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第7章

3話 虎穴に入らずんば虎子を得ず

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「……街中で行方不明者を探しているというのは、お前らの事か?」
「そうだけど」

 黒い頭巾に黒い覆面、黒い服。
 傍から見てて、いっそ面白おかしいほど全身真っ黒な連中の1人が問いかけてくる声に、私は一切気負う事なく答えた。
 ええ、余裕ですけど何か?

 だってこいつらは誰も、目に見えた形で武器を持ってないし、殺気らしい殺気も感じないから。問答無用でこちらを手にかける気はないようだと分かるんで、ある程度落ち着いていられる訳です。

 そもそも私には、高位精霊であるモーリンと精霊王のレフさんという、強力な2柱の精霊の加護がある。
 いざとなったら念話を使い、モーリンかレフさんにお願いすれば、精霊の小路を出してもらってそこから逃げる、なんて事も可能なのだよ、私は。

 リトスやデュオさん達にも、聞き込みを開始する直前に念の為、レフさんからもらった『魔力を込めるだけで精霊の小路を開ける』という、特殊な魔法石を持たせてあるので、この場から脱出するだけなら簡単だ。
 ただ、その魔法石は1回こっきりの使い捨てで、精霊の小路を出現させられるのもほんの数秒だけだから、使いどころを間違えないようにしなきゃならんけど。

 ついでに言うなら私達は全員、以前情報収集に利用したシンプルフォンを、緊急連絡用として各自携帯しているので、何かあって分断されたまま合流できなくなっても、リアルタイムで情報を共有して、ある程度足並み揃えて動ける。
 だからこそ、こうして取り囲まれた状況下でも、今の私達にはまだバリバリ余裕があるのだ。

「まだ私達が聞き込みを始めてから1時間も経ってないのに、随分耳が早いじゃない。よっぽど街中にお仲間が沢山いるのね、あなた達」

「…………」

 返答なしでフルシカトですか。
 連中の口から、何かしら情報を引き出せないかな、と思って訊いてみたけど、ダメだなこりゃ。口の堅さを含めた言動や物腰といい、まとう雰囲気といい、いかにもプロっぽい佇まいだ。

 しかし、これではっきりした。
 やっぱりモアナ達は、組織だった連中が起こした事件に巻き込まれている可能性が極めて高い、と。
 だけど、あともうちょいモアナ達に関する情報が欲しい。

「だんまりなの? じゃあせめて、私達をどうするつもりなのか教えてくれない? 街の外にでも連れ出して殺すつもり?」

「案ずるな。お前もお前の連れも、我らに大人しくついてくるなら殺しはしない。お前達の探し人にも会わせてやる。ただし、視界は塞がせてもらうがな」

「……そう」

 ああそうかい。
 やっぱモアナ達を攫ったのはお前らだったのか。
 一番知りたかった事を教えてくれてありがとう。

 ――さてと。肝心な事が分かった以上、やはりここは『虎穴に入らずんば虎子を得ず』の精神で、覚悟を決めてやるしかない。
 ちら、と隣にいるリトスに視線を向ければ、リトスも同じ事を考えていたようで、強張った顔ではあるがしっかりうなづいてくる。
 正直気は進まないが、外部との連絡手段なら作れるし、腹を括って参りましょうか。
 でも――こいつらと一緒に行くのは私だけだ。

 私は自分のポケットの中に忍ばせておいたシンプルフォンを、スキルを使ってわざと消したのち、ゆっくりとした足取りでリトスの傍に寄り、精霊の小路を作り出す魔法石が入っている小袋に指先で触れて、思い切り魔力を流し込む。
 途端に小袋から眩い光が溢れ出し、リトスの背後に淡く輝く楕円の穴が生まれた。

 突然の出来事に身構え、瞬間的に動きを止めた黒ずくめ達が再び動き出すその前に、私は光り輝く楕円の穴――精霊の小路に、思い切りリトスを突き飛ばす。

「……なっ……!? プリム、何を……!」

「ごめんリトス! 繋ぎの件も含めてあとよろしくね!」

「ダメだ! プリム、君も――」

 私の意図を察して、その場に踏ん張って留まろうとしたリトスだったが、生憎と魔力で強化された私の力はハンパない。
 あえなく後ろに押し込まれ、リトスの身体は精霊の小路の中へ飲み込まれていく。
 慌てて動き出した黒ずくめ数人に私が取り押さえられた時には、もう既に精霊の小路は消えてなくなっていた。
 ってか、腕捻り上げんな! 痛いわ!

「ちょ、痛い! 痛いって!」

「貴様! 一体何をしたのだ!」

「あの男をどこへ逃がした! 言え!」

「ちょっと、痛いってば! ……ずっと前に旅の魔法使いからもらった転移の石って魔法具を、強制的に起動させたのよ。1回こっきりの使い捨てって話だから、もう使えないわ。
 あと、連れがどこへ飛ばされたのかまでは、分からないわ。さっきはただ、「ここから逃がしたい」って漠然と念じただけだから、具体的な場所まではね。まあ、この近くにはいないはずだけど」

「――チッ! お前達はこの女の連れを探せ! 王都の外周含めてくまなくだ! 使い捨ての魔法具如きの力では、そう遠くまでは飛ばせまい!」

 説明が具体的だったからか、黒ずくめのリーダーとおぼしき男は、私が述べた、半分以上でたらめな話を完全に鵜呑みにしてくれた。
 割と素直な奴だな、ありがとう。

 なんにせよ、これでリトスはザルツ村に戻れたはずだ。
 つか、高いお金払って王都に入ったのに、ホントごめんリトス。でも、ここであんたが一緒に捕まったら、こいつらにシンプルフォンの存在知られちゃうから。

 それだけはなんとしても避けなくちゃいけない。
 今こいつらに、こっちの手の内を知られる訳にはいかないのだ。
 お説教もちゃんと後で聞くから、勘弁して。
 私は後ろ手に縛り上げられながら、心の中でリトスに誠心誠意謝った。

 つーか、ホントマジ痛いっつってんだろーが!
 後で覚えてろ! このクソッタレ共!

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