていいんだろうか、と一瞬思ってしまったが、すぐにかぶりを振って思い直した。

 さっきも言ったが、別に今の教皇が人を騙して金巻き上げたり、誰かを虐げてたりする訳じゃない。
 だったら教会にせよ王侯にせよ、その座につくのはいつも正しい振る舞いをする人でなくたっていい。
 ちょっとくらい嘘をつこうが腹黒かろうが、ちょっぴり教義から外れた事をしてようが構いやしない。
 弱い立場の人間に真摯に寄り添って、救いの手を差し伸べてくれるのなら、生臭坊主でも破戒僧でもウエルカムだ。

 だって、どこかの誰かも言ってたじゃないか。
 『やらない善よりやる偽善』だと。

 そんな思いを抱えながら参列した聖女の就任式は、教会の中枢であるフルカ大聖堂の中で厳かに執り行われた。
 主役がドロシー様じゃなかったら、多分爆睡待ったなしだったであろう、1時間にも及ぶ超絶退屈な就任式の後、ドロシー様はヘリング様達を始めとした上位貴族のお歴々たっての願いで、ささやかなパレードを行う事になった。

 貴族の方々が用意してくれた、パレード用に飾り付けられているコンバーチブル的な馬車に乗り込み、道の左右を取り囲む市井の人々に、少し戸惑いながらもドロシー様が手を振って応える。
 ささやかな、って言う割に、結構派手なパレードだなあ、と思ったけど、件の高慢ちきの就任パレードは、もっと派手だったらしい。

 マジでか。
 これでも地味な方なのか。
 っていうか、これじゃドロシー様があの高慢ちきに負けてるみたいじゃん?

 ……なんて思った私は、リトスが止めるのも聞かずにその辺の建物の屋根によじ登って、モーリンに念話で呼びかけてみた。
 すると今度はモーリンもノリノリで力を貸してくれたし、更には『ド派手にやるのじゃ!』と、自分の眷属の精霊達まで複数借してくれるという、いつにない大盤振る舞いを見せてくれまして。
 当然私もノリノリでその力を天高く解き放った。

 その途端、晴れ渡る春空に、数え切れないほどの数の光り輝く黄金の花弁が出現し、キラキラと太陽光を反射させながら微風に乗って宙を舞い踊り始める。

 おお、いいね! 綺麗だしなんか派手!
 手前味噌だけど、この世のものとは思えぬ絶景と言えるんじゃありません?

 そんな光景を目の当たりにしたドロシー様やヘリング様、他の貴族の面々や教会関係者達は目を丸くし、道を取り囲む住民達からは割れんばかりの歓声が迸り、熱気を孕んだその声が大気を揺らす。

――聖女様万歳!

――神聖教会万歳!

――レカニス王国に栄えあれ!

 いつしかそんな言葉が響き始め、やがてそこに――

――精霊様万歳!

――精霊の巫女様万歳!

 なんて言葉も混ざり始める。
 は? あれ? なんで?

 私が屋根の上から下を見ると、いつの間にかこっちを見上げていたドロシー様とバッチリ目が合う。
 あ、あー、そっか。ドロシー様が真っ先に私を見付けて、他の人達もドロシー様の視線を辿って私を発見したって訳か。

 まあそりゃそうだよね。民家の屋根って言ったってここ2階の屋根の上だし、そんな言うほど高い場所じゃないから、ちょっと上を見上げたらすぐ見つかるよね。
 やべ。一緒に来てたリトスの呆れ顔が目に浮かぶようだ。
 後でちょっと怒られるかも知れない。

 私が誤魔化し笑いを浮かべながらドロシー様に向かって手を振ると、周囲から上がる歓声が一層大きくなり、ドロシー様も笑って私に手を振り返してくれる。
 私はドロシー様のその笑顔を見て、無垢で愛らしい素敵な笑顔だな、と思った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...