12 / 17
ガシャドクロ編
第四話 規格外
しおりを挟む歪神の発生条件に関する話は政府のみならず、非公式で成り立っている逢魔ヶ刻などの組織でも様々な見解がなされてきた。
もちろん多種多様な意見が飛び交い、今日に至るまでに最有力として選出された条件は"時間経過"というもので、人や動物などを捕食することは空腹を満たすと同時に寿命を伸ばせるのでは?という見解が有力だとされてきた。
しかし、その見解は若干違っていたようだ。
「余は知っていた。祓徐士という目障りな存在も、目をつけられたら勝てるほどの力を余が持ち合わせていないことも。だから利用した。人を食わずして、祓徐士の目を掻い潜り神となる手段として荒噛を選んだのだ」
荒噛くんに抱き上げられ、まるで伸び切った猫のような状態となっているおはぎがしてやったりと自信満々な様子で語っている。
しかし、これは祓徐士や政府の視点からでも盲点だろう。
本来、知性の低い怪異ならすぐに何かしらの痕跡を残すためすぐに対応が可能なものの、おはぎのように元々から知性が高いとなると話は変わる。
まさに目の行き届かないところで人を利用し着々と歪神への進化の工程を踏めるとなると対処のしようもないだろう。
「なるほど、まさに君は怪異の中でも特別な存在と言えるだろうね……なるべくして歪神になったと認めざるを得ないかな。ただ疑問はまだある……必要な素材に酒と言っていたがどう調達したんだい?それに、神に近いとされる歪神ほどの存在がなぜ来栖ちゃんに取り憑くんだ?」
「ふむ、そこの小娘に取り憑いた理由がそんなに知りたいのか?生憎それを答えるつもりは毛頭ない。が、酒の秘密に関しては教えてやっても構わんぞ?」
にたぁ、とおはぎが再び口角を大きく持ち上げ凶悪な笑みを見せると口角からぽたり、またぽたりと何やら液体を垂らす。
最初は唾液かと思ったもののその直後、甘くも刺激的な香りがあたりに立ち込めた。
荒噛くんは臭ッ、と眉を顰めるも、私と桶谷崎さんはその覚えのある匂いにすぐさまその液体の正体がアルコールの類だと気付く。
「……体内で素材を溜め込んで発酵させてるのか!」
「くっくっく……ちょっとした木の実はその気になれば集められる。荒噛がくれたおはぎとやらも米がふんだんに使われておったから良き酒の素材となったぞ?」
「便利を通り越してなんか気持ち悪いね!?」
怪異はこの世ならざる異形、体内の構造も人や動物の常識とは大きく異なっててもおかしくないものの、これはさすがになんでもありな気もしなくはない。
いや、怪異については謎がまだ多いらしく、この習性は数多ある謎のほんの一部なのかもしれない。
「……最後に一つ聞かせてくれるかい?本来怪異や歪神は僕たち人間に仇をなす存在なんだが……君を見ているとどうもその限りではないように思えるんだ。君は僕たち人間をどう見ているのかな?」
抱き上げられたままのおはぎへ、桶谷崎さんが優しく語りかける。
確かにこれまでのやり取りを聞く限りでは、過去のことや私に取り憑く理由など不明瞭な点がいくつもあるけれど、不思議とおはぎからは悪意が感じられずとても悪者には思えない。
「……ふん、聞くに耐えないくだらぬ世迷言よな。余は疲れた故また寝るとする。今度目が覚めるまでに気の利いた供物でも用意するがよい」
なにやらおはぎが質問の返答をはぐらかすように眠気を訴え始めると、黒くつぶらな瞳をゆっくり閉じてしまい、次の瞬間にはまるで蛍光色放つ鮮やかな煙のようにふわりと消えてしまった。
周りを見渡しても先ほどまでの愛らしい姿はどこにも見当たらず、まさに跡形もないような状態だ。
これが意味すること……
「……私の中に帰ってきた?」
「……って考えるのが自然だろうね。しかし困ったなぁ、敵意はなくても来栖ちゃんから離れる気はないみたいだし……目的や理由も知り得ないんじゃ相応の代替案も考えられないし」
困り果てた様子で頭を掻きむしりながら桶谷崎さんがダメ元で荒噛くんへ強引に実力行使で除けないかと尋ねてみるものの、首を横に振ってはあっさりと却下した。
「間違いなく僕よりも強いよ。天龍寺くんとかそのレベルの支援があっても正直厳しいと思う」
「うぅ~ん、だよねぇ……おはぎくんの次の再登場に備えてお供物を用意してご機嫌取ることも視野にしてみないとかなぁ」
逢魔ヶ刻が抱えている最強の人物にきっぱりと勝率皆無を告げられて、実力行使の案は完全に頓挫してしまった。
となるとそれこそ祓いの儀により取り除くか、おはぎの意思で私の中から立ち退く以外手はないらしい。
けれど、次におはぎが目覚めるのはいつなのかさっぱりわからないし、そもそも取り憑く理由を教えてくれることへの期待値がほんの少しでもあるのだろうか。
そして、こうもしてるうちに私の命は着々と削られているんじゃないか……
突如として、事務所内に着信音が鳴り響く。
桶谷崎さんのスマホが鳴っているようだ。
音は前回の緊急地震警報のようなものではないから怪異事件の依頼ではないものの、その着信相手の名前にふと不思議そうに首を傾げている。
「あれ、仁ちゃんからだ。あっちから電話を寄越すなんて珍しい……何かあったのかな?」
どうやら逢魔ヶ刻所属の祓徐士の人らしく、普段はこの事務所に居なくて依頼を受けては県を跨いでどこまでも出張するフッ軽タイプの人らしい。基本的にやりとりはメールがメインで、こうして電話を寄越すのはほとんどないと桶谷崎さんは語る。
「もしもーし?仁ちゃん?どうしたんだい……え、ニュース?うん、わかった……荒噛くん、スマホでネットニュース見て!いや、アンパンマン体操じゃなくてネットニュースね!?」
何やら急な話らしく、通話相手の人がしきりにニュースを見ろと言っているようで、少し焦り気味に荒噛くんへタブレットの起動を促している。
最初はみんなでアンパンマン体操かと期待に胸を膨らませる荒噛くんだったものの、興味のないネットニュースを開くよう言われて一気に冷めた様子でタブレットを慣れた様子で操作し始めた。
「ニュースニュース……うわぁ、でっか。毎日どれだけ牛乳飲んだらこれだけ大きくなれるのかな?」
ニュースというだけで物凄く興味なさそうな荒噛くんだったものの、ネットニュースを開くと同時に明らかに反応が切り替わり私たちの方へ画面を向けてくれた。
画面に映される映像、そして記事……そのあまりに異質で桁違いな規格外に、二人揃って素っ頓狂な声が漏れ出てしまった。
「な……な……なんじゃこりゃああぁぁぁ!!!!??」
-----------------------------------------------------
えー、緊急速報です!!
長野県〇〇市△△町近くにあります、××山の山雪崩に伴い出現した巨大な人骨らしき謎の物体について続報があります!!
現在……△△町へ向けて移動しているとのことです!
繰り返します、自立歩行して△△町へ向かっているとの情報が入りました!!
全長は四十メートルほどでしょうか、信じ難いですがこれはまさに今現実で起こっていることです!!
△△町及びその近隣に住んでいる方々は速やかに避難し、命を守る行動を取ってください!
繰り返します-----------------------------------
10
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる