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第5章
8話 ザルツ村の危機・前編
しおりを挟むチートなスキル『強欲』さんのお陰で、大して長くもない旅路を越えた末、なんともあっさり土の精霊王レフコクリソスこと、レフさんとの契約に至った私だったが、どうやらまだ一息つく訳にはいかなさそうだ。
さっきからレフさんと私が、ザルツ村に残ったモーリンに契約の報告をすべく、念話で呼びかけているのだが、全然繋がらないのである。
つか、人間の私はともかく、精霊王であるレフさんでも、自分の眷属であるモーリンと念話の為の回路を構築できないってのは、普通に考えて有り得ない事なんだけど……。
「どうしようレフさん……もしかして、モーリンになんかあったんじゃ……」
『……。いや、あいつの……モーリンの気配は消えてないよ。無事なのは間違いない。ただ、あいつの周囲の魔素が酷く乱れてるね。そのせいで念話ができなくなってるんだろ。……って事は……』
『ああ。外部からの魔力干渉を妨げるほど魔素を乱す行動ってのは、そう多くはねえ。現状、可能性として一番が高けぇのは、魔力を使った攻撃……つまり攻撃魔法が、レフ王の眷属の近くで何発もぶっ放されてるって事だと思うぜ』
眉根を寄せながら顎をさするレフさんの言葉を、同じく眉根を寄せたクリスが継ぐ。
「じゃあまさか、僕達の村は今、王国の兵士に攻撃されてるって事……。……くそぉっ! まだあれから数日だって言うのに、もう兵を動かしたのかあいつら!」
「なんて事……。兵士の中に死者を出した訳でもないのに、ここまで素早く攻撃部隊を編成してくるなんて……。想定以上に動きが早いわ。デュオ達が早々後れを取るとは思わないけど……村の人達とトリアは大丈夫かしら……」
レフさんとクリスの言葉を聞いたリトスは珍しく声を荒らげ、アンさんも表情を曇らせる。
『まぁなんにしても、ここでグダグダやってる暇はなさそうだね。クリス、ちょいとばかり留守番を頼まれとくれ。村の近くに精霊の小路を繋いで、様子を見てくるから』
『お、おいレフ王、あんたが直にあっちまで行くのかよ! こういう時は普通、眷属の俺を行かせるもんなんじゃねえの!?』
『当然だろ。モーリンは序列で言えば、アタシに最も近しい眷属なんだからね。見捨てるような真似なんざしたくないし、もし万が一にもモーリンが消滅するような事になったら、あの山は完全に死んじまう。土の精霊王として、到底捨て置ける事じゃない。
それに、言っちゃ悪いが今のお前の力じゃ、まだまだ規模のデカい荒事にゃ対処できないよ。ここはアタシが出向くのが一番いいのさ』
レフさんが、あぐらを掻いていた花の中心から立ち上がり、パチン、と指を鳴らすと、途端にレフさんが座っていた花が消え、その近くに淡く輝く真円が出現した。精霊の小路だ。
『――さあ行くよ、プリム。リトスもアンもしっかり付いといで!』
「分かったわ!」
「うん! 行こう!」
「はいっ!」
私達は、早々に精霊の小路に入っていくレフさんを追いかけて、ためらいなく輝く真円を潜り抜ける。ほんの一瞬だけ視界が歪んで目が眩むが、よろめいたりたたらを踏むほどじゃない。
精霊の小路を抜け、辿り着いたその場所は、ザルツ村の近くではなくザルツ山のふもと。
ふもとから仰ぎ見るザルツ山の中腹――丁度村があるとおぼしき地点からは、幾筋もの煙が立ち昇っていた。
◆
「……っ!」
『ちょいと待ちな、あんた達。焦る気持ちは分からなくもないけど、まずは一旦落ち着くんだよ。――相手は曲がりなりにも王国の正規兵だろ? 無策のまんま、たった3人で正面切って突っ込んで、勝てる相手だと思ってるのかい?』
嫌な予想が的中し、言葉を発するよりなにより、村に向かって駆け出そうとした私達を、レフさんが止める。
……確かにそうだ。恐らく今村に来ているのは、王国の国境警備隊。村を本気で叩き潰す為、戦力を揃えて来たのだとするのなら、少なく見積もっても100人以上、が派兵されて来ているはず。
