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第7章
10話 チート娘の負けられない戦い~完勝
しおりを挟む間一髪駆け込んだ小部屋の壁際、デカい木箱の中にガッツリ詰め込まれた精霊の花。
その側に近付き、てんこ盛りになった精霊の花を観察する。
カンテラの光を反射して神秘的な輝きを放っている、子供の握り拳程度の大きさの精霊の花は、どれもきちんと形状が整っており、素人目にも価値を感じさせた。
しかし、希少なはずの精霊の花を、よくもまあここまで大量に搔き集めたな。
これぞまさしく、間違った権力の使い方、その典型と言えそうだ。
どっちかというと、驚きよりも呆れの感情の方が勝る思いで佇んでいると、ようやっと追っ手の皆さんが追い付いて、小部屋の中に駆け込んで来た。
問答無用で取り押さえられるのを避ける為、身体を横にずらし、精霊の花が見えるようにしてやると、追っ手の皆さんは精霊の花を目にした途端、驚き動揺して動きを止め、口々に騒ぎ始める。
そりゃあ大騒ぎにもなるだろうよ。
精霊の花は、その美しさと希少性から宝飾品としての価値が高いが、細かく粉砕して幾つかの薬草と混ぜ合わせる事で、多種多様な麻薬に化けるという、大変危険な側面を持つ代物でもある。
しかも、精霊の花を元に作られた薬物はどれも非常に依存性が高く、中にはたった一度の服用で廃人になるブツさえあるとなれば、禁制品に指定されるのも当然の事だろう。
「こっ……これは……! 精霊の花だと!?」
「精霊の花!? ちょっと待って下さい! それ、禁制品じゃないですか!」
「バカな……なぜこのようなものがこんな所に!」
「見て下さい、この木箱のラベル! レカニス王室の玉璽印が……!」
「はっ!? 玉璽!? どうして禁制品を詰めた木箱のラベルにそんなものが!」
案の定、狭い小部屋は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
え、玉璽印? 玉璽ってあれでしょ? 王様だけしか使用できないゴツい印鑑みたいなブツで、重要な書類の決裁をする時や、王命を書類に記載する形で出す時とかに、書類の目立つ所にポンと捺すやつの事……だよね?
……あ、よく見たら木箱の端っこにくっついてるラベルに、赤いインクでなんか捺してあるわ。
一辺が5センチはありそうな真四角の中に、簡略化された花と古代文字を混ぜて作ったようなクッソ細かい文様が、詰め込むような形で収まっている。極めて精緻で複雑な印章だ。
へーえ、これが玉璽印か。初めて見た。こんな細かい文様をハンコにして、よく捺印時に潰れないな。これがいわゆる『匠の技』ってものなんだろうか。
ていうか、今さっき兵士さんの1人も言ってたけど、なんでそんなもんが禁制品のラベルに捺してあるんだよ。意味が分からん。
あと、さっきから私、蚊帳の外にされる勢いで放置喰らってるんですけど、どうしたらいいですかね。
もう用がないなら、帰ってもいいですか?
◆
その後、やっぱり帰してもらえなかった私は、身元の確認を兼ねて簡単な聴取を受ける事になった。
別に後ろ暗い事もやましい事もなかったので、ザルツ村の出身であり、精霊が見えて話ができる事含め、素直に聴取に応じて色々な事を話しましたよ。
行方不明になった村人を探しに王都へ来て、訳も分からないまま捕まった事や、捕まった先に、探していた村人だけでなく、へリング筆頭公爵夫人がいた事。
閉じ込められた牢屋に、ちっさいおっさ……もとい、ウーデン公爵が来た事。そのウーデン公爵に連れ出されて、綺麗で大きな部屋の中に放り込まれた事。
そして、放り込まれた部屋の中、身の危険を感じて逃げようとした時、小さな精霊から精霊の花の話を聞いた事……などなど。
上記のような私の証言が認められ、即時捜査が開始された事で、地下の牢屋に捕まっていたシエラ達や、別の収監施設に囚われていたシエルも、無事五体満足で救出されたそうだ。よかったよかった。
ただ、私は事件に関する聴取が終わっていない事と、今回の犯罪に関わった、国王派の貴族の捕縛が完了してない事を理由に、未だに貴賓室の一角を流用した部屋で待機させられてるから、まだシエラ達にもシエルにも、リトス達にも全然会えてなかったりする。寂しい。
でもそれも仕方がない事だ。
国王の犯罪に加担した連中がまだ捕まり切っていない中、ノコノコ外を出歩いたりした日には、どこぞで逆恨みによる被害を被る危険性も十分考えられるから。
ちなみに、ウーデン公爵に連れ出された際、不安と緊張のあまり公爵の話をほとんど聞いておらず、状況をよく理解していなかった事にして、放り込まれた部屋の主が誰だったのかは、知らなかった事にしました。
だってほら、なんにも知らなかった事にしておけば、ヤリチンクズをクロロホルムで昏倒させた件に関して、情状酌量の余地を見出してもらえるんじゃないかな、と思って。
不敬罪に問われる可能性は少しでも減らしたいじゃん?
でも、その辺の心配は要らなかったみたいだ。
現国王ウルグスは、国家禁制品所持、王侯貴族拉致監禁罪、臣民に対する不当拘束罪、などなどの罪状により、裁判開始前から有罪がほぼ確定、バスルームにフルチンで倒れていた所を引っ立てられ、そのまま貴族牢へぶち込まれたそうな。
臣民への不当拘束罪はうやむやにされる危険性が残るが、筆頭公爵夫人という証人がいる王侯貴族拉致監禁罪と、精霊の花を詰め込んだ木箱に玉璽印が捺してあった、という、どっからどう見ても言い逃れできない状況証拠がある、国家禁制品所持での有罪は、ほぼ確定したも同然と見ていいだろう。
特に、精霊の花の件に関してウルグス王は、「誤解だ」とか「嵌められた」とか言って騒いでるらしいが、寝言もいい所だ。
聴取の時、騎士さんから教えてもらった話によると、玉璽の保管場所を知ってるのは国王と、玉座を継ぐ事が確定した、王位継承間近の王太子だけなんだってさ。
玉璽と玉璽専用のインクも、到底偽装できるようなブツじゃないらしい。
玉璽は建国時から使用されている、超絶技巧を持った職人による芸術作品でもあるし、玉璽専用のインクも、とある特殊な効果があるものを使ってるんだそうだ。それじゃあ偽装なんてできる訳ないよね。
そんなオンリーワンなハンコが、禁制品のラベルにポンと捺されてる時点で誤解もクソもないってのを、あのヤリチンクズは理解できないんだろうか。
まあ、できないんだろうな。
それから、今回の事件のせいで玉座がガラ空きになった事を理由に、へリング筆頭公爵が臨時の国主代理として立ったので、近いうちに筆頭公爵夫人誘拐・監禁のかども併せて立件されるだろう。
完璧に終わったな。ヤリチンクズ乙。
ああ、早く残りのバカが全部捕まらないかな。
そうじゃないと、いつまで経っても村に帰れないよ。私達。
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