訳あり公爵と野性の令嬢~共犯戦線異状なし?

ねこたま本店

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第5章

11話 弔意なき葬列 後編

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 TPOを弁えない、残念お喋りマダム達の話はまだまだ続く。
 彼女達の傍には夫もいるはずなのに、お喋りを止めるどころか、たしなめようともしていない所から見るに、もはや各家を統べている当主達も、レトリー侯爵家に対して礼を払おうという意識を失っているのだろう。

 葬儀に顔を出したのも、レトリー侯爵に足元を見られ、迂遠な物言いでつつかれたか、あるいは弱みを握られて参列を強制されたかの、どちらかなのかも知れない。

(それでもこういう場で、葬式出した家の蔭口叩いていい理由にはならないと思うんだけど。どうしても言いたきゃ自分の家か、同じ考え方をする友達の家で言いなさいよ……。

 レトリー侯爵家は今回の件で痛い目を見たけど、家格自体はまだ落としてないし、降爵した訳でもないのよ? 話を聞いた誰かが、レトリー侯爵にこの件を告げ口したらどうするつもりなのかしら。そんな事も分からないくらい馬鹿なの? この人達)

 詮ない事だと思いつつ、やはりそんな風に内心で突っ込んでしまうニアージュ。
 うんざり顔でチラリとアドラシオンの方へ視線を向ければ、アドラシオンも心底うんざりした顔をしていたが、ニアージュに対しては無言のまま、小さく首を左右に振って見せてくる。

 ――馬鹿に付ける薬はない。関わり合いになるな。

 そんな声が聞こえたような気がして、ニアージュもまたアドラシオンに対し、小さくうなづき返して見せた。
 確かに、馬鹿とは関わり合いにならないのが一番だ。


「そういえば……夫から聞いたのですけれど、今回レトリー侯爵は弟君とそのご家族に、ご葬儀の相談をされたらしいですわよ」

「あら。そうでしたの? 今の今まで、弟君に対して不義理な事ばかりなさっていらしたのにねえ。レトリー侯爵も、大概厚顔でいらっしゃるものですわ」

「私も聞きましたわ。弟君に、ご葬儀の為の資金を出せだの、準備を手伝うようにだのと、上から目線でお命じになられたというお話でしょう?」

「その事でしたら私も聞いております。厚かましいお話をされた弟君とご家族は、それはもう怒髪天の勢いで……。そのような事を言うのなら本当に縁を切る、葬儀への参列もしないと宣言されたそうですわ」

「そうでしたの。けれど、よく弟君は葬儀のお話を蹴れましたわね。確かレトリー侯爵の弟君は、伯爵位でいらしたはずでしょう?」

「そこはそれ、弟君はカテドラ侯爵家やアウライア侯爵家と、大層懇意にしておいでですから」

「成程、カテドラ侯爵家もアウライア侯爵家も、レトリー侯爵家より家格が上ですものね。流石のレトリー侯爵もその2家に睨まれたのでは、ぐうの音もお出にならないでしょう」

「ええ全く。それで最終的に、バラト侯爵家に泣き付いたのですって。本当に恥知らずでいらっしゃるわよね」

「バラト侯爵はご息女の件でレトリー侯爵に負い目がおありだし、元よりお優しい方だから、やむなく手をお貸しになったのでしょうね。流石に、ご葬儀にはお出でになられていないようだけど。
 ――所で、皆様はこの話をご存じかしら? あまり大きな声では言えないのだけど……今回の件は、裏で帝国の皇太子殿下が糸を引いておいでだったとか」

 お喋りマダムのうちの誰かが、やおらそんな事を言い出したせいで、話を耳にしていた者達の間に微かな動揺の空気が広がる。
 アドラシオンも同じく動揺の気配を見せており、ニアージュも危うくつんのめりそうになった。

(ちょっ……!? なんつー事言い出してくれてんの!? ってか旦那は何してんのよ!? 早くそのおばさん黙らせなさい! 下手すりゃ王家に睨まれるわよ! ザルツ・ウィキヌス帝国は、クロワール王国にとって最大の友好国なんだから!)

 あまりの事に心の中で悲鳴じみた声を上げ、どこの誰とも知らぬ相手に念を送るが、残念ながらニアージュに、他人に念を送って自分の思いを伝える力などない。
 そんな訳で、ニアージュの願いも虚しくマダムの話は続く。

「……! そ、それは本当ですの……!?」

「明確な証拠はないけれど、信憑性が高い話なのは間違いなくてよ。……よく考えてみなさいな。犯人は白昼堂々侯爵家に放火した挙句、夫人と子息2人を手にかけるという、とんでもない大罪を犯しているのよ? 
 だというのに、未だに捕まるどころか、目撃情報の欠片さえ出てきていないんですもの。裏で何か大きな力が働いていると見るのは、当然ではなくて?」

「……。た、確かに、あり得ない話ではないかも知れませんわね……。本邸の放火の手口も、到底平民のゴロツキなどには取れないものだったと言いますし……」

「それに……噂によればレトリー侯爵は、皇室との間で専属の売買契約をしている、ピンクパールの値段交渉の場で、不当に売値を釣り上げたとか。
 不当な売値であっても、皇室としてはピンクパールが必要なのですから、折れねばならない部分も、大なり小なりおありだったのではないかしら……」

「はっ……!? ではレトリー侯爵は、こ、皇帝陛下の足元を見るような振る舞いをなさったと……!?」

「ええ、私はそう聞いて……え? なんですの旦那様。……。もう、分かりましたわよ。……ごめんなさいね、皆様。この話はまた後日、お茶をする時に改めて致しましょう」

「え、ええ……」

「わ、分かりましたわ……」

(よし! よくやった! ちょっと止めに入るの遅かった気もするけど、止めないよりはマシだからオッケー!)

 夫に横から止められたのか、渋々話を中断するマダムと、その言葉に戸惑いながらもうなづくその他大勢のマダム。
 ニアージュは内心ガッツポーズをする。
 ようやく遠目に、貴族用共同墓地の入り口が見えて来ていた。


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