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第一章
1-1.ペーターの平和な日常 ♡
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かつて、この世界は魔物と呼ばれるモノたちに脅かされていた。
人も獣とも違う姿。我々人間が存在している世界とは違う次元から現れた異形。
彼らを率いる長、魔王との戦いは数多もの犠牲を生み出した。
土地も、日常も、家族さえも奪われ。されど魔王の力はあまりに強く、民は嘆き苦しむことしかできなかった。
魔王を倒せるのは、選ばれた勇者と聖女のみである。
偉大なる預言者の言葉に従い、最も勇敢な青年と、最も清らかな乙女が選ばれ、彼らは仲間たちと共に戦い続けた。
そして、何年にも渡る人間と魔物の戦争の果て。
選ばれし英雄たちは魔王を討ち取り、そうして人類は、
「イクッ、い、いっちゃ……あ、あああ、ぁ――!」
――大敗北という形で、魔物の性奴隷にされてしまいましたとさ。
めでたし、めでたし。
……と、ここで打ち切ってしまえば話は成り立たなくなるが、そうしたい気持ちも理解してもらいたい。
いつまでも戻ってこなかった同僚が思いっきり絶頂している姿を見てしまったのだ。こんなの現実逃避しない方が無理というもの。
誰に説明するでもないのに言い訳する男の目の前では、それはもう凄まじい光景が広がっている。
城の内部、中庭とまでは言わない小さな空間にて。
柱にしがみつく同僚と、その上から覆いかぶさる男の姿。
突き出した尻に容赦なく突き入れられているのはどう見たってペニスで、性行為が行われているのは明らか。
まだ太陽は高く、そして一応は野外。こんな場所で堂々と青姦など、十数年前までは想像できなかっただろう。
呆気なく果ててしまった同僚の足元では、清掃用のスライムが地面に落ちた精液を求めて蠢いている。
あのたかられ具合を見るかぎり、相当の時間『ご奉仕』をしていると考えられる。
その予想を裏付けるように、絶頂を迎えた先端から出てきた体液はあまりに少なく、射精というより垂れ流しと言った方が正しいだろう。
「も、っお! むりれひゅ、むりっ、れしゅ、からあぁっ!」
おねだりとも懇願ともとれる喘ぎが高々と響く。こんなに大声でよがっていれば、誰もが注目するのは当然のこと。
一瞥して興味を失う者。眺めてニヤニヤと笑みを浮かべている者。自分が連れている人間にその様子を観察させる者と、反応はさまざま。
しかし、誰一人だって止めはしないし、そうする理由だって存在しない。
それは、同僚がばちゅんばちゅんと掘られ続けている様を見ている男だって同じこと。
悲しいかな、これが普通。この世界ではこれが当たり前。これこそが、男の知る日常なのだ。
さて、同僚が帰ってこなかった理由が予想通りだったところで、これからどうするか。
本来なら今もダメやめてアンアンアン、と悦んでいる男が戻った時点で交代する予定だったが、この様子ではあと一時間はかかるだろう。
その間に他の者が無事に戻ってくればいいが、確率は良くて六割、悪くて二割。
せめてパンだけでも腹に入れられないかと、今後の予定を組み立てている間にこちらに気付いたらしい男が振り返る。
ギラリと光る赤い瞳。外見こそ人間とあまり変わらないが、その尖った耳と瞳孔を見れば違うことは明らか。
「なに? 君も混ざりたいの?」
あいにく今使ってるんだけど、と柱から引き剥がした身体は片足を抱えられ、結合部を見せつけるような姿勢になり、当たり所が変わった同僚の声がより激しくなる。
突かれる度にぶるんぶるんと揺れる男根など見たくないが、嫌でも視界に入るのだから質が悪い。
思わず引き攣りそうになる唇を満面の笑みへ変えるのだって、もはや朝飯前。
いや、この場合は昼飯前と言うべきか。
「……うんにゃ、とんでもね! 仕事の交代に来ねんで探すに来だだげで、お勤め中どは知らず失礼しますた!」
「げっ! 臭いと思ったらお前かよ!」
