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第3章
11話 転生令嬢と姉妹の未来
しおりを挟むエフィーメラが、クリフさん達と共に村のふもとを離れてから、ひと月ほどが経過したあくる日。エフィーメラから手紙が送られてきた。
元々、あの毒親共がまともに勉強をさせてなかった事もあってか、エフィーメラの字は8歳児が書いたものよりずっとたどたどしい。まるで、幼稚園児が見よう見まねで書いたみたいな字だ。
当然文章も拙かったが、自分の近況を一生懸命に綴ったその手紙は、私の胸をホッコリさせてくれた。
手紙によれば、あれからクリフさん達は作戦通り、関所の兵士を誤魔化してタダでカスタニア王国へ入国し、心療医師がいるという国境近くの街・メリーディエに到着。
数日待つ事にはなったものの、無事、心療医師の診察を受ける事ができたそうだ。
ちなみに、今エフィーメラを診てくれているお医者さんの名前はマルク先生と言い、優しい顔と声をしたおじさんらしい。
病院には他にも色々な人達が通院しているようで、エフィーメラはその患者さん達と一緒に、お絵かきしたり歌を歌ったり、時々勉強を教わったりして、毎日楽しく過ごしている、と書いてあった。
どうやら、マルク先生のカウンセリングを受ける事によって、心理状態もだいぶ落ち着いてきているようだ。本当に何よりだと思う。
それから――「この間、お母様とお父様と一緒に、お花畑で花冠を作る夢を見て嬉しかったけど、目が覚めてから寂しくなって、少しだけ泣いた」、という事と、「もしまたお母様達と会えたら、夢と同じように一緒に花冠を作ってくれるかな」、と言ったような事も書いてあった。
やっぱりまだ、両親の事が恋しいようだ。
でもまあ、そうだろうな。
傍から見ればあいつらは、親失格のダメダメモンスターペアレントだったが、エフィーメラにとっては、自分に惜しみなく愛情を注いでくれる優しい両親だった。恋しくならない方がどうかしてるんだろう。
残念ながら、私にとってあの両親は毒親以外の何物でもなく、奴らについてまともに語れる事や、語りたいと思う事なんてのは微塵もない。
なんせ、こっちは奴らのまともな思い出なんてゼロに等しいんでね。当然の帰結だと思って頂きたい。
だが、ひとまず手紙の返事には、「あの人達はあんたをとても可愛がっていたから、きっとあんたがお願いすれば、何度でも喜んで一緒に花冠を作ってくれると思う」と書いておいた。
あの両親がかつて取っていた言動を、私がそっくりそのまま肯定する日は決して来ない。
しかしその事を、未だ心を病んでる8つの妹に、バカ正直にそっくりそのまま伝える愚を犯すほど、私も頭の悪い人間じゃないし、無神経でもないつもりだ。
そうして手紙の返事を出してからひと月後、またエフィーメラから手紙がきた。
二度目の手紙は、最初の手紙より明らかに字がしっかりしていて、思わず嬉しくなって頬が緩んだのはここだけの秘密。
エフィーメラは、少しずつながらも着実に心に負った傷を癒し、様々な事を吸収して学び取り、元気で物怖じのない性格を取り戻しつつあるようだ。
あと手紙の中に、最近お友達ができた、私もお姉様みたいにお友達を大切にしようと思う、とかいう一文が書かれているのを見た時には、ちょっと涙ぐんでしまった。
これもまた、ここだけの秘密だ。
枚数が増えた手紙には、自分の近況だけでなく、クリフさん達の事に関する話も色々と書いてあった。
なんとクリフさんはアニタさんと結婚し、手に職をつけて難民キャンプのメンバーから抜けた人を除いた、残りの面子で力を合わせ、小さな商会を立ち上げたらしい。
今は何件かの酪農家と契約を結び、ミルクや乳製品の管理保管と、配達業務を請け負っているそうな。
配達を依頼してくれる家も少しずつ増えている、と書いてあったので、今の所商会の業務は順調だと見ていいだろう。
そしてエフィーメラは、そんな2人の養女になった。
エフィーメラは今、将来的に商会の仕事を手伝い、そして一層商会を盛り立てるべく、更に勉強を頑張っているそうだ。
手紙の最後に、「私はよそのお家の子になったけれど、まだお姉様の事をお姉様だと思っててもいい?」…なんて事が書いてあったので、返事の手紙に、「勿論よ。これからもあんたのお姉ちゃんでいさせてね」と書いた。
ちょっと照れ臭かったので、この手紙はリトスにも見せずに出した。
それ以降も、ひと月ごとの手紙のやり取りは途切れる事なく続いていく。
手紙のやり取りを始めてから数年も経つ頃には、綴られる文字からはたどたどしさが消え、文章もすっかり読みやすくなった。
クリフさん夫妻が、仲間達と力を合わせて立ち上げた商会も見事軌道に乗り、今では酪農品の集荷と配達のみならず、自ら酪農業に参入し、質のいい乳製品を作って売る事で、更にその規模を大きくしているらしい。
エフィーメラも牛の世話などを手伝い始め、その傍ら、チーズ作りも学び始めているそうだ。
軌道に乗った商会の評判は極めて良好。
メリーディエの領主の覚えもよく、もしかしたら領主家の御用達になれるかも知れない、と手紙に書かれているのを見た時には、ついつい嬉しさあのあまり、リトスだけでなくシエルやシエラ、トリアとゼクスにも自慢話をした。
勢い余って、村で通りすがる知り合いに片っ端からその話をした時には、村の人達だけでなくモーリンにまで、なんとも言えない生温い目で見られてしまい、恥ずかしい思いをしたけど。
うん。今思い返してもあれは恥ずかしい。
幾らなんでも舞い上がり過ぎだった。
だってまだ手紙をもらった時点では、領主の御用達になれる『かも知れない』という段階であって、ホントに御用達になった訳じゃなかったんだもんね。
しばらくしてからその事にようやく気付き、縮こまって顔を赤くしてる所に、リトスがやたら優しい眼差しを向けてくるもんだから、余計恥ずかしくなって、私はますます縮こまって赤くなったのだった。
ともあれ、エフィーメラの方にも私の方にも、特に大きな事件や問題が起きる事もないまま、平和につつがなく手紙のやり取りは続き――
ふと気付けば、8年の歳月が流れていた。
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