百合短編集

橘スミレ

文字の大きさ
上 下
6 / 9

彼女をデートに誘いたい!

しおりを挟む
 終業式が終わった。
 あの校長の長ったるい話も大量の表彰も終わった。
 生活指導の先生のお小言も終わった。
 残るは長いようで短い夏休み。

「後悔しない選択を」

 起きた時に聞こえた校長の言葉がよみがえってくる。
 私ならできる。大丈夫。
 彼女をデートに誘える!

 私には超絶かわいい彼女がいる。
 賢くてかわいい最強の彼女だ。
 それこそ、私では釣り合わないくらいに素晴らしい人だ。

 その彼女をデートに誘いたいのだ。
 デート? 付き合ってるならそれくらい簡単でしょ。
 そう思う方もいるかもしれない。
 しかーし、私には当てはまらない。

 まず付き合っているからこその緊張感がある。
 デートと声をかけることによって付き合っていることを再度認識しドキドキしちゃうんですよ。はい。
 そして、今まで自分からデートを誘ったことがないわけですよ。これまた緊張するわけだ。
 付き合う前は遊びに行こうと誘ったことがあった。同性なため、友達として遊びに行く体で話せた。しかし今は誤魔化せない。ちゃんとデートなわけですよ。緊張しちゃう。

 だがしかし。私はどうしても夏休みに彼女と一緒に花火大会に行きたいんです!
 まず私からデートを誘うことで私が彼女を愛していることを表現したい。
 そして浴衣姿の彼女を見たい。一緒に屋台回りたい。暗いところだから手を繋ぎたい。
 花火大会とは青春の夢が詰まったスペシャルイベントだ。
 これを逃すわけにはいかない。

 放課後、教室でお弁当を食べる彼女にロックオン。今しかない。

「やっほー。突然だけどさ、夏休みにデートいかない?」

 シミュレーション通りに、なんでもない提案のように声をかける。

「行く。行きたい。いつあるの?」

 よし。了承をもらえた。第一関門クリア。
 あとは日付を確認し、浴衣着てくれたら嬉しいアピールをすればミッションコンプリートだ。

「八月の三日」
「その日は予定入ってるな……」

 なんと先約が。これは想定外だ。
 まずい。どうしよう。

 私は焦りに焦って今にも暴れ出しそうになった。
 しかし彼女はまた私の想定を超えた発言をする。

「断っとかないと」
「え? いいの?」
「もちろん。だって彼女が珍しく自分から誘ってくれたデート。これより大事な用事なんてないよ」

 私との予定が何よりも大事だって。そんなの、嬉しすぎて死んじゃいそう。

「本当にいいの?」
「もちろん。なんだったら指切りでもする?」
「いやいい。ただ嬉しすぎただけ」
「それならよかった」

 彼女は箸を手に取る。お弁当から美味しそうな唐揚げを摘み上げ、私の方へ向ける。

「はい、あーん」
「ん。……美味しい」

 衣の油と肉の旨みが合わさって幸せな味を生み出している。ほんと美味しい。

「自分からデートに誘えたご褒美。また誘ってね」

 この時の彼女の笑顔は今までで一番可愛かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...