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ヒロインが貪欲すぎて――怖い。
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「逆ハーレムを築いて、酒池肉林したい」
冒頭で欲望を漏らした彼女には前世の記憶があり、今世は乙女ゲームのヒロイン――櫻井 円佳である。
「なんて、自分の欲望に素直なヒロインなんだ!」
円佳の前で目を見開いて引き気味なのは今世での彼女の妹――薫。
薫曰く「俺の死因ってさ! 青春真っ只中にトラックにはねられてんの! もう、テンプレ過ぎる死に方で逆に笑うわ。しかも、はまっていた乙女ゲームのヒロインの妹として転生とかって、ありきたりっしょっ!」と、やや自慢気味に円佳に捲し立てていた。
因みに薫の前世は男だったらしく「TSだよ! TS! 性・転・換! 女になるんだったら同じくらい、はまっていた百合ゲーの方に転生させて欲しかった!」と、終始愚痴をこぼす。
「この世界は乙女ゲームの世界で、ヒロインは姉ちゃんなんだぜ!」
真剣な面持で上記の言葉を薫に言われたのは、学園の入学式前。
つまり、春休み真っ只中の事だった。
「しっかし、姉ちゃん。簡単に俺の話を信じたなー。前世で乙女ゲームをやった事ないんだろ?」
薫の告白と同時に、円佳も薫に告白をしていたのだ。
――私も、転生者であると。
薫は、円佳も前世の記憶もちという事を聞き、驚きもしたが納得もした。きっと、姉も前世で同じ乙女ゲームにハマったくちだろうと。「前世は男だったから、傍観する振りをしてヒロインの座とか狙うなんてしねーから安心しろよ!」と冗談を交えて話したが、よくよく円佳の話を聞くと、前世である姉の生きた場所は全然違う世界という。
円佳は薫の問いに、頬杖をつきつつため息もついた。
「前世が……前世だからね」
円佳の前世は“聖母”だった。
いつも微笑みを絶やさず人を憎まず己を律し、人の為に生きていた。
そして聖母の周りには沢山の人がいた。
皆、聖母を愛していた。
「ほら? うっすい人生だったでしょ? だから薫の話は神様からのご褒美と思ったのよ」
「いや、聖母だろ? しかも愛され聖母だろ?! すごい偉人じゃん! 俺なんかよりも濃すぎる人生送ってたじゃん! 何言ってんの!!」
「……兎に角、ベロニカさんが羨ましかったのよ」
「文脈が読めないんだけどっ!!」
ベロニカさんというのは、パン屋の奥さんで旦那に隠れて愛人を3人作っていた肉食系の人妻だった。
「後、ソフィアさんなんて……女王様だったし?」
「女王様って何? 王妃様? いや、皇后様的なのだよね? 夜のじゃないよね?!」
宿屋のソフィアさんも凄かった。
彼女目当てに、宿屋へ泊りに来る冒険者も数多くいた。そして、依存症になった男達の金も吸い取っていたという。
「それに、エリザベリス・イオネッティーラ=ライオネルなんかさー」
「名前立派! 長すぎて覚えられない!」
貴族の“地下室の遊び”の主催者であるエリザベリスは、屋敷の地下で仮面を付け顔を隠し、パートナーを変えての乱交パーティーを繰り返していた。
誰にでも優しい聖母様。
その白き優しさに包まれると王家も貴族も平民も罪人も皆、聖母である円佳に懺悔し告白した。
“聖母様、聞いて下さいませんか?“
こう言って始まる人々の懺悔。
人々の欲望と罪の話が、円佳に降り注がれていった。
皆、ある程度年を取ると落ち着いて来て(主に性欲が)円佳に懺悔をしてきたのである。お陰で実体験もないのに、知識だけはどんどん増えていったのだった。
『私は恥ずかしくも***(破廉恥ムンムン)~な事をしてきました。こんな私でも神の国にいけるでしょうか』
懺悔する者達は円佳に告白した後、憑き物が落ちたかのようにスッキリとした顔をして神殿を後にしたのだ。
円佳は言いたかった。
彼、彼女の肩を掴み、言いたかった。
――自慢か。
あの当時の聖母の周りには、年端のいかない子供たちと老人。人の良さそうな中年女性ばかりで、盛りのついた男共がいなかった。たまに出逢う事があっても聖母様をそういう対象になんて恐れ多い。神に対し皆、性欲がわかなかったのだ。
