神の花嫁

果桃しろくろ

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―― 神の花嫁03

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『……あなた、誰?』

 アイリは自分よりも、遥かに美しい女性の姿に気付き、戸惑いを隠せません。
助けてもらうのは嬉しいのですが、自分以外の女に他の男が見惚れている様子にもプライドが許せなかったのです。
 しかし、培われている処世術でそれらを隠しました。

『山田ですよ。山田奈央。白鳥さん…どこか痛いところはないですか?』
『ええ!!!! 山田さん!? 嘘ぉ!!』

 日本語で話しかけた美しいナオの姿に、アイリは驚愕しました。

『…ごめんなさい。巻き込んでしまって』
『…え?』
『あの、あそこで、正座している髪の長いへんた…いえ、この世界の神が、私を見つける為に……やった事みたいで。それに、白鳥さんが巻き込まれたの』
『……嘘よ』
『……白鳥さん?』
『嘘よ! だって、この世界はアイリが主人公なんだよ? なんで? 引き立て役が急にしゃしゃり出てくるの? ふざけないでよ! ふざけないで!! みんな、貴方が仕組んだんでしょ? アイリがそんなに羨ましかった? そんなに憎らしい? ねぇ! ねぇ!!!』

 興奮したアイリがナオに掴みかかろうとした時、糸が切れた人形の様に、アイリが倒れました。

「白鳥さん!!」
「気を失わせただけです」

 魔術師が、アイリを引きずり、木の幹にもたれさせます。
 いつも自信に満ちていたアイリの変わりように、ナオは心が苦しくなりました。
 その姿を黙って見ていた、神はアイリの方を見てあの威厳だけはある声で囁きました。

「愚かな人間。消そうか?」

 その一言に、ナオの怒りは頂点になります。

「元はと言えば、貴方のせいでしょ!? こんな別世界に来て、白鳥さんも精神的にきちゃっただけなの! 性格が歪んじゃってもしょうがないでしょ!」
「え、私のせいなのか?」
「そうなの!」
「………」

 アイリの本性を知る魔術師は、ちょっとばかり神に同情しましたが、助ける気など更々ないので黙っておきました。



「ナオ様」

 神らしき美しい男と美しい少女との(一方的な)口論に最初はただ戸惑って見ていた王子たちですが、意を決してナオに話しかけたのは、宰相でした。
 宰相の『ナオ』という名前に、王子と騎士は、目を見開き「まさか」「嘘だろ」と小声で呟いたのを、魔術師は冷たい目で傍観していました。

「…その服で分かりました」

 宰相にとって、地下牢で粗末な使用人の服を宝物のように抱きしめていたナオがとても印象的で、黄土色のワンピースが心に残っていました。その下働きの服を着ている目の前の美しい少女が――ナオであると確信したのです。

「あ、はい! ……その説は、お世話になりました」

 ナオがぺこんと宰相に向って頭を下げようとしたのを制して宰相は、ナオの前で七重の膝を八重に折りました。
 サラサラとした宰相の長い銀髪が土の上に拡がります。

「神の花嫁様……今までのご無礼、私の首を持ってお収め下さいませんでしょうか?」

 その様子に、ハッとした王子と騎士も、それに習ってナオの前で膝を折ります。

「………すまなかった」
「申しわけございません。私の首もどうぞお収め下さい」

 ナオは、目の前で綺麗な顔をした男の人が、3人も膝を付き許しを乞う姿に、わけが分かりません。

「……あの? 私……無礼? されていたのでしょうか?」

 キョトンとした表情をして首をかしげるナオ。
 その姿も可憐で美しく、目の前の男達の鼓動が高鳴りましたが、次の言葉で奈落に突き落とされました。

「だって……すいません……皆様、どなたなんでしょうか? どこかで会ったんですよね?」


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