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第4章
4話 メリーディエでのひと時
しおりを挟むエフィとコリンさんの口利きで宿に泊まった翌日。
私達は、宿にいた観光案内人の勧めに従って街を散策していた。
昨日から思ってたけど、やっぱりこの街、人の数が多いな。
多分その多くは観光客なんだろうけど。
観光案内人の話によれば、今メリーディエでは、チーズを始めとした乳製品が安価に手に入り、また、それらをふんだんに使ったお菓子も、格安で食べられるらしい。
他所の国のみならず、ここカスタニア王国の中においても、メリーディエ以上に質のいい乳製品を気軽に食べられる街は、どこにもないという。
てな訳で、早速近場の屋台でミニシュークリームとミニチーズケーキを購入してみた。
ミニシュークリームは、カスタードクリーム入りのものと生クリーム入りのものの2種類。多分、サイズ的に生クリームとカスタードクリームのダブルクリーム入りにはできなかったんだろう。
ええ、勿論両方買いましたよ。
言うまでもなく、滅茶苦茶美味でございます。
晩ご飯が入らなくなったら困るから、リトスと私とで買うもの変えて、半分ずつシェアしてるけど。
でも、生クリームとカスタードクリームは、乳製品特有の濃密さと軽やかさが絶妙なバランスで両取りされ、チーズケーキも、濃厚なチーズのねっとり感と甘さ、その後から追いかけてくる仄かで爽やかな酸味とのハーモニーを存分に楽しめる、珠玉の一品だった。
ハッキリ言って、屋台でチョイ売りされてていいようなレベルの品じゃない。
レストランで供されていてもおかしくない味だった。
しかも、だ。屋台で売られているものは、シュークリームやチーズケーキのみならず、他にも色々なものが一口サイズになって売られている。
生地の固さを適度に調整し、ピックで刺して口に運べるようにしてあったり、本来上からかけるソースなどを、予め丸く成型した生地の中に、直接注入するという工夫を施したものもあった。
実はこのメリーディエ、他所の街に先駆けて、食べ歩き文化を取り入れているそうなのだ。
当然ながら、お菓子類だけでなく軽食類なども、食べ歩き可能なように工夫されたものが多い。さっき通りかかった場所にも、チーズ入りのハッシュドポテトとか、ライスコロッケとかを一口サイズにして売ってる屋台があった。
私達も今現在、郷に入っては郷に従えの精神に基づき、みんなで歩きながら屋台で買ったシュークリームとチーズケーキをぱくついている。
周囲に視線を向ければ、私達と同じように、シュークリームなどをピックに刺して、食べながら歩いている人の姿がちらほら見えた。みんな楽しそうだ。
あー、ライスコロッケ美味しそうだったなあ。まだシュークリーム食べてる最中だけど、ちょこっと買ってキープしとけばよかったかも。
思わずそんな風に、食い意地の張った事を考えてしまうくらい、この街の屋台の食べ物はどれもみんな魅力的だ。
聞いた所によると、食べ歩きに関しては、やはり最初の頃は上流階級を中心とした年配の人などから、『行儀が悪い』、『はしたない』などという意見が多く出たらしいのだが、それでも、食べ歩き文化が立ち消える事はなかった。
元々国境に近く、様々な風習を持つ様々な国の商人達の中継点として、長らく機能し続けてきたというメリーディエの歴史的背景が、この新たな文化の受け入れに一役買ったのである。
それでなくても、商人ってのは忙しい人が多いみたいだから、歩きながら腹を満たし、栄養補給ができる食べ歩きは、とても都合がいい考え方だったのだろう。
そんなこんなで、今はレストラン級のハイレベルな品を、気軽に摘みながら食べ歩きできるという、この世界でも類を見ない贅沢さを味わうべく、国内外の各地から観光客が足を延ばしてくる、という事らしい。
つーか、さっきからシエルとシエラが、私とリトスの2人と微妙に距離取ってるような感じがするんだけど、気のせいだろうか。あとなんか、なにかこっそり話してるっぽい感じもするし。どうしたんだろ。
私が首を傾げつつ、ちら、と背後に視線を向けるその間にも、シエルとシエラはやっぱりなにか、こそこそ話をしているようだった。
◇
プリムローズとリトスの2人とやや距離を置いた後方にて、シエルとシエラは互いに肩を寄せ、ひそひそと話し合っていた。
(だーかーらぁ、なんで俺が気ぃ遣って、あいつらと距離取んなきゃなんねえんだよ……!)
