ハニートリップ

16.

星のまたたき

　暗闇になかなか目が馴れなかった。
地面は少しぬかるんでいて、歩くたびにカエルでも踏み潰しているような感覚がして背筋がゾワゾワした。

たくさんの虫の声が辺りを包み、宇宙を泳ぐように手探りで進んでいくと、大きなキャンプファイヤーの炎が見えた。

　キャンプファイヤーに近づくと頬がジンジンと照らされた。
少女は担任の先生に駆け寄った。

「熱、下がった？」と、先生に聞かれ、少女は小さく頷いた。
炎に照らされる先生の顔はいつも以上に優しそうに思えた。

　クラスメイトたちのほとんどは部屋に戻っていた。
少女は青いビニールシートに座った。
靴下越しでもひんやりしているのが伝わった。
プールの底にいるみたいだった。

遠くではまだ炎が高く燃え盛っていた。

　すると、「熱、下がった？」と、一人の少年が近づいてきて隣に座った。少女は小さく頷いた。
「いいもんあるよ」
少年は炎を背に少女に話しかけた。
「上見て」
少女が上を向くと空一面に星が広がっていた。
こんなにたくさんの星は少女の住んでいる街では見たことがなかった。
空気がとても澄んでいて、雨上がりの匂いが気持ちが良かった。

「よく見て、星が大きくなったり、小さくなったりしてるから」
少年の言う通り、星たちは呼吸をするように身を収縮させ、それぞれまばらに光を放っていた。

　流れ星が流れた。
少女は目を輝かせて夜空を指差した。

少年は「あれは、死んだ星」と静かに少女に伝えたら悲しそうに目を伏せた。

「でもあの星たちはみんな生きてる」と少年は空を大きく仰いだ。

「・・・・僕らも生きてる」と少年が呟けば少女は頬を弛め、ゆっくり頷いた。

　星のまたたきに合わせて二人は静かに呼吸をした。静かな夜だった。