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第5章
2話 新たな旅立ちと奇妙な出会い
しおりを挟むモーリンに促されるまま、眼前に出現した精霊の小路を通り抜け荷車ごと通り抜けると、そこはもうよく見知った村の入り口だった。
おお凄い。やっぱこれ、ど○でもドアだわ。
なんて、感心してる場合じゃないな。
よく見たら、村の入り口付近の地面がやたら荒れている。
多分この辺で兵士達が暴れたんだな。本当、モーリンの結界がなかったら、村の中を滅茶苦茶にされてただろうし、死傷者だって出ていたかも知れない。
そう思うと、なんとも言えない苦い気分になる。
まあなんにしても、兵士達の動向を考えるとあんまりのんびりしていられない。
ここはひとまずシエルとシエラに、帰郷の挨拶を事情の説明を兼ねてアステールさんの所へ行ってもらい、私とリトスは事実確認を兼ねてトーマスさんの所へ向かう事にしたが、それには及ばなかった。
恐らく、モーリンが予め私達を迎えに行く事を告げていたんだろう。トーマスさんは村の中に入ってしばらく進んだ所で、わざわざ私達を待ってくれていた。
「……ああ、よかった! 無事に戻ったんだね!」
「トーマスさん! 怪我とかしてない!?」
「ああ、森神様とアステール達のお陰で何ともないよ。あれからすぐ、森神様が山からあの連中を叩き出してくれたお陰で、村から離れて山に入っていた者達も大過なく済んだ。しかし……」
「うん。分かってる。王命ぶら下げて村に来た連中を叩き出した以上、いずれ村は連中から、何らかの報復を受けるでしょうね。
でもそれも、モーリンの言う土の精霊王に会って力を借りられれば、手を下される前に阻めるかも知れない。だから私、早速今からそこに向かおうと思うんだけど……」
「え、今からもう行くのかい? まだ村へ戻ったばかりだというのに……」
「そりゃ、私だって少しは家でゴロゴロしたいけど、今はそんな事言ってる場合じゃないし、仕方ないわ。それに、私の力を余すところなく使えば、正直旅支度のやり直しも要らないくらいだから。極端な話、手ぶらでも大丈夫なくらいよ」
「うん、それにプリムには僕がついて行くから」
心配そうな顔をするトーマスさんに私が胸を張って答えると、リトスも力強くうなづきながらそう言ってくれた。
確かに、幾ら私の前世が元ヤンで荒事に慣れてると言っても、それはあくまでも喧嘩レベルの話だ。純粋な戦闘では間違いなく後れを取る。
だから、リトスが付いて来てくれるのならとても頼もしい。
「ありがとうリトス、頼りにしてるわ。後は……シエラとシエル、あの2人には念の為、村に残ってもらおうかなって思ってる。
その、あんまりこういう事は言いたくないんだけど……最悪の場合、村ぐるみでの避難とか、そういう事も考えた方がいいだろうから。仮にそうなった時、少しでも人手があった方がいいでしょ?」
私が少しばかり言葉を濁しながら言った言葉に、トーマスさんが神妙な顔をした。
「……。そうだね。幾ら森神様のご加護があるといえ、一国の主を敵に回したも同然なのだから、そう言った事も視野に入れて覚悟しておかねばいけないね。……不甲斐ない村長ですまない」
「謝らないで、トーマスさん。きっと他の村の人達も文句は言わないよ」
うなだれるトーマスさんをリトスが慰める。
「村の長としても、色々と難しい決断だったよね。それは分かってる。でも結局きっと、村のみんなは兵士の言う事を聞かなかったんじゃないかな。
だって、みんな凄く仲間意識が強いからね。子供を差し出すのが一番楽で安全な方法だって分かってても、そんな理不尽な事には誰も納得しないよ。それになにより今村には、その理不尽から村を守る力と可能性を持った人がいる。そうだよね? プリム」
「……ええ! 南の端だろうがどこだろうが、私のスキルであっという間に辿り着いて、土の精霊王様にちょっぱやで会ってみせるわよ!」
私はトーマスさんの目の間で、自信満々に胸を張って見せた。
勿論、強がりでも何でもない。
精霊王様が力を貸してくれるかどうか、その辺の不安はあるけど、目的地に素早く辿り着ければ、説得の時間だって持てるもんね。
その為のプランなら、ちゃーんと頭の中にありますとも。
◆
その後、モーリンから土の精霊王様が住まう場所へ向かう為の地図と、入り口のカギとなる宝石『精霊の琥珀』を預かった私とリトスは、トーマスさんの勧めに従ってアンさんに同行を頼み、昼前には村を出た。
なんでも、こう見えてアンさんには戦いの心得があり、特に弓や投擲武器の扱いがとても得意なのだとか。
まさに、剣をメインに使うリトスの後方支援にはうってつけの能力で、聞くだに頼もしい事だけど、できたらアンさんの腕前を目の前で見るような事態にはならないで欲しいかな。
それとジェスさんも、引き続き荷車を使っていいと言ってくれたけど、それは敢えて遠慮させてもらった。私の予定しているプランでは、荷車があると邪魔になってしまうからだ。
地図を確認した所、村からずっとひたすら南下して行くと、土の精霊王様が住まう精霊が生まれる地、ユークエンデに辿り着ける。
ただし、その途中には、徒歩での踏破には10日以上、馬車を使っても5日はかかると言われる、それはそれは広大な荒野が広がっていて、相当入念に水や食料などを含めた備えをしておかないと、先へ進むどころか途中で干からびて死ぬ羽目になる、との事。
ま、それは私のスキル『強欲』さんの権能があれば、どうって事もなくクリアできる話だけどね。
しかしながら私のプランには、日の高いうちは実行できない、という欠点があるので、夜になるまでの間はひたすら歩くしかない。
てな訳で、3人並んで色々な話をしながらのんびりと道を行く事数時間。
夕暮れ時に近くなった所で簡易的な拠点を作り、夕飯を食べる為の小休止を挟む。
ちなみに夕飯は、私がスキルで出したコンソメスープに、ローストポークと野菜をたっぷり挟んだボリューミーサンドイッチです。
私は、まず最初にサンドイッチを出してから、近くにある雑木林へ足を向け、獣避けの火を焚く為の薪を頂戴しに行く事にした。
薪もその気になればスキルで出せるけど、まあなんて言いますか、こんな時だからこそ、多少精神的な余裕をもっておきたいというか……ちょびっとだけでもキャンプの気分を味わいたくてですね。
いや、決して遊んでる訳でもなければ、浮ついてる訳でもないですよ?
誰にともなく内心で言い訳を捏ねながら、リトスを伴って素早く雑木林を歩き回り、日が落ち切る前に2人で薪を抱えて戻ってみれば、なんだか拠点の様子がおかしいような?
つか、なんか地面に座ってるアンさんの隣に、人っぽいもの……いや、なんか子供が転がってるんですけど!?
「ちょっ……! アンさん、なにがあったんですか!?」
「あら、お帰りなさい2人共。心配しなくても大丈夫よ。ただ単に、荷物を盗もうとした悪い子がいたから、ちょっと気絶させただけよ」
慌てて駆け寄りながら問いかければ、のほほんとした声でそう返してくるアンさん。
リトスも困惑を隠せないようで、「ええええ……。こ、こんな所で、こんな子供が……?」と呻いている。
アンさんの傍らで白目を剥き、完全に意識を手放しているらしいその子は、見た感じ、多分10歳かそこらの男の子だと思われるが、何より私が気にかかったのは、その子が8年前に見た、難民キャンプの人達のような出で立ちをしている事だった。
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