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10.
まあるい心
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甘いもの、大好き。大、大、大好き。
レモン味のマカロンとかベリーの乗ったタルトが一番好き。
お隣さんに貰ったおまんじゅうもお煎餅もいらないわ。
干し柿なんてもってのほか。
なんだか干からびた蝙蝠みたい。
少女は庭の落ち葉を竹箒で掃きながら干し柿のぶら下がった軒下を見上げ、不貞腐れていた。
箒を少し乱暴に仄暗い蔵の中に放り投げる。
蜘蛛の巣だらけで、梅酒の樽や漬物の樽がたくさん置いてあり、酸っぱくてカビ臭くてすぐにドタンと戸を閉めた。
縁側で最新号のファッション紙を広げる。少女がいつも最初に開くのは後ろのページからで、プレゼントコーナーやスイーツのコラムによく目を通していた。
「表参道のタルト専門店がフランスの有名パティシエとコラボ、宝石のように輝く山盛りのフルーツ、あー、最高!」
いつの間にか日が暮れ、家の中に戻った。夕飯は白いご飯とお味噌汁とさばの塩焼きと野菜炒めだった。
その翌日。
「ふうきまめ、東京さ行って買ってきてくれやあ、明日まで、あるんだと」
彼女の祖母が炬燵に脚を伸ばし、しわくちゃの手でデパートのチラシを広げていた。
「何それ?豆?」と少女が聞き返すと、
「うんめぇお菓子だ、お隣さんも好きでな。金やっから、買うきてみんしゃ」
と、テッシュ紙にそそくさと数千円包み祖母は少女に渡した。
「豆なんて、別にいらない」
「多めに包んどいたっけぇ、好きなお菓子も買ってきんしゃ、お母さんには、内緒だで」
少女は少し考えて「わかった」と言い口を尖らせながらポケットにお金をしまった。
電車を乗り継ぎ、少女は朝早くに東京へ出た。デパートは混雑していて、少女は人の波に揉まれながら、ふうきまめと書いてあるのぼりを探した。
「このふうきまめ、ひとつ。あ、やっぱりふたつ。」
和紙の包装紙に包まれた箱を適当に指差してお店の人に伝えた。
紙袋を抱えて地域物産展コーナーを抜けた。
「年寄りばっかりじゃない!」と険しい顔をしながらも少女は祖母からの頼まれごとを済ませ、そそくさと昨日雑誌で見たタルト専門店に向かった。
ティータイムより早く入店したので割とすぐに座れてラッキーだった。
自分と同じく一人で来ている人も多いようで安堵した。
しかしケーキの値段は高く、先程のふうきまめ一箱と同等の値段だった。
財布を手元で確認したら少し足りなかった。
「お決まりでございますか」と、美しい女性店員がにこやかに訪ねてきた。
少女は「クリームチーズタルトください」と言った。
「お飲み物はいかがなさいますか」との問いには
「お水を、ください」と答えた。
少女はお店で一番安いタルトを注文した。
手にじとりと汗をかき、耳まで赤くなっていた。
家に帰ることができたのは夕暮れ時だった。
少女の祖母は蜜柑を剥いていた手を止め、声をあげて喜んだ。
「お金、足りたんか、二つも買うてきて」
「うん、お隣さんにもあげて」
「あんたは、本当によくでぎた子だな」
夕飯は炊き込みご飯とお味噌汁とピーマンの肉詰めと煮物だった。
食後に彼女が祖母と食べたふうきまめは丸くて柔らかくて優しい味をしていた。
レモン味のマカロンとかベリーの乗ったタルトが一番好き。
お隣さんに貰ったおまんじゅうもお煎餅もいらないわ。
干し柿なんてもってのほか。
なんだか干からびた蝙蝠みたい。
少女は庭の落ち葉を竹箒で掃きながら干し柿のぶら下がった軒下を見上げ、不貞腐れていた。
箒を少し乱暴に仄暗い蔵の中に放り投げる。
蜘蛛の巣だらけで、梅酒の樽や漬物の樽がたくさん置いてあり、酸っぱくてカビ臭くてすぐにドタンと戸を閉めた。
縁側で最新号のファッション紙を広げる。少女がいつも最初に開くのは後ろのページからで、プレゼントコーナーやスイーツのコラムによく目を通していた。
「表参道のタルト専門店がフランスの有名パティシエとコラボ、宝石のように輝く山盛りのフルーツ、あー、最高!」
いつの間にか日が暮れ、家の中に戻った。夕飯は白いご飯とお味噌汁とさばの塩焼きと野菜炒めだった。
その翌日。
「ふうきまめ、東京さ行って買ってきてくれやあ、明日まで、あるんだと」
彼女の祖母が炬燵に脚を伸ばし、しわくちゃの手でデパートのチラシを広げていた。
「何それ?豆?」と少女が聞き返すと、
「うんめぇお菓子だ、お隣さんも好きでな。金やっから、買うきてみんしゃ」
と、テッシュ紙にそそくさと数千円包み祖母は少女に渡した。
「豆なんて、別にいらない」
「多めに包んどいたっけぇ、好きなお菓子も買ってきんしゃ、お母さんには、内緒だで」
少女は少し考えて「わかった」と言い口を尖らせながらポケットにお金をしまった。
電車を乗り継ぎ、少女は朝早くに東京へ出た。デパートは混雑していて、少女は人の波に揉まれながら、ふうきまめと書いてあるのぼりを探した。
「このふうきまめ、ひとつ。あ、やっぱりふたつ。」
和紙の包装紙に包まれた箱を適当に指差してお店の人に伝えた。
紙袋を抱えて地域物産展コーナーを抜けた。
「年寄りばっかりじゃない!」と険しい顔をしながらも少女は祖母からの頼まれごとを済ませ、そそくさと昨日雑誌で見たタルト専門店に向かった。
ティータイムより早く入店したので割とすぐに座れてラッキーだった。
自分と同じく一人で来ている人も多いようで安堵した。
しかしケーキの値段は高く、先程のふうきまめ一箱と同等の値段だった。
財布を手元で確認したら少し足りなかった。
「お決まりでございますか」と、美しい女性店員がにこやかに訪ねてきた。
少女は「クリームチーズタルトください」と言った。
「お飲み物はいかがなさいますか」との問いには
「お水を、ください」と答えた。
少女はお店で一番安いタルトを注文した。
手にじとりと汗をかき、耳まで赤くなっていた。
家に帰ることができたのは夕暮れ時だった。
少女の祖母は蜜柑を剥いていた手を止め、声をあげて喜んだ。
「お金、足りたんか、二つも買うてきて」
「うん、お隣さんにもあげて」
「あんたは、本当によくでぎた子だな」
夕飯は炊き込みご飯とお味噌汁とピーマンの肉詰めと煮物だった。
食後に彼女が祖母と食べたふうきまめは丸くて柔らかくて優しい味をしていた。
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