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第1章
0話 元ヤン女の奇妙な転生
しおりを挟む気付いたら、だだっ広い真っ白な部屋の中にいた。
ついでに言うなら、ここに来るまでの記憶がない。
憶えているのは、自分が元ヤンアラサーOLだという事と、数時間前に仕事が終わって会社を出た事。
それから――ああそうだ。駅で待ち合わせてた社外の友達数人と、居酒屋行ったんだ。
美味しいご飯をたらふく食べて、美味しいお酒もしこたま呑んで、みんな揃って盛大に酔っ払って、ふらつきながら居酒屋を出た……所まではなんとか憶えてる。
けど、そこから先はサッパリだ。おまけに頭の中がフワフワする。こりゃ多分まだ酒が抜けてないな。
いや、抜けてないどころかバリバリに泥酔してる。
だって、なぜか目の前には目測で軽く5メートルはありそうな、バカでかいガチャマシンが鎮座してるんだもん。訳分からん。酔いが回り過ぎて幻覚見てるとしか思えない。
ていうか、ここどこ。どうやって出たらいいんだ。早く家帰って寝たいんだけど。
でも、歩き回って出口を探す気力が湧かない。頭も働かないし。マジ飲み過ぎた。
ただただその場に立ち尽くし、途方に暮れていると、どこからともなく1枚の紙がひらりと飛んで来て、目の前にあるガチャマシンに貼り付いた。
そして、何も書かれていない真っ白な紙に、突如文字が浮かび上がってくる。
『こんばんは。私はあなた方人間が、神と呼んでいる存在です。
いきなりこんな所で目を覚まして、戸惑っていると思いますが、落ち着いて聞いて下さい。実はついさっき、あなたの魂を手違いでこちらの世界に引っ張り込んで、死なせてしまいました。ごめんなさい(謝)』
紙に勝手に字が浮かび上がるって事にも驚いたが、それ以上に、文章の内容があまりに酷過ぎた。
手違いで死なせた?
馬鹿は休み休み言え。もしくは、寝言は寝てから言え。
「――手違いで、死……。じゃ、じゃあなに、ここって死後の世界って事!?」
酔いに任せて叫ぶと、紙に浮かんだ文章がスッと消えて、また新たな文章が浮かび上がってくる。
『いいえ、正確にはその手前、あの世とこの世の境目に当たる場所です。そこに、私が特殊な場を作り出し、あなたの魂を一時的に保護している格好になります』
「じゃあ、さっさと元に戻して生き返らせてくれない?」
『無理です。基本的に反魂行為というのは神の間でもご法度なので。ごく稀に出てくる特例を除いては、許可が下りません。その代わり、別の世界へ記憶を保持したまま転生させる事はできるんで、それで手打ちにしてくれませんか』
「人をうっかりミスで死なせておいて、特例適用されんのかい! 転生なんざしたくないわ! 戻せ! 上役かなんかにかけ合え!」
『今回のケースは、かけ合う以前に特例適用の条件外なので、如何ともし難く』
「マジで!? ホントに!? ちょ、嘘でしょ……。どうにもできないの? 私の人生あれで終わり? もう元には戻せないの?」
『マジです。申し訳ないのですが、往生際の悪い事を言ってないで、現実を受け止めて下さい。人生にリセットボタンはないんですから(呆)』
おい。(呆)ってなんだ。(呆)って。
ざけんなコラ! 舐め腐っとんのか!
あと、お前にだけは「往生際悪い」とか言われたくねえ!
「……よし分かった。今すぐここにツラ出して歯ぁ食いしばれ」
『嫌です。ていうか無理です。私は今、創造神様から今回のやらかしをこっぴどく叱られて、お仕置き部屋に監禁されてる最中なんです。なんという悲劇(泣)』
「それはこっちの台詞だボケカスコラアァアアァッ!!」
私は腹の底から力と息を振り絞り、全力でシャウトした。
もうこの状況、叫んで罵らずにいられるか!
『だからすみませんて。反省してます。お詫びにそこの転生ガチャ、連続で50回回せるようにしておきましたんで、回せるだけ回していいですから。
興奮し過ぎると魂の力が削げて、転生できなくなりますよ。流石に、このまま消滅するのは嫌でしょう』
「……ぜぇ、はぁ……。く、くそ……。その言いざまのどこが反省してんだ……。てか、転生ガチャってなに」
『書いて字の如く、転生する際に回せるガチャの事です。次の世界に生まれるに当たって、あなたが生まれつきの才能として持っていける能力やスキルを、この中に目いっぱい詰め込んであります。
通常、何らかの理由で異世界への転生をお願いする人には、これを10回まで回せるようにしてあるんです。何百年か前、転生をお願いした人にリクエストのまま、あれもこれもと有益なスキルや能力ばっかり与えたら、ちょっととんでもない事になってしまったんで、今はこういう形を取っているんですよ』
「ちょっととんでもない事、って?」
『転生先で魔王になって、世界滅ぼしちゃったんです。その人』
「うわ。ちょっとどころじゃないじゃん。それ」
『ええまあ、そういう訳ですので、レッツガチャ☆ 正面にあるスタートボタンを押せば、勝手に回転して中身が出てくるようになってます。あなたの次の人生が、幸せなものでありますように(祈)』
その文字表記を最後に、白い紙はペラッと剥がれてどこかへ飛んで行ってしまった。
一方的も甚だしい。
「あっ! ちょっ……待てコラ! ……ちっ、なんつーろくでもない神だ……」
私は思わず舌打ちする。
が、それで現実が変わる訳もなし。
しょうがない。ガチャ、回してみるか……。
渋々巨大ガチャマシンに近付いて、正面にあるまん丸い、黄色いボタンを掌で押し込んでみる。
「うわっ!? うるさっ!」
途端にマシンがうなりを上げて駆動し、ガリガリガリ、という物凄くデカくてうるさい音を発し始めた。私は思わず両手で耳を塞ぐ。
次いで、マシンの下にある穴から、ポン、と球形のカプセルが飛び出てきた。
色はチープなピンク色。直系10センチはありそうな、これまたデカいカプセルだ。
恐る恐る手を伸ばしてカプセルを手に取ると、プラスチックじみた見てくれに反した、妙にずっしりとした重みを感じる。下手すりゃ凶器になりそうだよ。
ぶつくさ言いながらカプセルを両手で掴み、力任せに開けた瞬間。
――パパラパッパパ~~! 大当たり~~!
ラッキーカプセル『200連ガチャ』です! ガチャを回せる回数が、プラス200回分加算されます! 残り回数が249回になりました~~!
どこからともなく、変なファンファーレと音が聞こえてきた。
女性的な人工音声だ。ちょっとボカロっぽい。
「……は? えっ? なに? 回数増えた?」
――残りのガチャをオートで回しますか? 「はい」か「いいえ」で答えてね。
「え? はい?」
――ガチャのオート機能がオンになりました。残り249回分のガチャをオートで回します。
「えっ!? あっ、まさか今ので「はい」を選んだ事になってんの!? ちょ、ちょっと待っ――」
――オートガチャスタンバイ! ……3、2、1、GO!
機械音声の合図をきっかけに、またもやマシンからガリガリ音が聞こえてきたかと思った、次の瞬間。マシンの穴から一気に、大量のカプセルが溢れ出てきた。
あの、直径10センチのクソ重たいカプセルが、だ。
「ぎゃーーーっ! ちょ、止めて! やめて! 埋まるーーっ!」
私は悲鳴交じりの声を上げるが、それでもガチャマシンは止まらない。
ガラガラガチャガチャガリガリゴロゴロ。
やかましい事この上ない音とカプセルの雪崩に飲み込まれ――私は呆気なく意識を手放した。
当然、引いたガチャの中身を確認する余裕なんてもの、その時の私にあるはずがなかった。
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