13 / 21
12.
しおりを挟む
朝食を終えると、2人はお弁当を持ってそれぞれの職場へと出掛けて行く。
一緒に暮らす前は食堂でとっていたらしいけど、来界人文化に詳しいイリヤにお弁当が食べてみたいと頼まれたのだ。
「今日はコロッケとピーマンと人参の肉巻きのお弁当ですよ。ブロッコリーの胡麻和えも入ってますから」
「ありがとう、アオイくん。すごく楽しみだよ。行ってきます!」
右頬にちゅっとキスしてイリヤが出掛けて行った。
「オースティンさんの方にはコロッケの代わりにチーズを挟んだハムカツを入れてます」
今日のメインにはポテトサラダが大好きなイリヤにはコロッケを、チーズが大好きなオースティンにはハムカツを選んだ。
「イリヤと同じ物で構わないのに」
出来るだけそれぞれが好きなものを1つずつ入れるようにしている。国の要職に就く2人には昼休憩くらい楽しく過ごして欲しいという僕の自己満足。
だから、オースティンが気にする必要はない。
「好きでしていることなので。手間は変わらないので気にしないでください」
「ありがとう。行ってくる」
オースティンも左頬にキスをしてお弁当箱を抱えて行った。
2人を見送った僕は朝のうちに掃除や洗濯を済ませる。
それが終わると今度は勉強時間。
この国の文化や歴史、地理などを来界人向けにまとめた本を読んで過ごす。異世界を渡る際に何らかの魔術を掛けられる渡来人は、言葉に不自由しないが異世界の知識はまるでない。
知識が無いことで理不尽な目に合わないよう、日本でいう義務教育レベルのカリキュラムが組まれている。
通常は国からの補助で専属の家庭教師を雇い教育を受けるが、イリヤがテキストの編集を行なっていたこともあり、独学とイリヤの講義で済ませることになった。
今日のテキストはこの国ーーシーマニア国の歴史について書かれたもの。
日本史も世界史もあまり得意じゃなかったけど、この教科書は面白い。教科書を読んでいるというより、冒険小説やファンタジー小説を読んでる気持ちだ。
後に初代国王となる冒険者が聖女を名乗る女性と恋に落ちる。しかし、聖女は神殿を隠れ蓑に禁じられた魔術ーー人々の精神に干渉する魔術を研究していた。
聖女の本性に気付いた冒険者は、正義の心と恋心の間で苦悩する。恋心につけ込んだ聖女によって冒険者は精神干渉を受けるが、反聖女派の神官が召喚した聖母の浄化魔法によって救われた。
ーーここで聖母が登場するのか。でも、どうして聖女じゃなくて聖母なんだろう。子どもがいたという記述はないし……。
不思議に思いながらも続きを読み進めた。
次第に神殿だけでなく他の冒険者や街の人々を巻き込んだ戦いとなっていく。
怪我を負いながらも冒険者は聖母の手を借り、聖女の皮を被った悪き魔法使いの力を削いでいった。
神殿の召喚の間まで悪き魔法使いを追い詰めた冒険者は、彼女に剣を突き立てようとした瞬間、零れ落ちる涙に恋人であった頃の幻を見る。
冒険者に生まれた隙を見逃さず、悪き魔法使いは自らに魔術を掛け、異世界へと逃げ出した。
ーーえ?! 異世界ってまさか日本じゃないよね……。
嫌な汗が背筋を流れた時、背後から肩を叩かれた。
「ひゃあ!」
一緒に暮らす前は食堂でとっていたらしいけど、来界人文化に詳しいイリヤにお弁当が食べてみたいと頼まれたのだ。
「今日はコロッケとピーマンと人参の肉巻きのお弁当ですよ。ブロッコリーの胡麻和えも入ってますから」
「ありがとう、アオイくん。すごく楽しみだよ。行ってきます!」
右頬にちゅっとキスしてイリヤが出掛けて行った。
「オースティンさんの方にはコロッケの代わりにチーズを挟んだハムカツを入れてます」
今日のメインにはポテトサラダが大好きなイリヤにはコロッケを、チーズが大好きなオースティンにはハムカツを選んだ。
「イリヤと同じ物で構わないのに」
出来るだけそれぞれが好きなものを1つずつ入れるようにしている。国の要職に就く2人には昼休憩くらい楽しく過ごして欲しいという僕の自己満足。
だから、オースティンが気にする必要はない。
「好きでしていることなので。手間は変わらないので気にしないでください」
「ありがとう。行ってくる」
オースティンも左頬にキスをしてお弁当箱を抱えて行った。
2人を見送った僕は朝のうちに掃除や洗濯を済ませる。