途端、上機嫌だったはずの顔が歪む。今まで誰か認識していなかったのだろう。そうでなければ、もっと早くあしらわれていたに違いない。
「さっさとどっか行けよ、萎えんだろうが」
そう言う割には、淫魔様の淫魔様が今でもずっぷりハマっておりますが、なんていうつもりは毛頭ない。
男はただの奴隷、あちらは優秀な淫魔様。去れと命令されたなら従うだけ。
「はーい、失礼いたしまーす」
もう聞いていないだろう二人へ形だけの礼をして、早々に踵を返す。
周囲の淫魔サマ方が遠ざかっていくのも視界に入らない。彼らの反応より、頭の中はどうやって昼食の時間を確保するかで精一杯なのだから。
戻る道中、右からも左からも……なんなら上からも喘ぎ声やら水音やらしばく音やら、あからさまに馬鹿にしたような笑い声やらと。
今日も今日とて仕事場は賑やか。ある意味笑顔の絶えない職場とも言える。
中には泣いている者もいるが、いわゆる嬉し泣きというやつだ。ハンカチこそ差しだされないが、他の体液もろとも垂れ流しにさせてもらえる点はお優しい。
清掃用、もとい体液を糧にするよう改造されたスライムが隅々まで綺麗にするので汚し放題とも言える。
廊下をゆっくりと這う半透明を踏まぬよう大股で飛び越え、軽やかに進むは自分の持ち場。
今は新入りが休憩に行っているし、残っている人数も少ない。
戻ってきたところで様子を見て、大丈夫そうならパンだけでも……と、算段を付けていたところで足を止める。
廊下の真ん中でウゴウゴと蠢くスライムの山は、邪魔でも飛び越せない大きさではない。
なんならその横を避けて通るだけでいいが、通り過ぎない原因は、その山ができたであろう過程にある。
「は、なれてっ……はなしてぇ……」
グスグスとすすり泣く声。恥もなく大きく開かれた股に群がる半透明に、引き剥がそうとした腕ごと飲み込まれた哀れな姿。
捕らえた獲物を全力で貪るスライムと、そんな雑魚に捕まってしまった男……もとい、入りたてほやほやの新人を見下ろし、溜め息をぐっと堪える。
「……エリ~? こげなどごで、なにばしてんだ?」
コツとしては、心底不思議そうに問いかけることだ。
間違っても屈んだり、助けようとしたりしてはいけない。近づけば新人の二の舞になるし、誰もそんなことをしないからだ。
本人にとっては可哀想だが、これもこの世界の日常である。
まるで糸のように細く艶やかな金髪に、澄み渡った空のように青い瞳。上気した頬は桃色で、眉も鼻も口も完璧な配置。
まさしく絵に描いたような美青年だが、下等生物にまみれて地面に這いつくばっていれば美形も台無し。
いや、それも観察している淫魔サマたちにとっては眼福か。
花も絵も綺麗なほうがいいなら、奴隷だって綺麗なほうがいい。当然の原理である。
「せ、んぱっ……ぁあ、あっん!」
ようやく自分に気付いた後輩が涙ぐみ、助けて欲しそうに見上げている。
だが、当の本人は、手が自由だったら伸ばしてきたんだろうなと、軟体に絡め取られた腕を眺めて他人事。
その間も股間はそそり立ち、入り込まれた服の中は相当なことになっているだろう。
この様子だと身体の中にも入っているか、そうでなくとも時間の問題。
「休憩サ行ってたんだば?」
「もっ、どってくる、とちゅうでぇっ! くぁっ……あ、す、スライムで、転んだらっ、あっぁ、あ、こんなっ、ことにぃ……っ!」
喘ぎながらも懸命に状況を伝えようとしてくれる姿のなんと健気なことか。汗ではりついた前髪も、必死に見上げる上目使いも、全部淫魔サマ好みで大変よろしい。
ゆえに男には、鑑賞していた皆様からの熱~くて痛~い視線が容赦なく突き刺さっている。
口こそ出ないが言いたいことは分かるし、むしろそれを男も望んでいる。
先に言うと邪険に扱われて興奮するような被虐趣味があるわけではなく、単に都合が良いだけだ。
さて、この様子だと仕事に戻るのは無理だろう。持ち場を無人にするわけにもいかない。
残念ながら、今日も昼飯は抜きのようだ。
「ま、まってっ、助けてくださぁあっ!」