清く、正しく……と、無理矢理に生かされていた円佳は、恋愛の『れ』の字も知らず、結婚なんてとんでもない。まっさらのまま神に召されていった。寿命を全うした聖母に対して、その国の多くの人が涙し、国中の花が手向けられた。
死の淵際に聖母が願った事も知らず……。
「それが、酒池肉林に繋がるわけ?」
「今度こそ、イケメンをはべらして、ウハウハな人生を送りたい」
「……ここに、聖母様の信者がいなくてよかった」
乙女ゲームのヒロインらしく、美少女の容姿をもった円佳。
儚い笑顔を浮かべながら、言った言葉は下種かった。
「……言いにくいけど、難しいよ? 特にこのゲームは」
「!! 逆ハーレムエンドがあるって嘘なの!?」
咄嗟に薫の胸倉を掴んでねじ上げる。
苦しそうに顔を歪めているけど、大丈夫。これくらいで死にはしないからと円佳は微笑んだ。
「げほげほげほ、じ、じぬ゛……」
「え? 弱っ!」
顔が土色の薫に円佳の手が緩む。
トラックにはねられた直後に行った三途の川らしきものが見えた。と文句を言いながら薫は話を続けた。
「はぁ……この世界ってさ、ヤンデレ乙女ゲームだから」
「ヤンデレ?」
「そう、精神的に病んでいるイケメン達を攻略していくゲーム」
「何? 舞台は精神病院なの? 入院したら出逢えるの? ちょっと、紹介状書いてもらってくる」
「いや、姉ちゃんが入学する学園だから安心して」
前世の事を話したら簡単に精神病院にいれてもらえると思ったが、別にそこまでしなくてもいいという。初心者ヒロインに優しいシステムで安心する円佳。
「その病んでいる攻略対象者の心の傷を癒していくと、相手はおちるんだけど……」
「病んでいるって……例えば、罪のない老若男女数百人を串刺しにして、自宅の庭に飾ったとか? 両親がカルト教祖をやっていて、牛や馬と交わっている所を目撃したとか? 魔力が暴走して学園の生徒が焼け死んでいく様子を見て発狂したとか? そんな感じ?」
「何、そのハードなの……病む度合いが半端ないよ。そんな乙女ゲームのヒーロー達なんていないよ」
「そう? 今考えると……みんな私に癒されたみたいだったけど、恋人になってくれなかった……。なんなの、あいつら……死ねばいいのに。って、もう死んでるか。…………ざまーみろ。アハハ」
瞳に光を宿さなくなった円佳に対し『マジ、ヤンデル人がここにいた!』と思わず両手で自分を抱きしめた薫。
ここで“幼い頃から両親に虐待され、心に傷を負ったせいで人を信じなくなった生徒会長”……なんてキャラ説明をしても、姉に鼻で嗤われるのは目に見えていた。
「姉ちゃん……“逆ハーレム”なんか現実的じゃないし、攻略するつもりなら1人にしぼった方がさ、堅実的だって」
「私は薄いスープのような人生は、一回やったの。今度は原液で濃いドロドロの人生を謳歌したいの」
「……刺されたりするかもよ?」
「それで死んでも『我が生涯に一片の悔いなし』と、こぶしを天にあげてみせる」
「世紀末覇者的発想!」
渋る薫を説き伏せ、とうとう待ちに待った入学式の日をむかえた。
入学式から帰って来た円佳に対し、眉をハの字にさせた薫が駆け寄る。
昨夜レクチャーした展開が、ちゃんと行われたか心配でならなかったのだ。
「どう? 入学式のイベントはこなせた? ちゃんと迷子になった?」
「……迷子になったし、イベントらしきものもあったけど」
「けど?」
「女の子しか周りにいなかった」
「はぁ?!」
衝撃の事実が明らかになった。
円佳の通う学園は、今年から男女の校舎がわかれ、実質的に女子高になっていたのだ。
「やけにツンツンしている長髪の生徒会長の女の子と、同級生はツインテールの眼鏡理系ロリと早速友達になった」
「はぁ!!!!…………って、そのキャラ設定知ってるし!」
薫が「ヤンデレ乙女ゲー」と思っていたこの世界だったが、実はもう1本のお気に入りのゲーム。薫が望んでやまない「百合ゲー」の展開がこれから繰り広げられるのだが……。
――1年後。
