非公式怪異対策組織『逢魔ヶ刻』

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ガシャドクロ編

第六話 仁

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 9月27日(水曜日) AM8:12


 逢魔ヶ刻の代表として桶谷崎さんと荒噛くんの二名、そして付き添いという形で同行の許可を得た私の計三名が、政府の手配した自衛隊のヘリに揺られながら目的地の長野県某所へと向かう。


 目立たず極力他人の目に止まらないよう廃墟に事務所を構えてるのに、屋上へ大胆にお迎えのヘリが参上した時はもはや色々と破綻してるとは思ったものの、事態が事態なのだろう。桶谷崎さんもその点に関して気にする様子はなかった。


 ヘリの内部には私たちの他にも幾人もの自衛隊がいて、しっかり武装までしている。
 実弾が込められているのだろうか、携えてる機関銃がなんとも重々しい空気を帯びていた。






「状況についてある程度知っておきたい。現地の戦況や祓徐士たちの配置などはどうなってる?」






 桶谷崎さんがすぐ真正面にいる自衛隊に情報を得ようと話しかけるも、話すことはできないの一点張りで話に進展がまるでない。
 いや、そもそも現状自衛隊側も戦況など詳しいことに関して確認ができていないようにも見える。



 怪異の出現は早朝、五時頃に通報があったためそれより僅かに前の段階で姿を現したのではないかとされている。

 寝耳に水な出現からほんの三時間程度しか経っていない状況、情報整理が追いついていなくても仕方がないだろう。



 窓の外の景色は市街地から一転して緑生い茂る山々が広がっていて、木々が物凄い速さで流れ去る様子から秒を刻むたびにどんどん現地へ近づいていることが伝わってくる。





「政府直轄の祓徐士たちはもう現地にいるよね?到着したらすぐに彼らの元へ案内してほしい。メールに添えられていたあの一文も気になるしね」





 桶谷崎さんの一言を聞き入れて、迷うことなく了解しましたと快諾の返答が帰ってくる。

 たしかに、メールの最後にあった謎の一文がどうも引っかかる。


 


 ならばあの巨大な存在はなんだというのだろう。

 一体何を根拠にそのような推測に辿りついたのか、桶谷崎さんもどうもこの結論に疑問が絶えずにいるようだ。





「……目標が見えてきました、右の窓をご覧ください」




 右側の窓際にて座っていた自衛隊がどうやら目標を視認したらしく、特に慌てたり驚いた様子もなく私たちへと告げる。


 どれどれ、いかほどか。
 言われるがままに窓へ寄り、その全貌を直に拝んではみたものの、分かってはいたけれどその巨大さに改めて絶句した。


 いや……むしろ話に聞いていたより大きいかもしれない。




 超巨大な白骨体が、まるで赤子のハイハイのような状態で山々をゆっくりと這いずっている。

 報道ではその全長は推測で四十メートルほどかと報じられていたが、どう見てもそれ以上はある。

 おそらく五十メートルを超えるのではないかという程の巨躯が、幾つもの報道や軍事ヘリを携えながら小さな町の方へと侵攻を続けていた。


 歩くたびに周囲に大きな地鳴りが響いていて、手や脚が地面に面するたびに砂埃が立ち込めている。もはや怪異というよりかは怪獣という表現がしっくりくるだろう。


 よく見ると胸元、肋骨に該当する箇所の内側に赤く輝く球体らしきものがあり、まるで鼓動する心臓のように不変的に揺れては怪しく光り輝いている。

 あれは一体……。



「……分かってはいたけれどいざこうして見てみると本当に途方もないスケールだね。こんな巨大な存在が敵意を向けてこようものならとんでもない被害が出るだろうね」



 苦笑いを浮かべながら、桶谷崎さんがその異常なまでの巨躯の物体を眺めてはぼやく。

 たしかに、進行を続けてはいるものの動きは非常に遅く、明確な敵意を持って攻撃をしてくるわけではないしそこは唯一の救いと捉えるべきか。

 けれど、こんな巨大な存在を放置するわけには当然いかず、
 前例もあるわけがないためどう処理をするべきなのかと頭を抱えている始末だ。





「目的地周辺、じきに着陸しますからシートベルトをしっかり装着してください」






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 9月27日(水曜日) AM8:37




 私たちを乗せた軍用ヘリは長野県某所にあるとある小さな町へ降下していき、荒々しく粉塵を巻き上げながら小学校のグラウンドへ着陸した。

 グラウンドの周辺には他の自衛隊やヘリ、さらには装甲車までが見えていて、各々が町の住人達の避難案内や迫り来る巨大物体への対策に追われている慌ただしい様子が窓越しから伝わってくる。


 おそらく、最悪の事態に備えてるのだろう。
 もし居住区への侵攻が確認できたら自衛隊による直接的な攻撃も視野に入れてるのか、待機する軍事ヘリの一部にはミサイルが搭載されている程の限界態勢ぶりだ。



「とりあえずまずは禍津宵闇の人達と状況の確認とか対策について話し合いをしないと。えーっと、来栖ちゃんは仁ちゃんと同伴して軍の人たちの手伝いをして欲しいんだけど……仁ちゃんもう来てるかな……うわぁ!?」



