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第4章

2話 8年越しの再会へ・2

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 翌朝の早朝、私とリトス、シエルとシエラは、ジェスさんから借りた幌付き荷車に乗り込み、ザルツ村を出発した。
 目指すは北の隣国、カスタニア王国の街・メリーディエ。到着までの旅程は片道2日だ。
 まず1日目は、リトスとジャンケンして負けたシエルが御者台で荷車を動かし、日が沈む前に適当な所へ荷車を止めて野宿。
 2日目は、そのままリトスがメリーディエまで荷車を動かす事になっている。

 昔、前王が死んで間もない頃に(アレに『崩御』なんて言葉使いたくねえ)国境で行われていた、一部出国者への締め付けも今はなくなっているので、1人につき大銅貨6枚の出国通行税を支払い、一般出国証明書を受け取れば、普通に関所を通過してメリーディエへ行ける。
 これが大量の商品を持って移動する商人ともなると、1人銀貨1枚+物品移送税(荷の量が多いほど税額も増える)を支払って、行商出国証明書をもらう必要があるらしいけど。

 ちなみに、他国からレカニス王国へ入国する際に支払う入国通行税は、1年以内に発行された出国証明書を提示した者に限り、出国時の半額で入国できるのだそうな。
 国外に出る時は割高な税金払わされるが、他所から早期に戻って来る場合は半額になるって辺りが、微妙に上手いというか、いやらしい金額設定になってるなと個人的に思う。

 つか、こんな偏った税金の徴収法採用して、よく他所の国からイチャモン付けられずに済んでるよな。こういうやり方されると、必然的に自国での輸入品の売値が上がるから、普通はどこも嫌がるはずなんだけど。

 まあいい。今は目先の税金よりも、行き先の事を考える方が重要だ。
 しばらく前までメリーディエは、広大な森から採れる材木を活用した木工細工や林業の他、細々と酪農を続けて街を維持していたらしいが、今ではクリフさん夫妻とエフィーメラが盛り立てている、乳製品を中心に扱う商会の規模と販路拡大により、酪農業が大変盛んになっているそうだ。

 それすなわち――ミルクや、チーズなどを中心とした乳製品を使った料理が、大変バリエーション豊かで美味しいという事!

 フフフ。今からもう既に楽しみで仕方ない。
 お土産も沢山買って帰らねば。
 今日まで頑張って貯めたお金、こんな時じゃなければいつ使うってなモンですよ!
 いや勿論、妹の晴れ姿を見るのだって、物凄く楽しみだけどね。
 ホントだよ?

「なんだか嬉しそうだね? プリム」

「そりゃあもう!」

 幌付きに馬車の中、綿や使い道のない端切れなどを大量に詰めて作ったクッションに座り、笑って訊いてくるリトスに、私も笑って答える。

「妹に8年ぶりに会える上、会いに行く理由が結婚よ? 嬉しくならない方がどうかしてるでしょ? おまけに、美味しい名物料理を堪能できる、絶好の機会でもあるんだから!」

「あらそう? あんたの場合、食べ物の方が楽しみの比重大きいんじゃない?」

「違いますぅ! ちゃんと妹を祝福する気持ちの方が大きいですから! 勘違いしないでよねっ!」

 私は、同じくふかふかのクッションに座って、によによ笑いながら突っ込みを入れてくるシエラにそう反論した。そんな私に、シエラが軽い調子で「ハイハイ」と雑な返事をする。

 自分の膝の上に肘を置き、頬杖つきながらこっちを見つめて笑うシエラは、とても美人だ。どことなく気品があって、お姫様みたいに見える。
 仕草や言動はどこを取っても普通の平民の女の子だし、綺麗にまとめて結い上げられた金髪を飾ってるのは、貴金属性のティアラじゃなくて、木工細工のバレッタだけど、それでもシエラには、内側から滲み出る美しさみたいなものが確かにあって、それがシエラを一層綺麗に見せているように、私には思えるのだ。

 モーリンと一緒に山ん中を歩き回るたび、木に登ってアケビやら何やらを採って歩き食いしたり、その辺でいい感じの棒切れ見付けて拾っては、近所のガキンチョ共とチャンバラして遊んだりしてる、野生児丸出しな私とは大違いだ。
 全く、如何ともしがたい格差もあったもんだわ。

