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「実は今度、オースティンさん達と来界人街に行くんですが、お勧めのお店を教えて頂きたいんです」

貴族御用達の商会で働くヘリオトなら来界人街についても詳しいだろうと話を持ち掛けた。

「来界人街でございますか。でしたら、オースティン様もイリヤ様もお詳しいかと思いますが」

異世界の研究をしていたイリヤや仕事で来界人保護も行っているオースティンも来界人街にはよく出入りしている。たまにお土産だと日本で食べていたみたいなお菓子や細工の細やかな食器を買って来てくれることもあった。

でも。

「ええ、そうなんですが、ヘリオトさんに商人目線での話を聞きたいというか……」

2人から贈られるものは、こちらの物価に詳しくない僕でも分かるほど高級感溢れている。お菓子は美味しく食べてしまえばいいけど、お皿は日常的に使うのは壊してしまいそうで怖い。

そんな2人がリーズナブルで使い勝手のいい物を売っている店に詳しいとは思えないのだ。
僕の意図を察したのか、ヘリオトがふむ、と頷いた。

「ちなみにどのようなものをお求めですか」

「調理器具と食器、あとは生活雑貨を見たいです」

「なるほど。何軒か心当たりがありますのでオースティン様経由で地図をお渡ししますね。お食事の店はもうお決まりですか」

「昼と夜、2人それぞれの行きつけの飲食店に連れて行ってくれるそうです」

「それは楽しみですね。ーーところで来界人街へはいつ行かれるんですか」

「2人に緊急の仕事が入らなければ、10日後を予定しています」

「では、それまでに必要なものをお持ち致します」

地図以外に何か必要だろうか。

「必要なもの、ですか?」

「そろそろお暇致します。美味しいお茶とクッキーをありがとうございました」

ヘリオトは答えてくれず、意味深な微笑みだけ残して帰って行った。



◇◇◇


ヘリオトと話し込んでいるうちにいい時間になったので、夕食の支度をするために台所に立った。

今夜は何にしようかな。

持って来てもらった食材を見ると美味しそうな豚があった。
トンカツもいいけど、お昼も揚げ物だったから生姜焼きにしようかな。
あとは、人参とじゃがいものきんぴら、茄子とトマトのチーズ焼きに野菜スープを添えればいいか。

野菜の下拵えをしながら、イリヤとオースティンの顔を思い浮かべた。
2人は僕が何を作っても美味しいと喜んで、ありがとうと言ってくれる。おかわりを求められることはあっても、残されることはない。

日本にいた時は命じられるまま、食事を作り、不機嫌な義弟にはよくクソまずいと罵られてゴミ箱に捨てられた。
機嫌の悪い継母から何を作っても文句をつけられ、叩かれることもあった。

父は……。父も黙々と食べるだけで味の感想を聞かせてくれることはなかった。

家族だった人たちは、美味しいと言ってくれたことも、感謝してくれたことも一度もない。
最初は辛くて悲しかったけど、だんだんと何も思わなくなっていった。ただ手を挙げられないように怯えながら食事を用意する日々だった。

もう2度と、あんな生活に戻りたくない。

美味しい物をたくさん作って、2人と一緒に食べる今が夢見たいに幸せで。
同時にーーいつか、この夢から覚めてしまうんじゃないかと怖くなる。

ずっと、イリヤとオースティンと暮らして行けたらいいな。

料理が出来上がると同時に玄関から賑やかな声が聞こえて来た。

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