「百合もいいもんね。女の子は柔らかくていいわ」
円佳は次々に届くLINEの返信を打ちながら、薫とアイスフロートを飲んでいた。
「まさか本当に……百合とはいえハーレムを築くとは」
「……女の子同士の方が、何かと楽だしね。避妊とか気を使わなくてもいいし。道具は使うけど」
ふぅ。と、アイスフロートを飲みながら窓辺の桜を眺める美少女。
その間にもLINEの通知音は止め処無く流れていた。
「もう嫌だ! こんなヒロイン嫌だ! ってか、羨ましい! 交ぜろ!」
前世、生娘だった円佳同様、チェリーボーイだった薫は、活き活きとした姉を見てハンカチを噛むほど羨ましがった。
そして、数日後に入学する俺も、姉同様に百合ハーレムを築こうと心に誓ったのだ。
しかし。
なぜか、書類のミスと制服の発注ミスにより、男装して男子の校舎の方に入学してしまう事になった薫。そこで迷子となり出逢ったのが――幼い頃から両親に虐待され、心に傷を負った事で人を信じなくなった生徒会長。そして、次々と絡んでくる攻略対象者達。(*皆ヤンデレ)
「姉ちゃ~~ん!! ヤンデレ怖いよぉ! すぐに監禁宣言するんだぜ! もう、交代して!」
ヤンデレは二次元に限ると、泣き付く薫。
そんな妹を憐れに思った円佳は、制服のタイを緩めながらベッドサイドに腰かけた。
「交代は嫌だけど、ヤンデレくらい全部引き受けようか?」
「マジで?!」
「マジで」
ハーレムを築き、性生活も含め順風満帆な生活を謳歌していた円佳は、いつもに増してキラキラとした微笑みを浮かべる。
前世――聖母として生きていた円佳は『人たらし』だった。
その特技を生かし、次々と攻略対象者達をひれ伏させていった。
そんな姉の姿を間近で見てきた薫は『姉は世界一の結婚詐欺師にでもなれるだろう。そして、今世では碌な死に方をしない』そう確信したという。
こうして、円佳の濃すぎる酒池肉林生活は、嫉妬に狂った恋人の一人に刺されるまで続いたのだ。
入院中、お見舞いに来ていた薫に対して円佳は言った。
「折角、病院にいるんだから本当に病んでいる人を攻略しちゃおうか?」
「このヒロイン! 貪欲すぎて、マジ怖い!」
冒頭で欲望を漏らした彼女には前世の記憶があり、今世は乙女ゲームのヒロイン――櫻井 円佳である。
「なんて、自分の欲望に素直なヒロインなんだ!」
円佳の前で目を見開いて引き気味なのは今世での彼女の妹――薫。
薫曰く「俺の死因ってさ! 青春真っ只中にトラックにはねられてんの! もう、テンプレ過ぎる死に方で逆に笑うわ。しかも、はまっていた乙女ゲームのヒロインの妹として転生とかって、ありきたりっしょっ!」と、やや自慢気味に円佳に捲し立てていた。
因みに薫の前世は男だったらしく「TSだよ! TS! 性・転・換! 女になるんだったら同じくらい、はまっていた百合ゲーの方に転生させて欲しかった!」と、終始愚痴をこぼす。
「この世界は乙女ゲームの世界で、ヒロインは姉ちゃんなんだぜ!」
真剣な面持で上記の言葉を薫に言われたのは、学園の入学式前。
つまり、春休み真っ只中の事だった。
「しっかし、姉ちゃん。簡単に俺の話を信じたなー。前世で乙女ゲームをやった事ないんだろ?」
薫の告白と同時に、円佳も薫に告白をしていたのだ。
――私も、転生者であると。
薫は、円佳も前世の記憶もちという事を聞き、驚きもしたが納得もした。きっと、姉も前世で同じ乙女ゲームにハマったくちだろうと。「前世は男だったから、傍観する振りをしてヒロインの座とか狙うなんてしねーから安心しろよ!」と冗談を交えて話したが、よくよく円佳の話を聞くと、前世である姉の生きた場所は全然違う世界という。
円佳は薫の問いに、頬杖をつきつつため息もついた。
「前世が……前世だからね」
円佳の前世は“聖母”だった。
いつも微笑みを絶やさず人を憎まず己を律し、人の為に生きていた。
そして聖母の周りには沢山の人がいた。
皆、聖母を愛していた。
「ほら? うっすい人生だったでしょ? だから薫の話は神様からのご褒美と思ったのよ」
「いや、聖母だろ? しかも愛され聖母だろ?! すごい偉人じゃん! 俺なんかよりも濃すぎる人生送ってたじゃん! 何言ってんの!!」
