転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店

文字の大きさ
上 下
8 / 124
第1章

6話 転生令嬢と大罪系スキル

しおりを挟む

 周りに自分と友達の2人しかいない状況であるにも関わらず、自分のすぐ側で、誰が置いたんだか分からない毛布が見付かったりしたら、普通は訝しむだろうし、不安に思ったりもするもんだろう。
 おまけに、どっからどう見ても新品だし。これ。
 だが――残念ながら今の私に、それ以上毛布を観察している余裕はなかった。
 だって寒いんだもん!

「毛布だーーっ!」

 私は歓声を上げながら、自分の背中側に畳んで置いてある毛布を引っ掴み、いそいそと広げて自分とリトスを包み込む。リトスも何も言わずに毛布に包まってるので、多分私と同じく、毛布の出所に疑問を感じる余裕はないのだと思われた。

 そりゃそうだ。
 洒落でも冗談でもなく、現在進行形で命の危機に瀕してるんだから。毛布の出所なんて、二の次どころか三の次以下だろ。もう。
 そうして2人で身を寄せ合い、一緒に毛布に包まっていると、だんだんお互いの体温で毛布の内側がいい感じにあったまってくる。
 はぁ、あったかい……!
 よかった。これなら今夜を無事に越せる。命の心配をしなくても大丈夫だ。

 しかし、そうやってある程度身体が温まって精神的余裕が生まれると、今度は別の欲求が湧いてくる。
 岩盤に直座りしてる尻が冷たくて痛いんだよな、とか、ちょっと横になれる場所があったらいいのにな、とか、ぶっちゃけお腹減ったんだよな、とか。
 まだ日没までには時間がありそうな明るさの、雨上がりの洞窟の外をぼんやり眺めながら、私は脳内であれこれ妄想し始めた。

 そうだなぁ。もしこの洞窟の中で休むんだとしたら、まずはデカめの簀子すのこが欲しい。1メートル×2メートルくらいのやつが2枚……いや、ここはいっそ、余裕を持って4枚くらい欲しいかな。
 それから簀子の上にレジャーシートを敷いて、更にその上から敷布団を敷いたら、なんちゃって簀子ベッドの完成だ。んで、そこに掛け布団があったら完璧だよね。
 本音を言うなら、電気ヒーターみたいな暖房器具も欲しい所だけど、流石にそれは高望みし過ぎか。ここは大人しく、大判のホッカイロを所望すべきだろう。

 あと、簡易的なものでいいから照明も欲しいかな。夜の間だけとは言え、一寸先も見えない暗闇の中で、ただじっと身を寄せ合い続けるのは結構しんどい。
 私は前世でOLやってた頃に一度、震災による長期の停電を経験した事がある。
 だから、夜間室内にちょっとした灯りがあるだけで、精神的にだいぶ違うんだって事をよーく知ってるのだ。

 あと、大事なのはご飯だよね。
 こういう所で食べるものとくれば、やっぱおにぎりでしょ。
 定番の梅干しや昆布、あとは鮭とかツナマヨとか、色んな具が入ったおにぎりもいいけど、時々シンプルな塩むすびが食べたくなるのは、私だけじゃないはず。

 勿論、サンドイッチやハンバーガー、ラップサンドなんかも悪くない。いや、悪くないどころか素晴らしい。どれも挟む具に気を配れば、栄養バランスが取りやすい魅力的で素敵なご飯になる。
 だけど、やはり日本人ならまずは米! 米一択でファイナルアンサーだ!
 まあ単純に、私自身がお米大好きなだけだけど!
 そういう訳で、まずは塩むすびと麦茶をプリーズ!

 ……なーんて、こんな妄想だけで全てが手に入るなら、誰も苦労なんざしやしない。
 ちゃんと現実を見ようぜ、私。

 そんな風に、自分の行き過ぎた妄想を鼻で笑った直後。今度は洞窟の奥まった所から、ぼふん、という、割と大きめな音が聞こえてきた。
 すぐ隣にいるリトスも今の音にはだいぶ驚いたようで、肩をビクッと震わせている。
 ってか、ホントになんだ今の音!?
 まさか、山の獣がどこかの横穴から転がり落ちてきたとか、そういうオチじゃないだろな!?

 音の正体を確認すべくその場から立ち上がると、リトスも一緒に立ち上がった。
 私は一瞬口から出かかった、「ここで待ってなさい」という言葉を直前で飲み込む。
 正直、何が起きてるんだか分からない状況で、リトスを一緒に洞窟の奥へ連れてくのはリスキーな気もするが、よく考えたら、ここも完全な安全地帯って訳じゃない。
 今まで考えないようにしてたけど、森の中には熊や狼だっているんだし。
 結局どこにいても身の危険が付きまとうなら、2人で一緒にいた方がマシだろう。

 改めて腹を括り、リトスと手を繋ぎながら洞窟の奥へ足を向けるが、そう奥まで進まずとも事足りた。
 外からの光がろくに入らず、薄暗い洞窟の中央付近。
 そこに、さっき私が妄想していた、簀子やらレジャーシートやら布団一式やらが、デンと積んで置いてあったから。
 ていうか、積み上げられた荷の一番上にちょこんと乗ってるのって、コンビニのビニール袋?