 それから――取って付けたみたいな言い方になるけど、シエルも滅茶苦茶イケメンになった。シエラがお姫様なら、シエルはさしずめ王子様といった所だろうか。
 でも、王子様っていうのは単純な見た目の話。雰囲気的には、騎士と評した方が近いかも知れない。相変わらず口悪いし、振る舞いもガキっぽい奴だけど。

 つーかさあ、シエルが事あるごとに私の食いしん坊属性を強調するもんだから、今じゃすっかり私は村で、食いしん坊巫女扱いされるようになっちゃったんだよね。

 なんか思い出したらイラッとしてきた。
 やっぱあいつの評価なんざ、村のガキ大将で十分だ。
 まあ、リトスと2人で張り合うように磨いた剣の腕は、今では相当なものらしいので、おまけで騎士だと思ってやってもいいけどさ。

「あれ? どうしたの、プリム。ぼんやりして。もしかしてお腹空いた?」

「ち・が・い・ま・す。リトスまで私を食いしん坊キャラ扱いするつもり?」

「そ、そんな事ないよ。僕はちゃんと、プリムが妹思いで面倒見のいい、優しいお姉ちゃんだって分かってるよ。でも、それはそれとして、ちょっと僕が作ったクッキーの味見はして欲しいかな」

「え? クッキー? いつの間にそんなの作ったの?」

「昨日の夕飯の後、プリムが荷造りしに部屋に戻ってから。……実は、君の妹の結婚祝いに、何か贈ろうと思って色々と考えたんだけど、あんまりいいものが思い浮かばなかったんだ。
 そもそも僕は男だし、花嫁に贈り物をするなら消え物じゃないと、花婿の手前カドが立つかな、と思って、それで迷った末に、クッキー焼いてみたんだよ。焼き菓子なら一緒に仲良く分けて食べられるし、丁度いいよね」

 リトスはニコニコ笑いながら言う。
 おっと。ついに普通の料理だけじゃなく、お菓子まで作るようになったのか。
 まあそれも、元はと言えば私がメシマズ女で全然料理ができなくて、スキルで食べ物出すしか能がなかったせいなんだが、必要に駆られてやってるうちに、すっかり料理好きになったらしい。

 顔よし、スタイルよし、性格よし。その上剣の腕も立ち、更には料理もできちゃうなんて、いよいよスパダリ要素が揃ってきたな、リトス君よ。
 元からモテモテだったのに、もっとモテモテになっちゃうな。こりゃ。

「そうね。私もそれ、いい考えだと思う。エフィの為に色々考えてくれてありがとう、リトス」

「どういたしまして。じゃあそういう訳だから、早速味見よろしく。これなんだけど」

 リトスが巾着タイプの袋の口を開け、取り出したのは丸い形のクッキー。
 笑顔で差し出されたそれを掌でもらい受け、一口齧れば、途端にかぐわしいバターの風味が口いっぱいに広がった。絶妙な甘さと口の中の水分を奪わないしっとり感を持ちながら、それでいてサクサクとした軽やかな歯触りも楽しめる。
 最の高ですリトスさん!

「美味しい! すっごく美味しいわ! こんな美味しいクッキーがお店で売ってたら、並んででも買っちゃう!」

「そ、そう? ありがとうプリム。……それ、贈り物用に、いい材料使って作ったから……」

「またまた。謙遜しちゃって。いい材料使ってても、それを生かす腕がなくちゃ、こんな美味しいものできないわよ。あーでも、食べててあと引くわ、これ! 今度材料出すから、沢山作って欲しいなぁ……!」

「……っ、う、うん、い、いいよ! き、君が、美味しいって言ってくれるなら、いつだって、どれだけだって作るよ!」

「ホント? ありがとうリトス! 楽しみにしてるわね!」

 私のリクエストに、リトスは赤くなった顔で何度もこくこくうなづいた。
 昔から褒められるとすぐ赤くなるんだよね。リトスは。
 いつまで経っても褒められるのに慣れないって言うか、なんて言うか。
 要するに、根本的に照れ屋なんだろう。

 でも、そういう所も可愛くて好感度高いよな。
 ほら、シエラも微笑ましそうな目で君を見てるぞ? このワンコ系男子め。
 全く参るね。どこまでモテ要素満載なんだ、この子は。
 御者台で話を聞いてたのか、こっちに向かって「そんな菓子ばっか食ってたら太るぞ~」とか言ってくる、デリカシーに欠けたガキ大将とは大違いだ。

 お前あとで後頭部どついてやるからな。シエル。

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