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ヤンデレにデレてみた
しおりを挟む――私は“監禁”される。
私には、三ヶ月年下の義弟がいる。
10才の時に母が再婚した、会社の社長のイケメンな義父と共にやって来た。
ちなみに、義弟もイケメンで年の差三ヶ月なので同学年。
公立の小学校を、あれよあれよとエスカレーターな私立に転校させられて、あれよあれよとセキュリティー万全な高級高層マンションに引越しをさせられた。
私の母は、おっとりしている。
そして、母娘共々、容姿もスペックも平々凡々だ。
実の母にこんな事を言うのも、アレだがどうして母なのか。
母と義父が再婚するちょっと前の事。
小学校の帰り道に、近所のおばさん達の会話が聞こえてきた。
“愛人”だの“金目当て”という言葉が、ランドセルに突き刺さってピュアだった私は泣きそうになった。
たまたま玄関先で母に逢いに来た義父に、問いただしてしまう。
私と目線を合わせて「陽菜ちゃん、私は君のお母さんを真剣に愛しているよ。唯一無二の人なんだ。君のお母さんも、君も大事にするからね」と、それは、見惚れるくらいの微笑みをくれた後に、「さて、誰がそんな話をしていたのかな?教えてくれないか?」と、目を細めて言われた時は、同じ笑顔なのに全身にゾワゾワしたのが走って今度は、本当に泣いてしまった。
震える手で、噂をしていたご近所の家を指差すのが精一杯で、そんな私を義父は「そう」とだけ言って頭、を撫でてくれた。
その、感触が忘れられない。
ーー引っ越し後、元近所で放火があったと聞いたのは数年後。
高級高層マンションに引越しして以来、母は、外に出ないようになった。
「食材は、届けられてくるし楽なのよねー」なんて言っているし、プールやスポーツジムなどあらゆる施設がマンションに完備されていて、不満はないらしい。
外せない用事がある時は、常に義父と一緒に出掛けていた。
以前、私と母は二人だけでコッソリ出掛けた時の事である。
庶民舌の私達母娘は、地元の商店街にあるコロッケが大好物だった。
無性に食べたくなり、二人でニヤニヤしながら買いに行っただけなのに、商店街に着いた途端に、黒塗りの車に阻まれ、押し込められ、義父の元に強制送還された。
そして、義父のあの目を細めた笑顔と御対面である。母は、あっけらかんと「コロッケが食べたかったの」と、笑っていたが、私は母の後ろに隠れてブルブルと震えていた。
その後、定期的に商店街のコロッケが食卓にのぼるようになった。
さて、 問題は義弟である。
義父と共々、高スペックでイケメンな義弟は、ここ数年、姉である私に対しての束縛が激しい。私を見る目つきが、義父が母を見る目つきと等しい事に気付いた時には熱がでた。
小学校の転校初日。金持ちとエリートで構成されたクラスに、不安いっぱいで挑んだが、あたたかく迎えられて私は感動した。
だが、中学生にあがった頃から変化する。
小学校からの持ち上がりで仲良くしていた子達が、よそよそしくなり、段々私はクラスで孤立され、話をするのは義弟のみになった。
「陽菜は、にぶい」
というのが、義弟の口ぐせでもある。
そう言っては、通学の時も手を繋ぎ、家にいる時も何かと触ってくる。
スキンシップ好きなのかと思っていたらどうやら違うようだ。
私にだけに触ってくる。
中学にあがって、触られる場所も際どくなった。
家に二人っきりの時は、緊張感が半端ない。
その日は、母と義父が出掛けていて、なんとなく『やばいなあ』と、危機感を抱きつつも、出無精の私は自室で漫画を読んでいた。案の定、部屋に義弟がやってきて、「陽菜、遊ぼう」と、一緒にゲームをすることになった。
一見、和やかな仲の良い姉弟をやってるなぁと思っていたら、義弟が“賭け”をしようと言ってきた。
「負けたら、なんでも言う事を聞く」というアレなアレだ。
私が格闘ゲームを指定して何とか勝利した。
義弟は私の腕前に驚いていたが、実は、友達もいない暇人の私は、格闘ゲームはプロの域を越えそうなくらいの腕前である。
常日頃から訓練している私と義弟が、ほぼ互角だったのが腑に落ちないが、なんとか姉の威厳で勝てたので、心底ホッとした。
「商店街のコロッケが食べたい」と、義弟に指令を出す。
コロッケを頬張る私の横で「俺も食べたかったのに」と、 至極残念という顔をして、私の頬についたソースを舐めた。
私は、平然を装って「コロッケ、食べたかったの?」なんてカマトトぶった事をいいながらも、内心は冷や汗でダラダラだった。
なので、義弟に隠れては、日々格闘ゲームの鍛錬は怠れないのである。
そして、中学の卒業式。
エスカレーター式なので、殆どの子がそのまま付属高校にあがるのだが、親の都合で他校に行く男子生徒に呼び出しを受けた。
中学時代は、哀しいかな“ぼっち”だったので、なぜ私を呼びだすのか本気でわからなかった。
「義弟を紹介しろとか言われたら、どうしよう」と、どうでもいい想像を巡らしながら、指定場所の教会へ向かう。
教会で、立っていたのは義弟だった。
ステンドグラスが光を集めて、義弟の周りをキラキラさせて、いつもの何倍もイケメン度をあげていた。そしてどうして、ここに義弟がいるのか大体想像出来た。
義弟は義父と同じ目を細めた笑顔をした後、私の首を締め、「浮気者」「離れたら殺してやる」「こんなに、俺が愛しているのに」など言っていた。
私の首を締めている義弟の手と服に血がついているなあと思いながらも、私は早々と気を失って、気付いたら部屋で寝ていた。
私を呼び出した男子生徒のその後はわからない。
―――私は“監禁”される。
その恐怖の未来を想像して、高校に入学するまでの休み期間中に私は考える事にした。
義弟は、私を愛している。しかも、ヤンデレな方向で。
ヤンデレは、基本自己中である。
中学時代には私の周りの人間を排除し私を孤立させて義弟以外に頼れる人がいない状況をつくりだした。
ただ、私に“自分だけみていて欲しい”という、自己中な理由で。
私は、一人でも平気な方であるが、限度がある。
授業で先生に指名された時、声の出し方がわからなくなっていたのには、ちょっと泣きたくなった。
できれば、人並みに他人とのコミュニケーションをとりたい。
でも、義弟がそれを許さない。難題である。
私は、義弟の事は嫌いではない。が、愛してはいない。
しかしながら、これからの人生を考えると、私は恋愛出来るかわからない。
義弟を拒否し家を出ても、きっと最後には連れ戻され、狂わされ、監禁されて人生を終わるだろう。
俗に言うヤンデレエンドである。
なので、私はひとつ諦める事にした。普通の恋愛結婚的なものを。
今の時代も、恋愛結婚してからも幸せに暮らすというのは半々だと思う。
恋愛当初の感情を持続させるのは難しいであろう。
夫は外で愛人をつくり、妻は夫を銀行としてみるようになる。――かもしれない。
それに、私は淡白なのか、愛やら恋やらを、人生においてそう重要視していない。
さて、義弟は、私を愛している。
そして、容姿端麗、文武両道で、義父の会社を継ぐようで将来も安泰な優良物件だ。
血も繋がっていないので、将来の結婚も問題はない。世間体もあるだろうが、どうせ良くて軟禁されるだろうから気にはならないだろう。
飽きられたら、飽きられたで慰謝料をがっぽり頂いて、自由な人生を謳歌するつもりだ。
ヤンデレ対応は、母を見ていたら勉強になった。
義父は、母を病的な束縛で囲っているが、本人は気付いているのかいないのか、のほほんと暮らして幸せそうだ。ヤンデレ亭主でも幸せになれる事に希望がもてた。
よし!
ということで、私の高校デビューの為にも、義弟にデレる事にした。
義弟の愛情を素直に受ける事にしたのだ。
「陽菜、行くよ。……わかってると思うけど、高校に行っても、陽菜は俺だけのものだからな。他の奴と話すなよ」
高校入学式の日、学校へ向かう車中で、義弟は私に命令をしてきた。
今までの私なら「……」やら「……え、どうして?」なんてこたえていただろう。
しかし、私はデレたのである。
「うん! 私には光輝がいるもんね!」
笑顔での私の返事に流石の義弟も吃驚した顔をしたので、イタズラが成功したみたいに嬉しくなった。
「でも、光輝との将来の為にも、高校でいっぱい人脈を作っておかないと……だから、女の子の友達は作ってもいい?」
と、首を傾げて上目遣い説法をはなってみた。
ちなみに、光輝とは義弟の名前である。
「……ぐっ …… まぁ、女子だけなら」
耳が赤く色づいている義弟に「ありがとー」と抱きついた。
記念すべき、ぼっち卒業のお許しを頂いたのだ。
私の急激な変化に、訝しげな態度だった義弟も変化していった。
まずは、優しくなった。
女友達となら遊びに行っても怒らなくなった。(門限はあるが)
男子はなるべく避け、義弟と共に過ごし、「光輝が、一番好き」だの「一緒にいれて嬉しい」だの呟くだけでいい。
そして、優しいキスをするようになった。
精神安定剤のようなものである。
少々、しつこくされるがそれは愛嬌だろう。
だが、それ以上は許していない。
義弟は、不満そうなのだが、「大学生になってから」と、プルプル小動物的に震えながらも、恥ずかしそうにお願いした。
万が一、一度でも許してしまったら……当たり前の様に毎日、毎日、毎日、あらゆる場所で求められる未来は軽く予想できる。嫌だ。嫌すぎる。
性欲旺盛で、体力があまり余っている男子校生を受け止める体力は私にはない。
毎日の様に、母の気怠そうな姿をみて、硬く決心した。
あの義父の息子なのである。絶倫に決まっている。
出来れば、初体験は初夜まで延ばしたい。
義弟に、ヤキモチをやかさないように気を付けてながらも、時々、こちらがヤキモチをやいて拗ねてみる事もする。可愛いおねだりもプラスして。
「陽菜、愛してるよ」
「うん! 私も」
―――そして、私は高校生活を謳歌したわけである。
こんな私を、周りは“悪女”と呼ぶようになった。
えっ、なんで?
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