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アイアンメイデンを愛した彼女
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ある町を治める貴族の子にアリスのいう少女がいた。
アリスは赤子のころに熱湯を浴びてしまった。今でも顔の半分ほどを火傷痕が占めている。
「穢らわしい。近づかないでくださる?」
「なんだ、いたのか。はやく部屋は戻れ」
アリスの両親や兄妹はアリスを気持ち悪がって近づこうともしない。
侍女にも近づかぬよう命じた。
それどころか、ことあるごとに地下の拷問室にアリスを閉じ込めるのだ。
「目障りなんだ。ここに入ってろ」
「……わかりました」
拷問室には古今東西から集めた拷問器具が所狭しと並んでいる。
光源は小窓から廊下の明かりが入ってくるだけで、とても薄暗い。
そんな部屋の中にアリスの唯一のお友達がいる。
「久しぶり。ミア。元気にしてた?」
アリスが話しかけているのは部屋の隅で数々の拷問を見守ってきたアイアンメイデンだ。
鉄の処女とも呼ばれるそれは内部にいくつもの針をもつ顔のついた鉄の筒。
拷問道具というより処刑道具に近いと思われる。
ここではもっぱら見せつけて恐怖を与えるための道具として使われていた。
「元気そうでなにより。あなたは本当にいい人よね。私のことを殴らないし罵らない」
アリスはアイアンメイデンの横に座った。
血生臭い匂いが漂ってくる。
何人もの血を含んでいて、ちょっとやそっとじゃあにおいは落ちない。
「お母さんなんて酷いんだよ! 私に無茶ばっかり言う。お風呂に入れてくれないし、体を洗うための水もくれないのに、臭い臭いというんだよ。そう思うんだったらせめて水桶と雑巾くらい使わせてくれてもいいよね」
アリスは誰にも言えない両親の愚痴をアイアンメイデンに話した。
「次はいつ外に出られるのかなぁ。日に一回はパンと水をくれるから死にはしないけど、あんまり暗いところにいると頭がおかしくなっちゃいそうだよ」
アリスはアイアンメイデンと話している時点でおかしいと気がついていない。
「ミアの体は冷たいけど、誰よりもあったっかい心を持っているよね。手が冷たい人は心があったかいっていうのは本当なんだね。前に妹が話してたのを聞いた時は嘘だと思ったけど」
アイアンメイデンは答えない。ただじっとアリスの熱を受け取っては消費して冷たくなるだけだ。
「本当にミアはいい子だ。ミア大好き」
アリスはアイアンメイデンにキスをした。
「ミアは私のこと、好き?」
アリスの問いは数々の悲鳴を吸ってきた部屋の壁に取り込まれて消えた。
「もう。つれないなぁ。私はミアがどう思ってようと大好きなんだからね。殺されるならミアに刺されて殺されたい。まぁそもそも死にたくないけど」
アリスはアイアンメイデンを愛おしそうに撫でる。
「ミアが私を殺したら私の血がミアにつくでしょ? そしたら私はミアの一部になれる。ずっと一緒になれるんだよ。それって結婚と一緒じゃん! ミアと結婚できるんだよ! 素敵だよね」
アリスは壊れたオルゴールのように笑った。
「あはは、あは、あははははは、はは、は」
笑って、笑い疲れて、アイアンメイデンによりかかるように眠りについた。
アリスは起きている時はずっとアイアンメイデンに話しかけていた。
「ミアはかっこいいねえ。自分で大切なものを守れるもん。こんなに硬かったらどんな剣でも切れないだろうね」
「ミアはかわいいね。優しさを表したような顔をしている」
「ミアは私と結婚するんだ。きっとウェディングドレスも似合うよ。でも、人間と同じのは着れないから作ってもらわないとね」
「ミアは私と一緒に暮らすんだ。美味しいものをたくさん食べたり、綺麗なドレスを着て踊ったりするんだ」
アリスが閉じ込められてから三ヶ月ほど経った頃。
父親によって扉が開かれ、アリスが連れ出された。
「ようやく醜いお前が役に立つ時がきた。妹の代わりに死ね」
アリスは王様に無礼を働いた妹の身代わりとなるよう命じられた。
「お父様。どうか私の処刑は地下牢にあるアイアンメイデンで行ってください」
「この後におよんで口答えなどするな。お前はただ黙って死ねはいい」
アリスは縄で縛られ、処刑場所まで運ばれた。
「ギロチン台?」
アリスがぼんやり台を見つめていると、執行人の男にに縄を引っぱられた。
「はやくしろ」
自分が今から殺されるという実感のないままギロチン台にいた。
アリスの首が台にセットされた。
そこでようやく死の実感が湧いた。
「やだ。いやだ。怖い」
恐怖でアリスの体が震えた。
「うるさい」
執行人に蹴り付けられた。
それでもアリスの口は開いたまま、悲鳴を垂れ流していた。
「ミア。ミアがいい。殺されるならミアがいい」
アリスの目から涙が流れた。
「黙れ」
執行人がアリスを踏みつける。
群衆からブーイングの嵐が巻き上がる。
「ミア。ミア。ミア!」
アリスは壊れたようにその名を呼んだ。
だが。
「これより死刑を執行する」
縄が切られ、ギロチンの刃が落ちた。
