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朝食を終えると、2人はお弁当を持ってそれぞれの職場へと出掛けて行く。
一緒に暮らす前は食堂でとっていたらしいけど、来界人文化に詳しいイリヤにお弁当が食べてみたいと頼まれたのだ。

「今日はコロッケとピーマンと人参の肉巻きのお弁当ですよ。ブロッコリーの胡麻和えも入ってますから」

「ありがとう、アオイくん。すごく楽しみだよ。行ってきます!」

右頬にちゅっとキスしてイリヤが出掛けて行った。

「オースティンさんの方にはコロッケの代わりにチーズを挟んだハムカツを入れてます」

今日のメインにはポテトサラダが大好きなイリヤにはコロッケを、チーズが大好きなオースティンにはハムカツを選んだ。

「イリヤと同じ物で構わないのに」

出来るだけそれぞれが好きなものを1つずつ入れるようにしている。国の要職に就く2人には昼休憩くらい楽しく過ごして欲しいという僕の自己満足。
だから、オースティンが気にする必要はない。

「好きでしていることなので。手間は変わらないので気にしないでください」

「ありがとう。行ってくる」

オースティンも左頬にキスをしてお弁当箱を抱えて行った。



2人を見送った僕は朝のうちに掃除や洗濯を済ませる。
それが終わると今度は勉強時間。
この国の文化や歴史、地理などを来界人向けにまとめた本を読んで過ごす。異世界を渡る際に何らかの魔術を掛けられる渡来人は、言葉に不自由しないが異世界の知識はまるでない。

知識が無いことで理不尽な目に合わないよう、日本でいう義務教育レベルのカリキュラムが組まれている。
通常は国からの補助で専属の家庭教師を雇い教育を受けるが、イリヤがテキストの編集を行なっていたこともあり、独学とイリヤの講義で済ませることになった。

今日のテキストはこの国ーーシーマニア国の歴史について書かれたもの。
日本史も世界史もあまり得意じゃなかったけど、この教科書は面白い。教科書を読んでいるというより、冒険小説やファンタジー小説を読んでる気持ちだ。

後に初代国王となる冒険者が聖女を名乗る女性と恋に落ちる。しかし、聖女は神殿を隠れ蓑に禁じられた魔術ーー人々の精神に干渉する魔術を研究していた。
聖女の本性に気付いた冒険者は、正義の心と恋心の間で苦悩する。恋心につけ込んだ聖女によって冒険者は精神干渉を受けるが、反聖女派の神官が召喚した聖母の浄化魔法によって救われた。

ーーここで聖母が登場するのか。でも、どうして聖女じゃなくて聖母なんだろう。子どもがいたという記述はないし……。

不思議に思いながらも続きを読み進めた。

次第に神殿だけでなく他の冒険者や街の人々を巻き込んだ戦いとなっていく。
怪我を負いながらも冒険者は聖母の手を借り、聖女の皮を被った悪き魔法使いの力を削いでいった。
神殿の召喚の間まで悪き魔法使いを追い詰めた冒険者は、彼女に剣を突き立てようとした瞬間、零れ落ちる涙に恋人であった頃の幻を見る。
冒険者に生まれた隙を見逃さず、悪き魔法使いは自らに魔術を掛け、異世界へと逃げ出した。

ーーえ?! 異世界ってまさか日本じゃないよね……。

嫌な汗が背筋を流れた時、背後から肩を叩かれた。

「ひゃあ!」
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