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第6章
8話 精霊の迷い家~第3領域・ザルツ村ファイターZERO 前編~
しおりを挟む避難所の壁掛け時計を確認すれば、時刻は丁度午前9時を回った所。
私はモニター前に並べておいてある椅子から立ち上がり、軽い屈伸運動を始めていた。
私以外にも、リトスやシエル、アステールさんを始めとした猟師会の面々の他、アンさんやピアさんなども、同じように軽く身体を解し始めている。
ついに……というか、ようやくクソ王率いる王国軍が第3領域へ入ったので、歓迎の準備をしているのだ。
別に、私達が実際に身体を動かして迎撃する訳じゃないし、不要な行為だと言われればそれまでなんだが、そこはそれ。気分って奴です。
レフさんとモーリンが力を合わせて構築した精霊の迷い家、その最終地で連中を待ち受けているゲームは、『ザルツ村ファイターZERO』。
ルールはごく単純で、こちらが用意した対戦キャラと1体1、もしくは2対2での戦闘を行ってもらい、連中がこちら側全ての対戦キャラを倒せばゲームクリアとなる。
対戦時における制限時間はなし。決着がつくまで戦ってもらう。
要するに、リアル格ゲーという奴ですね。はい。
ゲーム中では一応、武器と魔法の使用は自由という事にしてある為、槍だろうが剣だろうが弓だろうが、何でも好きなブツを使って戦いに挑める。ただし、使用できるのは自前の武器のみ。
悪いが、わざわざ使う武器をこっちから用意してやるほど、私は優しい奴じゃない。
クソ王達は、最初の第1領域のクソゲーに武具の大半を巻き上げられてるから、ほとんどステゴロで戦う事になりそうだ。
しかしまあ、武器を手にして戦うのを前提で訓練を積んで来た兵士達が、ここにきていきなり村人(仮)相手に素手で格闘戦挑む羽目になるとか、シチュエーションとしてはだいぶシュールだよね。なんか地味にウケる。
なお、クソ王達含めた対戦者のゲーム内での体力……HPだが、少な過ぎると面白みに欠けるし、多過ぎると1回辺りの対戦が間延びする、という事で、一律1000ポイントで固定してみた。
それから、各キャラのHPはどの対戦パターンでも全て、格ゲーらしくゲージで表示されるようにしてある。その方が、誰の目から見ても優劣が分かりやすくて面白いだろう。
もっとも――リアル格ゲーと銘打っちゃいるが、ガチめに『リアル』なのは攻略側である王国軍だけで、私達にとってはそう大したものじゃない。
なんせ私達はクソ王達と違い、私達の情報を元に幻覚魔法を強化して作り出した、現代日本で言う所のアバターに意識を移して戦うようにしてある。だから、別に攻撃喰らっても怪我なんてしないし、痛くもない。ほぼほぼノーダメージです。
ただ、攻撃を喰らった箇所は明確に分かるようにしておかないと、ゲームの性質上不利になってしまう為、攻撃を受けた場所に、一定の衝撃が加わるように設定されてるが。
ていうかそもそも、最初はアバター操作型じゃなくて、操作不要のフルオート戦闘キャラを作って、そっちに丸投げする計画になっていた。
まず分析役の非操作キャラをけしかけて、そっちで様子見をしてから本格的な戦闘キャラを使い、じわじわ削り倒すつもりだったのである。
しかし、レフさん達と一緒に、ああでもない、こうでもない、と楽しく設定を練っている最中に、リトスやシエル、アステールさん達から、「今の自分達の力で、万全に近い状態の王国兵と戦った場合、果たしてどこまで食い下がれるのか、ちょっと試してみたい」、との要望が出た為、最終的にこういった形を取る事になった。
確かに、こんな状況でもなけりゃ、国の正規兵と真っ向切ってガチる機会なんて絶対に生まれないだろうし、最終的に勝ってさえいればそれでOKなので、この際、勝利までの経過は度外視する事にした訳です。
あと、こんな所で死なれちゃ困るんで、クソ王達にも第3領域へ侵入すると同時に、保護用のバフが施されるようにしてみた。その名も、『剣で斬られようが槍で突かれようが絶対怪我しないし死なないバフ』である。
ただしそれは、単に攻撃で負傷しないだけであって、私達のように全くのノーダメージという形にはならない。
攻撃を喰らったら、その箇所に相応の痛みを感じるようにしてあるんで、下手すりゃクリア条件満たす前に、心が折れる可能性も大いにあると予想される。
ていうかむしろ、心が折れるパターンを期待しての設定なんで、このゲームには、前のパズルゲームやアスレチックステージと違って、ゲームオーバーによる強制転移はない。
奴らがこの第3領域から脱する方法は、最後まで戦って勝ち抜くか、負けを認めて降参し、自ら外部へのランダム転移を口に出して希望する、もしくは内心で願い出るかの2択のみ。
私の予想では、無駄にプライドの高いクソ王と、その護衛役をしている将軍は最後の最後まで折れないだろうが、残る兵士には、自主リタイアする奴が何割か出ると見ている。
なんせ兵士達はみんな、ここに来るまでの間にクソ王の傍若無人さを散々目の当たりにしてるし、手酷く扱われたり振り回されたり、キツく当たられ続けてきた奴も結構多い。
中には忠誠心が削げてたり、愛想が尽きてる奴は絶対いると思うんだよね。
まあなんにせよ、ハナッからクソ王だけは、何があろうとランダム転送されないようにしてあるけど。
こっちに死人が出てない以上殺しはしないが、国主として派兵を決め、実際ここまで押しかけてきて多方面に迷惑をかけまくってくれたのだ。
今この場で、キッチリ責任を取ってもらう。絶対に逃がさない。
てな訳で――まずはレフさんに用意してもらった、アバターと自分の精神を同調させる為のネックレスを首にかけ、モニター前から退かした椅子に座り直しつつ、あちらの動向を観察する。
ふむふむ、あちらのトップバッターは兵士Aと兵士Bね。
どうやら両人共、奇跡的に剣を巻き上げられずに済んだ兵士達のようだ。
肝心のご指名は、村人B&C――フィデールさんとサージュさんか。
うーん。個人情報保護の観点から、村人のアバターは名前を出さず、AだのBだのという表記に固定するようにしてみたが……見てる側からすると幾らか分かりづらいかも。ちと失敗だったな。
私は腕組みしながらモニターに視線を向ける。
そういや、フィデールさんにせよサージュさんにせよ、猟師会の人達がガチで戦う所見るの、これが初めてだな、なんて思いながら。
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