己の不運を嘆きながら去ろうとすれば、すかさず悲鳴に引き留められる。このまま無視してもいいのだが、一応は可愛い後輩だ。
頭を掻きながら振り返った姿は、縋りつく視線にどう映ったのか。
そのまま数歩戻り、覗き込む自分を見上げる顔に満ちるは希望。
「……いや~~~もうそごまでいったっきゃ、自力でなんとかするが、スライム様満足するまで耐えるが、周りの淫魔サマさ助げでもらうすかね!」
笑顔で答えれば、比例してエリー、もといエリオットの顔から血の気が引いていく。それでも薄桃色の頬は、淫魔様たちからみれば十分美味しそうに見えているだろう。
というか実際に美味しそうに食われているので目下エリオットに問題はない。問題は、男の胃袋とこの後の予定に関してのみ。
「大丈夫だ、それだってスライム様へのご奉仕だはんで仕事の範囲だ。頑張ってお勤めするんだぞ~」
無視してもいいのに励ましの言葉まで送るなんて、自分はなんと優しいのだろう。
エリオットも感激のあまり涙ぐんでいる。ついでに涎も垂らしている。
うん、やはり問題は彼ではなく自分の今後である。
「そんにゃっ……も、もう無理、むりですからぁっ!」
「あど、あんまり喘いでっど、口でもご奉仕するごどなるはんで気ぃ付げろぉ」
「なんて――むぐっ!?」
言った直後に入り込まれ、赤い舌が引っ張り出されているのを見てしまう。あの調子では、すぐ喉の奥まで使うことになるだろう。
全身使ってご奉仕するとは将来有望な新人である。その献身の前では、自分の昼食も犠牲にせざるを得ないだろう。
頑張れよと最後に応援を送れば、遠巻きに見ていた淫魔サマが近づいていくのを気配で感じる。
スライム様だけでも大変なのに、彼らまで混ざれば明日まで使い物にならないだろう。
昼食抜きは今に始まったことではない。これも職場柄と諦めるしかないと、自ら道を空けてくれるスライムの脇を早足で駆け抜ける。
悲しいことに人は足りずとも仕事は待ってくれないのだ。
こうしているうちに同僚たちは次々とご奉仕に駆り出され、洗い物は溜まり、最後には自分だけになってしまう。
……まぁ、それもいつものことかと。男の漏らした溜め息は、逃げ出すスライムさえも聞いていなかったのだ。
人も獣とも違う姿。我々人間が存在している世界とは違う次元から現れた異形。
彼らを率いる長、魔王との戦いは数多もの犠牲を生み出した。
土地も、日常も、家族さえも奪われ。されど魔王の力はあまりに強く、民は嘆き苦しむことしかできなかった。
魔王を倒せるのは、選ばれた勇者と聖女のみである。
偉大なる預言者の言葉に従い、最も勇敢な青年と、最も清らかな乙女が選ばれ、彼らは仲間たちと共に戦い続けた。
そして、何年にも渡る人間と魔物の戦争の果て。
選ばれし英雄たちは魔王を討ち取り、そうして人類は、
「イクッ、い、いっちゃ……あ、あああ、ぁ――!」
――大敗北という形で、魔物の性奴隷にされてしまいましたとさ。
めでたし、めでたし。
……と、ここで打ち切ってしまえば話は成り立たなくなるが、そうしたい気持ちも理解してもらいたい。
いつまでも戻ってこなかった同僚が思いっきり絶頂している姿を見てしまったのだ。こんなの現実逃避しない方が無理というもの。
誰に説明するでもないのに言い訳する男の目の前では、それはもう凄まじい光景が広がっている。
城の内部、中庭とまでは言わない小さな空間にて。
柱にしがみつく同僚と、その上から覆いかぶさる男の姿。
突き出した尻に容赦なく突き入れられているのはどう見たってペニスで、性行為が行われているのは明らか。
まだ太陽は高く、そして一応は野外。こんな場所で堂々と青姦など、十数年前までは想像できなかっただろう。
呆気なく果ててしまった同僚の足元では、清掃用のスライムが地面に落ちた精液を求めて蠢いている。
あのたかられ具合を見るかぎり、相当の時間『ご奉仕』をしていると考えられる。
その予想を裏付けるように、絶頂を迎えた先端から出てきた体液はあまりに少なく、射精というより垂れ流しと言った方が正しいだろう。
「も、っお! むりれひゅ、むりっ、れしゅ、からあぁっ!」
