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桜
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僕が生まれたのは崖の下。
でもきっと本当に生まれたところはどこかの産婦人科。
僕は春に生まれた。歳は三十歳後半くらいらしい。
アパートの布団を畳み、玄関に掛けてある上着を羽織り、警察署でもらったスニーカーを履いて外に出た。
僕は生まれて三年目。
初めて病院の外で春を迎える。橋の下を覗くと川が流れていていた。
河原の公園では子供の声が響いていた。
僕はずれ落ちてくる眼鏡を掛け直し歩き出した。
町の眼鏡屋に新しい眼鏡を受け取りに行った。
与えられた名前を言えば眼鏡が差し出された。
べっ甲色の眼鏡で、掛けると僕は、気難しそうな大正時代の作家のような顔になった。
最近流行の色と形らしい。
よく考えると少し派手すぎるような気もしたけれど、視界は良好だった。
古い眼鏡は新しいケースにしまってもらった。
レンズは傷つき、フレームも歪んでいたが、この眼鏡は昔自分が見ていたであろう景色をよく知っている大事な相棒だと思ったからだ。
眼鏡屋の紙袋をぶら下げて河原に降りてみた。いつもより水面が輝き、ゆったりと泳ぐ魚が見えた。
子供たちは遊んでいた。僕もかつてブランコに乗って遊んでいたのだろうか。
大きな木を見上げれば、空を捕まえようとしなやかに枝を広げ、もくもくと雲のように白いたくさんの花を身にまとい、肩には小鳥を携えていた。
「桜ってこんなに白かったっけ」
風がそよげば僕の頬を撫で、木の枝を揺らし、はらはらと紙吹雪のように花を散らす。
雲の切れ間からは陽が照り、まるで神様に祝福されているような気持ちになった。
「誕生日ってこんな感じかな」
と、僕は笑った。
毎年ここに来ればこの桜が祝福してくれるのかもしれない。僕が生まれたことを。
でもきっと本当に生まれたところはどこかの産婦人科。
僕は春に生まれた。歳は三十歳後半くらいらしい。
アパートの布団を畳み、玄関に掛けてある上着を羽織り、警察署でもらったスニーカーを履いて外に出た。
僕は生まれて三年目。
初めて病院の外で春を迎える。橋の下を覗くと川が流れていていた。
河原の公園では子供の声が響いていた。
僕はずれ落ちてくる眼鏡を掛け直し歩き出した。
町の眼鏡屋に新しい眼鏡を受け取りに行った。
与えられた名前を言えば眼鏡が差し出された。
べっ甲色の眼鏡で、掛けると僕は、気難しそうな大正時代の作家のような顔になった。
最近流行の色と形らしい。
よく考えると少し派手すぎるような気もしたけれど、視界は良好だった。
古い眼鏡は新しいケースにしまってもらった。
レンズは傷つき、フレームも歪んでいたが、この眼鏡は昔自分が見ていたであろう景色をよく知っている大事な相棒だと思ったからだ。
眼鏡屋の紙袋をぶら下げて河原に降りてみた。いつもより水面が輝き、ゆったりと泳ぐ魚が見えた。
子供たちは遊んでいた。僕もかつてブランコに乗って遊んでいたのだろうか。
大きな木を見上げれば、空を捕まえようとしなやかに枝を広げ、もくもくと雲のように白いたくさんの花を身にまとい、肩には小鳥を携えていた。
「桜ってこんなに白かったっけ」
風がそよげば僕の頬を撫で、木の枝を揺らし、はらはらと紙吹雪のように花を散らす。
雲の切れ間からは陽が照り、まるで神様に祝福されているような気持ちになった。
「誕生日ってこんな感じかな」
と、僕は笑った。
毎年ここに来ればこの桜が祝福してくれるのかもしれない。僕が生まれたことを。
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