7 / 22
第七話 買物
しおりを挟む
「あ、買い物に行かないと!」
死神ちゃんはいそいそと先ほどもらったワンピースに着替える。頭につけている真っ黒なリボンはそのままにした。
お財布をポシェットに入れ、黒いブーツを履き、扉を開く。真昼の太陽が眩しい。目を細めつつ町へ向かう。
彼女がやってきたのは町の商店街。彼女の存在が生まれるときに一緒にインプットされた多くの人間の衣食住に従って買い物をする。
「こんにちは!キャベツとジャガイモと……あとイチゴをいただける?」
まずは八百屋のおじさんに声をかけた。
「おや、お嬢ちゃん。見ない顔だね」
おじさんは不思議そうに彼女の顔を覗き込む。こんな時の対処法を彼女は知っていた。魂を渡しにいく途中でこう問われていた者を見かけたからだ。
「あたしはちょっと前にあっちの方に引っ越してきたのよ」
そういうとおじさんはにっこり笑顔なった。
「そうかい。じゃあ遠くからお使いにきたお嬢ちゃんにはおまけにタマネギつけたげるよ」
そう言っておじさんはキャベツやジャガイモの入った紙袋にタマネギをのせた。さらにビニールの袋にイチゴのパックを包んで一緒の袋に入れた。彼女はポシェットからお財布を取り出す。
「おいくらかしら」
「800円だよ」
「はい」
「ちょうどだね。また来てくれよ」
「ええ。さようなら」
彼女は八百屋をあとにした。彼女は軽くスキップしながら次の店へ向かう。
彼女がやってきたのは陶器店。今朝ぐちゃぐちゃの台所を整理したところ、包や鍋、フライパンなどは無事だったが皿はほとんど割れていた。かろうじて残っていたもので朝食は食べたがあれでは足りない。だから買いにきた。
「いらっしゃい」
今度は優しそうなおばさんに話しかけられた。
「こんにちは。姉さんと私のお皿が欲しいの。何かいいのあるかしら?」
「ならそうね……これなんてどうかしら」
おばさんが持ってきたのは色違いの丸い皿。片方は桃色、もう片方は水色である。
「可愛いわね。この色のお茶碗とスープカップもあるかしら」
「ええ。あるわよ」
「ならそれも」
「わかった。今持ってくるわね」
おばさんはそう言って奥へ歩いて行った。そのあいだに死神ちゃんはまわりを見渡す。着物を着たおばあさんが使っていそうな湯呑みや舞踏会で使われていそうな大皿まで多種多様な食器が揃っている。
とあるティーカップが彼女の目にとまった。それは真冬の新雪のような白いカップに静脈血のように暗い赤の花模様が入ったものだった。このカップに血を注いだらどれほど映えるだろうか。このカップから血を飲む姉さんはどれほど美しいだろうか。
「ほら。とってきたよ」
おばさんに声をかけられた。そうだ。食器を買いに来ていたんだった。
「ありがとう。これもお願いできるかしら」
そう言って姉さん用のティーカップをソウサーごと渡す。
「わかったわ。これも包んでおくね」
「おいくら?」
「3000円よ」
「はい」
「3000円きっかりもらったよ。じゃあ包むからちょっと待っててね」
おばさんは一皿ずつ手際よく新聞紙で包んでゆく。見惚れている間に終わってしまう。
「重たいから気をつけるんだよ」
「はーい!」
死神ちゃんは本日最後の目的地へ向かった。その頃姉さんが苦しそうにうめいていることも知らずに。
死神ちゃんはいそいそと先ほどもらったワンピースに着替える。頭につけている真っ黒なリボンはそのままにした。
お財布をポシェットに入れ、黒いブーツを履き、扉を開く。真昼の太陽が眩しい。目を細めつつ町へ向かう。
彼女がやってきたのは町の商店街。彼女の存在が生まれるときに一緒にインプットされた多くの人間の衣食住に従って買い物をする。
「こんにちは!キャベツとジャガイモと……あとイチゴをいただける?」
まずは八百屋のおじさんに声をかけた。
「おや、お嬢ちゃん。見ない顔だね」
おじさんは不思議そうに彼女の顔を覗き込む。こんな時の対処法を彼女は知っていた。魂を渡しにいく途中でこう問われていた者を見かけたからだ。
「あたしはちょっと前にあっちの方に引っ越してきたのよ」
そういうとおじさんはにっこり笑顔なった。
「そうかい。じゃあ遠くからお使いにきたお嬢ちゃんにはおまけにタマネギつけたげるよ」
そう言っておじさんはキャベツやジャガイモの入った紙袋にタマネギをのせた。さらにビニールの袋にイチゴのパックを包んで一緒の袋に入れた。彼女はポシェットからお財布を取り出す。
「おいくらかしら」
「800円だよ」
「はい」
「ちょうどだね。また来てくれよ」
「ええ。さようなら」
彼女は八百屋をあとにした。彼女は軽くスキップしながら次の店へ向かう。
彼女がやってきたのは陶器店。今朝ぐちゃぐちゃの台所を整理したところ、包や鍋、フライパンなどは無事だったが皿はほとんど割れていた。かろうじて残っていたもので朝食は食べたがあれでは足りない。だから買いにきた。
「いらっしゃい」
今度は優しそうなおばさんに話しかけられた。
「こんにちは。姉さんと私のお皿が欲しいの。何かいいのあるかしら?」
「ならそうね……これなんてどうかしら」
おばさんが持ってきたのは色違いの丸い皿。片方は桃色、もう片方は水色である。
「可愛いわね。この色のお茶碗とスープカップもあるかしら」
「ええ。あるわよ」
「ならそれも」
「わかった。今持ってくるわね」
おばさんはそう言って奥へ歩いて行った。そのあいだに死神ちゃんはまわりを見渡す。着物を着たおばあさんが使っていそうな湯呑みや舞踏会で使われていそうな大皿まで多種多様な食器が揃っている。
とあるティーカップが彼女の目にとまった。それは真冬の新雪のような白いカップに静脈血のように暗い赤の花模様が入ったものだった。このカップに血を注いだらどれほど映えるだろうか。このカップから血を飲む姉さんはどれほど美しいだろうか。
「ほら。とってきたよ」
おばさんに声をかけられた。そうだ。食器を買いに来ていたんだった。
「ありがとう。これもお願いできるかしら」
そう言って姉さん用のティーカップをソウサーごと渡す。
「わかったわ。これも包んでおくね」
「おいくら?」
「3000円よ」
「はい」
「3000円きっかりもらったよ。じゃあ包むからちょっと待っててね」
おばさんは一皿ずつ手際よく新聞紙で包んでゆく。見惚れている間に終わってしまう。
「重たいから気をつけるんだよ」
「はーい!」
死神ちゃんは本日最後の目的地へ向かった。その頃姉さんが苦しそうにうめいていることも知らずに。
0
応援・感想ありがとうございます!執筆のモチベーションになっています
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
アラフォーOLとJDが出会う話。
悠生ゆう
恋愛
創作百合。
涼音はいきなり「おばさん」と呼び止められた。相手はコンビニでバイトをしてる女子大生。出会いの印象は最悪だったのだけれど、なぜだか突き放すことができなくて……。
※若干性的なものをにおわせる感じの表現があります。
※男性も登場します。苦手な方はご注意ください。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
わたしと彼女の●●●●●●な関係
悠生ゆう
恋愛
とある会社のとある社員旅行。
恋人(女性)との仲がうまくいていない後輩(女性)と、恋人(男性)からプロポーズされた先輩(女性)のお話。
そして、その旅行の後……
【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、娘の幼稚園の親子イベントで娘の友達と一緒にいた千春と出会う。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになると思うのでご安心ください。

犬になりたい葛葉さん
春雨
恋愛
社内SEの葛葉凪紗(くずは なぎさ) 26歳の人生最大の夢は"誰かの犬になって飼われること"。誰にも言えずにいる夢を抱いてる中で出会ったのが総務部に異動してきた夏目玲央(なつめ れお) 24歳。
飲み会で酔い潰れた凪紗を玲央の家に招き入れたところから始まる、飼い主×犬の年下攻めラブコメ社会人百合。
カクヨムにも同時投稿中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる