転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店

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第8章

7話 反省だけなら猿でもできる…はずなのに。

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 手にした手紙をぐしゃぐしゃに丸め、くずかごにポイしたくなるのをグッとこらえ、私は一度大きく息を吐いた。
 自分の事しか考えてない事が丸わかりな大司教には、本当イラつくしムカつくが、今後の面倒を考えると、ここで謝罪の申し出を突っぱねるのは得策じゃないだろう。
 それに、今ドロシー様を1人で帰らせるには不安が残る。
 ていうか、不安しかない。

 ドロシー様を1人で帰したりしたら、件の高慢ちきが何をするか分からないし、もし高慢ちきが何かしたとしても、教会がドロシー様を庇わないであろう事は確実。
 そんでもって、普段晴耕雨読に近い暮らしをしてる私達は、予定に余裕がある。
 となれば、出せる答えはひとつだけだ。


 そんな訳で、手紙が届いてから2日後。
 ドロシー様と護衛役のリトスの3人で馬車に揺られながら、私は窓の外を眺めていた。
 こっそり隠し持ってきた腕時計の文字盤が示す時間は、午前9時。

 きっと、この4頭立ての大層ご立派な馬車を出すよう言われた御者さんは、昨日の夜から準備をして、日も出ない早朝のうちから王都を出立したんだろうな、と思うと、何だか申し訳ない気分になってくる。
 今一番反省しなきゃならんのは、他人の予定や苦労を汲み取る気が微塵もない大司教だけど。

 ていうか、手紙に書かれてた差出人のサインを見て、一瞬、あれっ? って思った事がひとつある。
 手紙を寄越した大司教が、自分の名前だけじゃなく、家名も続けて書いてた事だ。

 教会で上の位へと上がり、要職に就く為には、出家して実家と縁を切り、世俗との関わりも絶たなきゃならないはずなのに、なんで手紙に縁切ってるはずの家の名前まで書いてんの? おかしくね?
 それは私のような、教会の人事や運営に関わりのない人間でも、比較的知ってる話だと思うんだけど、どういう事?

 ひょっとして大司教様は、出家した身でありながら未だに実家と裏で繋がってて、上位貴族の権力におんぶに抱っこでいらっしゃるって事ですか? 
 それとも、精霊の巫女わたしがまだ10代後半の小娘かつ、元上位貴族の平民なのを見越して、自分の元の身分と実家の力をチラつかせ、言外にプレッシャーかけるつもりだったとか?
 どっちにしても思考回路がクソですね?

 ああ、そういやドロシー様から聞いたんだけど、手紙に書かれてた大司教の家名のガナンシアって、社交界でも有名な銭ゲバ侯爵家で、高慢ちきの実家のアムリエ侯爵家と親戚なんだとか。
 そのアムリエ侯爵家も大変羽振りがよろしいお家で、当主のアムリエ侯爵は趣味の絵画を金にあかせて買い漁り、妻のアムリエ侯爵夫人は、常にキンキラキンの宝飾品をジャラジャラ着けて、これ見よがしに社交界を闊歩していらっしゃるそうですよ。

 なんかもうこの時点で、教会の司教によって聖女が見出されたって話自体に、裏金工作を下敷きにした出来レースの臭いがプンプンするんだけど、気のせいかな?

 ……はあ。今更だけど、大司教に会うのめんどくさくなってきたな。
 あの手紙の書き方と内容を見た限り、誠意のある謝罪は期待できないだろうし。
 馬車の中から、あちこちに木々や小さな林が点在する緑の薄い冬の草原を眺めつつ、私はこっそりため息をついた。



 教会が用意した馬車(結構速度が速かった)に揺られる事数時間。
 私達は丁度昼時頃、王都に到着した。
 そしたらなんと、大司教様に突然重要な仕事ができた、とかいう理由から、教会の中にある大変立派な応接室で2時間ばかり、放置プレイ喰らう羽目になりました。

 謝罪の場を改めて設けたい、とか言って勝手に日時を決めて、一方的に人を呼び付けておいて、いざ謝罪相手が教会に着いたら『仕事ができて手が離せない』?