アリスの首が切り落とされ、赤い血が流れた。
アリスの血がアイアンメイデンと出会うことはなかった。
アリスとミアの婚姻は許されなかった。
アリスは赤子のころに熱湯を浴びてしまった。今でも顔の半分ほどを火傷痕が占めている。
「穢らわしい。近づかないでくださる?」
「なんだ、いたのか。はやく部屋は戻れ」
アリスの両親や兄妹はアリスを気持ち悪がって近づこうともしない。
侍女にも近づかぬよう命じた。
それどころか、ことあるごとに地下の拷問室にアリスを閉じ込めるのだ。
「目障りなんだ。ここに入ってろ」
「……わかりました」
拷問室には古今東西から集めた拷問器具が所狭しと並んでいる。
光源は小窓から廊下の明かりが入ってくるだけで、とても薄暗い。
そんな部屋の中にアリスの唯一のお友達がいる。
「久しぶり。ミア。元気にしてた?」
アリスが話しかけているのは部屋の隅で数々の拷問を見守ってきたアイアンメイデンだ。
鉄の処女とも呼ばれるそれは内部にいくつもの針をもつ顔のついた鉄の筒。
拷問道具というより処刑道具に近いと思われる。
ここではもっぱら見せつけて恐怖を与えるための道具として使われていた。
「元気そうでなにより。あなたは本当にいい人よね。私のことを殴らないし罵らない」
アリスはアイアンメイデンの横に座った。
血生臭い匂いが漂ってくる。
何人もの血を含んでいて、ちょっとやそっとじゃあにおいは落ちない。
「お母さんなんて酷いんだよ! 私に無茶ばっかり言う。お風呂に入れてくれないし、体を洗うための水もくれないのに、臭い臭いというんだよ。そう思うんだったらせめて水桶と雑巾くらい使わせてくれてもいいよね」
アリスは誰にも言えない両親の愚痴をアイアンメイデンに話した。
「次はいつ外に出られるのかなぁ。日に一回はパンと水をくれるから死にはしないけど、あんまり暗いところにいると頭がおかしくなっちゃいそうだよ」
アリスはアイアンメイデンと話している時点でおかしいと気がついていない。
「ミアの体は冷たいけど、誰よりもあったっかい心を持っているよね。手が冷たい人は心があったかいっていうのは本当なんだね。前に妹が話してたのを聞いた時は嘘だと思ったけど」
アイアンメイデンは答えない。ただじっとアリスの熱を受け取っては消費して冷たくなるだけだ。
「本当にミアはいい子だ。ミア大好き」
アリスはアイアンメイデンにキスをした。
「ミアは私のこと、好き?」
アリスの問いは数々の悲鳴を吸ってきた部屋の壁に取り込まれて消えた。
「もう。つれないなぁ。私はミアがどう思ってようと大好きなんだからね。殺されるならミアに刺されて殺されたい。まぁそもそも死にたくないけど」
アリスはアイアンメイデンを愛おしそうに撫でる。
「ミアが私を殺したら私の血がミアにつくでしょ? そしたら私はミアの一部になれる。ずっと一緒になれるんだよ。それって結婚と一緒じゃん! ミアと結婚できるんだよ! 素敵だよね」
アリスは壊れたオルゴールのように笑った。
「あはは、あは、あははははは、はは、は」
笑って、笑い疲れて、アイアンメイデンによりかかるように眠りについた。
アリスは起きている時はずっとアイアンメイデンに話しかけていた。
「ミアはかっこいいねえ。自分で大切なものを守れるもん。こんなに硬かったらどんな剣でも切れないだろうね」
「ミアはかわいいね。優しさを表したような顔をしている」
「ミアは私と結婚するんだ。きっとウェディングドレスも似合うよ。でも、人間と同じのは着れないから作ってもらわないとね」
「ミアは私と一緒に暮らすんだ。美味しいものをたくさん食べたり、綺麗なドレスを着て踊ったりするんだ」
アリスが閉じ込められてから三ヶ月ほど経った頃。
父親によって扉が開かれ、アリスが連れ出された。
「ようやく醜いお前が役に立つ時がきた。妹の代わりに死ね」
アリスは王様に無礼を働いた妹の身代わりとなるよう命じられた。
「お父様。どうか私の処刑は地下牢にあるアイアンメイデンで行ってください」
「この後におよんで口答えなどするな。お前はただ黙って死ねはいい」
アリスは縄で縛られ、処刑場所まで運ばれた。
「ギロチン台?」
アリスがぼんやり台を見つめていると、執行人の男にに縄を引っぱられた。
「はやくしろ」
自分が今から殺されるという実感のないままギロチン台にいた。
アリスの首が台にセットされた。
そこでようやく死の実感が湧いた。
「やだ。いやだ。怖い」
恐怖でアリスの体が震えた。
「うるさい」
執行人に蹴り付けられた。
それでもアリスの口は開いたまま、悲鳴を垂れ流していた。
「ミア。ミアがいい。殺されるならミアがいい」
アリスの目から涙が流れた。
「黙れ」
執行人がアリスを踏みつける。
群衆からブーイングの嵐が巻き上がる。
「ミア。ミア。ミア!」
アリスは壊れたようにその名を呼んだ。
だが。
「これより死刑を執行する」
縄が切られ、ギロチンの刃が落ちた。
アリスの首が切り落とされ、赤い血が流れた。
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