ハニートリップ

Maybetrue Books

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05.

ハローハロー

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「ちょっと荷物多いんで、どこに置いた方がいいですか?」

「ありがとうございます、お外にまとめて置いてもらえると助かります」

 お店にアメリカからの荷物が届いた。姉が買付けに行っていたビンテージ雑貨たち。

愛らしいぬいぐるみやポップなカラーの家具が所狭しと並んだ狭い店内。
パニエで広がったさくらんぼ柄のスカートで器用にすり抜け、受け取りのサインをする。

 宅配の人と入れ替わりですぐ姉が帰ってきた。色違いのさくらんぼ柄のスカートだった。

「あれれ、またお洋服被っちゃった」
「お帰りなさい、今日はブラウスの色は被らなかったね」

 私と姉は双子の姉妹。常連のお客さんも顔の区別がつかないぐらい私たちは良く似ている。
趣味や趣向も似ている。

 ただ、妹である私は小さい頃、体が弱くクラスに馴染めず学校を休みがちだったのと、学校の勉強が苦手で姉のように渡航して英語で現地の人たちと会話することが出来ない。

でも私たちの関係はとても良好。

両親が私たちの成人を見届けてすぐ事故で死んでしまったけれど、今は大好きな姉と一緒にお店を持てて、とても幸せ。

雑誌掲載のお話もたくさん来て、お店も今一番軌道に乗っている。

「早速、開けてあげましょう、ぬいぐるみさんたち、入らなくてギューギューに入れちゃったから」

少しずつ、抱えられるだけ箱から出して店の奥へと運ぶ。
「可愛い、この子も可愛い」
「見てみて、この子の瞳、ガラスで出来ているの。目があった時、運命感じちゃった」
深い緑色の目をしたテディベアの毛並みを撫でながら姉は微笑んでいた。

 すると私たちの側に小さな男の子が駆け寄ってきて私たちの方を交互に見た。
「これ、くま、これ、うさぎ、ねこ」

「そうだよー」
私は箱を覗き込む男の子の側に屈んで、色々なぬいぐるみを見せてあげた。

「みんな外国からお友達になってくれる人を探しにきてるの」
私がそう言うと男の子はポカンと口を開いていた。

「飛行機とか、船は好きかな?」
と、姉も一緒に私の隣に屈んで男の子に話しかけた。

「うん、ふね、おとうさんとのったことある!ひこうきはね、こんどおばあちゃんちにいくとき。だめってなったらくるま」

「いっぱい冒険したいよね、いっぱい冒険したらいっぱいお話し聞かせてね」
私がそう言うと男の子は「わかった」と言って母親の元へ力強く走って行った。

 ひとつずつ値札をつけて店内に海の向こうからやってきたアクセサリーたちを飾る。
運命の人に見つけてもらえるように。

おもちゃの手鏡は少女の成長を見守ってきた母のような存在。きれいに磨く。
また次の女の子を見守って欲しくて。

パステルカラーのダイアル式電話はもう使えないけど、外国でも天国でもどこへでも繋がる気がする。

「もしもし、ハローハロー、お父さん、お母さん、こんにちは!」
私は電話するそぶりをして、ひとりでくすくす笑った。

店内ディスプレイで大忙しの姉には気付かれなかった。

「いらっしゃいませー!」

私たちの物語ははじまったばかり。
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