家帰ってきたら、ケーキの彼女が首吊って死んでた。

橘スミレ

文字の大きさ
上 下
3 / 6

二品目 脚

しおりを挟む
 次はどこを食べようか。
 白くてふわふわとしたお腹か、ぎっしり詰まっていて食べごたえのありそうな頭か。
 いやいや、次は脚でしょう。

 私は腕と同じように真っ白な脚に包丁を入れた。

 モルはいわゆる病んでいる状態にあったがリストカットやレッグカットはしなかった。前に聞いたら痛いのは嫌いだからしないといっていた。
 痛いのは嫌。だから首を吊ったのかもしれない。確かに痛くはなさそうだ。苦しそうだけれども。
 あとモルは血も怖がった。真っ赤な血は不気味で恐ろしくて、みているだけで疲れるといっていた。
 血は何よりも生命を感じさせられる。だから、生きるという行為に対して疲れを感じるモルには過度な疲労に見えて恐ろしかったのだろう。本当に、今日までお疲れ様だ。

 私はモルの脚を頬張った。外はもちもちとやわらかくてお餅のよう。でも中は少しひんやりとしていて口の中でスッと溶けていく。この食感はアイスクリームだ。
 お餅の中にアイスクリーム、さらにチョコレートという3段構え。
 これはとっても美味しい。アクセントにまたもや酸味が加わっていて食べやすい。
 さっきと似ていて飽きそうに見えたが、ひんやりとした食感が甘さを新たなステージへと連れて行ってくれたのでまだまだ食べれる。

 爪のあたりは少し硬くてパリパリと割れる。飴のようだ。モルがよく空の涙だって言ってた。
 空の涙はやわらかく甘かった。
 それこそモルが好きそうな味だ。

 モルは食事をするときどんな味がするか教えてくれた。
 例えば朝ごはん。食パンは毛布に包まれるような優しい味。はちみつはねっとりとついて離れない幸せの味。いちごは弾けるような幸せの中に指をぎゅっとしたくなる刺激の入った味。ソーセージはじゅわぁぁって広がっていく味。

 全部説明してくれた。だからモルとの食事は楽しかった。モルを食べることも楽しめている。
 全部、モルのおかげなのだ。
 そして今もモルのおかげで味を知っている。
 結局味覚は全てモルに教わることになった。想像の味も、本当の味も、全てモルに教わった。
 今もこうやって色々な「甘い」を教わっている。モルに頼りすぎて申し訳なくなってしまう。
 けれど、これはモルが望んだこと。だから私は全てを食べる。
 それが弔いな気がする。
 ユメを食べて私の中に弔う。土葬や火葬があるが、モルに相応しいお葬式はきっと私の中に埋めて一体化することなのだ。
 だから私は食べなければならない。モルの望みを叶えて、弔い、天国への道を開かなければならない。たとえ私が地獄は落ちようとも、モルが天国に行けるならばそれで良い。
 だって私はモルを愛しているのだから。

 私はモルを弔っている。
 私はモルの両足を食べきった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト

待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。 不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった! けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。 前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。 ……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?! ♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

婚約破棄を喜んで受け入れてみた結果

宵闇 月
恋愛
ある日婚約者に婚約破棄を告げられたリリアナ。 喜んで受け入れてみたら… ※ 八話完結で書き終えてます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...