転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店

文字の大きさ
上 下
48 / 124
第4章

4話 メリーディエでのひと時

しおりを挟む


 エフィとコリンさんの口利きで宿に泊まった翌日。
 私達は、宿にいた観光案内人の勧めに従って街を散策していた。
 昨日から思ってたけど、やっぱりこの街、人の数が多いな。
 多分その多くは観光客なんだろうけど。

 観光案内人の話によれば、今メリーディエでは、チーズを始めとした乳製品が安価に手に入り、また、それらをふんだんに使ったお菓子も、格安で食べられるらしい。
 他所の国のみならず、ここカスタニア王国の中においても、メリーディエ以上に質のいい乳製品を気軽に食べられる街は、どこにもないという。

 てな訳で、早速近場の屋台でミニシュークリームとミニチーズケーキを購入してみた。
 ミニシュークリームは、カスタードクリーム入りのものと生クリーム入りのものの2種類。多分、サイズ的に生クリームとカスタードクリームのダブルクリーム入りにはできなかったんだろう。

 ええ、勿論両方買いましたよ。
 言うまでもなく、滅茶苦茶美味でございます。
 晩ご飯が入らなくなったら困るから、リトスと私とで買うもの変えて、半分ずつシェアしてるけど。

 でも、生クリームとカスタードクリームは、乳製品特有の濃密さと軽やかさが絶妙なバランスで両取りされ、チーズケーキも、濃厚なチーズのねっとり感と甘さ、その後から追いかけてくる仄かで爽やかな酸味とのハーモニーを存分に楽しめる、珠玉の一品だった。
 ハッキリ言って、屋台でチョイ売りされてていいようなレベルの品じゃない。
 レストランで供されていてもおかしくない味だった。

 しかも、だ。屋台で売られているものは、シュークリームやチーズケーキのみならず、他にも色々なものが一口サイズになって売られている。
 生地の固さを適度に調整し、ピックで刺して口に運べるようにしてあったり、本来上からかけるソースなどを、予め丸く成型した生地の中に、直接注入するという工夫を施したものもあった。

 実はこのメリーディエ、他所の街に先駆けて、食べ歩き文化を取り入れているそうなのだ。
 当然ながら、お菓子類だけでなく軽食類なども、食べ歩き可能なように工夫されたものが多い。さっき通りかかった場所にも、チーズ入りのハッシュドポテトとか、ライスコロッケとかを一口サイズにして売ってる屋台があった。

 私達も今現在、郷に入っては郷に従えの精神に基づき、みんなで歩きながら屋台で買ったシュークリームとチーズケーキをぱくついている。
 周囲に視線を向ければ、私達と同じように、シュークリームなどをピックに刺して、食べながら歩いている人の姿がちらほら見えた。みんな楽しそうだ。

 あー、ライスコロッケ美味しそうだったなあ。まだシュークリーム食べてる最中だけど、ちょこっと買ってキープしとけばよかったかも。
 思わずそんな風に、食い意地の張った事を考えてしまうくらい、この街の屋台の食べ物はどれもみんな魅力的だ。

 聞いた所によると、食べ歩きに関しては、やはり最初の頃は上流階級を中心とした年配の人などから、『行儀が悪い』、『はしたない』などという意見が多く出たらしいのだが、それでも、食べ歩き文化が立ち消える事はなかった。
 元々国境に近く、様々な風習を持つ様々な国の商人達の中継点として、長らく機能し続けてきたというメリーディエの歴史的背景が、この新たな文化の受け入れに一役買ったのである。

 それでなくても、商人ってのは忙しい人が多いみたいだから、歩きながら腹を満たし、栄養補給ができる食べ歩きは、とても都合がいい考え方だったのだろう。
 そんなこんなで、今はレストラン級のハイレベルな品を、気軽に摘みながら食べ歩きできるという、この世界でも類を見ない贅沢さを味わうべく、国内外の各地から観光客が足を延ばしてくる、という事らしい。

 つーか、さっきからシエルとシエラが、私とリトスの2人と微妙に距離取ってるような感じがするんだけど、気のせいだろうか。あとなんか、なにかこっそり話してるっぽい感じもするし。どうしたんだろ。
 私が首を傾げつつ、ちら、と背後に視線を向けるその間にも、シエルとシエラはやっぱりなにか、こそこそ話をしているようだった。



 プリムローズとリトスの2人とやや距離を置いた後方にて、シエルとシエラは互いに肩を寄せ、ひそひそと話し合っていた。

(だーかーらぁ、なんで俺が気ぃ遣って、あいつらと距離取んなきゃなんねえんだよ……!)