「……兎に角、ベロニカさんが羨ましかったのよ」
「文脈が読めないんだけどっ!!」
ベロニカさんというのは、パン屋の奥さんで旦那に隠れて愛人を3人作っていた肉食系の人妻だった。
「後、ソフィアさんなんて……女王様だったし?」
「女王様って何? 王妃様? いや、皇后様的なのだよね? 夜のじゃないよね?!」
宿屋のソフィアさんも凄かった。
彼女目当てに、宿屋へ泊りに来る冒険者も数多くいた。そして、依存症になった男達の金も吸い取っていたという。
「それに、エリザベリス・イオネッティーラ=ライオネルなんかさー」
「名前立派! 長すぎて覚えられない!」
貴族の“地下室の遊び”の主催者であるエリザベリスは、屋敷の地下で仮面を付け顔を隠し、パートナーを変えての乱交パーティーを繰り返していた。
誰にでも優しい聖母様。
その白き優しさに包まれると王家も貴族も平民も罪人も皆、聖母である円佳に懺悔し告白した。
“聖母様、聞いて下さいませんか?“
こう言って始まる人々の懺悔。
人々の欲望と罪の話が、円佳に降り注がれていった。
皆、ある程度年を取ると落ち着いて来て(主に性欲が)円佳に懺悔をしてきたのである。お陰で実体験もないのに、知識だけはどんどん増えていったのだった。
『私は恥ずかしくも***(破廉恥ムンムン)~な事をしてきました。こんな私でも神の国にいけるでしょうか』
懺悔する者達は円佳に告白した後、憑き物が落ちたかのようにスッキリとした顔をして神殿を後にしたのだ。
円佳は言いたかった。
彼、彼女の肩を掴み、言いたかった。
――自慢か。
あの当時の聖母の周りには、年端のいかない子供たちと老人。人の良さそうな中年女性ばかりで、盛りのついた男共がいなかった。たまに出逢う事があっても聖母様をそういう対象になんて恐れ多い。神に対し皆、性欲がわかなかったのだ。
清く、正しく……と、無理矢理に生かされていた円佳は、恋愛の『れ』の字も知らず、結婚なんてとんでもない。まっさらのまま神に召されていった。寿命を全うした聖母に対して、その国の多くの人が涙し、国中の花が手向けられた。
死の淵際に聖母が願った事も知らず……。
「それが、酒池肉林に繋がるわけ?」
「今度こそ、イケメンをはべらして、ウハウハな人生を送りたい」
「……ここに、聖母様の信者がいなくてよかった」
乙女ゲームのヒロインらしく、美少女の容姿をもった円佳。
儚い笑顔を浮かべながら、言った言葉は下種かった。
「……言いにくいけど、難しいよ? 特にこのゲームは」
「!! 逆ハーレムエンドがあるって嘘なの!?」
咄嗟に薫の胸倉を掴んでねじ上げる。
苦しそうに顔を歪めているけど、大丈夫。これくらいで死にはしないからと円佳は微笑んだ。
「げほげほげほ、じ、じぬ゛……」
「え? 弱っ!」
顔が土色の薫に円佳の手が緩む。
トラックにはねられた直後に行った三途の川らしきものが見えた。と文句を言いながら薫は話を続けた。
「はぁ……この世界ってさ、ヤンデレ乙女ゲームだから」
「ヤンデレ?」
「そう、精神的に病んでいるイケメン達を攻略していくゲーム」
「何? 舞台は精神病院なの? 入院したら出逢えるの? ちょっと、紹介状書いてもらってくる」
「いや、姉ちゃんが入学する学園だから安心して」
前世の事を話したら簡単に精神病院にいれてもらえると思ったが、別にそこまでしなくてもいいという。初心者ヒロインに優しいシステムで安心する円佳。
「その病んでいる攻略対象者の心の傷を癒していくと、相手はおちるんだけど……」
「病んでいるって……例えば、罪のない老若男女数百人を串刺しにして、自宅の庭に飾ったとか? 両親がカルト教祖をやっていて、牛や馬と交わっている所を目撃したとか? 魔力が暴走して学園の生徒が焼け死んでいく様子を見て発狂したとか? そんな感じ?」
「何、そのハードなの……病む度合いが半端ないよ。そんな乙女ゲームのヒーロー達なんていないよ」