おねだりとも懇願ともとれる喘ぎが高々と響く。こんなに大声でよがっていれば、誰もが注目するのは当然のこと。
一瞥して興味を失う者。眺めてニヤニヤと笑みを浮かべている者。自分が連れている人間にその様子を観察させる者と、反応はさまざま。
しかし、誰一人だって止めはしないし、そうする理由だって存在しない。
それは、同僚がばちゅんばちゅんと掘られ続けている様を見ている男だって同じこと。
悲しいかな、これが普通。この世界ではこれが当たり前。これこそが、男の知る日常なのだ。
さて、同僚が帰ってこなかった理由が予想通りだったところで、これからどうするか。
本来なら今もダメやめてアンアンアン、と悦んでいる男が戻った時点で交代する予定だったが、この様子ではあと一時間はかかるだろう。
その間に他の者が無事に戻ってくればいいが、確率は良くて六割、悪くて二割。
せめてパンだけでも腹に入れられないかと、今後の予定を組み立てている間にこちらに気付いたらしい男が振り返る。
ギラリと光る赤い瞳。外見こそ人間とあまり変わらないが、その尖った耳と瞳孔を見れば違うことは明らか。
「なに? 君も混ざりたいの?」
あいにく今使ってるんだけど、と柱から引き剥がした身体は片足を抱えられ、結合部を見せつけるような姿勢になり、当たり所が変わった同僚の声がより激しくなる。
突かれる度にぶるんぶるんと揺れる男根など見たくないが、嫌でも視界に入るのだから質が悪い。
思わず引き攣りそうになる唇を満面の笑みへ変えるのだって、もはや朝飯前。
いや、この場合は昼飯前と言うべきか。
「……うんにゃ、とんでもね! 仕事の交代に来ねんで探すに来だだげで、お勤め中どは知らず失礼しますた!」
「げっ! 臭いと思ったらお前かよ!」
途端、上機嫌だったはずの顔が歪む。今まで誰か認識していなかったのだろう。そうでなければ、もっと早くあしらわれていたに違いない。
「さっさとどっか行けよ、萎えんだろうが」
そう言う割には、淫魔様の淫魔様が今でもずっぷりハマっておりますが、なんていうつもりは毛頭ない。
男はただの奴隷、あちらは優秀な淫魔様。去れと命令されたなら従うだけ。
「はーい、失礼いたしまーす」
もう聞いていないだろう二人へ形だけの礼をして、早々に踵を返す。
周囲の淫魔サマ方が遠ざかっていくのも視界に入らない。彼らの反応より、頭の中はどうやって昼食の時間を確保するかで精一杯なのだから。
戻る道中、右からも左からも……なんなら上からも喘ぎ声やら水音やらしばく音やら、あからさまに馬鹿にしたような笑い声やらと。
今日も今日とて仕事場は賑やか。ある意味笑顔の絶えない職場とも言える。
中には泣いている者もいるが、いわゆる嬉し泣きというやつだ。ハンカチこそ差しだされないが、他の体液もろとも垂れ流しにさせてもらえる点はお優しい。
清掃用、もとい体液を糧にするよう改造されたスライムが隅々まで綺麗にするので汚し放題とも言える。
廊下をゆっくりと這う半透明を踏まぬよう大股で飛び越え、軽やかに進むは自分の持ち場。
今は新入りが休憩に行っているし、残っている人数も少ない。
戻ってきたところで様子を見て、大丈夫そうならパンだけでも……と、算段を付けていたところで足を止める。
廊下の真ん中でウゴウゴと蠢くスライムの山は、邪魔でも飛び越せない大きさではない。
なんならその横を避けて通るだけでいいが、通り過ぎない原因は、その山ができたであろう過程にある。
「は、なれてっ……はなしてぇ……」
グスグスとすすり泣く声。恥もなく大きく開かれた股に群がる半透明に、引き剥がそうとした腕ごと飲み込まれた哀れな姿。
捕らえた獲物を全力で貪るスライムと、そんな雑魚に捕まってしまった男……もとい、入りたてほやほやの新人を見下ろし、溜め息をぐっと堪える。
「……エリ~? こげなどごで、なにばしてんだ?」
コツとしては、心底不思議そうに問いかけることだ。
間違っても屈んだり、助けようとしたりしてはいけない。近づけば新人の二の舞になるし、誰もそんなことをしないからだ。