 桶谷崎さんが何やら仁という人の到着を確認するべく窓の外を忙しなく確認していたものの、自衛隊の人がスライド式のドアを開けて外の景色が開けると同時に素っ頓狂な声をあげて驚いた。



 ドアを開けた時点、すぐ目と鼻の先の場所に人が立っていた。それも仁王立ちで。

 金髪のショートヘアー、端正な顔立ちとそれをさらに際立たせるように自然なメイクが施されている。
 耳にはピアスが付けられて、服装は制服姿なものの上はワイシャツ一枚だけ。素行の悪い生徒の典型のようなファッションだ。


 そして何より。




「随分と遅いのね、桶谷崎さん?組織の頭がこうも愚鈍だなんて、逢魔ヶ刻に属する私のブランド価値を下げるおつもり?」



 この人間違いなくオネエだ。しかも逢魔ヶ刻所属ということはこの人が仁って人らしい。

 桶谷崎さんが名前に似合わずちゃん付けで呼んでいた疑問は晴れたものの、なんでこうも祓徐士たちはクセが強い人が多いんだろうか。



「いやはや、申し訳ないとは思ってはいるんだけど……君がってのもあると思うけどなぁ?ともあれ仁ちゃんが来てくれたことは有り難い限りだとも」




 腰が低すぎる桶谷崎さんとは対照的に、毅然とした態度で腕を組みつつ鋭い視線を向けている仁さん。

 もはや普通に見てたらどちらが上の人間かわからなくなりそうなほどのギャップである。



「当然。プロ意識が無い貴方とは大違いですからね。天龍寺様は……まぁいないのは悔やまれるけれど荒噛きゅんは来てるとして……そこの子はだぁれ?聞いてないんだけど……もしかして新人?」



 初対面の私と目が合うなりまるで商品の選り好みをするようにじっくりと視線を向けて来て、首を傾げながら私ではなく桶谷崎さんへ尋ねる。





「いや、新人じゃなくて訳あってウチでしばらく居候してるんだ。来栖ちゃんっていうんだ、今回の作戦中は僕と荒噛くんが禍津宵闇と合同で任務に着くから仁ちゃんは彼女と一緒に一般人の避難や自衛隊の人たちの手伝いを……」



「断る」




 言い切る前に、仁さんがキッパリと桶谷崎さんの言葉を一蹴した。

 何やら苛立った様子で私へ視線を向けては嫌みたらしく舌打ちをする始末。どうしよう、もう帰りたくなってきた。




「その子、どういう経緯で居候させてるのか知らないけど異能無いでしょ。なんとなく伝わるわ、異能者特有の雰囲気とか覇気が感じられないもの。そんな役にも立たない無能のお守りを私に押し付けるとかナメてる?異能者の方が自衛隊の小部隊より遥かに戦力になるってのをまさかご存知ない?」




 ものすごい正論を、まるで鋭い投げナイフのように容赦なく投擲してくる。

 これなら昨日のサクヤ様って人の方がまだ上手くやっていけそうなほどだ。



「う~ん……つ、次の任務は天龍寺くん……様と二人きりの共同作戦で……アフターでホストクラブに赴いた際天龍寺様指名の時ドンペリ一本僕の奢りで……手を打っていただけないでしょうか……仁様」 



 まさかの腰が低いどころか地面に埋まるのではないかと思うほどの超弱腰で交渉を始める桶谷崎さん。
 もはや目に物当てられない悲しい状態だ。



「……悪くないわね、ドンペリ一本程度じゃセコい気もするけど貴方に期待するだけ無駄ですしその内容で手を打ちましょう」




 なんか手を打ってくれた。
 もしかして桶谷崎さん、この人にいいように扱われてるだけなのでは?





「貴女、名前は?」


「え……?」



「まだ貴女の口から直接聞いてないじゃない、人伝に聞いた名に興味はないわ。もう一度だけ聞く、貴女の名前は?」



「く、来栖……」 





 強張る私を睨むように再度名乗るよう告げる仁さんに、恐る恐る名前を名乗ってみる。

 声が小さい、フルネームで言えとか散々なダメ出しを言われるかと身構えてはいたものの、私の名前を聞くなり仁さんは小さく口角を持ち上げて小さく柔らかな微笑をしてみせた。




「……そう。私は仁、来栖の好きなように呼んでちょうだい?」




 たった一言、そう簡潔に答えただけ。

 だけれど、その表情と一言でなんとなくこの人のおおまかな人柄がわかった気がする。




「ありがとう、仁ちゃん。それじゃあ早速だけど禍津宵闇の人達と合流したい……居場所とかはわかるかい?」




「たしかあの辺りに密集してる軍事テントのどこかだったかしら……ま、そこらの自衛隊の人捕まえて確認した方が早いんじゃない?それと……さっき面白い話を聞いたの、とーっても興味深い話をね」



「ん?どんな話だい?」



「にわかには信じがたいかもしれないけど、あの大きくてこちらに向かってる骨みたいなのって……」






 





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