 なんですかそれは。
 どんだけ私達を舐め腐ってやがるんですかね? 大司教様は。

 案内役の若い神官も元が貴族階級なのか、言動が露骨に慇懃無礼だ。
 常に顔面に張り付いている、人を見下したような半笑いが何とも胸クソ悪い。

 あのさ、「室内の調度品はどれもみな1級品ですので、みだりにお手を触れないようお願いします」ってなに。
 それはつまり、私達がよそ様の家のブツに興味本位でベタベタ触って、汚したり壊したりするような人間に見えるって事か。
 張っ倒すぞこのクソッタレ。

 それから、ドロシー様を厄介払いの如く部屋から追い出し、どっかに行かせようとするのもムカつく。何企んでやがるんだ。
 やっぱり教会こいつらの事は信用できん。

 ドロシー様をどこかへ連れて行かれるのを避けるべく、「予定外の待機時間が発生して退屈なので、ドロシー様に話し相手になって頂きたいのですが」とか、「まさか、謝罪を受けるべく訪れた場所でこのような事になるなんて。精霊様がこの事を知ったら、とても残念がられるでしょうね」とか、思い切り嫌味ったらしく言ってみた所、神官は鼻白みながらもすぐに折れ、ドロシー様が室内に留まる事を了承した。

 だが、その後も神官は態度の悪さを一切改めようとしない。
 態度の悪さをドロシー様に指摘され、注意を受けると、口では「申し訳ありません」だの言っておきながら、目はしっかりドロシー様を睨みつけ、挙句の果てには退室時、ドアを後ろ手に閉めながら舌打ちしてくる始末。

 これには、普段から温厚で辛抱強いリトスも顔をしかめ、ドロシー様に至っては、ソファから立ち上がって「お待ちなさい!」と声を上げたが、神官が足を止め、こちらに戻って来る事はなかった。

 かくいう私もブチギレ寸前だ。
 速攻後を追いかけて神官の胸倉ひっ掴み、全力で往復ビンタしてやりたい。
 あんの○○○○ピーーー野郎めが、これから行く先々の角という角に足の小指をぶつけまくればいい!

 当然ながら、私やリトスが思い切り不機嫌になっている事に気付いたんだろう。
 ドロシー様は青い顔で私達に向き直り、思い切り頭を下げてくる。

「プリム様、リトス様、我が教会の神官が大変なご無礼を……! 申し訳ございません!」

 ドロシー様の声は震えていて、今にも泣きそうな雰囲気だ。
 いかん、落ち着こう。
 なんの罪もないドロシー様に当たる訳にはいかない。

「頭をお上げ下さい、ドロシー様。あなたの責任ではありません。それより今は、気分転換に別のお話に付き合って頂けませんか? ザルツ山に生えている、珍しい植物の話などいかがでしょう?」

「そうだねプリム。まずは……指で触れると葉が中央の葉脈に沿って、ピッタリ閉じる木の話なんてどうでしょうか。ドロシー様」

「……まあ。精霊の御山にはそんな木があるのですか。それは是非ともお話を聞きたいですわ。……ありがとうございます」

「どういたしまして。さ、こちらにお座り下さい」

 申し訳なさそうな嬉しそうな、ちょっと複雑な顔をしているドロシー様を、隣に呼んで座らせ、話を始める。
 そうしている間にも時間は淡々と流れ、現在クソ神官が退室してから約30分。
 誰も応接室にやって来ない。

 謝罪相手を2時間も待たせる事が確定してるってのに、茶の1杯すら出さんのか。ここの連中は。
 全く、どいつもこいつも! 一体どういう教育受けて育ったんだ!

 私が内心で思い切り憤慨していると、やおら室外からドアを控えめにノックする音が聞こえてきた。
 誰だ? もしかして、誰かがクソ神官の所業を謝りに来たんだろうか。

「? どうぞ」

「失礼致します」

 私が入室を許可すると、短くも柔らかい男性の声が聞こえてきて、静かにドアが開かれる。応接室に入って来たのは、恐らく教会とはあまり縁がないであろうお方――ヘリング様だった。
 え? なにゆえ?

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