本人にとっては可哀想だが、これもこの世界の日常である。
まるで糸のように細く艶やかな金髪に、澄み渡った空のように青い瞳。上気した頬は桃色で、眉も鼻も口も完璧な配置。
まさしく絵に描いたような美青年だが、下等生物にまみれて地面に這いつくばっていれば美形も台無し。
いや、それも観察している淫魔サマたちにとっては眼福か。
花も絵も綺麗なほうがいいなら、奴隷だって綺麗なほうがいい。当然の原理である。
「せ、んぱっ……ぁあ、あっん!」
ようやく自分に気付いた後輩が涙ぐみ、助けて欲しそうに見上げている。
だが、当の本人は、手が自由だったら伸ばしてきたんだろうなと、軟体に絡め取られた腕を眺めて他人事。
その間も股間はそそり立ち、入り込まれた服の中は相当なことになっているだろう。
この様子だと身体の中にも入っているか、そうでなくとも時間の問題。
「休憩サ行ってたんだば?」
「もっ、どってくる、とちゅうでぇっ! くぁっ……あ、す、スライムで、転んだらっ、あっぁ、あ、こんなっ、ことにぃ……っ!」
喘ぎながらも懸命に状況を伝えようとしてくれる姿のなんと健気なことか。汗ではりついた前髪も、必死に見上げる上目使いも、全部淫魔サマ好みで大変よろしい。
ゆえに男には、鑑賞していた皆様からの熱~くて痛~い視線が容赦なく突き刺さっている。
口こそ出ないが言いたいことは分かるし、むしろそれを男も望んでいる。
先に言うと邪険に扱われて興奮するような被虐趣味があるわけではなく、単に都合が良いだけだ。
さて、この様子だと仕事に戻るのは無理だろう。持ち場を無人にするわけにもいかない。
残念ながら、今日も昼飯は抜きのようだ。
「ま、まってっ、助けてくださぁあっ!」
己の不運を嘆きながら去ろうとすれば、すかさず悲鳴に引き留められる。このまま無視してもいいのだが、一応は可愛い後輩だ。
頭を掻きながら振り返った姿は、縋りつく視線にどう映ったのか。
そのまま数歩戻り、覗き込む自分を見上げる顔に満ちるは希望。
「……いや~~~もうそごまでいったっきゃ、自力でなんとかするが、スライム様満足するまで耐えるが、周りの淫魔サマさ助げでもらうすかね!」
笑顔で答えれば、比例してエリー、もといエリオットの顔から血の気が引いていく。それでも薄桃色の頬は、淫魔様たちからみれば十分美味しそうに見えているだろう。
というか実際に美味しそうに食われているので目下エリオットに問題はない。問題は、男の胃袋とこの後の予定に関してのみ。
「大丈夫だ、それだってスライム様へのご奉仕だはんで仕事の範囲だ。頑張ってお勤めするんだぞ~」
無視してもいいのに励ましの言葉まで送るなんて、自分はなんと優しいのだろう。
エリオットも感激のあまり涙ぐんでいる。ついでに涎も垂らしている。
うん、やはり問題は彼ではなく自分の今後である。
「そんにゃっ……も、もう無理、むりですからぁっ!」
「あど、あんまり喘いでっど、口でもご奉仕するごどなるはんで気ぃ付げろぉ」
「なんて――むぐっ!?」
言った直後に入り込まれ、赤い舌が引っ張り出されているのを見てしまう。あの調子では、すぐ喉の奥まで使うことになるだろう。
全身使ってご奉仕するとは将来有望な新人である。その献身の前では、自分の昼食も犠牲にせざるを得ないだろう。
頑張れよと最後に応援を送れば、遠巻きに見ていた淫魔サマが近づいていくのを気配で感じる。
スライム様だけでも大変なのに、彼らまで混ざれば明日まで使い物にならないだろう。
昼食抜きは今に始まったことではない。これも職場柄と諦めるしかないと、自ら道を空けてくれるスライムの脇を早足で駆け抜ける。
悲しいことに人は足りずとも仕事は待ってくれないのだ。
こうしているうちに同僚たちは次々とご奉仕に駆り出され、洗い物は溜まり、最後には自分だけになってしまう。
……まぁ、それもいつものことかと。男の漏らした溜め息は、逃げ出すスライムさえも聞いていなかったのだ。
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