ハニートリップ

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19.

海の日

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 私たちの町には海がない。

「アンタ、海行ったことあるん?」
「ないない」

 クラス替えがあったが運良く小学校からの親友と再び同じクラスになった。
二人でいるといつも怖いもの知らずなところがあった。

「海も知らんとか私たちダサない?」
「やばいな」
「来週行こか、ゴールデンウイークで暇やし」
「それ、どうやって行くん?」
「知らん」

 早速調べてみると電車、バス、高速バス、再びバスの順で乗り継げば隣の県の海水浴場まで辿り着くようだった。

 当日、私は家から弟のバケツと虫とり網を持って向かい、親友は大きな保冷バッグを持って向かった。乗り継ぎはうまくいった。

 バスを降りると私たちの地元とは空気の匂いが全然違った。

「なんやわかめスープみたいな匂いしてきとることない?」
「ほんとや」

 砂浜を初めて歩いた。
途中から砂に足を取られ、うまく歩けなくなった。
二人ともスニーカーを脱いで素足で歩いた。砂は思ったより滑らかでひんやりしていた。
遠くではザアザアと風の音と波の音がしていた。

 やっとのことで海の見えるところまでたどり着いた。
私たちは「わあ!」と歓声を上げた。

 海は広い、まさにそう思った。
海水に少し浸かると、波が足の甲をさらさらと砂と一緒に撫でていった。

しばらく波打ち際で遊んでいたら気付いたことがあった。

「魚がおらん」
私たちは履いていた学校のジャージを膝上までまくり、網とバケツで海の中をバシャバシャと探った。でも何もいなかった。

「砂の中にカレイおるかも」
今度は砂の中を探ってみた。
海水が濁るまでかき回した。
でも何もいなかった。

 最後に波打ち際を両手であちこち掘り起こしたがハマグリの一つも出てこなかった。

結局、何も獲れなかった。

「思ったほどやなかったなあ」
「せやね」

二人で近くのコンビニに行き、サイダーを買って帰った。
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