上 下
97 / 124
第7章

7話 チート娘の負けられない戦い~開戦

しおりを挟む
 

 はい、そんなこんなで、王様の腰巾着やってるちっさいおっさんに見出され、私1人でやって来ました、王様の私室。
 いやあ、展開が早過ぎて慌てふためく暇もなかったわぁ。
 うんうん、広くて豪華で王様らしい部屋だね。なんでか人払いまでされてるし。
 あああ、クッソ帰りてぇえええッ!!

 なぁにが、「国王陛下が、精霊に愛されし奇跡の民と、是非とも話がしてみたいと仰せになられている」だ! 
 見え透いた嘘ぶっこいでんじゃねえよ! クソが!
 オイコラおっさん、お前その場の思い付きで言いやがったろ!

 話をするだけなら、私1人呼び出さなくてもいいよな!
 それに、話し相手を女に限定する必要も全くないよな!
 どう考えてもアレでアレな事する為の呼び出しだよな!
 どこまで腐り切ってんだ、この国の新しい王様はよぉ!

 ていうか、友人知人の顔面偏差値がバカ高いせいですっかり忘れてたけど、今世は私も結構顔がいいんだった!
 おまけにシエラ達と比べて背も割と高い方だし、髪の毛は真っ赤だし、目立たない方がどうかしてるよな! そら端っこの方でおまけの子みたいに佇んでても目に付くわな!
 はーヤダヤダ! マジで最悪だ! こん畜生!

 ああキモい、ほんとキモい。
 部屋に通されてすぐ、目に付く所にデカいベッドがあるのもキショいし、わざわざ私室に呼び出した話相手待たせて、部屋の主が隣のバスルームでシャワー浴びてるっぽいってのも激烈にキショい。
 壁際に近付くと、雨音にも似たほんの微かな流水音が聞こえてきてサブイボ出そう。
 いや、間違いなく出てる。だって今すげぇ寒いもん。

 あ、それともこれはあれかな?
 寝首を掻いてもいいですよ、的な話かな?
 ウエルカム&ゴートゥヘヴン? みたいな?
 言外にGOサイン出ちゃってる感じなのかな?
 ここはお言葉に甘えてノッちゃうべき?

 いやいや、落ち着け。冷静になれ。殺っちゃうのは流石にまずい。
 多分うっすらサブイボ出てるであろう腕を、袖の上から何度かさすりつつ、その辺のソファに腰かける。
 そうだ、まずは落ち着こう。
 昔からよく言うじゃないか、慌てる乞食はもらいが少ないと!

 ……いや違う。そうじゃない。
 ダメだ、これはよくない傾向だ。
 どうやら私はこの状況に、自分で思ってる以上に動揺して、ビビッてるらしい。
 全く、ここまで動揺したのは高2の夏、学校の先輩の命令で、他校へのカチコミに連れてかれた時以来だ。
 しかし、いい加減ここいらで平静さを取り戻さないと、本当に取り返しがつかない事になる。

 私はソファに座ったまま何度か深呼吸を繰り返す。
 大丈夫、敵は私が丸腰だと思い込んで油断している。
 つまりは、まだ勝機は十二分にあるという事。
 それすなわち――今私が最優先でやるべき事は、このアドバンテージを最大限に生かし、先んじて動いて敵を無力化する事だ!

 国王の私室に放り込まれてから、おおよそ数分。
 ようやく頭のエンジンがかかってきた私は、景気づけに右手で膝をパシンと叩き、勢いよく立ち上がった。
 そうと決まればまず、強欲のスキルであれを出すか。
 あれって何かって?

 散布型のクロロホルムです。
 形状のイメージは、バ○サンの中身をそっくりそのままクロロホルムとすげ替えた感じ。
 ぶっちゃけクロロホルムって人体に有害なんだけど、分量は加減してあるから平気だろ。乙女のピンチ(私の事ですが何か?)なので、とりま死ななきゃオールオッケーという事にしておく。

 そういう訳なので、バスルームにこっそり近づいて……静かーに、そーっとドアを開けて、取り出しましたこいつを、隅っこの方にセットオン、と。
 栓を開けて中身が噴出するようにすると、ほんの微かに空気が抜けるような、プシュー、という音が聞こえ始めた。

 次いで、その辺が噴き出したクロロホルムで白っぽく煙ってくるけど、元々バスルームはシャワーの湯気で煙ってるし、漏れ出る音も、シャワーが流れ落ちる音で掻き消されて、問題の部屋の主には聞こえないだろう。
 さて、後はバスルームにクロロホルムが充満して、国王という名のエロガッパが昏倒するのを待つだけだ。

 バスルームの出入り口のすぐ側で、息を殺してその時を静かにじっと待っていると、目の前になにやら、小さな光の玉がふよふよ飛んで来る。
 あ、これって――もしかして精霊かな?

『こんにちは~。おねーさん、こんな所でなにやってんのお?』

 少しばかり、舌っ足らずな感じで話しかけてくる光の玉。
 やっぱり精霊だったよ。それも、生まれてから10年と経ってないであろう、下位の精霊だ。
 なんでこんな所にいるんだろ。
 イマイチよく分からんけど、ひとまず、話しかけてくる精霊に小声で答えてみるとしよう。

(私? わたしはねえ、お呼ばれしたくない場所に無理矢理連れて来られちゃって、困った事になったから、ひとまず元凶の排除に取り掛かってる所。あなたはなんでここにいるの?)

『わたしぃ? わたしはねえ、モーリン様に言われて、ここの王様がもらった木に宿ってるんだ~。でもぉ、ここはわたし以外の精霊が全然いなくて、すっごいヒマなんだよねえ~』

(えっ? あ、あーあー、あん時の! クソ王に持たせた雑木に宿ってくれてた子ね!)

『そーそー、それ~。でもその事知ってるって事は、おねーさんはモーリン様の巫女なの?』

(うん、実はそうなの。ごめんね、こっちの都合でこんな所に長居させて。ていうか、当のモーリンはなんて言ってあなたをあの木に宿らせたの? クソ王はもう死んでるはずだし、帰って来たければ帰って来ていいんだよ?)

『え~、そうだったの? じゃあ帰る~。暇だしぃ。あ、でもでも、その前に、素敵なもの見つけた話、聞く?』

(素敵なもの?)

『そう、すっごい素敵なもの~。ここの人間ってば、みんなわたしが見えないし、精霊に近しいものなんて、なあんにもなくってねえ、ホントつまんない場所なんだけど~、あれだけは別なの~。ね? 見たい? 見たいでしょ?』

(え? ええっと……)

『見たいよね~! じゃあハイ決まり~! そこまで案内してあげる! わたしとお話しできる人なんて久々で、すっごく嬉しいし!』

 どうやらこの小さな光の玉の精霊、もうとにかく娯楽と会話相手に飢えていたようで、私は有無を言わさず、その『素敵なもの』とやらを見にいく事になってしまった。
 多分、というか、間違いなくお断りしても聞いてくれない。

 こういう自我が芽生えて間もない精霊ってのは、自分本位のゴーイングマイウェイな子ばっかりで、自分以外の誰かの都合を考えるとか、そういう事ができないんだよね。
 ああもう、今度は別の意味で面倒な事になっちまったよ……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...