「そう? 今考えると……みんな私に癒されたみたいだったけど、恋人になってくれなかった……。なんなの、あいつら……死ねばいいのに。って、もう死んでるか。…………ざまーみろ。アハハ」
瞳に光を宿さなくなった円佳に対し『マジ、ヤンデル人がここにいた!』と思わず両手で自分を抱きしめた薫。
ここで“幼い頃から両親に虐待され、心に傷を負ったせいで人を信じなくなった生徒会長”……なんてキャラ説明をしても、姉に鼻で嗤われるのは目に見えていた。
「姉ちゃん……“逆ハーレム”なんか現実的じゃないし、攻略するつもりなら1人にしぼった方がさ、堅実的だって」
「私は薄いスープのような人生は、一回やったの。今度は原液で濃いドロドロの人生を謳歌したいの」
「……刺されたりするかもよ?」
「それで死んでも『我が生涯に一片の悔いなし』と、こぶしを天にあげてみせる」
「世紀末覇者的発想!」
渋る薫を説き伏せ、とうとう待ちに待った入学式の日をむかえた。
入学式から帰って来た円佳に対し、眉をハの字にさせた薫が駆け寄る。
昨夜レクチャーした展開が、ちゃんと行われたか心配でならなかったのだ。
「どう? 入学式のイベントはこなせた? ちゃんと迷子になった?」
「……迷子になったし、イベントらしきものもあったけど」
「けど?」
「女の子しか周りにいなかった」
「はぁ?!」
衝撃の事実が明らかになった。
円佳の通う学園は、今年から男女の校舎がわかれ、実質的に女子高になっていたのだ。
「やけにツンツンしている長髪の生徒会長の女の子と、同級生はツインテールの眼鏡理系ロリと早速友達になった」
「はぁ!!!!…………って、そのキャラ設定知ってるし!」
薫が「ヤンデレ乙女ゲー」と思っていたこの世界だったが、実はもう1本のお気に入りのゲーム。薫が望んでやまない「百合ゲー」の展開がこれから繰り広げられるのだが……。
――1年後。
「百合もいいもんね。女の子は柔らかくていいわ」
円佳は次々に届くLINEの返信を打ちながら、薫とアイスフロートを飲んでいた。
「まさか本当に……百合とはいえハーレムを築くとは」
「……女の子同士の方が、何かと楽だしね。避妊とか気を使わなくてもいいし。道具は使うけど」
ふぅ。と、アイスフロートを飲みながら窓辺の桜を眺める美少女。
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「もう嫌だ! こんなヒロイン嫌だ! ってか、羨ましい! 交ぜろ!」
前世、生娘だった円佳同様、チェリーボーイだった薫は、活き活きとした姉を見てハンカチを噛むほど羨ましがった。
そして、数日後に入学する俺も、姉同様に百合ハーレムを築こうと心に誓ったのだ。
しかし。
なぜか、書類のミスと制服の発注ミスにより、男装して男子の校舎の方に入学してしまう事になった薫。そこで迷子となり出逢ったのが――幼い頃から両親に虐待され、心に傷を負った事で人を信じなくなった生徒会長。そして、次々と絡んでくる攻略対象者達。(*皆ヤンデレ)
「姉ちゃ~~ん!! ヤンデレ怖いよぉ! すぐに監禁宣言するんだぜ! もう、交代して!」
ヤンデレは二次元に限ると、泣き付く薫。
そんな妹を憐れに思った円佳は、制服のタイを緩めながらベッドサイドに腰かけた。
「交代は嫌だけど、ヤンデレくらい全部引き受けようか?」
「マジで?!」
「マジで」
ハーレムを築き、性生活も含め順風満帆な生活を謳歌していた円佳は、いつもに増してキラキラとした微笑みを浮かべる。
前世――聖母として生きていた円佳は『人たらし』だった。
その特技を生かし、次々と攻略対象者達をひれ伏させていった。
そんな姉の姿を間近で見てきた薫は『姉は世界一の結婚詐欺師にでもなれるだろう。そして、今世では碌な死に方をしない』そう確信したという。
こうして、円佳の濃すぎる酒池肉林生活は、嫉妬に狂った恋人の一人に刺されるまで続いたのだ。
入院中、お見舞いに来ていた薫に対して円佳は言った。
「折角、病院にいるんだから本当に病んでいる人を攻略しちゃおうか?」
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