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第2章

7話 転生令嬢と神のスキル

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『……ふう。なかなかに美味であった。褒めて遣わすぞ』
「……ソレハドウモ。アリガトウゴザイマス」
 満足気に、ふう、と息を吐き、右前足をちっちゃい舌でペロペロ毛づくろいしている、小さくで白い、だけど、すんげぇ態度のデカいおキツネ様に、投げやりな棒読み台詞で答える私。
 なんか、見てくれの可愛さが逆にムカつくんですけど。あのちまこい頭を両手で引っ掴んで、力任せにわしゃわしゃしてやりたくなる。
 これってキュートアグレッション?

 つーか結局、私が追加で出したカップケーキ3つは、全てこのおキツネ様に食べられてしまった。
 私だってホントは出したくなかったよ?
 でも、相手は曲がりなりにも精霊だ。人知を越えた存在に対して下手に逆らって、攻撃なんてされたら堪ったモンじゃないし、出せるもんは大人しく出しておいた方がいいよな、と判断したのだ。傍にトリアとゼクスもいるしさ。

『しかしまあ、まさかこのような山の中に、お主のような希少なスキルを持った娘がいようとはな。奇妙な縁もあるものじゃ』

「ちょっ……!」

 待て待て! 私のスキルの事を口に出して言うな!

「「神のスキル??」」

 焦ってあわあわしている私にもお構いなしで、しれっとした涼しい顔をしているおキツネ様に、トリアとゼクスがきょとんとしながら声を揃える。
 ああああ、なんつー事してくれてんだ!

『そう慌てるでないわ。お主は神のスキルを1人で2つも有しておるという、極めて稀有な存在。言わば選ばれし者なのじゃぞ?
 もっとその事実に相応しい、デンと構えた態度でおれ。情けない姿を晒すでないわ。プリムローズとかいう立派な名が泣くぞ』

「えっ!? なんで私の本名分かるの!? ってか、選ばれし者? どこが? だって私のスキルって、どっちも大罪系なのに……」

『ふん、分からいでか。妾は精霊じゃぞ。人の子の持つスキルや真なる名を看破するなど、朝飯前なのじゃ。それより聞き捨てならぬのは、お主がそのようないい加減な伝聞を信じて、鵜呑みにしておる事じゃ。なんと嘆かわしい』

 戸惑うのを通り越して軽く混乱する私に、おキツネ様がさも呆れたような声と口調で言う。

『よいか娘、耳をかっぽじってよ~く聞くのじゃ。この世には神が直接作りたもうた、超強力な権能を持つ『神のスキル』と呼ばれるものが14ある。
 だが、それら14のスキルは他の有象無象のスキルとは違い、決して複数人には共有されぬ。神のスキルを手にできる者は、同じ世界の同じ時間軸には、2人と存在せぬのじゃ。
 言わば、幸運の女神に見初められたただ1人だけが手にできる、究極の力であると言っても過言ではないじゃろうな』

「ただ1人だけが、持てるスキル……。じゃ、じゃあ、今現在、『暴食』と『強欲』を持ってるのは、この世で私だけって事?」

『うむ。その通りじゃ。もっとも……お主のように世界にたった14しかないスキルを、1人で2つも持っておる人間というのは妾も初めて見た。極めて珍しい事象だと言うてもよかろうて。
 とにかく、それほどまでに凄まじい権能を持つスキルを、愚かにもどこぞの人の子達は、やれ大罪系だの美徳系だのと無意味な区分を設け、過度に持ち上げたり悪しざまに罵ったりしておるようじゃが、なんともバカバカしい事よ。
 そこな童共も、神のスキルの所有者であるこの娘の友となれた幸運を、精々末代まで誇るがいいのじゃ』

「……え、ええと……。よく分かんないけど、プリムにはとっても凄い力があるって事なの? 森神様」

『そういう事じゃ』

 盛大に戸惑ったまま、おずおず口を開いて問いかけてくるトリアに、おキツネ様が尊大な態度でうなづく。

『ついてはその娘……プリムを妾の契約者として正式に選び、精霊の巫女と名乗る事を許してくれよう! 光栄に思うがよいぞ!』

「はあ!?」

「「おお~~っ!」」

 かと思えば、いきなり突拍子もない事を言い出すおキツネ様に、私は素っ頓狂な声を上げ、トリアとゼクスは目を輝かせて歓声を上げた。

「ちょ、ちょ、なんで!? どうしていきなりそんな話に!?」

『それは勿論、相互利益の為じゃ! お主と契約すれば、妾はいつでも美味な物を好きなだけ食せるからのう! ぶっちゃけ、芋や小麦はもう飽きたのじゃ!』

「うおおい! 食べ物目当てで人と契約すんのかっ! ていうか、村の人が厚意で出してる捧げ物でしょうが! 飽きたとか言うな!」

『ええい、うるさいのじゃ! 厚意なのは分かっとるわ! じゃが、飽きたものは飽きたのじゃ! 仕方なかろう! 妾だって美味い物があるなら美味い物を食したいのじゃ! そんなモン至極当然の欲求であろうが!』

 居直りやがった!

