転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店

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第1章

1話 転生令嬢の養育環境 1

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 デカいガチャのカプセル雪崩に飲み込まれ、気を失って再び目を覚ましたら、なんか赤ん坊になっていた。
 え、訳が分からないって?
 安心して下さい。私も訳が分かりません。

 木の柵じゃなく木の板で囲まれてるせいか、微妙に圧迫感のあるベビーベッドに仰向けで寝かされてる私には、周りの様子がろくに見えないが、今世も女として生まれたらしいという事と、めっちゃ裕福な家に生まれたらしい、という事は、何となく理解できた。
 だってさ、この天井見てごらんなさいよ。あんなたっかい天井の一面に、わざわざロココ調っぽい絵を描いてる一般市民の家なんて、この世に存在する訳なかろうが。

 うわあ。視界の中いっぱいに、派手な色味の花が所狭しと咲き乱れてるぅ。
 ねえ、これってどこのどなたのどんな趣味?
 視界がうるさくて仕方ないんだけど。目がチカチカする。
 この家の連中、よくこんな部屋でくつろげるな。

 あと、周りから色々話し声が聞こえる。
 どうやら、使用人みたいな人達がいっぱいいるっぽい。
 ってか、みんなめっちゃ喋るじゃん。お喋りが多いな、この家。
 まあ、情報収集の役には立つから、別にいいけどさ。
 ともあれ、赤ん坊のまま数日を過ごし、その中で知った追加情報は以下の通りだ。

 この家はケントルム公爵家。そして、ケントルム公爵家が仕える国の名は、レカニス王国。周囲を温暖な海と肥沃な平野に囲まれた豊かな王国で、よそからは『美食の国』とか呼ばれてるそうな。
 でもって私の名前はプリムローズ。名付け親は母親の公爵夫人。私は真っ赤な髪の毛と深緑色の目を持って生まれたようだが、なぜか右目だけが金色らしい。
 私のこのオッドアイは、多くの使用人達の間では「神秘的」とか「綺麗」とか言われているみたいだけど、一部の使用人達からは「ちょっと薄気味悪い」と思われてるようだ。悪かったな。

 それと、公爵夫人(母)は美人で優しくて、いい匂いのする人だった。名前はロゼッタというらしい。
 うん、いいね。この人だったら、今日からでも素直にお母様と呼べる。
 そんなお母様は、使用人達からの評判もかなりいい模様。しかし、公爵(父)の話はなぜか聞こえてこない。ついでに言うなら姿も見ない。典型的な政略結婚で、元々お母様とは仲がよろしくないようだ。

 ていうか、あんだけお喋りな使用人達に一切話題にされない、というのが逆に気にかかる。どうした父。ちゃんと生きてるのか。
 うーん。こうなると私の父の公爵は、箸にも棒にも引っかからない能無しか、家の中での存在感がないか、このどちらかの可能性が高い。娘としてはどっちも嫌だが、せめて後者であって欲しいものだ。
 流石に、いつ沈むか分からん泥船みたいな家で育つのは、色んな意味でしんどいからね……。


 なお、私がそんな父と初めて面通し……もとい、対面したのは、私が生まれて半年以上も経ってからの事だった。
 案の定、夫婦関係がハナから冷え込んでる妻との間に生まれた子供……それも、跡継ぎにできない娘になんぞ、大した興味もないご様子だ。お母様から名前聞いて、数秒顔見たらもうどっか行っちゃったからな。あの野郎。
 まあいい。私も状況的に、父親に対する期待なんざ全くしていなかったので、ここはおあいこだと割り切るべきだろう。
 だが、心の中ではクソ親父と呼ぶ事に決めた。

 こうして、完全安牌とは言い難い家ではあったものの、そんな中でも私は何不自由なく育てられ、すくすく成長していった……のだが、平穏だったのは4つの頃までだった。
 領地の視察に出かけていたお母様が、馬車の事故でお亡くなりになってしまったのだ。

 嘆き悲しむ領民達と使用人達と私。
 そして、やっと邪魔者がいなくなったぜ、と言わんばかりに、お母様の喪が明けないうちから屋敷に他の女(+2歳くらいの女の子)を連れ込むクソ親父。
 愛人どころか子供までこさえてやがったんかい。
 この時は、使用人達一同がクソ親父の背中に向けていた、嫌悪交じりの表情だけが私の救いだった。

 だが、まだまだクソ親父の暴走は止まらない。
 婚姻証明書と子供の生誕証明書の偽装に手を染め、愛人を後妻、愛人との間にできた子(婚外子だが、愛人が一応貴族だったので庶子ではない)を、正式な婚姻ののちに生まれた子として登録するという愚行に走り、その日からめでたく愛人は私の継母に、婚外子は私の腹違いの妹という事と相成ったのである。

 悔しい。私が4歳じゃなければお母様に代わって、あのクソ親父の顔面を二目と見られない形状になるまで、思い切りグーでボコッてやったのに。

 そんな私の嘆きをよそに、継母&妹は屋敷の中であっという間に幅を利かせ始め、私が9歳になる頃には、我がケントルム公爵家はものの見事に、パチモンシンデレラワールドに浸食され切っていた。

 私が生まれる前から仕えてくれていた、心ある使用人達は1人残らず辞めさせられ、後から入って来たのは、どいつもこいつも継母と妹におもねる輩ばかり。
 当然、ウザい先妻の娘である私は、毎度毎度陰でイビられている。
 いつも黙ってイビられてる訳じゃないけど、ストレスは溜まる一方だ。

 だから決めた。
 この国の成人年齢である16歳の誕生日を迎えたら、この家捨てて出てってやろう、と。
 今に見てろ。私はドアマットヒロインになんて、死んでもならねえからな!

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