更に言うなら状況的に、敵の中には魔法使いも混ざっていると考えるのが妥当だろう。頭数と戦力を揃え、集団で襲ってきている相手に3人だけで立ち向かうなんて、無謀も甚だしい行動だ。
折角レフさんに力を貸してもらえる事になったのに、ここで下手を踏んでやられたりしたら何の意味もないよね。悔しいが、ここはレフさんの方が正しい。
呼びかけに応えて素直に足を止める私達に、レフさんが『うんよし。周りがちゃんと見えてるみたいで結構』とうなづいた。
『――まずは、アタシがこの辺の小石の精霊に干渉して、村の様子を見てみる。ここまで近くに寄れば、どんだけ魔素が乱れててもゴリ押しで何とかできるからね』
「……。うん、お願い」
レフさんは、煙たなびく山を正面に見据えると、琥珀の双眸を僅かに眇める。
『……ふぅむ……。村の中の建物や設備はあっちもこっちも壊されてるが、村人の姿は影も形もないねえ。村の中を歩き回ってるのは武装した兵士とだけさ。あとは……従軍魔法使いも数人いるか』
「兵士だけ? じゃあ村の人達は?」
「まさか……もう、みんなどこかに連れて行かれて……」
顔を青くしながら呟く私とリトスを、レフさんが『こら、早合点して慌てるんじゃないよ』と静かな声で注意し、なだめてくる。
はい、すいません。
そうだよね。ちょっと今、悪い方向に思考が飛躍してたよね。
『……どうやら、思った以上にモーリンが上手くやってるみたいだよ。……。うん、視えた。成程……村の奥……村長の家の裏手にある、備蓄小屋の付近に村人を集めて……そこで幻影魔法と結界術を組み合わせて展開して、村人達を守りながら匿ってるのか。
うんうん、視た限り怪我人なんかもいなさそうだし、今の所ちゃんと上手くやってるね』
「……! そうなんだ……。よかった……! ありがとうモーリン! 流石は森神様ね!」
『あはは、あの子は昔っから調子のいい子だったからねえ、今のあんたみたいに、村人達から褒めそやされて慕われてるのが、よっぽど嬉しいんだろうさ。鼻息荒くして張り切りまくってる姿が、こっからでもよぅく視えるよ。
……ああ、それから魔素が乱れてる理由も分かったよ。従軍魔法使い共が、消えた村人の行方を捜そうとして、あっちこっちで生体探知魔法を使ってるんだ』
「生体探知魔法……。確かそれって、魔力でできた不可視の網を自分の周囲へ放出する事で、生命体の有無を確認する魔法、だったよね」
『そうだよ。なかなか物知りじゃないか、リトス。その魔力でできた網を、複数の魔法使いが周囲に向けて、やたらめったらに投げまくってるんだから、念話も使えなくなるほど魔素が乱れるのも道理ってものさ。
ま、なんにしても、この分なら慌てて突っ込まなくても大丈夫そうだ。……数人がかりで探知魔法を展開されてるってのに、幻覚魔法も結界術も小揺るぎもしてない。それだけ、今のモーリンの力が強いって事だね。
――感慨深いもんだよ。最初に生み出した時には、吹けば飛んじまいそうなほど小さくて儚い子だったのに、いつの間にか、こんなにも力をつけてたんだねえ……』
レフさんが山を見つめながら嬉しそうに微笑む。
『――さて! 焦る必要がないと分かった以上、こっちも多少時間をかけて、しっかり対策を立てられるってモンだ! ……と言っても、人的被害が出ていない以上、あんた達も兵士は殺さない方向で行きたいよね?』
「うん。人殺しなんてしたくないっていう感情的な部分も大きいけど、なにより一度でも殺し合いをしたら、王国兵との諍いが本気で取り返しがつかない泥沼になっちゃうもの。それだけは絶対に避けなくちゃ」
『その通りだね。じゃあまずは、アタシの考えを聞いてくれるかい?』
レフさんは私の言葉に、笑いながらそう答えた。
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