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第7章
7話 チート娘の負けられない戦い~開戦
しおりを挟むはい、そんなこんなで、王様の腰巾着やってるちっさいおっさんに見出され、私1人でやって来ました、王様の私室。
いやあ、展開が早過ぎて慌てふためく暇もなかったわぁ。
うんうん、広くて豪華で王様らしい部屋だね。なんでか人払いまでされてるし。
あああ、クッソ帰りてぇえええッ!!
なぁにが、「国王陛下が、精霊に愛されし奇跡の民と、是非とも話がしてみたいと仰せになられている」だ!
見え透いた嘘ぶっこいでんじゃねえよ! クソが!
オイコラおっさん、お前その場の思い付きで言いやがったろ!
話をするだけなら、私1人呼び出さなくてもいいよな!
それに、話し相手を女に限定する必要も全くないよな!
どう考えてもアレでアレな事する為の呼び出しだよな!
どこまで腐り切ってんだ、この国の新しい王様はよぉ!
ていうか、友人知人の顔面偏差値がバカ高いせいですっかり忘れてたけど、今世は私も結構顔がいいんだった!
おまけにシエラ達と比べて背も割と高い方だし、髪の毛は真っ赤だし、目立たない方がどうかしてるよな! そら端っこの方でおまけの子みたいに佇んでても目に付くわな!
はーヤダヤダ! マジで最悪だ! こん畜生!
ああキモい、ほんとキモい。
部屋に通されてすぐ、目に付く所にデカいベッドがあるのもキショいし、わざわざ私室に呼び出した話相手待たせて、部屋の主が隣のバスルームでシャワー浴びてるっぽいってのも激烈にキショい。
壁際に近付くと、雨音にも似たほんの微かな流水音が聞こえてきてサブイボ出そう。
いや、間違いなく出てる。だって今すげぇ寒いもん。
あ、それともこれはあれかな?
寝首を掻いてもいいですよ、的な話かな?
ウエルカム&ゴートゥヘヴン? みたいな?
言外にGOサイン出ちゃってる感じなのかな?
ここはお言葉に甘えてノッちゃうべき?
いやいや、落ち着け。冷静になれ。殺っちゃうのは流石にまずい。
多分うっすらサブイボ出てるであろう腕を、袖の上から何度かさすりつつ、その辺のソファに腰かける。
そうだ、まずは落ち着こう。
昔からよく言うじゃないか、慌てる乞食はもらいが少ないと!
……いや違う。そうじゃない。
ダメだ、これはよくない傾向だ。
どうやら私はこの状況に、自分で思ってる以上に動揺して、ビビッてるらしい。
全く、ここまで動揺したのは高2の夏、学校の先輩の命令で、他校へのカチコミに連れてかれた時以来だ。
しかし、いい加減ここいらで平静さを取り戻さないと、本当に取り返しがつかない事になる。
私はソファに座ったまま何度か深呼吸を繰り返す。
大丈夫、敵は私が丸腰だと思い込んで油断している。
つまりは、まだ勝機は十二分にあるという事。
それすなわち――今私が最優先でやるべき事は、このアドバンテージを最大限に生かし、先んじて動いて敵を無力化する事だ!
国王の私室に放り込まれてから、おおよそ数分。
ようやく頭のエンジンがかかってきた私は、景気づけに右手で膝をパシンと叩き、勢いよく立ち上がった。
そうと決まればまず、強欲のスキルであれを出すか。
あれって何かって?
散布型のクロロホルムです。
形状のイメージは、バ○サンの中身をそっくりそのままクロロホルムとすげ替えた感じ。
ぶっちゃけクロロホルムって人体に有害なんだけど、分量は加減してあるから平気だろ。乙女のピンチ(私の事ですが何か?)なので、とりま死ななきゃオールオッケーという事にしておく。
そういう訳なので、バスルームにこっそり近づいて……静かーに、そーっとドアを開けて、取り出しましたこいつを、隅っこの方にセットオン、と。
栓を開けて中身が噴出するようにすると、ほんの微かに空気が抜けるような、プシュー、という音が聞こえ始めた。
次いで、その辺が噴き出したクロロホルムで白っぽく煙ってくるけど、元々バスルームはシャワーの湯気で煙ってるし、漏れ出る音も、シャワーが流れ落ちる音で掻き消されて、問題の部屋の主には聞こえないだろう。
さて、後はバスルームにクロロホルムが充満して、国王という名のエロガッパが昏倒するのを待つだけだ。
バスルームの出入り口のすぐ側で、息を殺してその時を静かにじっと待っていると、目の前になにやら、小さな光の玉がふよふよ飛んで来る。
あ、これって――もしかして精霊かな?
『こんにちは~。おねーさん、こんな所でなにやってんのお?』
少しばかり、舌っ足らずな感じで話しかけてくる光の玉。
やっぱり精霊だったよ。それも、生まれてから10年と経ってないであろう、下位の精霊だ。
なんでこんな所にいるんだろ。
イマイチよく分からんけど、ひとまず、話しかけてくる精霊に小声で答えてみるとしよう。
(私? わたしはねえ、お呼ばれしたくない場所に無理矢理連れて来られちゃって、困った事になったから、ひとまず元凶の排除に取り掛かってる所。あなたはなんでここにいるの?)
『わたしぃ? わたしはねえ、モーリン様に言われて、ここの王様がもらった木に宿ってるんだ~。でもぉ、ここはわたし以外の精霊が全然いなくて、すっごいヒマなんだよねえ~』
(えっ? あ、あーあー、あん時の! クソ王に持たせた雑木に宿ってくれてた子ね!)
『そーそー、それ~。でもその事知ってるって事は、おねーさんはモーリン様の巫女なの?』
(うん、実はそうなの。ごめんね、こっちの都合でこんな所に長居させて。ていうか、当のモーリンはなんて言ってあなたをあの木に宿らせたの? クソ王はもう死んでるはずだし、帰って来たければ帰って来ていいんだよ?)
『え~、そうだったの? じゃあ帰る~。暇だしぃ。あ、でもでも、その前に、素敵なもの見つけた話、聞く?』
(素敵なもの?)
『そう、すっごい素敵なもの~。ここの人間ってば、みんなわたしが見えないし、精霊に近しいものなんて、なあんにもなくってねえ、ホントつまんない場所なんだけど~、あれだけは別なの~。ね? 見たい? 見たいでしょ?』
(え? ええっと……)
『見たいよね~! じゃあハイ決まり~! そこまで案内してあげる! わたしとお話しできる人なんて久々で、すっごく嬉しいし!』
どうやらこの小さな光の玉の精霊、もうとにかく娯楽と会話相手に飢えていたようで、私は有無を言わさず、その『素敵なもの』とやらを見にいく事になってしまった。
多分、というか、間違いなくお断りしても聞いてくれない。
こういう自我が芽生えて間もない精霊ってのは、自分本位のゴーイングマイウェイな子ばっかりで、自分以外の誰かの都合を考えるとか、そういう事ができないんだよね。
ああもう、今度は別の意味で面倒な事になっちまったよ……。
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