(それは勿論、どっから見てももう、あんたに勝ち目はないからよ、シエル。潔く身を引いて、リトスを応援しなさい)

(なっ……! なんつー事言いやがんだシエラ! つか、なんでそんな事お前に分かるんだよ!)

(分かるわよ。むしろ、誰の目から見ても丸分かりでしょ? だってあんたときたら、もう18になるって言うのに未だに全然素直になれないで、プリムにガキ臭い事ばっかしてるじゃない。
 一昨日の野宿中にだって、余計な事言ってプリムにデコピンされてたわよね。そんな男を誰が好きになるってのよ)

(ぐ……。そ、それ言ったらリトスの奴だって、全然態度が煮え切らねえじゃねえかよ!)

(あー、確かにそれは一理あるかもだけど、それでもレディファーストってものを心得てる分、あんたよりは可能性遥かに高いわよ。
 ていうか……やっぱり料理ができるっていうのが、リトスにとって一番大きなアドバンテージよね。プリムも、自覚があるんだかないんだか分からないけど、今じゃすっかりリトスに餌付けされちゃって。
 子供の頃から同居してる分、色んな意味で距離が近くて仲がいいし、リトスの気持ちに気付いたら、あっという間にオチるんじゃないかしら。プリム)

(…………。まだ、分かんねえよ。剣の腕は俺の方が上だし……。もう何年もずっと一緒に暮らしてるってのに、全然好きだって気づかれねえじゃねえか。あいつ)

(ったく、往生際悪いわねえ。剣の腕前や力の強さなんてものに、あの食いしん坊娘が惹かれる訳ないでしょうに。そんなに諦めつかないんなら、いっそあんたも今から料理覚えてみる?)

(はあ!? なんで俺がっ……! 出来っかよそんな事!)

(そうね。こっちから話振っておいてなんだけど、出来る訳ないわよね。だってあんた、スクランブルエッグもまともに作れないんだもの。今更料理の腕でリトスと張り合おうなんて、ちゃんちゃらおかしくて笑っちゃうわよね)

(うるせぇ! 放っとけ!)

(はいはい。ああそれから、一応今のうちに言っておくけど……決闘で勝った方がプリムに告白するとか、そういう前時代的で頭の悪い事だけは言い出さないでね。あんたと双子の姉弟やってる私まで、神経疑われちゃうもの。
 プリムだって嫌な顔するに決まってるわ。まるで勝負事の景品扱いされてるみたいだもんね、そういうのって)

(…………)

(ちょっと、ねえ聞いてる?)

(……っせーな。……聞いてるよ……くそ)

(いい歳して拗ねてんじゃないわよ。……。ねえ。やっぱ、こんな風に露骨に距離取るのはよくなさそうね。さっきからプリムもリトスも、私達の事気にしてるみたい)

(当たり前だろ。こんな事されたら俺だって気になるっつーの。気が回るようで回んねえよな、お前。気遣いの方向性がズレてるって言うかよ。――とっとと戻んぞ)

(……分かってるわよ。ていうか、気の遣い方であんたに意見されるの、ムカつくんだけど)

 シエルとシエラは、互いに違う意味で肩を竦め、歩く速度を速めてプリムローズとリトスの所へ近づいていく。
 息をするような自然さと当たり前さで、それぞれ手にしたシュークリームとチーズケーキを食べさせ合っている、仲のいい幼馴染達の所へ。
 正直シエラとしては、なぜあれで付き合っていないのか、不思議で仕方がなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係

つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

処理中です...