【第一部完結済】〇〇しないと出れない50の部屋に閉じ込められた百合カップル

橘スミレ

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ユキと千夜 気に食わないけど実力は認めてるケンカップル

お互いの嫌いなところを10個言うまで出れない部屋

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 大嫌いな課題と戦って寝落ちして、気がつけば見知らぬ部屋にいた。
 隣で何かの回路を書いていた大嫌いなルームメイトもいた。

「最悪だよ」
「それはこっちのセリフ」

 やれやれといった風に首を振る彼女はユキだ。
 学校一の天才少女と呼ばれている。

 だが私からしたらただの幼児だ。
 人体実験だと言って私に変な液体を塗ってきたことがあった。
 一時間後には全身が痒くなった。
 ユキはそれを見て満足そう笑っていた。
 それこそ大好きなお菓子をいっぱい食べた子供のような顔をしていた。

 だから私は思った。

「ユキ。今度は何をするつもり?」

 絶対にユキの仕業だと。
 またここで実験するつもりだと。

「いや。今回は違う。私も被害者。私は何にもしてない」
「嘘でしょ」
「いや本当。信じて!」

 この声色は本当の時の感じだ。
 中学高校で今日までの5年間を共に過ごしたからわかる。
 なぜか常に同じクラスな上に、寮の部屋まで同じだったからわかる。
 これはマジのやつだ。
 真逆の自体だ。
 これがユキ以外の誰がこんなことをするというのか。

「とりあえずそこの扉壊せない?」
「無茶言わないで」

 一応蹴ってみるがまるでスポンジを蹴ったかのように衝撃が吸収された。
 扉には傷ひとつついていない。

「役立たず。教室のドアは壊すくせにここのドアは壊せないなんて」
「うるさい!」

 一度ユキと放課後の教室で喧嘩をした時にドアにぶつかって壊してしまったことがあった。
 あのあと急いでドア枠に戻したので怒られることはなかった。
 でもユキにことあるたびに「千夜は重たいもんね」といじられた。
 女子校だったから足に蹴りを入れる程度で済ませてやってるがもし共学ならあの綺麗な顔面に拳を喰らわせてやってる。

「で、どうするの? ドアは開かないけどどうやって脱出するの」
「実はね、こんなのを拾ったんだ」

 ユキがポケットから一枚のカードを取り出した。

「〇〇しないと出れない50の部屋?」
「そう。私たちはこのカードに書いてある命令に従うまでこの空間から出れないみたいだよ。まあこのカードは部屋と言っているけどここには窓がないから部屋とは呼べないけどね」
「ここが部屋かどうかはどうでもいい。その命令はなんなの?」

 自分からしたら窓があろうがなかろうが部屋だと思う。
 そして僕はさっさとこの部屋から出て課題を終わらさなければならない。
 ちゃんと出さないと次の練習に参加できない。顧問が怒る。

「お互いの嫌いなところを十個言うまで出れない部屋だって」
「簡単じゃねえか」

 大嫌いなユキの嫌いなところを十個言うなどなんて簡単な命令なのだろう。簡単すぎて笑える。

「僕から言うよ。まず一々細かいとこと。無駄に頭が良いところ。それと何かと煽ってくるところ。集中していると邪魔するところ。それでいて私が仕返しすると尋常じゃないくらい怒るところ。なのに無駄に顔がいいからモテるところ。そしてメンヘラとヤンデレを製造して僕に押し付けるところ。寝坊は多いし、寝起きが悪いところ。足が遅いし体力がないところ。あと、不健康な生活をしているところ」

 日ごろを鬱憤を吐き出してやった。
 ちょっとスッキリした。

「なかなかな言いようだね。でも最後のは心配してくれてるのかい?」
「違う! ユキの生活は見てるだけで健康に悪いんだよ」

 朝は食べず昼は菓子パン、夜はカップラーメンなどという酷い食生活。
 さらに毎朝はやいとわかっているのに夜中まで作業して、オールもよくあるけれど学校では寝ないゆえの目の下の隈。
 見てるだけで頭がおかしくなりそうだ。

「そうかい。まあ自分で直す気はないけどね」

 気に食わないなら僕が朝昼晩を用意しろと言うことだ。
 腹立つことこの上ない。
 でも見ていると吐きそうなので仕方なく、仕方なく食事を準備してやっている。

「次は私の番だね。ええっと。まず背が高いところ。無駄に足が速いところ。それを一々確認してはこれみよがしに喜ぶこと。頭が悪いところ。それをどうにかしようとしないところ。無駄にイケメンムーブを身につけてるところ。すぐ彼女を作っては自慢するところ。別れるたびに異常なくらい落ち込むところ。一々人の生活に口を出すところ。無駄に生活力が高いところ」
「最後は無駄じゃないし褒めてるでしょ」
「千夜が生活力を持っていたところでなんの役に立つの。どうせヒモを飼うことになるだけだよ」
「それはない!」

 ただ人に頼ることを目的とした人間は嫌いだ。
 できないから頼るのではなく頼るために頼る。そういった人間は大嫌いなユキよりもごめんだ。

「そうかな。まあどっちでも良いか。扉は開いたみたいだし次の部屋へ行こう」
「そういえばあと49部屋あるんだったね」
「お。その計算はできるんだ」
「そうやって一々煽るなっつってるでしょ」

 言い合いながらも次の部屋へと移る。
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