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第二十二話 終幕
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「……そっか。わかった。うん、ありがとうね、姉さん」
姉さんには何が起きているかさっぱりわからなかった。でも何かつらく、それでいて重要なことがあるのはわかった。逆にいえばそれ以上はなにもわからない。つまり、死神ちゃんを見ていることしか出来なかった。
死神ちゃんは今にも涙がこぼれ落ちそうなのを耐えながら、笑顔を作った。声は震えていた。
「姉さん、大好きだったよ。愛してたよ。今までありがとう」
死神ちゃんがだんだんと空気に溶けて透明になっていく。昼過ぎで明るいはずなのにどこか暗い空気に溶けていく。
「愛してた。愛してた。愛してた!」
その言葉を最後に死神ちゃんは静かに消滅した。まるで水が蒸発するかのように、空気に溶けて、存在ごと消え去った。死神ちゃんの服も、死神ちゃんが買った食器も、死神ちゃんが作ったプリンも、そして姉さんの持つ死神ちゃんの記憶も消えた。
記憶が消えた衝撃で姉さんがソファに倒れこんだ。
次起きた時には死神ちゃんという妄想すら残っていない。姉さんはただの少女になっているだろう。
制服を着て学校に通い学ぶ女子高生になっているだろう。人を殺し、血を飲み、死神ちゃんと過ごした日々など存在しなかったかのようにただの女子高生として生活していくだろう。
誰の記憶にも残らずそこにいたことを誰も証明できなくなる。それが存在ごと消失するということだ。
死神ちゃんの告白の一部始終をみていた偉い神は、一つ小さなため息をついた。
「消えてしまったか。上手くやってくれると思ったが、ダメか」
神は一人で原因を探る。どこで間違えたのか。どうすれば上手くいくか。告白のタイミングはいつが良かったか。何と言って告白するべきだったか。考えることは無限にある。そしてその思考の先にある正解を探し続ける。いつか死神が安定して増えることができるようにするため。
「また次のターゲットを探さなければ」
神はまた地上を見渡して両親を失い、自分自身も死にかけた人間を探し、人の血肉を好むよう仕向け、死神の妄想を送る。このようにして死神の生産元を作りつづけている。いつか、適合者が現れることを願っている。
「次はこの人にしてみようかな」
神は新たな犠牲者を選んだ。
刃物で切り付けられた男女の遺体。その前で泣き崩れ、自分自身も血まみれになっている幼い少女。目の前の男女は少女の両親で、少女を庇って旅立った。
少女の髪から滴る血が頬を伝って泣き叫んでいる彼女の口に入った。そこで彼女はその感覚を知ってしまう。
「ち、が……おいしい」
姉さんには何が起きているかさっぱりわからなかった。でも何かつらく、それでいて重要なことがあるのはわかった。逆にいえばそれ以上はなにもわからない。つまり、死神ちゃんを見ていることしか出来なかった。
死神ちゃんは今にも涙がこぼれ落ちそうなのを耐えながら、笑顔を作った。声は震えていた。
「姉さん、大好きだったよ。愛してたよ。今までありがとう」
死神ちゃんがだんだんと空気に溶けて透明になっていく。昼過ぎで明るいはずなのにどこか暗い空気に溶けていく。
「愛してた。愛してた。愛してた!」
その言葉を最後に死神ちゃんは静かに消滅した。まるで水が蒸発するかのように、空気に溶けて、存在ごと消え去った。死神ちゃんの服も、死神ちゃんが買った食器も、死神ちゃんが作ったプリンも、そして姉さんの持つ死神ちゃんの記憶も消えた。
記憶が消えた衝撃で姉さんがソファに倒れこんだ。
次起きた時には死神ちゃんという妄想すら残っていない。姉さんはただの少女になっているだろう。
制服を着て学校に通い学ぶ女子高生になっているだろう。人を殺し、血を飲み、死神ちゃんと過ごした日々など存在しなかったかのようにただの女子高生として生活していくだろう。
誰の記憶にも残らずそこにいたことを誰も証明できなくなる。それが存在ごと消失するということだ。
死神ちゃんの告白の一部始終をみていた偉い神は、一つ小さなため息をついた。
「消えてしまったか。上手くやってくれると思ったが、ダメか」
神は一人で原因を探る。どこで間違えたのか。どうすれば上手くいくか。告白のタイミングはいつが良かったか。何と言って告白するべきだったか。考えることは無限にある。そしてその思考の先にある正解を探し続ける。いつか死神が安定して増えることができるようにするため。
「また次のターゲットを探さなければ」
神はまた地上を見渡して両親を失い、自分自身も死にかけた人間を探し、人の血肉を好むよう仕向け、死神の妄想を送る。このようにして死神の生産元を作りつづけている。いつか、適合者が現れることを願っている。
「次はこの人にしてみようかな」
神は新たな犠牲者を選んだ。
刃物で切り付けられた男女の遺体。その前で泣き崩れ、自分自身も血まみれになっている幼い少女。目の前の男女は少女の両親で、少女を庇って旅立った。
少女の髪から滴る血が頬を伝って泣き叫んでいる彼女の口に入った。そこで彼女はその感覚を知ってしまう。
「ち、が……おいしい」
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六話感想
主人公ちゃんが仕事(死体の回収)してるうちに死神ちゃんが買い物に行ったり家事をする。夫婦かな?
死神ちゃんの存在は主人公ちゃんしか知らなかったのか、それとも、四話で肉体が出来てから「なんか凄そうな人に魂を回収するためにあんたのところにいなさいって言われた」とあるので死神ちゃんの存在を知っていて見守っている人が居たのか。その凄そうな人が受肉したのを感知して死神ちゃんの存在を知った前者の可能性もある
回収した魂を運んだ先で、その凄そうな人と直接的にか間接的に繋がりがあって認知されていたのかも
あと、四話で「可愛いの摂取過多で死にそうである。いや、それで殺せたら楽すぎるが。」とあるのでそれが主人公ちゃんのことならやっぱり人間じゃない……?
五話感想
そもそもこの主人公ちゃんって人間なんだろうか。死神ちゃんの料理食べるまでは血以外のものを食べても不味すぎて吐き出してたってくらいだから吸血鬼とかに近い存在? 人間じゃないとしたらそれがいつからなのかも気になる
小さい体でテキパキとやることやってご飯準備してくれる死神ちゃんは健気で仕事もできそうですね! 細い腕を震わせながら料理を持ってくる姿に庇護欲
お互いがお互いにほっとけないと思っていそうな関係……
ありがとうございます!
/⌒ヽ
/⌒ *、 >
O ̄U) ε |
O ̄∩) ' >