(それは勿論、どっから見てももう、あんたに勝ち目はないからよ、シエル。潔く身を引いて、リトスを応援しなさい)
(なっ……! なんつー事言いやがんだシエラ! つか、なんでそんな事お前に分かるんだよ!)
(分かるわよ。むしろ、誰の目から見ても丸分かりでしょ? だってあんたときたら、もう18になるって言うのに未だに全然素直になれないで、プリムにガキ臭い事ばっかしてるじゃない。
一昨日の野宿中にだって、余計な事言ってプリムにデコピンされてたわよね。そんな男を誰が好きになるってのよ)
(ぐ……。そ、それ言ったらリトスの奴だって、全然態度が煮え切らねえじゃねえかよ!)
(あー、確かにそれは一理あるかもだけど、それでもレディファーストってものを心得てる分、あんたよりは可能性遥かに高いわよ。
ていうか……やっぱり料理ができるっていうのが、リトスにとって一番大きなアドバンテージよね。プリムも、自覚があるんだかないんだか分からないけど、今じゃすっかりリトスに餌付けされちゃって。
子供の頃から同居してる分、色んな意味で距離が近くて仲がいいし、リトスの気持ちに気付いたら、あっという間にオチるんじゃないかしら。プリム)
(…………。まだ、分かんねえよ。剣の腕は俺の方が上だし……。もう何年もずっと一緒に暮らしてるってのに、全然好きだって気づかれねえじゃねえか。あいつ)
(ったく、往生際悪いわねえ。剣の腕前や力の強さなんてものに、あの食いしん坊娘が惹かれる訳ないでしょうに。そんなに諦めつかないんなら、いっそあんたも今から料理覚えてみる?)
(はあ!? なんで俺がっ……! 出来っかよそんな事!)
(そうね。こっちから話振っておいてなんだけど、出来る訳ないわよね。だってあんた、スクランブルエッグもまともに作れないんだもの。今更料理の腕でリトスと張り合おうなんて、ちゃんちゃらおかしくて笑っちゃうわよね)
(うるせぇ! 放っとけ!)
(はいはい。ああそれから、一応今のうちに言っておくけど……決闘で勝った方がプリムに告白するとか、そういう前時代的で頭の悪い事だけは言い出さないでね。あんたと双子の姉弟やってる私まで、神経疑われちゃうもの。
プリムだって嫌な顔するに決まってるわ。まるで勝負事の景品扱いされてるみたいだもんね、そういうのって)
(…………)
(ちょっと、ねえ聞いてる?)
(……っせーな。……聞いてるよ……くそ)
(いい歳して拗ねてんじゃないわよ。……。ねえ。やっぱ、こんな風に露骨に距離取るのはよくなさそうね。さっきからプリムもリトスも、私達の事気にしてるみたい)
(当たり前だろ。こんな事されたら俺だって気になるっつーの。気が回るようで回んねえよな、お前。気遣いの方向性がズレてるって言うかよ。――とっとと戻んぞ)
(……分かってるわよ。ていうか、気の遣い方であんたに意見されるの、ムカつくんだけど)
シエルとシエラは、互いに違う意味で肩を竦め、歩く速度を速めてプリムローズとリトスの所へ近づいていく。
息をするような自然さと当たり前さで、それぞれ手にしたシュークリームとチーズケーキを食べさせ合っている、仲のいい幼馴染達の所へ。
正直シエラとしては、なぜあれで付き合っていないのか、不思議で仕方がなかった。
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