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第3章

2話 転生令嬢、盗っ人を成敗する

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 猟師会の訓練場は、村の入り口にある脇道から入ってしばらく進んだ先……村のギリギリ外にあるので、アステールさんが言っていた村の広場に行くまでは、それなりに歩く。
 私は今10歳の子供なので尚更時間がかかるから、変に急いで走らずのんびり向かう事にした。

 もしお弁当の件に気付いたシエラが、広場から訓練場に向かおうとしても大丈夫。
 なぜなら村の中を走っている道の中で、今私が歩いてる道が一番大きくて、そして訓練場に行くにも一番分かりやすくて近い道だから。

 となれば当然シエラも、わざわざ遠回りになる細い脇道に入ったりせず、この道を通るはず。
 つまり、行き違いになる可能性は極めて低いって寸法だ。
 焦らずのんびり行きましょうってね。

「プリム……! おいプリム……!」

「へっ?」

 そうして呑気に歩いていると、いきなり道の脇にある茂みから、どこか緊迫感のある、押し殺したような声に呼び止められる。
 驚いて声の聞こえた方に目をやれば、なんでか知らないが、ゼクスとトリア、そしてシエラまでもが、茂みの影に隠れる格好でしゃがみ込んでいるのが見えた。
 どうやら、今声をかけてきたのはゼクスのようだ。

「ちょっとみんな、そんな所に隠れて何やってるのよ」

「しょうがないだろ。今ちょっと、キンキュージタイなんだよ……!」

(え、緊急事態? どういう事?)

 ゼクスがこの平和な村に似つかわしくない事を言い出したので、私が意図して声をひそめると、トリア達も同じように声をひそめて話し始めた。

(あ、あのね……。私達、広場から見ちゃったの。見た事ない変な人達が、マリーンおばあちゃんの家に入ってくのを)

(あれは絶対、よそ者よ。3人くらいいたわ。おまけにそのうちの1人、剣を持ってるみたいなの)

「はあ!? マリーンさん家に、剣持ったよそ者っ!?」

(しっ! 大きな声出すなよ! ばあちゃん家、すぐそこなんだから!)

(ご、ごめん)

 強張った顔をしたトリアに引き続き、シエラが更に恐ろしい事実を告げてくるものだから、つい大きな声を出してしまい、ゼクスに怒られる私。

 マリーンさんは、色んな保存食を周りの人と物々交換したり、畑仕事で作った作物や編み籠などを、デュオさんの雑貨屋に卸したりして生計を立ててる人だ。
 聞いた話によると、彼女の娘夫婦は10年以上前に村を出ていて、連れ合いのおじいさんにも数年前に先立たれ、身寄りがなくなって以降、ずっと独り暮らしをしているらしい。
 その関係から私とリトスもトーマスさんに、できるだけ目配りして気にかけてやって欲しいと頼まれていた。

 ていうか、確かモーリンと巫女になる契約を結んだ時、『私達やザルツ村に悪意や敵意がある人間を遠ざける結界』を張ってもらうって約束したはずなんだけど、それどうなってんの? 後で確認せねば。

(ええと……じゃあ、あんた達が今ここにいるのって……)

(決まってるだろ。偵察と監視に来たんだよ)

(そう。偵察と監視なの)

(はい!? 何やってんのよ! そんな事してないで、大人の男の人を呼びに行きなさい!)

(そんな事言ったって、今日村の大人はほとんど訓練場に行ってていないんだから、仕方ないだろ! それに、今この近くの家に残ってんのは、足の悪い年寄りばっかなんだぞ!)

 とんでもない事を言うゼクスとシエラを叱ると、ゼクスが口を尖らせて反論してくる。

(マリーンばあちゃんは足が丈夫だから、訓練場に行ってて家にいなくて助かったけどさ、もしあいつらが他の家にまで入ってったりしたら、他のじいちゃんばあちゃんがヤバいだろ! 俺達が何とかしなくちゃ!)

 成程……。こりゃ確かに、だいぶ危険な状況になってるみたいだ。
 その複数のよそ者とやらは、恐らくマリーンさんが留守にしてると知って空き巣に入ったんだろうけど、ぶっちゃけこの村の人達――特に年配の人達は、今でも物々交換で暮らしてる部分が大きくて、あんまりお金を使わないんだよね。

 マリーンさん家に限らず、そんなお年寄りの家にまとまったお金なんてある訳がない。貯め込んでるとしても、精々保存食くらいのものだろう。
 そんなモン、たかだか1件の家の中から根こそぎ持ち出して売り払った所で、大した稼ぎにゃならないはず。
 となれば当然、よそ者達が更なる金品を求めて他の家へ向かい、押し込み強盗を働く可能性がないとは言えない……っていうか、そうなる可能性の方が高い。

 ついでに言うなら、武器を持った押し込みに入られて、怪我だけで済むなんて事はとても稀。大抵は、命も一緒に持って行かれる羽目になる。それがこの世界の現実だ。
 そして、ゼクス達は幼い身ながら既に、そういう理不尽でクソみたいな現実に気付いている。だからこそ、危険を承知の上で村の仲間を守る為、率先して身体を張ろうとしてるのだろう。
 でもなあ……。

(……。あんた達の気持ちも言いたい事もよく分かるけど、幾らなんでも無茶よ。ここは私が連中を監視してるから、その間にあんた達は猟師会の訓練場に行って。武器の使える大人を、アステールさん達を呼んで来るのよ)

(えっ!? だ、だけど、お前1人残してくなんて……!)

(私は平気よ。なんてったって私、森神様の巫女なんだから。もし、よその家に入ろうとしたら私が何とかするわ。よそ様の物を盗もうとするバカな連中なんて、森神様パワーでけちょんけちょんにしてやるわよ)

(……。分かった。でも、無茶はするなよ。お前になんかあったら、みんな悲しむんだからな!)

(分かってるって。私だって死にたくないもん。――さ、行って!)

(――うん! 行こう、ゼクス、トリア! プリム、待っててね!)

 シエラのその言葉を最後に、ゼクス達は訓練場に続く道を駆け出した。
 さぁて。こっからは、元ヤン女の気合と度胸と根性の見せ所だ。

 と言っても、今のこのちまこい身体で、武器を持った盗っ人相手にわざわざ近接仕掛けるほど、私も脳筋じゃない。ここは手持ちのドチートスキル、『強欲』さんを全力で活用するとしよう。
 てな訳で、専門用語でマジチャカと呼ばれる武器、拳銃を出して使います。

 まずは、銃に関する基本的な知識を下さい、と念じると……お、来た来た! ……ふむふむ。ほーん。成程。銃ってこういう構造してるんだ。
 よし、これで銃出せるわ。ついでに正しい撃ち方も理解しました。

 でも殺すのは嫌だから、ここはゴムスタン弾を使用する。
 ゴムスタン弾は、読んで字の如く弾頭がゴムでできた弾の事。
 1発ぶち込むだけで、ゴリマッチョに全力で殴り倒されるくらいのダメージを与えられる優れものだ。よっぽど当たり所が悪くない限り、死ぬ事はまずない。
 ぶっちゃけ、力加減の分からない素人が下手に木剣かなんかで殴り付けるより、まだ安全な攻撃だと言えよう。

 それと、私は元から身体能力的にもチート気味なので、口径の大きい銃を出して攻撃力アップを狙う事にした。1人につき1発の弾で仕留めるのが理想だ。
 ……。うーん。出したはいいけど、これちょっと口径デカ過ぎたかな。撃つ時ちゃんと踏ん張らないと、身体が後ろに吹っ飛んじゃうかも。気を付けよう。

 思いの外、ずっしりとした重みを伝えてくる銃を両手で掴み、銃口を下に向ける形に構えて素早く木の陰に身を隠せば、気分は某映画に出てくるスパイの気分。遊びじゃないって分かってても、ちょっと気分がアガる。
 色んな意味でドキドキしながらマリーンさんの家を監視していると、やおら家のドアが開いて中から人が出てきた。

 ……ふーん、あれが盗っ人共か。確かに真ん中の男、ロングソードみたいなの片手にぶら下げてるな。
 ひとまず識別の為、ロングソードを持ってる奴を盗っ人A、茶色の麻袋持ってる奴を盗っ人B、生成り色の麻袋持ってる奴を盗っ人C、と仮称しておく。

 でもなんか、どいつもこいつも気が弱そうだ。
 背中を丸め、絶えず周りの様子をキョロキョロ伺ってるその様は、押し込みやらかす凶悪な盗っ人、という風にはどうにも見えない。
 でも、盗るモンはしっかり盗ってるみたいだし、情けをかける余地はないな。

 私は何度か静かに深呼吸したのち、木陰に屈み込んで脇を締め、身体が吹っ飛ばないよう重心を前にかけながら銃を構えて、ためらいなく引き金を引いた。
 当然、最初に狙うのはロングソードを持ってる盗っ人Aだ。

 引き金を引いた直後、耳をつんざくような爆音が轟き、腕を含めた全身に強い衝撃が加わる。なかなかキツいが、耐えられないほどの衝撃じゃない。チートなボディ万歳。
 一方、撃ち放たれたゴム製の弾丸は、狙いを定めた盗っ人Aの頭にキッチリ命中したようで、盗っ人Aが声を上げる間もなくその場に倒れた。よし!

 仲間が倒れた事と、盛大な発砲音にビビッた残りの盗っ人BとCは、悲鳴を上げて荷を投げ出し、その場から逃げ出そうとするが、そうはイカのなんとやら。
 Aを撃ったのと同じ要領で、逃げ去る背中へ向けて1発、2発と続けて発砲すれば、あっという間に片が付いた。
 よっしゃ! 制圧完了!

 後は、使った銃を消せばミッションコンプリートだ。
 こっちの世界に、こんな凶悪な武器を広めるつもりは毛頭ないので、人に見られる前にスキルを使って消して、証拠隠滅を図る必要がある。

 ――はっ! そうだ、しまった!
 銃だけじゃなくて薬莢も、人に見られたらアカンやつだった!
 やっべ、銃声を聞き付けて人が集まってくる前に、薬莢を始末しなければ!
 急げ急げ! 薬莢見られた時点でアウトだ! 上手い言い訳が思い付かない!

 私は大慌てでその場に這いつくばり、下生えを掻き分けながら、3発分の薬莢を必死こいて探し始める。
 幸い、人が来る前になんとか全部の薬莢を見付けて始末できたけど、その代わり、着てる服が泥と土と雑草の汁で汚れまくって、とんでもない事になってしまった。
 うう、ばっちい……。もう銃を使うの、やめよう……。

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