『それに今妾は、『相互利益の為』と言うたであろう! 人の話は最後まで聞くのじゃ! よいか、お主も妾と契約すれば、いい事があるぞ!
 妾は緑と大地を司る精霊ゆえ、魔力を使って大地に干渉すればザルツ山の中のみならず、遠く離れた場所の出来事をこの場にいながら知る事ができるのじゃ! やりようによっては、忌み人を遠ざける事もできるしの! どうじゃ、お得であろう!』

「う、うーーん……。別に遠くの場所の事を知りたい欲求は、今んとこないけど……。でも、忌み人を遠ざけられるってのは、ちょっといいかも……」

 私は少しばかり考え込む。
 うん、やっぱ忌み人避けってのはマジでいいかも。もう二度と、まかり間違っても、王族連中とうちの公爵家の奴らにゃ、絶対会いたくないし。
 まあ、あのお高く留まった連中が、わざわざこんな国境近くの山になんて来る訳ないとは思うが、念には念を入れておいてもいい気がする。

「……。じゃ、じゃあ……私やリトス、それから、ザルツ村の人達に、悪意や敵意がある人達を遠ざける事とか、できる?」

『ふっ。それこそお安い御用なのじゃ! 特定の物や場所、人物に対し、負の感情を向ける者を阻む結界を張れば、それで事足りるからのう! ただし、週イチで妾に貢ぎ物を用意するのじゃぞ! それが結界を張る対価じゃ!』

「分かった。基本的に、私が美味しいって思った物を出すけど、それでいい?」

『うむ。よかろう。ただしその都度、食事系のものを食したいのか、甘い菓子類を食したいのかのリクエストはするからの。
 ――話もまとまった事じゃし、早速巫女として最初の務めを果たしてもらおうか。妾に名を与えよ。その名が妾とお主の魂を繋ぐ糸となり、絆となる。……初めに言っておくが、ポチだのコロだの、そういうペットじみた名を口に出すでないぞ』

「うぐっ。……わ、分かってるわよ。ってか、変な所に気が回るわね……。
 んー、うーーん……。そうだなぁ……。森神様だから……。……森……モーリン……。よし閃いた! モーリンにしよう! ハイ決まり! 異論は認めない! よろしくねモーリン!」

『うむぅ……。なんとも安直なネーミングじゃが……まあよかろう。飼い犬のような名前よりはマシじゃ』

 私が早口に言い切ると、おキツネ様改めモーリンが微妙に嫌そうな顔をした。
 流石精霊、キツネの顔なのに表情が豊かでいらっしゃる。

『では、改めて名乗りを上げよう。妾の名はモーリン。我が巫女プリムローズよ、その身命が尽きる時まで、よく妾に仕えるのじゃぞ』

「はーーい。よろしくおねしゃーっす」

『契約早々かったるさ丸出しの返事をするでないわっ! ……全く、近いうちにこのザルツ山をも巻き込んだ、国ぐるみの波乱が起こるやも知れんというのに……』

「……は? なにそれ?」

『しかと探りを入れた訳ではないゆえ、妾も詳細は分からぬが……微小な土くれの精霊達が、怯えてざわめいているのが聞こえるのじゃ。ここより遠き地にて、大地の穢れが進んでおる、とな。それもどうやら、かなりの広範囲に及んでいるようじゃ』

「大地の穢れ? それってどこの事?」

『まだ、はっきりとは分からぬ。じゃが恐らくは、ここより南に下った先。お主ら人の子が言うレカニス王国の、王都と呼ばれる土地の近辺であろうな。
 大地の穢れが進む場所では、その地に住まう者共の心身もまた、同じく穢れて荒むもの。場合によっては酷い人死にも出よう。――我が巫女よ、これより先は何が起こるか分からぬゆえ、警戒を厳にするよう村の長に伝えるのじゃ。よいな』

 先程までとは打って変わって、とても真剣で重みのあるモーリンの言葉に、私もまた真剣な面持ちで、「はい」と短く答えてうなづく。
 トリアとゼクスは、話が難し過ぎてついて来れないのか、さっきから身を寄せ合って黙り込んだままだ。

 とにかく、今は一刻も早くトーマスさん家に行って、モーリンが言ってる事を伝えなきゃならないが――
 こっから村まで、どうやって戻ればいいんですかね?




追加紹介・モーリン
 ザルツ村近くの祠に住む緑と大地を司る精霊で、自称・ザルツ山の守護神。
 普段の見た目は子猫サイズの白いキツネ。尊大だがどこか憎めない性格。
 追記事項:プリムと同じ食いしん坊。

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