それが終わると今度は勉強時間。
この国の文化や歴史、地理などを来界人向けにまとめた本を読んで過ごす。異世界を渡る際に何らかの魔術を掛けられる渡来人は、言葉に不自由しないが異世界の知識はまるでない。
知識が無いことで理不尽な目に合わないよう、日本でいう義務教育レベルのカリキュラムが組まれている。
通常は国からの補助で専属の家庭教師を雇い教育を受けるが、イリヤがテキストの編集を行なっていたこともあり、独学とイリヤの講義で済ませることになった。
今日のテキストはこの国ーーシーマニア国の歴史について書かれたもの。
日本史も世界史もあまり得意じゃなかったけど、この教科書は面白い。教科書を読んでいるというより、冒険小説やファンタジー小説を読んでる気持ちだ。
後に初代国王となる冒険者が聖女を名乗る女性と恋に落ちる。しかし、聖女は神殿を隠れ蓑に禁じられた魔術ーー人々の精神に干渉する魔術を研究していた。
聖女の本性に気付いた冒険者は、正義の心と恋心の間で苦悩する。恋心につけ込んだ聖女によって冒険者は精神干渉を受けるが、反聖女派の神官が召喚した聖母の浄化魔法によって救われた。
ーーここで聖母が登場するのか。でも、どうして聖女じゃなくて聖母なんだろう。子どもがいたという記述はないし……。
不思議に思いながらも続きを読み進めた。
次第に神殿だけでなく他の冒険者や街の人々を巻き込んだ戦いとなっていく。
怪我を負いながらも冒険者は聖母の手を借り、聖女の皮を被った悪き魔法使いの力を削いでいった。
神殿の召喚の間まで悪き魔法使いを追い詰めた冒険者は、彼女に剣を突き立てようとした瞬間、零れ落ちる涙に恋人であった頃の幻を見る。
冒険者に生まれた隙を見逃さず、悪き魔法使いは自らに魔術を掛け、異世界へと逃げ出した。
ーーえ?! 異世界ってまさか日本じゃないよね……。
嫌な汗が背筋を流れた時、背後から肩を叩かれた。
「ひゃあ!」
14
お気に入りに追加
2,247
あなたにおすすめの小説
愛におびえた少年は騎士に愛され己を知る
ハクシタ
BL
必死に逃げてきた。暗闇の中どこを走っているかもわからないまま走り続けた。
ふとたどり着いた港に停泊している船を見つけ荷物の入った箱に身を隠す。
そこから安心したのか眠気が襲い、気が付けば眠ってしまっていた背中の傷はもう治っているはずなのになぜか少しの痛みを覚えた
どこにたどり着くかもわからない、だが少年にとってこの国から逃げ出せるのならどこでもよかった
≪世にもまれな美しい容姿を持った少年が奴隷としてかわれていた苦しい過去から逃げた先で騎士に愛され、愛されることを知るお話≫
【何事にも執着を示さない騎士団長×奴隷だった過去を持つ少年】
こんな風な内容のものを読んでみたいと書き始めたもので、初めてなので温かい目でお読みください
薬師は語る、その・・・
香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。
目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、
そして多くの民の怒号。
最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・
私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
気付いたら囲われていたという話
空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる!
※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。
もうどうすることも出来ないので、諦めて仲良くする事にした。
晴森 詩悠
BL
政略結婚なんてまっぴらだったので、話し合って円満に婚約破棄をしようとしたら、なんかうまく行かなくて結婚する事になった話。
R15で行けそうですが、保険をかけてR18に設定してあります。
描写のみで喘ぎなどはありません。
ご存知?のとおり、殆どコメディです。
前編後編の2話完結です。
多分コメディです。
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる