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09.
罰
しおりを挟む長い毛足の純白のコートを身に纏った男は夜道を早足で闊歩していた。
彼はサングラスの奥の瞳孔を大きく開き、ひび割れた地面をその目でギロギロと追った。
彼は冬なのにだらだらと額に汗をかいていた。それなのに身体はとても冷えており、
風に吹かれるたび身を強張らせた。
男は夜間病院へ向かっていた。だらだらと流れるのは汗だけではなかった。
腹部からはとくとくと血を流し、男はシャツを脱ぎ、止血のため強く巻きつけていた。
こんな日に限って白い上着とは運が悪かった。
彼は出来るだけ騒動にしたくなかったので、街灯の少ない道を選び、上着に血が付かないよう丁寧に扱った。
すると前方から黒いロングコートを羽織り、たなびかせながら別の男が歩いてきた。
黒い男は目深にハットを被っており、表情がわからない。
カツカツと男の数メートル先まで詰め寄り、懐から黒い塊をおもむろに取り出した。
白い男はもうこの場で自分はくたばるのだと思った。
黒い男の漆黒のピストルから放たれる弾丸が高速で夜の冷気を引き裂き自分の額を打ち抜く。パーンと。
あぁ、呆気ない人生だった。
次第に頭からどんとん血の気が引いていくのを感じた。
気分が悪くなり、よろけ、路肩に嘔吐した。体力の限界だった。
「殺してくれ」と願った。
だが彼が気を失う寸前に見たものは、黒い男が黒い皮の手袋をただゆっくりと手に嵌め、通り過ぎていく後ろ姿だった。
枝を切り落とされた木々の杭に刺さりながら彼は白い夢の中に一気に引きずり込まれた。
男が目を覚ましたら仰向けに寝かされていた。
目を細め、うっすら見えるのは白い天井。真っ先に聞こえたのはすすり泣く女の声。
「ごめんなさい」と、何度も震える声で言い続ける女。
「どうして、ここへ」
「探したの」と、鼻をすすりながら俯いて肩を震わせる女。
男が黙っていると彼女が続けた。
「もう私たち、駄目になっちゃったよね」
「ああ」
男は虚空を見つめ小さく呟いた。
「友達でいるのも、難しいよね」
「そうだな」
話すことがなくなった二人は点滴が落ちる様をしばらく見つめていた。
女は小さなカバンを手に静かに病室を出て行った。
廊下を歩く彼女のパンプスの音がだんだんと遠のき、パタリと消えた。
腹部に手を当てたら、しっかりと包帯が巻かれていた。
男はナースコールを押した。すぐに医師と看護師が中に入ってきた。
「帰りたいのですが」
男が言うと、医師は全く耳を貸さず、看護師は呆れた顔をしていた。
「一体どうしてこんなことになったんですか」
「自分でやりました」
「どうして」
「罰です」
その頃、さっきまで病室で泣きじゃくっていた女は自室の床にオキシドールを大量に撒き、無表情に血痕を拭っていた。
そして夜、冬のドブ川にナイフを捨てた。
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