ハニートリップ

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02.

夢うつつ

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「子供が生まれたの」

「え?」
 彼女はハッとした。また自分は眠りこけていたのだった、と。

「ごめんね、ちょっと意識が飛んじゃって」
「また?大丈夫?」

 友人の女が眉間にシワと寄せて覗き込んでくる。喫茶店のドアの鐘が遠くで鳴った。

「子供が生まれたの、たくさん、どうしようと思って」

「誰の子供?」
 彼女がそう言うと少しつまらなそうな顔をして友人はため息をついた。

「猫だよ、うちの半野良の猫」
「あぁ、なんだ」
「なんだじゃなくて、野良の親猫が育児放棄してもうどっか行っちゃって。うちのお母さんが今日にでも川に沈めちゃおうって」
「うわ、お母さん過激派!」

 彼女は友人の母親の顔を思い浮かべた。
晴れた日にベランダで布団を干しながら明るい声で話しかけてくれた。お日様のイメージ。

「私もどうしようもないの、だって子猫たち死ぬの待ちみたいなの辛いじゃん、
見てらんない。だから早めにって」
「過激派遺伝子だなー」

 友人と別れてから彼女は古いビルテナントの階段に座り込んでいた。
歩けないくらい、とても眠くなったのだ。

 その時、大きな白黒の猫が目の前をのしのしと尾を立て横切って行った。かっこいいと思った。

 日射しに目を伏せてコンクリートの上の落ち葉を見ていた。風を感じ、目を瞑った。

 そして、たくさんの猫に囲まれ、暖かい絨毯の上で昼寝をする夢を見た。

目の前は少し霞がかっていて、猫を触ったらなかなかの柔らかさだった。

 目を覚ました頃には日暮れになっていた。

何度かくしゃみをして、パーカーのファスナーを上げ、彼女は家路についた。
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