ハニートリップ

17.

同居人

　同居人はすごく騒がしい男であり俺はほとほと困り果てている。

「晴れてる！起きろ！」
窓もカーテンも全開にされ、布団の上から足で踏みつけてくる。

俺は仕方なしに起きる。
まだ朝五時だった。

　同居人と俺は部屋着でコンビニの駐車場をまわって煙草の吸殻を拾い集めていた。

「ギリギリまで吸うなよ、ケチくせぇ」
同居人は憤慨しながらも手際良く吸殻を拾っていた。

　部屋に戻った。
部屋は四畳の風呂なしボロアパート。
互いの万年床にそれぞれ座り、俺らは拾ってきた吸殻に火をつけ吸った。

「俺のセブンスターだったわ、ラッキー」と同居人はニコチンを逃すまいとちゅーちゅーと煙草に吸いついた。

　昼になり、同居人は最近はじめた蕎麦屋のバイトに原付に乗って行った。
俺は楽器屋のバイトに歩いて行った。

　同居人は案外働きもので、バイト先からは重宝されているらしい。

　俺は楽器屋で本の検品をし、試奏の終えたギターを磨いていた。
すると急にまだバイトの最中のはずの同居人が現れた。
見慣れない大きなジャンパーを羽織っていて、シャンパーの下には蕎麦屋の制服を着ていた。

「これ！」
と同居人は紙タオルに包んだ何かを俺に差し出してきた。
「早めに食べてちょ、揚げたてだから！」
と言って階段を駆け上がってすぐに居なくなった。

　バックヤードで紙の中を覗いてみれば、海老天が一本入っていた。

　夜になり帰宅すると、同居人はまだ帰ってきていないようだった。
駐輪場に原付がなかった。

結局その夜は帰って来なかった。

　次の日、俺はすっかり寝坊した。
俺を踏みつけて起こす同居人がいなくなったからだ。

俺はバイトを休んで彼の働く蕎麦屋に行った。無断欠勤しているようだった。
その日も彼は帰って来なかった。

　そしてまた次の日、俺はバイトの帰りに警察署へ行って届出を出した。
彼の本名を知らなかったので、彼の原付のナンバーを伝えて調べてもらった。
そしたらそれは盗品だと言うことがわかった。

　来る日も来る日も静かな朝だった。
半年後も同居人は帰って来なかった。

　俺は部屋を引き払い、隣町に引っ越した。

　借りた部屋の近所に蕎麦屋を見つけて俺は海老天そばを注文した。