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第5章

15話 雨天葬送、静かな生誕の祝い

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 レトリー侯爵達の捜索報告書が出来上がり、それが王城へ向けて発送された日から、空がぐずつく事が増えてきた。

 もっとも、この萌芽月ほうがづきから翌月の新緑月しんりょくづきにかけては、元より天候が不安定になりがちな時期なので、取り立てておかしな現象ではないのだが、葬儀の日にまで雨が降ると、それだけで余計に湿っぽい空気が増すように思えてくる。

 叩き付けるような強い降り方をする雨ではなく、大地を優しく潤すような、ごく静かな降り方をする雨の中、レトリー侯爵とその息子アルセンの葬儀は、教会内部にて粛々と進められていく。

 今回の葬儀においては、急遽父の爵位を継ぎ、新たにレトリー侯爵の名を名乗る事になった長男のケイルが以前同様喪主を務めているが、今後当面の間、ケイルの補佐役を務める事になった次男のアルムは、葬儀に顔を出していなかった。

 ケイル曰く、医師による検死の結果、前レトリー侯爵とアルセンが謀殺された事がほぼ確定となった為、王家とレトリー侯爵家を主導とした本格的な捜査隊が編成され、その指揮で多忙なのだという。
 もっとも、件の捜査で多忙なのはケイルも同様なのだろうが。

 立て続けに家族を失った心労と仕事の多忙さが重なってか、喪主として教会に身を置くケイルは、以前見た時より痩せているように見受けられたし、顔色も優れない。目に見えてやつれている。
 恐らく弟のアルムの状態も、ケイルと似たり寄ったりなのではなかろうか。

 それについては、エフォール公爵ことアドラシオン、そしてフォルク伯爵の両名も共に、諸々の捜査に加わって多忙な日々を送っている為、ニアージュとしても彼らの苦労が手に取るように理解できた。

 それこそ今回の葬儀にも、多忙となったアドラシオンの名代を兼ねて、ニアージュが単身で参列しているくらいだ。
 多忙過ぎて、葬儀に参列する時間も取れないのである。

 アドラシオンのスケジュール調整は、今も引き続き家令であるアルマソンが行い、体調管理にも気を配ってくれている為、アドラシオンが過労で倒れる心配はないが、個人的な時間がほとんど取れていない事が気がかりでならない。

 邸と現場を往復し、それが不要な時は自室の執務机に齧りつき、いつもの領地運営に関わる仕事に取り掛かる。そんな仕事漬けの日々が、アドラシオンの心身を蝕んでいるのではないかと。

(私もある程度仕事を手伝ってはいるけど、それには限度があるのよね……)

 ニアージュが小さく嘆息を零すその後方では、以前葬列を成して道を進んでいた際、ろくでもない事を口走ってくれた某侯爵家のお喋りマダムが、しれっとした顔でまたもやお喋り仲間とひそひそ話に興じていた。
 その内容はやはり、半分以上前レトリー侯爵とアルセンの悪口である。

 ニアージュは内心で、ホント性懲りもないオバサン達だわ、と呆れていたが、多分他の参列者も同様の思いを抱えていた事だろう。
 傘を差して道を進む葬列の人数は、レトリー侯爵夫人と子息2人の葬儀の時より、更に少なくなっていたので、彼女らは一度目の葬列の時より悪目立ちしていた。




「奥様、お帰りなさいませ」

『お帰りなさいませ』

 葬儀への参列が終わった夕暮れ時。
 馬車で邸に戻ったニアージュを、アルマソンと使用人、侍女達が居並んで出迎える。

「ただいま、みんな。アルマソン、私が留守の間に変わりはなかったかしら」

「はい。みな、つつがなく過ごしておりました。ただ……旦那様は、昨晩の仕事が長引いた事がお身体に障ったのか、現在仮眠を取っておられます。奥様がお戻りになられた際には、起こすようにと申し付かっておりますが」

「そう……。でも、起こさなくてもいいわ。折角お休みになっているんだから、このまま起床予定時間まで休ませて差し上げて。
 それでなくても、今日は旦那様の誕生日なんだもの。誕生日に無理をして体調を崩すなんて、旦那様にはそんな事になって欲しくないわ」

「かしこまりました、ではそのように致します。旦那様には、後で拗ねられてしまいそうですが」

「ふふっ、そうね。その時は仕方がないから、2人で甘んじてお小言を受けましょうか?」

「そうですな。それがよろしゅうございましょう」

 ニアージュが冗談めかして言った言葉に、アルマソンも微笑みながらうなづいた。

「ええ。それに、もしその事でご機嫌斜めになっても大丈夫よ。料理長達に、せめて夕飯時に旦那様の好物を使って、贅を尽くした料理を出すよう頼んでるから、それである程度、旦那様の気分も上向くでしょう。

 レトリー侯爵家の葬儀と時期が重なってしまったから、大々的なパーティーはできないけど……せめて旦那様がまたひとつ、無事に歳を重ねられた事を喜ぶくらいは、許されるはずよね」

「勿論でございますとも。旦那様も奥様のお心遣いをお喜び下さるはず。更にそこへ、奥様が手ずからお作りになられたプレゼントがあれば、完璧でございますな」

「そ、そう? 旦那様、喜んで下さるかしら……?」

「勿論でございます。きっと旦那様は、天にも昇る心地になられる事でしょう」

「あはは、幾らなんでもそれは言い過ぎよ、アルマソン」

あまりに大袈裟な物言いをしてくるアルマソンに、ニアージュも思わず笑ってしまう。


 なお、夕食の席でニアージュがアドラシオンに誕生日プレゼントを手渡した途端、アドラシオンは嬉しさのあまり右手で目を覆って男泣きし始め、ニアージュを慌てさせる事になるのだが――
 その時の様子から察するに、アドラシオンのその反応は、流石のアルマソンでも予想外だったようである。


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