上 下
99 / 124
第7章

9話 チート娘の負けられない戦い~疾駆

しおりを挟む


 ドアのすぐ側に、取り立てて人の気配がない事を改めて確認し、一気にドアを開けて廊下へ飛び出す。

『こっちこっち! 精霊の花はこっちだよ!』

「はいはい、ちゃんとついてくから案内よろしく!」

 はしゃいだ声を上げながら宙を飛ぶ光の玉に、適当な相槌を打って走り出してすぐ、近くを通りかかった兵士数名に見咎められた。
 でも、想定内の事だから、別に構わない。

「――あっ!? こら! 有事でもないのに廊下を走るな!」

「いや待て! 貴様、城勤めの人間ではないな!?」

「なんだと!? どこから入った!?」

 やいのやいのと騒ぐ声を背中に聞きながら、私はあまり厚みのないワインレッドの絨毯の上を、文字通り滑走する。
 どうやって滑走しているのかって?
 そりゃあ勿論、強欲さんで出したローラーブレードを履いて、だ。

 ヒュー! 久々に履いたけど、なかなかに爽快!
 どうせなら室内じゃなくて、外を思い切り滑りたいもんだよ。
 今そんな事言ったってしゃーないけど。

「待てぇっ! 待たんか貴様!」

「何をやっている! 早く取り押さえろ!」

「おい! 侵入者だ! 手を貸してくれ!」

 ちら、と肩越しに背後を見てみれば、追いかけて来る兵士の数が地味に増えていた。
 そりゃそうか。侵入者を見付けて追いかけて、でもなかなかとっ捕まえられないとなれば、普通に応援呼ぶよね。
 こっちとしては、数が増えてくれた方が好都合だけど。

 絨毯の上だからか、普通の道を滑走する時より速度がやや落ちているが、ここの絨毯は室内に敷かれたものよりずっと毛足が短いから、ローラーに毛が絡む事もないし、低下した滑走速度は、床を蹴り出す脚力で幾らでもカバーできる。

 ついでに言うなら、私を追いかけてきてる連中も、鎧兜を身に付けてるせいか、走る速度は平均よりも遅めな模様。そもそも並の人間の足の速さじゃ、ローラーブレード履いてる人間とっ捕まえるのは無理ってものだが。
 私を捕まえたけりゃウサ○ン・ボ○トでも呼んで来い。

 廊下を滑って進んでいると、すぐ目の前で私を先導してくれてる小さな光の玉が高度を下げ、スッと視界から消えた。律儀な事に、私に合わせて階段に沿うように飛んでくれているようだ。
 でも、ローラーブレード履いてる私は階段下りられないんだよねえ。どうやって下りっかな。

 足とローラーブレードを魔力で保護し、階段を無視して1階まで飛び下りるか。
 それとも、脇に設置されている手すりを滑って下りながら階下を目指すか。
 簡単なのは飛び下りる方だけど――

 ちょっとばかり思案していた間に、階段が眼前に迫る。
 うんよし。ここはより安牌な方を選ぶか。
 てな訳で、階段の一歩手前で方向転換。
 私は思い切り床を蹴り、大きく跳躍して空中に身を躍らせた。

 ひょえー! 自分でやっといてなんだけど、3階からの紐なしバンジーってこんな感じなんだ! 魔力強化しとけばちゃんと着地できるって分かってても、結構怖いなこれ!
 いや、落ち着け。冷静に着地の為の準備をするんだ、私。

 私は自分を落ち着かせる為、空中で何度か深呼吸するが、滞空時の無防備になる瞬間を狙う奴が出て来た。
 多分、とっさの判断だったんだろう。
 手に持ったショートソードを、こちら目がけて投げ付けた奴がいたのだ。しかも、反射的にそいつの行動を真似して、手にした剣やら槍やらを何人もの兵士が投擲してくる。
 ちょっ……! うおおおい! 殺す気か!

