転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店

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第2章

閑話 少年達のライバル宣言

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 プリムローズとザルツ村の雑貨屋、デュオとの商談が成立してから2日後。
 今日プリムローズとリトスは、すっかり友達になったシエル、シエラと共に、村から離れた場所にある小さな湖に来ていた。シエルに、「やり方教えてやるから釣りしようぜ」と誘われたのだ。
 ちなみにこの湖は位置的に、この間プリムローズがジェスを見付けた山道の反対側、山のふもとに近い場所にある。

 シエルが言うには、今日はもうしばらく後にデュオの娘のトリアと、衣料品店の息子の、ゼクスが合流する予定になっているらしい。
 プリムローズは2人と会えるのを楽しみにしているようだが、まだ気弱の虫が抜け切っていないリトスとしては、仲良くしてもらえるか、少しばかり不安だった。

「ねえ、ここってどんな魚がいるの?」

「基本的には、ミニトラウトだな。それから、ナマズとか、カニとか、エビ……あと、レッドバスが釣れる事もあるな」

 ワクワクした様子で訊いてくるプリムローズに、シエルが「俺、レッドバス釣った事あるんだぜ!」と、自慢げに胸を張る。

「レッドバス? ……って、確か海の魚じゃなかった? それがなんで山のふもとで釣れるの? もしかしてここ、海と繋がってる汽水湖とか?」

「ちぇ、知ってんのかよ……」

「凄いわね、プリム。物知り」

「ふふん、伊達に小さい頃からたくさん本を読んでた訳じゃないもの。汽水湖くらいなら知ってるわ」

 自分が解説したかったのか、口を尖らせて拗ねるシエルと、素直に感心するシエラに対し、今度はプリムローズが自慢げに胸を張る。
 一応リトスも汽水湖の事は知っていたが、口を挟み損ねて何も言えなかった。

(ダメだ、こんな事じゃ……。強くなるって、しっかりするって決めたのに……!)

 リトスが人知れず凹み、唇を噛んでいる間にも、プリムローズはシエラから釣竿の扱い方などを教わり始めている。リトスはもう一度、しっかりするんだ、と自分に喝を入れ直し、プリムローズ達の傍に近付いて行った。


 その後、リトスが釣竿の基本的な扱いを教えられ、石の下にいた小さなミミズをおっかなびっくり掴んで、悪戦苦闘の末針につけ、湖の中へ投げ込む頃には、プリムローズは既に小さなエビを2尾釣り上げ、バケツの中に入れていた。
 更には、何のためらいもなくその辺にいたミミズをむんず、と掴み、自力で針につけている。
 その順応の早さには、リトスのみならず、シエルとシエラも驚いていた。

 プリムローズ曰く、「足がいっぱいあるような、ゲジゲジした虫は好きじゃないけど、ミミズくらいなら平気」との事らしい。ミミズに触る決心をつけるのに、たっぷり十数秒以上かかったリトスとは大違だ。
 リトスは内心で、ますます凹んでしまった。

 そこに、シエルが声をかけてくる。

「おいリトス。ちょっと話があるからツラ貸せ」

「ちょっとシエル、なにリトスに絡んでるのよ。プリム大変、あんたの弟分がピンチよ」

「ちげーよ! 男同士の大事な話があるだけだっつーの! 変な難癖つけんな! ……構わねえよな、プリム。ちょっとコイツ借りても」

「それはいいけど……ちゃんと五体満足で返してね?」

「当たり前だろバカ! 俺をなんだと思ってんだ!」

「あはは、ごめんごめん。冗談よ。でも、できるだけ早く戻ってね」

「……ったく。わあってるよ。リトス、行くぞ」

「う、うん」

 促されるまま、シエルの後についてプリムローズ達の傍を離れ、木陰に入った所で、リトスは突然シエルから真っ直ぐに見据えられて、たじろいだ。

「……リトス。お前、俺と一緒に村の猟師会に入るつもりはねえか?」

「猟師会に?」

「そうだ。俺達はまだガキだから、すぐには猟に連れてってもらえねえけど、頼めば見習いとして鍛えてもらえる。剣とか槍とか、弓とかの扱いを、教えてもらえるようになるんだ。
 猟師会は自警団の役割も兼ねてるし、今は村の男衆も年寄りが増えたからな。イキのいい新入りが欲しいんだとさ。戦力が増えるんならガキでもチビでも嫌な顔はされねえよ。
 ……お前、強くなりたくねえか? プリムの為に。プリムが好きなんだろ?」

「……えっ、そ、それは……。う、うん……」

 シエルの指摘に動揺し、リトスは一瞬で顔を赤らめたが、それでも誤魔化す事なくうなづいた。

「……そうだよ。僕は、強くなりたい……。プリムが、好きだから。だから強くなって、プリムを守りたい。
 このままずっと、プリムの後ろに隠れて、プリムに守ってもらってるままじゃ……。プ、プリムに、好きになってもらえないと思うから……っ」

「それ、本当に本音で、本気だな? 最後まで頑張れるな? 後んなって、やっぱ辛いからとか言って逃げたりしねえな?」

「しない! そんな事絶対! だから僕も、猟師会に入りたい!」

「――よし。じゃあ、俺が親父に口利いてやる。一緒に頑張ろうぜ」

「……! う、うんっ! ありがとう、シエル!」

「ただし!」

 明るい表情で礼を言うリトスに、シエルがびしっ、と人差し指を突き付ける。

「今日から、俺達はダチだけどライバルだ。プリムの事、譲ってやるつもりなんてねえから、そのつもりでいろ」

「! ……そっか。やっぱり、シエルもプリムの事……」

「……。ああ。でも、お前の足引っ張るような、汚ねえ真似はしねえから安心しろよ。そんなの、男のする事じゃねえからな。……いいか? これから先、プリムが俺とお前のどっちを選んでも、恨みっこなしだ。分かったな!」

「うん! 分かった! でも、負けないから!」

「それはこっちのセリフだぜ! 抜け駆けすんなよな!」

「そっちこそ!」

 シエルとリトスは笑顔で抜け駆け禁止を誓い合い、互いの拳をコツンと合わせた。
 もっとも、シエルはツンデレ気質の上、『デレ』より『ツン』の方が表に出やすく、リトスは内向的な上、生まれ育った環境のせいで自己評価が低い。
 それすなわち、今はまだどちらも無自覚だが、シエルもリトスも異性への自己アピールが非常に不得手で、元から抜け駆けできるような性格ではない、という事でもある。

 なお、少年達が上記の事実に気付き、如何ともしがたい己の欠点に頭を抱える事になるのは、この密かな誓いが立てられてから、何年も経過した後の事となるのであった。

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