10 / 24
10.
まあるい心
しおりを挟む
甘いもの、大好き。大、大、大好き。
レモン味のマカロンとかベリーの乗ったタルトが一番好き。
お隣さんに貰ったおまんじゅうもお煎餅もいらないわ。
干し柿なんてもってのほか。
なんだか干からびた蝙蝠みたい。
少女は庭の落ち葉を竹箒で掃きながら干し柿のぶら下がった軒下を見上げ、不貞腐れていた。
箒を少し乱暴に仄暗い蔵の中に放り投げる。
蜘蛛の巣だらけで、梅酒の樽や漬物の樽がたくさん置いてあり、酸っぱくてカビ臭くてすぐにドタンと戸を閉めた。
縁側で最新号のファッション紙を広げる。少女がいつも最初に開くのは後ろのページからで、プレゼントコーナーやスイーツのコラムによく目を通していた。
「表参道のタルト専門店がフランスの有名パティシエとコラボ、宝石のように輝く山盛りのフルーツ、あー、最高!」
いつの間にか日が暮れ、家の中に戻った。夕飯は白いご飯とお味噌汁とさばの塩焼きと野菜炒めだった。
その翌日。
「ふうきまめ、東京さ行って買ってきてくれやあ、明日まで、あるんだと」
彼女の祖母が炬燵に脚を伸ばし、しわくちゃの手でデパートのチラシを広げていた。
「何それ?豆?」と少女が聞き返すと、
「うんめぇお菓子だ、お隣さんも好きでな。金やっから、買うきてみんしゃ」
と、テッシュ紙にそそくさと数千円包み祖母は少女に渡した。
「豆なんて、別にいらない」
「多めに包んどいたっけぇ、好きなお菓子も買ってきんしゃ、お母さんには、内緒だで」
少女は少し考えて「わかった」と言い口を尖らせながらポケットにお金をしまった。
電車を乗り継ぎ、少女は朝早くに東京へ出た。デパートは混雑していて、少女は人の波に揉まれながら、ふうきまめと書いてあるのぼりを探した。
「このふうきまめ、ひとつ。あ、やっぱりふたつ。」
和紙の包装紙に包まれた箱を適当に指差してお店の人に伝えた。
紙袋を抱えて地域物産展コーナーを抜けた。
「年寄りばっかりじゃない!」と険しい顔をしながらも少女は祖母からの頼まれごとを済ませ、そそくさと昨日雑誌で見たタルト専門店に向かった。
ティータイムより早く入店したので割とすぐに座れてラッキーだった。
自分と同じく一人で来ている人も多いようで安堵した。
しかしケーキの値段は高く、先程のふうきまめ一箱と同等の値段だった。
財布を手元で確認したら少し足りなかった。
「お決まりでございますか」と、美しい女性店員がにこやかに訪ねてきた。
少女は「クリームチーズタルトください」と言った。
「お飲み物はいかがなさいますか」との問いには
「お水を、ください」と答えた。
少女はお店で一番安いタルトを注文した。
手にじとりと汗をかき、耳まで赤くなっていた。
家に帰ることができたのは夕暮れ時だった。
少女の祖母は蜜柑を剥いていた手を止め、声をあげて喜んだ。
「お金、足りたんか、二つも買うてきて」
「うん、お隣さんにもあげて」
「あんたは、本当によくでぎた子だな」
夕飯は炊き込みご飯とお味噌汁とピーマンの肉詰めと煮物だった。
食後に彼女が祖母と食べたふうきまめは丸くて柔らかくて優しい味をしていた。
レモン味のマカロンとかベリーの乗ったタルトが一番好き。
お隣さんに貰ったおまんじゅうもお煎餅もいらないわ。
干し柿なんてもってのほか。
なんだか干からびた蝙蝠みたい。
少女は庭の落ち葉を竹箒で掃きながら干し柿のぶら下がった軒下を見上げ、不貞腐れていた。
箒を少し乱暴に仄暗い蔵の中に放り投げる。
蜘蛛の巣だらけで、梅酒の樽や漬物の樽がたくさん置いてあり、酸っぱくてカビ臭くてすぐにドタンと戸を閉めた。
縁側で最新号のファッション紙を広げる。少女がいつも最初に開くのは後ろのページからで、プレゼントコーナーやスイーツのコラムによく目を通していた。
「表参道のタルト専門店がフランスの有名パティシエとコラボ、宝石のように輝く山盛りのフルーツ、あー、最高!」
いつの間にか日が暮れ、家の中に戻った。夕飯は白いご飯とお味噌汁とさばの塩焼きと野菜炒めだった。
その翌日。