 ……。ええと。
 流石にこれはさっきの毛布みたいに、「やったラッキー! いいモン手に入ったぜ!」…なんて言葉で済ませて、なんも考えずに飛び付くのは……ちょっとどころかだいぶ問題のような気がする。
 古式ゆかしい純和風の簀子の上に畳まれた布団一式が乗っかってて、更にその上にコンビニの袋が鎮座してるとか、世界観バグり過ぎだろ。どう考えても。
 ああ、あまりの事にリトスもポカンとしちゃってるよ……。

「……これ……なんなんだろうね……」

「さあ……。よく分かんない……。確かに今私、こういうものがあったらなぁ、なんて頭の中で考えてたけど……」

「そうなの?」

「うん。身体があったまって余裕出てきたら、こう、ついね……」

「……。ねえ、もしかしたらこれ……プリムがスキルを使って出したのかも知れないよ」

「へ? わ、私が?」

 リトスがいきなりとんでもない仮説を言い出して、私は目を丸くした。ちょっと、声が引っくり返りそうになる。

「うん。僕はそう思う。だってホラ、プリムが持ってる大罪系スキルって、確か『暴食』と『強欲』だったよね? 僕、本で読んで知ってるんだ。『強欲』っていうのは、あれもこれも色んな物が欲しいって気持ちが、とっても強い事を言うんでしょ?
 だったらプリムが持ってる『強欲』のスキルに、欲しいと思った物を出す力があっても、おかしくないんじゃないかなって。それに、今プリムも言ったじゃない。「こういうものがあったらな、って考えてた」って」

「う、うーーん……。そう、なのかなあ……」

 私は思わず唸りながら腕組みした。
 ちょっとどころかだいぶ強引な理屈だと思うけど……でも、確かに目の前にあるブツはどれもこれも、私が妄想の中で欲しいと思った物ばっかなんだよなあ……。

 ……。うんよし。分かった。
 とりま、そういう事にして全部受け入れてしまおう。
 だって、ぶっちゃけ疲れたしお腹空いたし、色んな意味でヘトヘトだ。その辺の問題が解決するんなら、もうそれでいいような気がしてきた。

 私がここにある物を、『スキル』を使って出したのかどうかは、ご飯を食べて身体休めて、人心地ついたら改めて考えよう。
 そんで、出来たら実際に確認してみればいい。

 よし! そうと決めたら早速実行だ!
 私はリトスの手を借りて、モタクサしながらもどうにか簀子ベッドを完成させた。
 身体が小さいと、こういう作業も地味に大変なんだな、と思い知りつつ、尻についた汚れをパッパと払い、靴を脱いでベッドに上がる。
 ふおおお! や、柔らか~~い! これならゆっくり休めるぞ!

 完成させた簀子ベッドの柔らかな座り心地に感激しつつ、ドキワクしながらコンビニ袋の中身を確認してみると、中には4個の塩むすびと、600ミリサイズのペットボトルに入った麦茶のお姿が!
 おまけに大判ホッカイロも2つ入ってんじゃん! いやっほぅ!

 速攻塩むすびを開封してかぶり付きたくなるのを我慢して、リトスに塩むすびのパッケージとペットボトルの開け方を丁寧に教え、ついでに塩むすびの美味しい食べ方もレクチャーする。
 一度にたくさん頬張らないようにして、ゆっくりじっくり噛んで食べるといいよ、と。
 リトスが開封した塩むすびをまじまじ見つめている姿(口に合うといいなぁ)に苦笑しつつ、私も自分の塩むすびを開封し、早速一口。

 ……。うん。美味しい。物凄く美味しい。
 シンプルだけど滋味深い、懐かしい故郷ふるさとの味だ。
 なんだかちょっと泣けてくる。

 でも、流石にここでマジ泣きする訳にはいかない。リトスに、なんだコイツと思われてしまう。
 気合を入れて涙を堪えつつ、チラリとリトスを横目に見てみると、リトスは小さい口で塩むすびを齧りながら、ポロポロ涙を零していた。

「えっ!? な、なに、どうしたのリトス! 美味しくなかった!?」

「……ううん。そんな事ないよ。すごく美味しい。……不思議だね、この『シオムスビ』って食べ物。最初はちょっぴりしょっぱいのに、よく噛んでるうちにほんのり甘くなってくる……」

 リトスは涙を流しながら、綺麗な顔をへにゃりと緩ませて笑う。

「……ぐすっ。……えへへ、美味しいね。ホントに美味しい。誰かと一緒に食べるご飯って、こんなに美味しいんだ……」

「……。うん。そうだね。分かる分かる。誰かと一緒にご飯を食べると、とっても美味しいよね」


 そんな事を呟きながら、ゆっくり味わうように塩むすびを口に運ぶリトスの頭を、私は明るく笑って優しく撫でた。
 なんだかもらい泣きしそうになるのを我慢しながら。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...