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第6章
2話 我欲の矛先~近づく戦の足音~
しおりを挟む秋から更に時は流れ、冬が到来したと思ったらあっという間に年が明けた。
日々やるべき事があると、時間の流れが早く感じる。
今年は戦の足音が着々と近付いてるせいで、あんまりハッピーじゃないニューイヤーを迎える事になっちゃったが、仕方ない。
でもその代わり、今回の冬はいつもより雪が少ないようで、雪かきの回数がグッと減った。そこだけはありがたいと思う。
今は春に向けた準備で忙しいから。
なんせ、来春に待っているのは正規兵相手の戦いだ。
正面切ってぶつかるなんて愚行を犯す訳にはいかないし、実際には村の人達にできる事なんてほとんどないんだけど、それでもみんな、非常食や保存食の増産とか、そういう籠城戦の備えを張り切って続けている。
材料は、秋から冬の頭にかけて採れた畑の野菜と家畜の乳。
作っているのは主にピクルスを中心とした漬物とチーズだ。
どっちもパンに挟んで食べると美味しいし、栄養満点なので、戦事がなくても常備しておきたい品だと言えよう。
トーマスさん曰く、主に村のお年寄り達が、プリムにばっかり戦備えを任せて、おんぶに抱っこでいる訳にはいかないぞ、と言って、それは張り切っているそうだ。
ありがとう。なんかそれ、凄い嬉しいかも。
ちなみに、私は今もまだ、結界石のスペアをチマチマと作成中だったりする。
結界石を置く台座は結界の内部にあるので、それ自体が壊される危険性はほぼ皆無なのだが、外部から攻撃を加えられるなどした場合、余分に魔力を消費してしまうらしい。
ゆえに、万が一の事を考えた場合、その場でパッとすげ替えられるスペアがあった方が結界に綻びができづらいし、結界の消滅という、最悪の事態も未然に防げるのじゃ、ってモーリンに言われたんで、やむなく作業を続けています。
根底にこびりついてる苦手意識がどうしても拭えないせいか、何回やっても結界石を作る作業には慣れなくて、精神的にだいぶしんどいけど。
途中でキレて投げ出さないだけ、私も成長してると思う。
あと、作業中につい、ストレスでハゲそう、とか泣き言零したら、それをリトスに聞かれてたらしく、上げ膳据え膳の勢いでめっちゃ甘やかされた。
心配かけてごめんリトス。
私は別に精神的な問題は抱えてないし、身体も弱ってなんてないから。
だから、ご飯を「あーん」で食べさせようとするのはやめて下さい。
見目麗しい幼馴染の美青年が、ニコニコ笑いながら目の前にスプーン差し出してくるなんて、別の意味でメンタルが保たないです。なんの羞恥プレイですかこれは。
私は自力でスプーン持てない乳幼児でもなければ、お手手が震えちゃう要介護老人でもないんだってばよ……。
えー、話を戻そう。
後はデュオさんとカトルさんが、店をトリアとゼクスに任せて本格的に村から出て、引き続き情報収集と、敵に正しい村の状況を悟らせない為の情報操作を請け負ってくれている。
と言っても現状、外部から山に入れる人間は限られているので、露骨な流言は流していない。ただ単に、山の外からでも見て取れる、電波塔に関する話を誤魔化してもらっているだけだ。
なんと申しますか、元から電波塔自体、単なる木製の塔に見えるように、茶色のペイントを施してあったんだけど、王都からの電波を受信できるように設計したら、アホみたいに高い建造物になっちゃってね。
山のふもとどころか王都の近辺からでも、山の中にめっちゃ高い塔が建ってるのがうっすら見えるらしいんですよ。
単純に高さだけ比較すれば、王城にある物見用の尖塔より高いぞ、とアステールさんに指摘され、デュオさん達からも、斥候に怪しまれてるみたいだって聞かされたんで、追加で情報操作をお願いする事にした訳だ。
てな訳で、現在王都では、デュオさん達が流した噂に尾ひれ背びれが付きまくり、「兵士達の襲撃で住居を焼かれ、精神的なダメージを受けた村の住人達は、心の安寧を求めるあまり、精霊を奉る為の祈りの塔を建てたらしい」、とか、「村人達は毎朝、その塔の周囲に集まって平伏し、救いを求めて懸命に祈りを捧げているらしい」とかいう、なかなかイタい噂が流れているそうな。
うん……なんていうか、複雑。
電波塔の実態を隠す為には情報操作が必須だし、それを考えれば仕方ない事だけど、これじゃ私達、怪しい宗教に傾倒してるヤバい集団みたいだよね……。
私はついため息をつき、作業の手を止めた。
ついでに、椅子に座ったまま思い切り伸びをして、軽く肩を回す。
はぁ、結界石を作るってマジ大変。肩が凝る。
あ、そういや、王都から軍が出た、って情報が届いたら、即座に淀みなく動けるように、予め色んな事をシミュレートしとかないとダメかも知れない。
多分あっちも、山に張られた結界を破る為の対策をしてくるだろうし、ここは初めから、結界石の交換係を決めておいた方がいいかな? どうしよ。
うーん。判断付きづらいから、後でレフさんに相談してみよう。
それに、よく考えたらここから王都までの距離って、だいぶ近いんだよね。
1頭立ての荷馬車で王都を出てのんびり進んでも、ザルツ山に着くまでにかかる時間はほんの3~4時間程度。半日もかからない。
鍛えられた軍馬を使えば、その半分くらいの時間で山まで到達すると思われる。
ただ、アステールさんは、軍隊に編成された兵士の総数によっても多少速度は変わるはずだが、状況的に見て、あのクソ王は速攻勝負は仕掛けて来ないだろう、と言っていた。
素早く進軍させてあっという間に山を包囲し、即座に村を叩き潰すより、わざとゆっくり歩を進めて軍の威容を見せ付け、私達に絶望感を与えて心をへし折ろうと考えるのではないか、と。
成程。確かにそんな気がする。
いかにもあのクソ王が考えそうな事だ。
まあだからと言って、こっちにゃ奴の思い通りに振舞ってやる道理や理由なんてもん、欠片もないけど。
私は再び椅子に座ったまま伸びをする。
雪解けの時を目安に考えると、決戦の日までおおよそあと3か月って所だろうか。
今はただその日に備えて、油断せずに事を進めていくとしよう。
つか、できたらクソ王を直でぶん殴れる形に持っていきたいなぁ。この溜まりに溜まったストレスとフラストレーションを力に変えて、奴のスカしたツラにぶち込んでやりたい。
いやまあ、最も優先すべきなのは村の人達の身の安全だし、無理を通してでも殴りたい訳じゃないけどさ……。
ひとまずそれに関しても、ちょっとレフさんに相談してみようかな。
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