「ふうきまめ、東京さ行って買ってきてくれやあ、明日まで、あるんだと」
彼女の祖母が炬燵に脚を伸ばし、しわくちゃの手でデパートのチラシを広げていた。
「何それ?豆?」と少女が聞き返すと、
「うんめぇお菓子だ、お隣さんも好きでな。金やっから、買うきてみんしゃ」
と、テッシュ紙にそそくさと数千円包み祖母は少女に渡した。
「豆なんて、別にいらない」
「多めに包んどいたっけぇ、好きなお菓子も買ってきんしゃ、お母さんには、内緒だで」
少女は少し考えて「わかった」と言い口を尖らせながらポケットにお金をしまった。
電車を乗り継ぎ、少女は朝早くに東京へ出た。デパートは混雑していて、少女は人の波に揉まれながら、ふうきまめと書いてあるのぼりを探した。
「このふうきまめ、ひとつ。あ、やっぱりふたつ。」
和紙の包装紙に包まれた箱を適当に指差してお店の人に伝えた。
紙袋を抱えて地域物産展コーナーを抜けた。
「年寄りばっかりじゃない!」と険しい顔をしながらも少女は祖母からの頼まれごとを済ませ、そそくさと昨日雑誌で見たタルト専門店に向かった。
ティータイムより早く入店したので割とすぐに座れてラッキーだった。
自分と同じく一人で来ている人も多いようで安堵した。
しかしケーキの値段は高く、先程のふうきまめ一箱と同等の値段だった。
財布を手元で確認したら少し足りなかった。
「お決まりでございますか」と、美しい女性店員がにこやかに訪ねてきた。
少女は「クリームチーズタルトください」と言った。
「お飲み物はいかがなさいますか」との問いには
「お水を、ください」と答えた。
少女はお店で一番安いタルトを注文した。
手にじとりと汗をかき、耳まで赤くなっていた。
家に帰ることができたのは夕暮れ時だった。
少女の祖母は蜜柑を剥いていた手を止め、声をあげて喜んだ。
「お金、足りたんか、二つも買うてきて」
「うん、お隣さんにもあげて」
「あんたは、本当によくでぎた子だな」
夕飯は炊き込みご飯とお味噌汁とピーマンの肉詰めと煮物だった。
食後に彼女が祖母と食べたふうきまめは丸くて柔らかくて優しい味をしていた。
1
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
今年も夏がくるな。
羽結乃
恋愛
男女5人からなる、オリジナル朗読劇台本です。
5人の恋模様を、各々の視点から書き進めました。
およそ2時間を目処に読み切れる作品だと思います。
金銭が発生しない場合のみ、自由に使っていただいて構いません。
金銭の発生する舞台、イベント、配信で使用する場合はお声がけください。
https://twitter.com/hayuno0923?s=21&t=RYuQdIX6MCNFnVKSUg3KiQ
使用する際は作者名をどこかに記載お願い致します。
作品の潤色、改変は不可です。
演じる方の性別は問いませんが、キャラクターの性別の改変は禁止致します。
いろんな方の朗読が聞きたいので、声かけてくださった場合にはできる限り聞きに行きたいです♪
男性3人
女性2人
兼ね役男女1人ずつ
※セリフ以外のモノローグ部分は、〇〇sideと記載のある〇〇のキャラクター役の方がお読み下さい。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
痴漢列車に挑む痴漢Gメン女子高生レイコ
ムーワ
大衆娯楽
朝の通勤電車はラッシュ時はギュウギュウ詰めの混雑状態!
その混雑を利用して女子高生を中心に若い女の子をターゲットに頻繁に痴漢を繰り返す謎の男。
実際に痴漢にあっても怖くて何もいえず、泣きながら鉄道警察隊に相談する女子高生もいて、何度か男性の鉄道警察隊員が変装をして捕まえようとするが捕まえることができず、痴漢被害は増加する一方。
そこで鉄道警察隊はエリート大卒新人のレイコ氏に相談すると、レイコはとんでもない秘策を思いついた。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる