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The beginning,―叙事詩と忍者と迷惑沙汰。
フリーランスの忍、暇につき。
しおりを挟む都心から心ばかし離れた、ビル群と稲田が折衷したようなよくある微妙な田舎。県庁所在地であるにもかかわらず、県民でさえもいるかいないかの瀬戸際なそんな市内の一角に、ビルとビルの狭間に小さな木で出来た扉がぽつんと佇んでいる。扉の横の壁には手書きの看板がぺんと貼ってあるだけ…なんとも胡散臭いを具現化したような外観だ。
そんな扉を抜けると、暇そうにスマートフォンを弄り、ソファに寝っ転がっている青年の姿が一目散に目に飛び込んでくる。僕の姿をようやく認識したのか、整えられてるのか整えられていないのか曖昧な髪型をぱぱっと手でかき揚げ、駆け足で走ってくる。
「あら、お客さんね!いらっしゃい、何か御用かしら?」
青年はにこやかにソファまで僕を案内する。…先ほどの話し方を聞くに青年扱いしてもよいのか微妙だが。
「あっいけない!ちょっと待っててね」
後ろで結んでいる長い三つ編みを振りながら青年は奥の部屋へと駆けて行った。
正直まだ自分を疑っている。
警察にも探偵にも縋って解決出来なかった案件を……
まさか《忍者》に任せるだなんて…。
外では秋風が荒ぶいている。それによってか、看板がガタッと音を立てて斜めにかたむく。
《どんな仕事でもお受けします。
万事屋〝SHINOBI〟》
字はどうやら少しばかし霞んでいるようにも見える。これからの悲劇を嘯くように。
少し経って、奥の部屋からまたパタパタと青年が戻ってきた。手にはコーヒーカップと洋菓子を乗せたお盆。まだにこやかに微笑んでいる。
「ごめんなさいね!お茶菓子用意してなかったって思って。待ちくたびれちゃったかしら?」
「あっ、いえ、そこまで待ってないです。気を使って頂きありがとうございます…」
青年はからからと笑いながら背中を叩く。
「やぁ~ね~!そんなにかしこまらないでよぉ!もっとリラックスしてもいいのよぉ?ほら、コーヒー。」
(……やっぱり、なんか何処と無く変な人だなぁ……)
もらったコーヒーを一口すする。
……少し酸っぱい……。
「で、依頼内容は何かしら?」
持ってきたマカロンをもさもさと口に含ませ、青年は尋ねてきた。
喉がごくっと鳴る。
この人だけが、僕に残された最後の救い…言うなれば、蜘蛛の糸……。
「…友人の不自然な死について、調べて欲しいんです……。どの捜査機関に頼っても、科学捜査班に頼んでも解決出来なかったんです。それほどまでに友人は不可解で、不自然な死に方をしたんです、それを調査して欲しくて……。」
青年の褐色の肌から見える優しげな眼差しが剣のように険しくなるのがわかった。
…………ダメだったか……?
青年は煙を噴くコーヒーをゆっくり持ち上げる。
「…わかったわ、お受けさせていただくわね。」
「……!え、い、いいんですか?!!」
青年はいつの間にか元の緩やかな表情へと戻っていた。
「ええ、もちろん。」
胸が満潮になったかのように、喉元へと熱いものがこみ上げる。
「……!ありがとうございます……!本当にありがとうございます……!!」
礼を言うと同時に目の前に青年の人差し指がぴっと差し出される。
「ただし」
「……?」
「内容によっては、あなた死ぬかもしれないわね。それを覚悟してちょうだい。」
「…………死……ぬ…………?」
「ええ、まぁ内容によってはね。」
「え、死ぬ、って、それは……殺されるってことですか……誰かに。」
「誰、ねぇ。ふふ、人であればいいのだけれどね。」
青年の表情は笑顔に変わりない。しかし、その表情はどこか畏怖の感情を漂わせていた。
そしてわかった。ここに来た時から、いや、アイツが死んだ時から、僕は巻き込まれていたのかもしれない。
本物の狂気と言うものに。
嫌な汗が止まらない。心臓が急激に加速を始める。僕は……本当に生きて帰れるのか……??
かちゃんとカップが皿へと着地する音に、地へと堕ちていた正気が元の場所へと蘇る。カップを伝い、青年へと視線を上げる。
青年は、微笑んでいる。
「でも安心して。依頼者の命は、霧隠家七代目当主霧隠才蔵の名にかけて、落とさせやしないわ。」
雲と雲の隙間から漏れる日差しは、一直線に青年───霧隠才蔵へと注がれた────……
…まるで天から垂れた蜘蛛の糸のように
【プレイヤーNo.壱】
霧隠才蔵 ─キリガクレ サイゾウ─
性別 男性 職業 忍
【ノンプレイヤーNo.壱】
田宮良和 ─タミヤ ヨシカズ─
性別 男性 職業 大学生
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