 私は舌打ちしながら一層手足へ魔力を込め、最初に肉薄してきたショートソードを裏拳で弾き飛ばしたのち、空中で強引に身体を捻って槍を避けた。
 しかし、着地の為の態勢が大きく崩れる。

 ヤバい。ローラーブレードを履いてる状態じゃ、空中で崩れた態勢を立て直して着地するのはまず無理だ。足元が不安定過ぎる。
 ついでに言うなら、受け身を取って転がるってのも、今はちょっと無理。
 手足に思い切り魔力を集中させてる今の状態からじゃ、他の箇所への魔力強化が追い付かない。

 という訳で、階下で着地に失敗してすっ転び、腕や肩を痛めるような事態を避けるべく、両手で着地を行いつつ、追撃の形で上から投げ下ろされたロングソードを、倒立したまま放った回し蹴りで叩き落とし、へし折った。

 そこから勢いでバク宙して両足で着地し、何度か床をゴロゴロ転がって、追加で降り注いできた剣と槍を完全回避。ここまで移動すれば、上の階から何を投げ付けたとて、私の所にゃ届くまい。
 ホッと安堵の息を吐きつつ、追っ手を撒かないよう数秒その場に留まってから、案内役の精霊の後に続いて滑走を再開する。

 はー、あっぶねー! 死ぬかと思った!
 心臓めっちゃバクバクしてるんですけど!
 ローラーブレードで滑りながら、思わず心臓の上に手を当てて大きく息を吐く。
 でも、思ってたより身体がきちんと動いてよかった。
 私って案外、やればできる子なんだな。
 正直、自分でもちょっとびっくりしてる。

『あはははっ、さっきの凄かったねえ! ひゅーんって来たのをバシッて飛ばして、くるんって回ってバキッだもん! かっこよかったぁ~!』

 一方小さな精霊は、今にも手を叩かんばかりに大はしゃぎの大喜び。
 喜んでもらえて嬉しいけど、表現にオノマトペが多いね、君。
 なんか、話聞いてるだけで脱力しそうになるんですが。

「ねえ、精霊の花がある場所ってまだなの?」

『もう少しだよ! ホラ、目の前に壁があるでしょ? あそこを通り抜けた先の部屋に、い~っぱい置いてあるの!』

「はい!? 目の前の壁を抜けた先!? ドアとかないけど!?」

『うん、ないよ~。だって王様、隠し部屋だって言ってたし』

「隠し部屋ぁ!? じゃ、じゃあ入り口は!?」

『ん~、わたしいつも、壁すり抜けて入ってたから、分かんなぁい』

「分かんないのかよ!」

 この期に及んで呑気な事をのたまう精霊に、私は思わず頭を抱える。
 辿り着いたのは行き止まりで、どこをどう観察しても隠し通路もなにも見付からない。
 あああ、背後から何十人単位にまで膨れ上がった追っ手の皆さんの姿がぁ!

「ああもう! こうなったらしょうがない! この壁ブチ破ってやるッ!」

 私は泣きたくなるのを必死に堪え、右手に魔力を集中させた。

「でぇりゃああああああッ!!」

 120%の力と魔力を集め、ヤケクソで放った正拳突きもどきは、正面に立ち塞がるレンガ造りの壁面を割と容易く粉砕し、風穴を開けてくれる。
 やったね、ラッキー! 想定より脆くてよかった!

 私はスキルを使ってカンテラを出し、大急ぎで壁に開いた大穴を潜り抜けて進む。壁を抜けた先にあったのは、がらんどうの小部屋と、取ってつけたような粗末な木製のドア1枚。
 ドアには、小生意気にも錠前が取り付けられていたが、もうそんなもん知った事か!

 今度は履いていたローラーブレードをスキルで消して、勢い聞かせに木製のドアを蹴り破り、更に奥へ。
 そこは殺風景な小部屋で、一抱えはありそうな大きさの、数個の木箱が壁際に置いてある。
 蓋もされていない木箱の中には、溢れんばかりの精霊の花が詰め込まれ、手元にあるカンテラの光を受けて、控えめながらも美しい輝きを放っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...